カロス発電所の事件が解決し、電力が完全に復旧したミアレシティ。
煌びやかな光を取り戻したカロスの中心地へ、ミソラは手持ちの6体をボールに戻し、ほぼ競歩に近い驚異的なスピードで突き進んでいた。
目指すは、お留守番チームである大家族の残り15匹が待つ、巨大なポケモンセンター。その奥にある、トレーナーとポケモンが自由に絆を深め合える広大な「ふれあいコーナー」である。
「お待たせみんな……! 今行くからね……!」
フクジ戦、そして砂漠越えの間、ミソラは「命を預かる指揮官」として、己の最大の武器であり悪癖でもあった「猫可愛がり」を極限まで封印していた。真っ黒になるまでノートを書き殴り、冷徹に盤面を攻略する頭脳派を演じきった。
だが、それもここまでだ。限界だった。彼女の「可愛いみんなを吸いたい欲」は、すでに臨界点を突破していた。
自動ドアが左右に開くや否や、ミソラはフロントのジョーイさんに挨拶もそこそこに、ふれあいコーナーの重い扉を押し開けた。
「みん、なぁぁぁーーーっ!!」
「ピカァッ!」「デデェーン!」「プラッ!」「マイッ!」「エモォッ!」
エリア内で大人しく待機していたピカチュウ、デデンネ、プラスル、マイナン、エモンガの電気袋5人衆が、ミソラの声に一斉に耳を跳ね上げる。さらに奥からは、ガルーラやラプラス、そして宿から転送されてきたばかりのヒノヤコマまで、総勢15匹の大家族が地響きを立てて駆け寄ってきた。
「うわぁぁん! 寂しかった、寂しかったよぉぉ!!」
ドササササササッ!!!
ミソラは周囲にいた他のトレーナーたちの視線など、1ミリも気にしていなかった。床にダイブする勢いで膝をつき、押し寄せる電気袋たちを両腕で一網打尽に抱きしめる。
「ピカピカ!」「デデデ!」
「可愛い! 本当に可愛いねぇぇ! 砂漠で頑張った私を全力で癒してぇぇ!」
頬ずりどころの騒ぎではない。ミソラは金髪を振り乱し、デデンネのふかふかのお腹に顔をうずめ、思いっきり息を吸い込む。さらに、プラスルとマイナンを両脇に抱え、エモンガを頭に乗せ、ピカチュウの背中に顎を乗せるという、常人なら感電死しかねないフォーメーションで電気袋たちを文字通りモフり倒していた。
「ラプゥ……」
大きなラプラスが長い首を優しく寄せてくると、ミソラはそのひんやりとした白い首筋に抱きつき、「ラプちゃんもありがとぉ!」と叫ぶ。ガルーラのお腹の子供を優しく頬ずりし、ヒノヤコマを両手でおにぎりのように包み込んで「よく留守番できたねぇ!」と涙を流した。
その光景は、もはや美しい金髪の少女というより、完全に理性を失ったモフモフのモンスターのようだった。
ふれあいコーナーにいた他のトレーナーたちが、「おい、あいつアズール湾の……」「いや、発電所を救ったっていう噂の指揮官じゃ……」「ええ……? 完全にただのヤバい奴じゃん……」とドン引きして距離を取るが、ミソラには聞こえていない。
(ああ、これよ……この子たちを全力で愛でるために、私は泥をすすったのよ……!)
戦術の勉強をしたからといって、彼女の本質である「我が子たちへの歪みなき愛」が消えるわけがなかった。むしろ、我慢した分だけその愛の重力は増していた。
ガチャ。
その様子を、ベルトのボールから勝手に出てきたアブソルが、入り口付近で冷ややかに見つめていた。
アブソルは、先ほど発電所で決めたあの極上のドヤ顔の余韻にまだ浸りたかったのだが、目の前で「デデェーン!」と鳴きながらミソラの顔面をベロベロに舐め回しているデデンネたちの姿を見て、急に白けたような、あるいはほんの少しだけ面白くなさそうな顔をして、ふん、と鼻を鳴らした。
(……やれやれ。これじゃどっちが『ボス』だか分かりやしないな)
呆れ果てたマフォクシーが杖でコンコンと床を叩き、ルカリオは静かに瞑想を始め、マリルリは「私も混ぜて!」と言わんばかりにミソラのモフモフの山へとバウンドして突っ込んでいく。
知略の指揮官、その正体は、相変わらず可愛いポケモン好きの限界オタク系トレーナー。
ミアレの電力と共に、ミソラの「猫可愛がりシステム」もまた、完璧にフルチャージされたのだった。