リーシャンを家族に迎え入れ、賑やかに映し身の洞窟を進んでいたミソラ一行だが、彼らは次第に追い込まれていく。
美しく神秘的な光景とは裏腹に、そこは一歩足を踏み入れると、そこは一筋縄ではいかない癖のあるトレーナーやポケモンたちがひしめく危険地帯だったのだ。
暗闇から突然、鏡の反射を利用して奇襲を仕掛けてくる超能力者や格闘家たち。さらに野生のポケモンたちも一癖ある相手ばかりで、ミソラ一行はかつてない大苦戦を強いられる。
「マリルリ、『じゃれつく』! ……ダメ、かわされた!?」
「テールナー、後ろよ! 避けて!」
息つく暇もない連戦により、大黒柱のテールナー、タフなマリルリ、そして前戦でルカリオ2体を破ったリザードまでもが、体力を激しく消耗して戦闘不能寸前まで追い込まれてしまう。エネコやアブソル、新入りのイーブイも疲労の色が隠せない。周囲は暗く、出口も見えない。最悪の状況が頭をよぎったその時――。
「そこのトレーナーさん! こっちへ来てください!」
洞窟の開けたスペースで、簡易テントを張り、ランタンを灯している優しい雰囲気の旅のトレーナーが声をかけてくれた。
手持ちの傷つき方を見たそのトレーナーは、快くミソラたちを迎え入れ、一晩の避難(ビバーク)を許してくれたのだった。
温かいスープを分けてもらい、携帯用の回復装置でポケモンたちの傷を癒やす。
「ありがとうございます……本当に助かりました……」
「いいんですよ。この洞窟は慣れた旅人でも行き倒れになる難所ですから。しっかり休んで、明日一気に出口を目指すといいわ」
ランタンの優しい光の中、テールナーたちは静かに眠りにつき、何とか全滅の危機を免れた。人の温もりに救われ、ミソラは深く感謝しながら夜を明かした。
翌朝。体力を万全に回復したミソラ一行は、お世話になったトレーナーに別れを告げ、力強い足取りで出発した。
しばらく進むと、前方に眩しい外の光が見えてくる。ついにシャラシティ側の出口だ。
「みんな、もう少しよ! 洞窟を抜けるわ!」
手持ちの6体が光に向かって駆け出そうとした、その瞬間。
出口を塞ぐように、天井の影から「ドスン!」と青く奇妙なシルエットが飛び降りてきた。
「――ソーナンス!?」
お馴染みの、どこかとぼけた顔をした野生のソーナンス。だが、その場にいたアブソルが瞬時に身構え、リザードが鋭い唸り声を上げた。
空気が、一瞬で凍りつく。
(……しまった、身体が動かない!?)
ミソラは本能的にボールへ戻そうとしたが、手元が強張る。ソーナンスが持つ特性『かげふみ』。この特性の前に、ミソラも、そして前線に出ようとしていたリザードも、その場から「逃げる」ことも「交代する」ことも完全に封じ込められてしまったのだ。
「戦うしかない……! リザード、一撃で決めるわよ! 『ほのおのキバ』!!」
リザードは激しい炎を口元に宿し、覚悟を決めてソーナンスへと飛びかかった。その鋭い牙が、ソーナンスの身体へ深く突き刺さる。
しかし、ソーナンスはどれだけ激しいダメージを受けても、不気味な笑みを浮かべたまま耐え忍んでいた。
そして、ソーナンスの身体が、禍々しい漆黒のエネルギーを放ちながら不敵に発光する。
リザードが繰り出したのは物理技(ほのおのキバ)。それに対し、ソーナンスが狙っていたのは、受けた物理ダメージを2倍にして叩き返す恐怖のカウンター――『カウンター』だった。
「リザード、避けて――!!」
ミソラの悲鳴は届かなかった。
リザードが与えた渾身の一撃のダメージが、そっくりそのまま「2倍の破壊力」となって、目にも留まらぬ衝撃波となりリザードの胸元へ炸裂する。
「リザァッ……!?」
これまで数々の修羅場をくぐり抜け、コルニのルカリオすら圧倒したリザードの巨体が、信じられない威力で壁へと吹き飛ばされた。
壁面の鏡に激しく叩きつけられ、崩れ落ちるリザード。その瞳は完全に回り、尻尾の炎が弱々しく揺れていた。
一撃でのノックアウト。リザード、まさかの戦闘不能。
「リザード!!」
ミソラは駆け寄り、すぐにリザードをボールへと回収した。出口を前にして味わった、あまりにも冷酷な敗北。リザードを一撃で沈めたソーナンスは、満足したように「ソ〜ナンス!」と間抜けた声を残し、そのまま洞窟の奥へと去っていった。
手持ちのエースの敗北に、テールナーやマリルリたちにも戦慄が走る。
何とか洞窟の外へ抜け出し、シャラシティの眩しい太陽の下へ出たミソラ一行だったが、その胸にあるのは勝利の余韻ではなく、メガシンカを目前に控えたリザードが味わった、初めての大きな挫折の苦みだった。