ハクダンの森を抜けると、そこにはカロスの爽やかな風と、どこまでも広がる青空が待っていた。3番道路――通称「ウベール通り」は、美しく剪定された生け垣と、キラキラと太陽の光を反射する小さな池や水路が点在する、のどかな美しい道だった。
「カルムはもう行っちゃったけど、私たちは少しここで休憩しましょうか」
ミソラが声をかけると、フォッコ、ヤヤコマ、そしてピカチュウがそれぞれ嬉しそうに声を上げた。
水路のそばの柔らかな芝生に腰を下ろし、ミソラはバッグからポケモンフーズを取り出す。我が子たちが仲良く並んで美味しそうに食べる姿を眺めているだけで、彼女の心は満たされていく。
その時、サラサラと流れる水路の向こうから、かすかに「きゅう……」という、心細そうな泣き声が聞こえてきた。
「あら……?」
ミソラが視線を向けると、水路の縁の大きな葉の陰に、丸くて青い小さな体が隠れていた。
大きな耳に、自分の体と同じくらい大きな黒い尻尾。ルリリだ。
ルリリは水路の水を飲みたそうに身を乗り出していたが、まだ体が小さすぎるのか、それとも少し不器用なのか、水面に届かずに危うく落ちそうになっては、おっとっと、と大きな尻尾をバネにして後ろへ跳ねていた。その一生懸命で、どこかあぶなっかしい一挙手一投足が、たまらなく愛くるしい。
「可愛い……なんて健気な女の子なのかしら」
ミソラの胸が、きゅんと高鳴った。
世間の一部には、ルリリを「進化させるのが面倒なベビィポケモン」と見る冷徹な目もあるかもしれない。けれど、ミソラにとっては違う。目の前で、小さな体で一生懸命に生きようとしているこの女の子の輝きこそが、何よりも尊かった。
ミソラがそっと水辺に近づくと、ルリリは驚いてピクリと大きな耳を震わせた。逃げようとするが、水路の段差に短い足を取られて、バランスを崩してしまう。
「危ない……!」
ミソラは迷わず手を伸ばし、落ちる寸前だったルリリの小さな体を優しく受け止めた。
腕の中に収まったルリリは、驚きで目を丸くし、ちいさな体を小刻みに震わせている。ミソラは彼女を安心させるように、そっと包み込むように抱きしめ、優しく微笑みかけた。
「大丈夫よ、驚かせてごめんなさいね。もう怖くないわ」
温かい言葉と、ミソラの穏やかな眼差し。ルリリはしばらくミソラの顔をじっと見つめていたが、やがて敵ではないと分かったのか、ホッとしたように「きゅう……」と鳴き、ミソラの胸に小さな頭をこてんと預けてきた。
その瞬間、ミソラの心に確かな火が灯る。
この子が私を信じて、なついてくれた。ならば、その信頼にどこまでも応えるのが、私の通すべき「筋」だ。
「ルリリ。もしよかったら、私の『家族』にならない? 一緒に美味しいものを食べて、たくさんお散歩をしましょう」
ミソラが語りかけると、後ろで見守っていたピカチュウが「ピカピカ!」と歓迎の声を上げ、ハートの尻尾を振った。フォッコも優しく喉を鳴らし、ヤヤコマがパタパタと羽を揺らす。
温かい歓迎の空気に包まれて、ルリリの瞳がキラキラと輝き出した。彼女はミソラの腕の中で嬉しそうに丸い尻尾をポンポンと弾ませると、ミソラの手元にあるモンスターボールを、自ら大きな耳でちょんと叩いた。
カチリ。
静かな電子音が水辺に響き、ルリリはミソラの4匹目の家族となった。
すぐにボールから呼び出してあげると、ルリリは嬉しそうに水飛沫をあげて跳ね、ミソラの足元に寄り添ってきた。
「よろしくね、ルリリ。貴方も大切な、私たちの家族よ」
タイプの偏りなんて関係ない。手持ちの枠がどうこうなんて、この愛おしさに比べれば些細なことだ。
せせらぎの音が心地よく響く3番道路で、ミソラの「大家族」は、またひとつ優しく、温かい絆を紡いだのだった。