シャラジムをリザードンの一撃無双で制し、夕暮れの海岸でテールナーが気高きマフォクシーへと進化を遂げた翌日。
ミソラはメガシンカの本当の引き金を引く資格を得るため、再びシャラシティの聖地、マスタータワーの最上階へと登っていた。
吹き抜ける激しい潮風の中、ジムリーダー・コルニ、そしてその祖父である「メガシンカオヤジ」と対峙する。
「ジムバッジは見事。だが、メガシンカとはただポケモンを強くするだけの器ではない。お主たちの『絆の波動』、その真価をここで見せてもらおう」
メガシンカオヤジの重々しい言葉に応えるように、ミソラの背後では、進化したばかりの大黒柱マフォクシーや、漆黒の巨躯となったリザードン、守護神アブソルが静かに控えていた。
試練が始まろうとした、まさにその時だった。コルニの背後に付き従っていた2体のルカリオのうち、1体のルカリオが、じっとミソラの姿を見つめたまま、一歩前に歩み出た。
「ルカァ……」
そのルカリオの瞳には、ミソラがこれまで大家族と共に築き上げてきた温かくも強固な「絆の波動」に対する、烈しい共鳴の色が浮かんでいた。ルカリオは驚くコルニを振り返り、真剣な眼差しで小さく頭を下げると――なんと、そのままコルニの陣営を離れ、ミソラがいる側のフィールドへと堂々と歩み寄ってきたのだ。
「えっ……!? 嘘、私のほうに来るの!?」
「あ、あれッ!? ちょっとルカリオ、どうしちゃったのよ!?」
コルニが慌てて声をあげるが、ルカリオの決意は揺るがない。彼はミソラの前に立つと、コルニの元に残ったもう1体のルカリオ(長年の相棒)に向かって、鋭い視線と波動を突きつけた。
(俺はこのトレーナーと共に戦いたい。お前を超えて、それを証明してみせる)――言葉はなくとも、武人としての魂の叫びがフィールドに満ちていく。
メガシンカオヤジがその様子を見て、深く、満足そうに頷いた。
「ほう……ルカリオ自身が、その娘の波動を選んだか。コルニよ、これもおそらく試練。受けて立ちなさい」
「……わかったわ! 理由は分かんないけど、バトルなら大歓迎! ルカリオ、あいつに相棒としての意地を見せてやりなさい!」
「ルカァッ!」
コルニの号令とともに、残されたルカリオが飛び出す。対するミソラ側のルカリオも、低く身を構えてそれを迎え撃つ。ここに、メガシンカの継承権を懸けた「ルカリオ同士の宿命の一騎打ち」の幕が切って落られた!
「相手の動きを見て! 懐に入らせないで、『ボーンラッシュ』よ!」
ミソラの声に応え、新入りのルカリオが光の骨の棍棒を形成し、凄まじい風切り音とともに振り下ろす。コルニのルカリオも同等の『ボーンラッシュ』でそれを完璧にブロックし、激しい火花が散り散る。
目にも留まらぬ超スピードの応酬。互いの手の内を知り尽くした2体だからこそ、戦いは一瞬の隙が命取りとなるガチンコの殴り合いへと発展していく。
コルニのルカリオが放った重いグロウパンチが、ミソラ側のルカリオの脇腹を捉える。衝撃に膝を折りかけるルカリオ。しかし、その背後から(ルカァ! 負けるな!)と、リザードンや新入りのマフォクシー、守護神アブソルたちが熱い声援を送る。
(この大家族の輪に、俺も絶対に加わるんだ……!)
その強い想いが、ルカリオの波動を爆発的に高めた。ルカリオは強引に踏み込むと、相手の懐へと滑り込み、限界まで練り上げた精神エネルギーを掌に集中させる。
「決めて! 渾身の『グロウパンチ』っっ!!!!」
「ルカァァァァァッッッ!!!」
至近距離から放たれた完璧な『グロウパンチ』の質量が、コルニのルカリオの胸元へ真っ直ぐに炸裂した。
ドガァァァァァンッッ!!!
爆煙の向こうで、コルニのルカリオがたまらず後ろへと吹き飛び、ついに仰向けに倒れ込んだ。
「それまで! 勝者、ミソラ側のルカリオ!」
メガシンカオヤジの声が響く。
勝ったルカリオは、荒い息を吐きながらも、ミソラを振り返って誇らしげに拳を突き出してみせた。ミソラも「やったね、ルカリオ!」と満面の笑みでその拳に自分の手を重ねる。自らの力で陣営を勝ち取り、最高の形で大家族への仲間入りを果たした瞬間だった。
しかし、ここでルールの壁が立ちはだかる。現在の旅団の手持ちは満杯の6体。新入りのルカリオを迎えるためには、1体をボックスへ転送しなければならない。
「うう……誰を留守番にさせるか、本当に迷うわね……」
ミソラが頭を抱えていると、足元から「にゃ〜お♪」と、これ以上ないほど緊張感のない声が響いた。
数日前に、つきのいしでまさかの電撃進化を遂げたばかりのエネコロロだった。
エネコロロは、自分の新しくなった上品な紫色の尻尾をフリフリと揺らしながら、ミソラ足元にすり寄ると、コロンと仰向けになって「肉球」を見せてみせた。
「にゃ〜〜ん(私はもう進化して満足したから、ちょっとポケセンのふかふかベッドで朝寝坊してくるにゃ〜)」
そう言わんばかりの、あまりにもマイペースすぎる態度。これからさらに激しさを増す旅のシリアスなタイミングだったが、彼女にとっては大家族のガチバトルよりも、ポケセンでのんびりお昼寝する方が魅力的だったらしい。エネコロロらしい、旅団の緊張感を一瞬で和らげる最高の気遣いだった。
「もう……エネコロロったら。わかったわ、少しの間だけポケセンでゆっくり休んでてね。すぐに迎えに行くから!」
「にゃ〜お♪」
ミソラが苦笑しながらエネコロロをボールに戻し、タワーの転送システムを使ってボックスへ送ると、新入りのルカリオもその様子を見て、この旅団がどれほど自由で、そして温かい愛に満ちているかを改めて知るのだった。
「よし……これでルカリオも私たちの家族ね! メガリング、大事にするわ!」
自らの意思で陣営を変えた誇り高きルカリオを迎え、エネコロロのマイペースな旅立ちを見送ったミソラ旅団。
大黒柱マフォクシーと新エース・リザードン、そして守護神アブソルを筆頭とする大家族は、ヒヨクシティでの運命の「覚悟」へと向かって、絆をますます深めていくのだった。