シャラシティの潮風が吹く海岸線。
映し身の洞窟を抜けたミソラ一行だったが、その空気はかつてないほど冷え切っていた。
原因は、圧倒的な凶暴さで仇敵を粉砕し、リザードンへと最終進化を遂げた新エースだ。リザードン自身、我に返って「みんなを本気でドン引きさせてしまった」と内心猛烈にバツが悪そうにしているが、その巨体と強大すぎるオーラのせいで、どう周囲と接していいか分からず、ただフンフンと不機嫌そうに列の最後尾を歩いている。
いつもなら「よくやったな!」と拳をぶつけ合うはずの大黒柱・テールナーも、まだあのオーバーキルの光景が焼き付いているのか、リザードンと目を合わせようとせず、どこか余所余所しい。マリルリもイーブイたちを庇うように歩き、旅団全体に不自然な距離感が生まれていた。
そんなギクシャクした空気を切り裂くように、砂浜の向こうから、シャラジムの門下生を名乗る好戦的なトレーナーたちが勝負を仕掛けてきた。
「おいおい、そこの旅のトレーナー! その強そうなリザードンと、俺たちのポケモンで勝負しようぜ!」
相手が繰り出したのは、鋭い打撃を得意とする強力な格闘ポケモンたち。ミソラは現在の旅団のムードに不安を覚えながらも、迎撃の指示を出す。
「……いくわよ。テールナー、マリルリ、そしてリザードン!」
だが、やはり連携が噛み合わない。テールナーが攻撃を仕掛けようとするも、リザードンの存在が気になって一瞬動きが硬くなり、相手の猛烈なカウンターを受けそうになる。
「テールナー、危ないっ!」
ミソラが叫んだその瞬間、凄まじい風圧と共に、テールナーの前に漆黒の巨大な壁が立ち塞がった。
――リザードンだ。
リザードンはその大きな二枚の翼を広げ、テールナーを完全に背後に庇うと、相手の強力な打撃をその頑丈な胸板で真っ向から受け止めた。ドグォンッ!と重い衝撃音が響くが、リザードンは一歩も退かない。
「リザァッ……!」
リザードンは痛みに顔を歪めるどころか、テールナーを振り返り、「何をもたもたしてやがる、俺が受けてる間に撃ち込め!」と言わんばかりに、鋭い眼光で顎をしゃくってみせた。
その背中を見て、テールナーの目つきが変わった。
(……ちっ、しゃあねえな! 完全にビビってた自分が情けねえ!)
「テールッッ!!」
テールナーはリザードンの背中を信じ、その巨大な影から飛び出すと、手にした枝から最大火力の『大文字』を放ち、相手の体勢を大きく崩した。
さらに、もう一体の敵が死角からマリルリを目がけて突っ込んでくる。マリルリが身構えるより早く、リザードンは長い尻尾を叩きつけて敵をなぎ払い、マリルリのピンチをも未然に防いだ。ただ暴虐に暴れるのではない。仲間への確かな「配慮」と、圧倒的な「実力」でフィールドを完全に支配している。
「リザードン、テールナー、マリルリ! 今よ、一斉に決めて!!」
ミソラの号令が響く。リザードンの怒涛の『ほのおのキバ』、テールナーの炎、マリルリのハイドロポンプが完璧な三位一体の波状攻撃となり、シャラジムの門下生たちを瞬く間に圧倒、完全勝利を収めた。
「す、すげえ連携だ……まいった!」
対戦相手が脱帽して去っていく中、砂浜には静寂が戻る。
テールナーは、息を整えながらリザードンへと歩み寄った。そして、少し照れくさそうにニヤリと笑うと、リザードンの太い腕に、自分の拳を「コツン」とぶつけた。マリルリも「マ〜ルリ!」といつもの信頼の笑顔を見せる。
(こいつ、進化して狂暴になったんじゃなくて、俺たちを守るためにあの力を手に入れたんだな)
言葉はなくても、バトルの背中がすべてを語っていた。大家族の糸が、再び強く結び直された瞬間だった。
そんな仲間たちの和解を静かに見届けていたミソラが、一歩前に出て、リザードンの正面に堂々と立った。腕を組み、わざと少し厳しい表情を作る。
「リザードン。あの洞窟でのリベンジは大成功だったし、今日のバトルも完璧だったわ。……でもね、いくら頭に血が上ってたからって、大切な家族をあんなに本気で怖がらせるなんて、あんた最低に格好悪いよ」
ガツンと言われ、リザードンは大きな身体をバツ悪そうに縮め、シュンと頭を下げて鼻から弱々しく煙を吐いた。完全に反省している。
そんな新エースの頭を、ミソラは今度は思い切り、愛おしそうにクシャクシャと撫で回した。
「でも、身を挺してみんなを守った今日のあんたは、文句なしにうちの最高のエースよ。……おかえり、リザードン。これからもよろしくね」
「リザァ……!」
リザードンは嬉しそうに目を細め、今度は優しく、ミソラの肩にその大きな頭をすり寄せた。テールナーたちもそれを見て「やれやれ」と笑っている。
最高の絆を取り戻し、名実ともに「最強の守護神」となったリザードン。
一回りも二回りも大きくなったミソラ旅団の視線の先には、メガシンカの秘密が眠るシャラシティのジムの塔が、夕日に照らされて雄大にそびえ立っていた。