ユウタとの正々堂々とした勝負を終え、ミソラの一行はさらにハクダンの森の奥へと進んでいた。
背の高い木々が作り出す緑の天蓋からは、時折ぽつぽつと木漏れ日がこぼれ落ち、ミソラの歩みを祝福するように照らす。足元ではフォッコが軽やかにステップを刻み、ピカチュウはハートの尻尾を上機嫌に揺らし、肩の上のヤヤコマは周囲の気配を鋭く見守っている。
まさに順風満帆。ミソラがずっと先頭に立ち、誰も寄せ付けないペースで森を探索していた。
やがて、前方の木々の隙間から、一段と眩しい光が差し込んできた。ハクダンの森の出口、3番道路へのゲートがすぐそこに見えている。
「みんな、もうすぐ出口よ。よく頑張ったわね」
ミソラが振り返り、愛おしい我が子たちに微笑みかけた、その時だった。
ザッ、と力強い足音がミソラのすぐ横をすり抜けた。
帽子を端正に被った少年――アサメタウンで隣の家に住むカルムだった。彼はミソラを追い抜くと、出口のすぐ手前でピタリと足を止め、振り返った。
「ミソラ。どうやら、僕の方が一歩早かったみたいだね」
カルムは腕を組み、少しだけ得意げな、それでいてどこか照れ隠しのような笑みを浮かべていた。
ミソラは一瞬、目を丸くした。
森の中では間違いなくミソラが一番前を歩いていたし、カルムの姿ははるか後ろに見え隠れしている程度だったのだ。出口が見えた瞬間に、まるで子供のような対抗心でスッと前に出るその姿に、ミソラは思わずクスリと笑ってしまった。
「あら、カルム。ずっと後ろを歩いていたはずなのに、ずいぶんと素早いお引越しね」
「……トレーナーたるもの、常に先を見据えて行動しなければいけないからね。僕のケロマツも、森を抜ける準備はいつでもできていたさ」
カルムは少し耳を赤くしながら、ゴホンと不自然な咳払いを一つ挟んだ。
彼にとってミソラは、お隣さんであり、同時に負けたくない特別なライバルなのだろう。だからこそ、たとえ出口の直前の一歩であっても「自分が一番乗りだ」と、少し格好をつけたかったのかもしれなかった。
そんなカルムの背後で、彼の相棒であるケロマツが「ケロ……」と、どこか呆れたような声を漏らしているのが見えた。
「そうね、さすがカルム。とっても優秀なトレーナー様だわ」
ミソラはからかうように、けれど温かい眼差しで微笑んだ。
世間のトレーナーなら、「ずるいぞ」と怒ったり、「いや、私の方が早かった」と言い返したりするかもしれない。けれど、ミソラの胸にあるのは、そんな小さな勝ち負けを超えた「大家族の長」としての余裕だった。
ミソラにとっての旅は、誰よりも早くゴールにたどり着くためのレースではない。
お気に入りの可愛いお洋服をまとい、自分が心から愛おしいと思える家族たちと、一歩一歩、その絆を確かめ合いながら歩む時間そのものが宝物なのだ。
「私たちは私たちのペースで行くわ。ね、みんな?」
ミソラの声に、フォッコが「フォッコン!」と同意するように鳴き、ピカチュウもカルムに向かってペロッと小さな舌を出した。ヤヤコマは羽をすくめるような仕草をして、ミソラの肩を優しくつつく。
「……相変わらず、賑やかなパーティーだね」
カルムはミソラの後ろに控える三匹を見渡し、ふっと張り詰めていた肩の力を抜いて笑った。
「じゃあ、僕は一足先にハクダンシティへ向かうよ。ミソラ、君も遅れないようにね」
今度は格好をつけることなく、カルムは爽やかに手を振って、光に満ちたゲートの向こうへと歩き去っていった。
「さあ、私たちも行きましょう」
ミソラはもう一度、我が子たちを優しく見つめた。
誰かに先を越されようと、効率が悪かろうと、関係ない。自分を信じてついてきてくれる大切な命が、今こうして目の前に揃っている。それだけで、ミソラの旅は世界で一番贅沢で、特別なものだった。
木漏れ日の迷宮を抜けて、眩しい光の待つ外の世界へ。
ミソラと三匹の家族は、それぞれの歩幅で、確かな一歩を踏み出した。