地つなぎの洞窟のショートカットを開通させたミソラ一行が次に足を踏み入れたのは、10番道路――通称「メンヒル道路」と呼ばれる場所だった。
道沿いには、はるか昔に建てられたという奇妙な巨石(メンヒル)がいくつも立ち並び、独特の厳かな空気が漂っている。
だが、ミソラにとってこの道路は、別の意味でずっと楽しみにしていた特別な場所だった。
「このあたり、珍しいポケモンがたくさん暮らしているのよね。みんな、可愛い子がいないか一緒に探して」
ミソラの言葉に、手持ちの面々もそわそわと周囲の草むらを見つめる。
テールナーが長い耳をピコピコと動かし、マリルリがのっしのっしと草をかき分ける中、ガサリ、と少し離れた茂みが大きく揺れた。
「あ、待って。何かいるわ」
ミソラが息を呑んで見守る中、草むらからひょっこりと顔を出したのは、首の周りにフサフサの白い襟巻き毛を蓄えた、小さな茶色いポケモンだった。
「ブイ、ブイ?」
大きな瞳をくりくりと輝かせ、長い耳を揺らしてこちらを見上げている。イーブイだ。
その愛くるしい姿に、ミソラは一瞬で心を奪われた。
「可愛い……! 驚かせないように、みんな静かにね」
ミソラはバトルを仕掛けるのではなく、そっとその場にしゃがみ込み、目線をイーブイと同じ高さに合わせた。
すると、イーブイは小さな身体をきゅっと縮めながらも、逃げ出す様子は見せない。それどころか、ミソラの周りにいるテールナーや、のんびりとしたマリルリ、楽しそうに尻尾を振るエネコたちの賑やかで温かい雰囲気に、興味津々といった様子で耳をぴょこぴょこと動かしている。
「ブイ……?」
イーブイは恐る恐る、しかし確かな好奇心を持って、一歩、また一歩とミソラの方へ近づいてきた。
そして、ミソラがそっと差し出した手の匂いをくんくんと嗅ぐと、安心したように「ブイッ!」と短く鳴いて、ミソラの膝に頭をすり寄せてきたのだ。
「えっ……! ふふ、あはは! くすぐったいわ。あなた、私についてきたいの?」
これにはミソラも大喜びだ。イーブイはミソラの顔を見上げ、嬉しそうにフサフサの尻尾をパタパタと振っている。どうやら、この賑やかな「大家族」の空気が一目で気に入ってしまったらしい。
調べてみると、この人懐っこい子は元気な男の子だった。
「にゃ〜ん?」
さっそく大家族の末っ子だったエネコが、新入りの匂いを嗅ごうと近づいていく。
同じ四足歩行の可愛い系として、イーブイはエネコを見て一瞬だけピクッと耳を動かしたが、エネコがマイペースに「にゃはは」と喉を鳴らすと、すぐに警戒を解いてエネコの手を優しく舐めた。
それを見つめる大家族の面々の反応は様々だった。
テールナーは「テール、テール」と自ら飛び込んできた新しい弟を歓迎するように優しく目を細め、リザードやヒノヤコマたち炎の先輩トリオは「ほう、度胸のある奴だな」と頼もしく腕を組んでいる。
そして、少し離れた巨石の影から、静かにその様子を見つめているアブソルは、いつものようにふいと顔を背けながら、小さく「……フン」と鳴いた。
(自らこの大家族の騒がしさに飛び込んでくるとは、物好きな奴め。……まぁ、あのノーマルタイプの猫に比べれば、少しは賢そうな面かまえだ。せいぜい先輩たちの足を引っ張らんようにするんだな)
心の中では相変わらずツンツンとした言葉を並べるアブソルだったが、新入りを拒絶するような気配はなく、新しい家族として温かく見守るような視線を向けていた。
イーブイも、その視線に気づいたのか、アブソルの方を振り返って「ブイ?」と無邪気に首を傾げている。
「それじゃあ、改めてよろしくね!」
ミソラが空のモンスターボールをそっと差し出すと、イーブイは自ら進んで、その小さい前足でボールのスイッチを「カチッ」と小突いた。
吸い込まれるようにボールに入り、一度も揺れることなく即座にロックがかかる。それは、イーブイの手からミソラへの、完全な信頼の証だった。
「イーブイ、ゲットだわ!」
すぐにボールから呼び戻されたイーブイは、ミソラの腕の中にすっぽりと収まり、嬉しそうに彼女の頬を舐めた。
頼もしい先輩たち、マイペースな姉貴分、そして静かに新入りを値踏みする守護獣。最高の家族に自ら進んで仲間入りしたイーブイを加え、ミソラのカロス旅は、さらに賑やかさを増して次の目的地へと進んでいくのだった。