10番道路で自ら仲間入りを志願してきたイーブイを連れ、ミソラ一行は一度ショウヨウシティのポケモンセンターへと引き返していた。これからの本格的な長旅に備え、ザクロ戦で大活躍したアブソルの念のための再チェックと、新しい弟分の健康診断を兼ねてのことだ。
ジョーイさんにボールを預け、待合室のソファで待つこと数分。「お待たせしました、みんな元気いっぱいですよ」と声をかけられ、ミソラは受付へと飛びついた。
正式に太鼓判を押されたイーブイの姿を見るやいなや――ミソラの理性は瞬時に消し飛んだ。
「イーブイちゃん! 偉かったわねぇ、怖くなかった? もうどうしてそんなにフサフサで可愛いのぉぉ〜〜っ!!」
ガタッと椅子を蹴るような勢いでイーブイを抱き上げると、頬ずりを何度も擦りつけ、人間の言葉を失ったかのような赤ちゃん言葉でデレデレに甘やかし始める。完全に、いつもの「重度の親馬鹿モード」全開である。
「ブイ、ブイ〜ッ!」
当のイーブイは、ミソラの激しい愛情表現に一瞬驚いたものの、すぐに嬉しそうに目を細めてフサフサの尻尾をパタパタと振り、ミソラの顔をペロペロと舐め返した。
「んもおおおお! 尊い! 尊すぎるわ!!」
周囲の目が一切見えなくなっているミソラは、イーブイの首回りの白い毛に顔を埋めてスーハーと深呼吸を繰り返している。その横で、アブソルは呆れたように小さく「……フン」と鼻を鳴らし、エネコは相変わらずマイペースに「にゃ〜ん」と喉を鳴らしていた。
だが、今回ばかりはいつもと少し状況が違っていた。
ポケモンセンターのロビーの片隅で、ホログラム中継用のドローンカメラが静かに浮遊しており、そのレンズがミソラの絶叫をバッチリと捉えていたのだ。
実はこのカメラ、カロス地方のメディアが旅するトレーナーたちの日常を紹介するゲリラ番組のもので、なんとカロス全土への「生中継」の真っ最中だった。
あのショウヨウジムを破った新進気鋭のトレーナー・ミソラが、イーブイを前に完全に限界化している姿が、リアルタイムで各地の大型ビジョンに映し出されている。
そんな大惨事になっていることなど露知らず、ミソラは「よしよし、お腹空いたでちゅね〜」とイーブイに木の実を貢ぎ続けているのだった。
一通りイーブイの猫可愛がりを堪能し、ようやく息を整えたミソラは、ふと我に返って真剣な表情を浮かべた。
次の街へ向かうにあたり、避けては通れない「手持ちの選別」を行わなければならないからだ。
「……さて。みんな、ちょっと集まって」
ミソラの声に、大家族の空気がピシッと引き締まる。旅のルールとして、一度に連れて歩けるポケモンは6体まで。新しくイーブイが加わったことで、現在の7体から誰か1人をパソコンのボックスへ預けなければならない。
ミソラは目の前に並ぶ面々を見つめた。
旅団の大黒柱であるテールナー。
水色の重戦車マリルリ。
マイペースなエネコ。
ザクロ戦の英雄アブソル。
そして、炎の先輩コンビであるリザードとヒノヤコマ。
「やっぱり、炎タイプが3体重なっているのは戦力のバランスが偏っちゃうわね……」
ミソラは腕を組み、真剣に悩んだ。リザードはリザードンへの最終進化を間近に控えた大事な時期、ここで前線を外すわけにはいかない。ミソラは意を決して、1つの決断を下した。
「ヒノヤコマ、今回は一度ボックスで休んでいて。その代わり、空を飛び回る力が必要な時は、また絶対に力を貸してね」
ヒノヤコマは頼もしく一つ鳴いて納得の意を示し、ミソラの手元に戻っていった。これで次の旅路を進む手持ちの6体がはっきりと決まった。
テールナー、マリルリ、エネコ、アブソル、リザード、そして新入りのイーブイ。
大家族の絆は、ボックスに預けたとしても決して切れることはない。生中継のカメラが静かに回り続ける中、ミソラは選別した6体のボールをしっかりとベルトに固定し、新たな決意を胸に、ショウヨウシティのポケモンセンターを後にするのだった。