ラプラスの安定した『なみのり』によって12番道路の海を無事に渡りきったミソラ旅団の目の前に、今度は見渡す限りの鮮やかな緑の絨毯が広がった。
潮風の代わりに優しく吹き抜けるのは、青草の甘い香り。そこは、多くの草ポケモンたちがのんびりと暮らす『メェール牧場』だった。
「うわあああ……! なにここ、最高に天国なんだけど……っ!」
柵の向こう、陽だまりの中で身を寄せ合っているのは、首回りにふさわしい緑の葉っぱを纏った、もふもふの小羊のようなポケモン――メェークルたちだ。
その愛くるしい姿が視界に入った瞬間、ミソラの「可愛いポケモン大好きセンサー」が限界突破して弾け飛んだ。
「ちょっとみんな、見て! めっちゃくちゃ可愛い子がたくさんいる!! メェークルちゃ〜〜〜ん!!」
「メェ〜?」
リュックを地面に放り出し、文字通りすっ飛んでいくミソラ。突然現れた人間の勢いに最初は少し驚いていたメェークルたちだったが、ミソラから溢れ出る邪気ゼロの「大好きオーラ」を察知したのか、すぐに「メェ〜、メェ〜」と小さく鳴きながらトコトコと集まってきた。
「きゃー! 近寄ってきてくれた! 可愛い! 毛並みがふっかふか! えらいね〜、みんないい子だね〜〜!!」
完全に理性が溶けたミソラは、メェークルたちの首回りのもふもふに顔をうずめ、これでもかと頬ずりをして猫可愛がりを始めた。顎の下を撫で回され、気持ちよさそうに目を細めるメェークルたちに、ミソラはもうメロメロだ。
そんな主人の限界っぷりを、後ろから旅団の面々が様々な表情で見つめていた。
先日加入したばかりのルカリオは、主人のあまりのギャップに驚いて硬直していた。新エースのリザードンは、自分たちを完全に放置して子羊と戯れる主人を前に、バツが悪そうに大きな翼をすぼめてフンと鼻から煙を吐いていた。
「マフォ……」
進化したばかりの大黒柱・マフォクシーも、手にした杖を抱えながら「やれやれ、いつもの悪癖が始まったな」と、あきれ顔で苦笑いしている。守護神アブソルだけは、そんな様子を「これもまた旅の休息か」と言わんばかりに、のんびりと座って静かに見守っていた。
「あ、そうだ! メェークルって、人の気持ちを察して背中に乗せてくれるのよね! ……ねえ、乗ってもいい?」
ミソラが一番人懐っこいメェークルの角を優しく撫でながら尋ねると、そのメェークルは「メェッ!」と力強く鳴いて、どうぞと言わんばかりに姿勢を低くしてくれた。
「最高の相棒! よーし、いくよーっ!」
ミソラがその小さな背中に跨り、角をしっかりと握りしめる。次の瞬間、メェークルは驚くほど軽やかなステップで、広大な牧草地へと力強く駆け出した。
「うわあああっ、速いっ! でも、すっごく気持ちいいいぃぃー!!」
ツノを通じてメェークルの温かい感情がダイレクトに伝わってくる。風を切って緑の丘を駆け抜ける爽快感に、ミソラは子供のように大はしゃぎだ。メェークルは柵を軽々と飛び越え、斜面を自由自在に走り回る。
「あはは! リザードン、マフォクシー、置いてっちゃうからねー!」
丘の上からミソラが手を振ると、置いていかれた新エース2体は顔を見合わせ、
(おい、あの草タイプにいいとこ持っていかれてるぞ)
(ちっ、しょうがねえな)
とばかりに、リザードンが大きな翼を広げて低空を並走し、マフォクシーもサイコパワーで身体を軽くして、負けじとミソラの後を追いかけ始めた。
その後ろを、新入りのルカリオ、そして守護神アブソルものんびりと追いかけていく。緑の草原に、ミソラの笑い声と大家族の賑やかな足音が響き渡る。
さんざん走り回った後、夕暮れ時の牧場で、ミソラはたくさんのメェークルたちに囲まれて雑魚寝していた。
「みんな、今日は本当にありがとう。最高の癒やしだったわ……」
すっかりメェークルたちに懐かれ、体中をもふもふに埋もれさせながら、ミソラは幸せそうに息を吐く。
リザードンでの圧倒的無双や、マフォクシーへの熱い進化、そしてエネコロロやマリルリとの寂しいお留守番……激動続きだった旅の途中で訪れた、最高のやすらぎ。
メェークルたちからたっぷりと元気を分けてもらったミソラ旅団は、心も体もすっかりリフレッシュし、いよいよこの12番道路の先にある、植物に囲まれた美しい港町・ヒヨクシティへと向かって、再び歩みを進めるのだった。