11番道路を抜けたミソラ一行を待ち受けていたのは、壁面が鏡のように周囲を映し出す、奇妙で広大な「映し身の洞窟」だった。
ひんやりとした空気が漂う、壁一面がまるで鏡のように磨き上げられたこの奇妙な洞窟を、ミソラ旅団の大家族は賑やかに進んでいた。
「見てテールナー、鏡の中にテールナーがいっぱいいるわよ!」
「テール、テェル……」
オスのテールナーは、壁に映る無数の自分の姿に少し居心地悪そうに腕を組み、フイと顔を背けている。その後ろでは、マリルリが鏡に映る自分に向かって楽しそうにステップを踏み、リザードとアブソルは相変わらず「負けなしのエース」としての絶対的なプライドを漂わせながら、堂々と先頭を歩いていた。
チリリン、チリリン……。
その時、洞窟の奥から、水晶を転がしたような、涼やかで愛らしい鈴の音が響いてきた。
「ん? 何の音かしら……?」
ミソラが足を止めると、鏡の壁の向こうから、一匹の小さなポケモンがふわふわと浮きながら姿を現した。
黄色い丸っこい体に、赤い紐のような美しい飾り。それは、チリーンに進化する前のポケモン、リーシャンだった。しかも、その仕草や佇まいにはどこかお淑やかで、女の子らしい気品が漂っている。
「あ、可愛い……! リーシャンね」
「チリリ〜ン♪」
リーシャンはミソラたちを見つけると、警戒するどころか、嬉しそうに体を揺らして綺麗な音色を響かせた。どうやら、大家族の賑やかな雰囲気が気に入ったらしい。
「私たちの仲間になりたいの? ……テールナー、ちょっとだけお相手してあげて!」
「テール!」
テールナーが前に出ると、リーシャンは小さく飛び跳ねながら、サイコキネシスのエネルギーを纏った愛らしい攻撃を仕掛けてきた。だが、頼れる兄貴分のテールナーはそれを華麗にいなし、手にした枝から手加減した炎を放って、リーシャンの動きを優しく止める。
「いまだわ、モンスターボール、お願い!」
ミソラが投げたボールは、リーシャンを吸い込むと、鏡の光を反射しながら数回揺れ、すぐにカチリと音を立てて静止した。
「やったぁ! リーシャン、ゲットだわ!」
ボールから飛び出したリーシャンは、すぐにミソラの肩のあたりへとふわふわと寄り添い、「チリン♪」と嬉しそうに鳴いた。新しく入った可愛い妹分を歓迎するように、マリルリやイーブイたちも周りに集まって大はしゃぎだ。
「ふふ、これでまた大家族が賑やかになったね。リザードも、新しい仲間よ!」
ミソラが声をかけると、リザードは「フン」と鼻から小さく炎を吹き出し、頼もしい背中を見せながら、さらに洞窟の奥へと歩き出した。その足取りには、これまですべての戦いをねじ伏せてきた絶対的な自信と、余裕が満ち溢れている。
リーシャンの奏でる心地よい鈴の音が、暗い洞窟に優しく響き渡る。
新しい仲間が増え、旅団の絆はさらに深まったかのように見えた。
――だが、ミソラたちはおろか、無敗のエースであるリザード自身も、まだ気づいていなかった。
この穏やかな鈴の音のすぐ先、洞窟の出口の目と鼻の先で、リザードのプライドを完璧にズタズタに引き裂く「あの最悪の青い影」が、不気味に待ち構えているということを。
嵐の前の静けさを乗せて、ミソラ旅団は運命の分岐点へと一歩を進めるのだった。