ザクロとの死闘を制し、ショウヨウジムの『ウォールバッジ』を手に入れたミソラ。バッジの持つ不思議な力は、トレーナーであるミソラに、ある「秘伝の力」を授けていた。
それは、人間の力では到底動かせないような巨石をも動かすことができる力――『かいりき』。
「これで、やっとあのショートカットが開通できるわね」
バッジの輝きを見つめながら、ミソラは来た道を振り返った。
目指すのは、ショウヨウシティのすぐ裏手に位置する「地つなぎの洞窟」だ。
実は、このカロス地方の旅において、ミソラ一行はこの洞窟の「封鎖」に一度苦しめられていた。本来なら、手前の街からこの地つなぎの洞窟をまっすぐ通り抜ければ、直接ショウヨウシティへと到着できたはずだったのだ。
しかし、その快適な最短ルートは、人が何十人も集まってもビクともしないような巨大な丸石によって、完全に塞がれていた。そのため行きは仕方がなく、もう一つの地つなぎの洞窟へと大遠回りし、一度海沿いのコウジンタウンを経由して、9番道路の険しい岩場を越えるという、過酷なルートを強いられた経緯があった。
あの時、悔しくも引き返した因縁の巨石の前に、ミソラたちは再び立っていた。
薄暗い洞窟の奥、相変わらず圧倒的な存在感で最短通路を塞ぐ巨石。
テールナーが「テール……」と当時の大変だった遠回りを思い出すようにため息をつき、リザードやヒノヤコマも「これこれ、これのせいで歩かされたんだよな」と苦い顔で岩を見上げる。
「みんな、下がっていて。……あの時のリベンジよ。お願いね、マリルリ!」
ミソラに呼ばれ、手持ちのボールから飛び出したのは、水色の丸い身体が愛らしいマリルリだった。
「リリィッ!」
マリルリは短い手足をパタパタと動かし、のっしのっしと巨石の前に進み出る。エネコが「にゃ〜?」と不思議そうに首を傾げ、その後に加わったアブソルも、その角で小突いてみるが岩は微動だにしない。
ミソラが新しく手に入れた秘伝のマシンを掲げ、マリルリに力を込める。
「マリルリ、その岩を押し込んで! 『かいりき』!」
「リリィィィッ……!!」
マリルリが短い両手を巨石にピタリと当て、ぐっと足を踏ん張った。
その瞬間、マリルリの小さな身体に秘められた特性『ちからもち』の規格外のパワーが解放される。
ズ、ズズズ……ッ!
テールナーたちが総出で押してもビクともしなかった巨大な岩が、マリルリの文字通りの「怪力」によって、信じられないほどの勢いで奥へと押し込まれていく。
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
洞窟内に凄まじい地鳴りが響き渡る。マリルリは可愛い顔に少しだけ力を込め、まるでおもちゃのボールでも転がすかのように、軽々と巨石を横の窪みへと押しやってしまった。
パァァッと目の前の通路が開け、かつて遠回りを強いられた因縁の最短ルートが、ついにその姿を現す。
「すごいわマリルリ! 完璧よ!」
ミソラが嬉しそうに駆け寄り、マリルリをぎゅっと抱きしめた。マリルリは「リリィ〜!」と嬉しそうに長い耳をパタパタと揺らしている。
それを見ていた大家族の面々は、完全に呆気に取られていた。
リザードとヒノヤコマは、自分たちよりも遥かに小さなマリルリの腕力に「……おい、あいつ怒らせたらマジで潰されるぞ」と言わんばかりに冷や汗を流し、テールナーもゴクリと息を呑んでいる。
一方で、コウジンタウンの手前で仲間入りしたため、当時の苦労を直接は知らないアブソルだったが、いつも通りのポーズを崩さずにマリルリの圧倒的なパワーを見つめていた。
ふいと顔を背けながらも、その実力を認めざるを得ないといった様子で、小さく「……フン」と鳴く。
(なるほど、テールナーたちが道中でやたらと愚痴っていた岩はこれのことか。まぁ、悪くない力だ。あの重戦車が道を切り拓くというなら、俺がわざわざ爪を汚す必要もないからな。……よくやったとだけは言ってやる)
相変わらず心の中でツンデレな言葉を重ねるアブソルだったが、その目はどこか誇らしげでもあった。
マリルリの活躍によって、かつては閉ざされていた地つなぎの洞窟の全ルートが完全開通。行く手を阻む巨石が現れるたびに、マリルリは「リリィ!」と威勢よく前に出て、その神がかった怪力でガシガシと道を切り拓いていった。
暗く閉ざされていた因縁の洞窟を、今度は自分たちの力で突破し、カロスの心地よい太陽の光がミソラたちを照らす。
マリルリの力強いサポートのおかげで、また一つ困難を乗り越えたミソラ。遠回りの旅路を経てさらに強くなった賑やかな大家族の絆を感じながら、彼女たちの足は、いよいよ10番道路へと真っ直ぐに向かっていくのだった。