「みんな、待たせてごめんねー!」
ヒヨクシティのポケモンセンターの一角にある「ふれあいコーナー」。ガラスの扉を開けたミソラの視界に、見慣れたおてんばな影と、気品あふれる紫色の影が飛び込んできた。
「マ〜ルリッ♪」
「にゃ〜お?」
お留守番中だったマリルリが、短い足をめいっぱい動かしてミソラの胸へと飛び込んでくる。その後ろからは、相変わらずマイペースなエネコロロが、ふかふかのクッションから気だるげに起き上がって喉を鳴らした。他のトレーナーのポケモンたちとすっかり仲良くなり、ここでの暮らしを満喫していたようだ。
「ふふ、2人とも元気そうでよかった! 今日はね、みんなにちょっとお願いがあるの」
ミソラはマリルリたちの頭を優しく撫でながら、ふれあいコーナーの芝生に、旅団の仲間たちを一度全員呼び出した。
ずらりと並ぶ、メガリザードンYへと覚醒したリザードン、頼れる大黒柱マフォクシー、そして静かに佇む守護神アブソル。その圧倒的な威厳に、周囲のトレーナーたちが「お、おい見ろよあのメンバー……」とざわつき始める。
だが、今のミソラの目的は「彼らの圧倒的な火力に頼り切る旅」からの脱却だった。
「12番道路での戦いで思い知ったの。リザードンやマフォクシー、アブソルが強いだけじゃダメ。大家族のみんなが、どんな理不尽にも負けないくらい強くならなきゃいけないって。……だから次のジム戦を前に、今日はエースのみんなにはここで少しお休みを強いるわ。その代わり――」
ミソラは腰のベルトから、いくつかのボールを手に取った。
今回は、海を渡るためのラプラス、そしてザングース戦で悔しい思いをした弟分イーブイ、さらに、まだ進化前の初々しさを残すピカチュウ、オタチ、ヒノヤコマ。そして、この変則的な布陣を前線で引っ張る役目として、マスタータワーで自ら陣営を選んだ実力者・ルカリオを据える。
「リザードン、マフォクシー、アブソル。少しの間、マリルリたちとここでゆっくり休んでてね。……よし、このメンバーでいくよ!」
「ルカァッ!」
ルカリオがキリッと引き締まった表情で拳を握り、イーブイも「ブイッ!」と負けじと声をあげる。ピカチュウは肩の上で頬をパチパチと鳴らし、オタチとヒノヤコマもやる気十分だ。
エース3体とマリルリ、エネコロロをふれあいコーナーの温かい仲間に託し、ミソラは新しい陣形(フォーメーション)を率いて、ヒヨクシティの北に広がる広大な海――修行の聖地『アズール湾』の砂浜へと向かった。
海岸線に出ると、そこは遮るもののないコバルトブルーの世界。夕日が水平線に傾き始め、海面をキラキラと金色に染め上げている。波打ち際では、修行のためにカロス中から集まったという熱いトレーナーたちの声が、潮風に乗ってかすかに聞こえてきた。
「よし……みんな、準備はいい? 誰も置いていかない、全員が強い大家族になるための特訓よ!」
ミソラが力強く宣言し、手持ちの最後に収まっていた青いボールを掲げた。
「ラプラス、出てきて! みんなを乗せて、あの海へ連れて行って!」
「ラプゥゥゥ〜〜〜ン……!」
細く美しい鳴き声を響かせながら、大柄で穏やかなラプラスが波間に姿を現した。その大きな甲羅は、まるで小さな船のように頼もしい。
「さあ、みんな乗りなさい!」
ミソラの合図で、ピカチュウとイーブイ、オタチが器用にラプラスの背中へと飛び乗る。ヒノヤコマはラプラスの頭上を小さく旋回し、ルカリオはその強靭な足腰で甲羅の端にスッと立ち、周囲の気配を鋭く探るように海を見つめた。
最後にミソラがラプラスの首にしっかりと掴まり、温かい甲羅の上に腰を落ち着ける。
「ラプラス、『なみのり』で出発! あの海のトレーナーたちに、私たちの新しい力を見せてやりましょう!」
「ラプゥゥォォォーーーッ!」
ラプラスが力強く青い海を蹴り出す。ザザーーーッ!と白い水飛沫を上げながら、ゆっくりと、しかし確実に加速していくラプラス。心地よい揺れと共に、ミソラ旅団の「第二陣」は、黄金色に輝くアズール湾の大海原へと、真っ直ぐに乗り出していくのだった。