ヒヨクジムは、空にそびえ立つ巨大な大樹そのものだった。
ツタで編まれた足場を渡り、揺れる吊り橋を越えてフクジの元へ向かう道中、ミソラたちは立ちはだかる数々のジムトレーナーたちとの連戦に追われていた。
「へえ、いい顔をしてるね。でも、ここから先は草と鋼の守りがある。そう簡単には通さないよ!」
行く手を阻んだのは、屈強なジムトレーナーの男。彼が放ったのは、カロス地方でも厄介で知られる鋼・草タイプのナットレイだった。
「イーブイ、ヒノヤコマ、行くわよ!」
相性有利だと踏んだミソラだったが、相手はジムトレーナーの中でも選りすぐりの使い手。ナットレイの放つ『てっぺき』で防御を極限まで固められ、ヒノヤコマの攻撃も跳ね返される。それどころか、触れるたびに特性『てつのトゲ』が2体を削り取り、さらに必中の『ジャイロボール』が容赦なく2体に襲い掛かる。
「ブ、ブイィッ……!」
「ピキィッ……!」
イーブイとヒノヤコマが、何度も何度も地面に叩きつけられる。アズール湾の時のように、またも何もできずに弾き飛ばされる2体の姿に、ミソラの胸が締め付けられる。
「ごめん、また私が焦らせて……!」
ミソラは自分を責めそうになる。けれど、目の前で砂埃にまみれながらも、イーブイが震える足を必死に踏ん張って立ち上がるのを見て、ハッとした。
(違う……。今、私が弱気になったら、この子たちの覚悟を否定することになる!)
「イーブイ、ヒノヤコマ! 怖がらなくていい。私たちがやってきた特訓を思い出して。あんたたちは、もう独りじゃない!」
ミソラの叫びが、大樹の枝葉を揺らす。
イーブイの心の中で、ミソラと共に過ごした数々の思い出、そして「もっと強くなって、ミソラを守りたい」という純粋な願いが爆発した。
その瞬間、イーブイの身体がまばゆい光に包まれる。
ジムの木漏れ日が、まるで月の光のようにイーブイに降り注ぎ、その姿を漆黒の毛並みへと変えていく。
「ブラッ……!」
神秘的な黄金の輪をその身に纏い、力強く大地を蹴り上げたのは、進化を果たしたブラッキーだった。
「進化……! ブラッキー!」
ブラッキーは、先ほどまでの怯えが嘘のような堂々たる足取りでナットレイの前に立ちはだかった。ナットレイが放った『ジャイロボール』を、今度は持ち前の耐久力で正面から受け止め、ピクリとも動じない。
「すごい、イーブイ……ブラッキー! 今よ、ヒノヤコマと連携して!」
ブラッキーがナットレイの背後に回り込み、黒い瞳で相手を威圧する。ナットレイが動揺したその隙を逃さず、ブラッキーは『あやしいひかり』で相手を混乱させ、ヒノヤコマがそこへ渾身の炎を叩き込んだ。
バチバチッと音を立ててナットレイが倒れ伏す。
ヒヨクジムの険しい試練を一つ、絆の力で突破した瞬間だった。
「やった……! ブラッキー、すごかったわ!」
ミソラが駆け寄り、漆黒の毛並みを優しく撫でる。ブラッキーは「ブラッ」と心地よさそうに目を細め、ミソラの手のひらに頬をすり寄せた。
けれど、これはまだ序の口。
大樹の奥には、さらに強大な力を持つフクジが待っている。ミソラたちはブラッキーという新たな翼を得て、頂上に座すジムリーダーの元へと、再びツタの道を駆け上がっていくのだった。