カルムが部屋を去った後、ヒヨクシティのポケモンセンターの一室には、かつてないほどの張り詰めた、しかし前向きな熱気が満ちていた。
「みんな、集まって」
ミソラはベッドの上に腰掛け、目の前に整列した大家族の仲間たちを真っ直ぐに見つめた。窓から差し込む陽光が、ミソラの手首のメガリングを鈍く光らせる。
「次のヒヨクジム……フクジさんとのバトルは、私たちのこれからの旅を占う、絶対に負けられない戦いになるわ。だから――今回は、私たちの持てる全力を尽くした『最強の布陣』で行く」
ミソラは腰のベルトから、4つのモンスターボールを手に取った。
「まずは、旅団の大黒柱、マフォクシー。あんたの炎とサイコパワーが必要よ」
「マフォッ!」
進化したばかりの魔導士が、手にした杖を力強く床に打ち鳴らす。
「引っくり返して見せるわ、私たちの新しい最強の翼、リザードン」
「グァァッ!」
漆黒の巨躯が、闘志に満ちた低い咆哮を上げる。
「それから、どんな時もみんなを支えてくれた守護神、アブソル」
「……」
アブソルは静かに一歩前へ出ると、主人の覚悟を確かめるように鋭い赤い瞳を光らせた。
「次は、マスタータワーで自ら私たちの仲間になることを選んでくれた、ルカリオ。あんたの武人の技、頼りにしてるわ」
「ルカァッ!」
ルカリオが胸の前で力強く拳を合わせる。
まずは揺るぎない実力者である4体が確定した。手持ちの枠は残り「2体」。
ミソラは、ふれあいコーナーから戻ってきたばかりの、青くて丸い馴染みの相棒に視線を向けた。
「5体目は……やっぱり、これまでいくつもの修羅場を一緒に潜り抜けてきた、あなたに頼みたい。頼むわよ、マリルリ――」
「マ、マル……」
指名されたマリルリが嬉そうに一歩前に出ようとした、その瞬間だった。
「ブイッ!! ブイブイブーイッ!!」
「ピキィッ! ピキキィッ!」
激しい鳴き声が、部屋の静寂を破った。
ミソラの前に飛び出してきたのは、アズール湾で悔しい思いをしたイーブイと、一番の屈辱を味わったヒノヤコマだった。
「イーブイ? ヒノヤコマ……?」
2体は、一歩前に出ようとしていたマリルリの前に立ちはだかり、両手を広げて遮るようにしてミソラを正面から見据えた。
イーブイの丸い瞳には、悔しさを乗り越えた、絶対に引かないという強烈な光が宿っている。ヒノヤコマも、小さな翼をめいっぱい広げ、ミソラに向かって激しく羽ばたいてみせた。
「ルカ……」
その様子を見ていた新入りのルカリオが、2体から放たれる圧倒的な「不屈の波動」を察知し、ハッとして目を見開く。
彼らの言いたいことは、言葉を超えてミソラの胸に直接突き刺さってきた。
『あんなに惨めに負けたまま、エースの先輩たちの後ろに隠れてるなんて絶対に嫌だ!』
『傷つけられたプライドは、自分たちの力で、このジム戦でぶつかって証明してみせる!!』
「でも……2人とも……」
ミソラが気遣うように声をかけるが、イーブイは「ブイッ!!」と一層強く鳴くと、目の前の床を思い切り踏み締めて、自らの意思の強さを必死にアピールした。ヒノヤコマも、小さなクチバシをキリッと結び、どんな強敵が来ようとも今度は絶対に逃げないと、その瞳で語っていた。
理不尽な世界からみんなを守るために、自分が強くならなければいけない。
ミソラはそう思っていた。でも、違ったのだ。守られるだけの存在だと思っていたイーブイもヒノヤコマも、すでにミソラと同じ「戦士の覚悟」を胸に抱く、立派な大家族の一員へと成長していた。
「マル〜……」
マリルリが、2体のその決意を称えるように、優しく微笑んで一歩後ろへと下がった。エネコロロも、クッションの上から「にゃ〜お」と、彼らの背中を押すように穏やかに鳴いた。
ミソラは、目の前で必死に直訴してくる小さな2体の前に、ゆっくりと膝をついた。
こみ上げてくる熱いものをグッと堪え、2人の小さな頭に、そっと両手を置く。
「……そっか。ごめんね、私のほうが、またみんなのことを信じきれていなかったみたい」
ミソラは顔を上げると、満面の笑みを浮かべて、確固たる決意を告げた。
「決まりよ! 5体目はイーブイ、6体目はヒノヤコマ! この6体で、ヒヨクジムのフクジさんに、私たちの全力をぶつけにいきましょう!!」
「ブイッ!!」
「ピキィッ!!」
2体の魂の咆哮が、部屋中に響き渡った。
大黒柱マフォクシー、最強の翼リザードン、守護神アブソル、不屈のルカリオ。 道を切り開くイーブイとヒノヤコマ。
これ以上ない、魂で繋がった「真の最強布陣」がここに完成した。
ミソラ旅団は、互いの絆と、胸に秘めた確かな覚悟を爆発させるため、ついに緑の巨木がそびえ立つヒヨクジムの戦場へと、堂々の進撃を開始するのだった。