ミアレジムのフロアは、まるで巨大な回路基板を切り出したかのような無機質な幾何学模様で構成されていた。
「挑戦者ミソラ。ジムリーダー・シトロンの代理を務めるエリートトレーナーだ。君の戦歴は聞いているが……このジムで電気の真髄を味わうことになるぞ」
ミソラはベルトのボールを握りしめ、冷徹な分析眼を光らせる。
(電気タイプ。ルカリオの『ボーンラッシュ』を軸に据えれば、電気の通り道を遮断できる……!)
「ルカリオ、盤面を掌握するわよ」
ミソラがルカリオを繰出出したのと同時に、エリートトレーナーは不敵に笑った。
「初手は君か。ならば、まずはこの子からだ。――行け、エモンガ!」
「エモォッ!」
ふわりと舞い降りたエモンガは、地面に足を着けることなく、空中で優雅にホバリングを開始した。電気・飛行タイプ。地面技が一切効かない、もっとも避けるべき天敵だった。
「しまった……!(地面技を軸にした戦術に対する、明確なカウンターッ!)」
「さあ、始めようか。エモンガ、『でんじは』!」
「ルカリオ、避けてッ!」
指示を飛ばすが、宙を舞うエモンガの初速は圧倒的だった。ルカリオが横へ跳ぶよりも早く、黄色い電磁波がその身体を包み込む。
バチバチッ、という不快な音と共に、ルカリオの筋肉が強張る。
「……ッ!」
ボーンラッシュで骨の杖を作り出しようとしたルカリオの手が、麻痺によってガクガクと震え、技の発動が不発に終わる。
「いい出足だ。さあ、エモンガ、動けない相手を上空から一突きだ!『つばめがえし』!」
必中の飛行技が、痺れて動けないルカリオの側面にクリーンヒットする。
ドォン! という鈍い音と共に、ルカリオが激しく吹き飛ばされた。
「ルカリオ……!」
ミソラの青い瞳が激しく揺れる。こちらの地面技という作戦をあらかじめ想定し、そこを完全にスカして封殺する空中の防壁。
「君の知略は、教科書通りの電気タイプにしか通用しない。ミアレの電気は、そんな生優しいものじゃないよ」
エリートトレーナーの嘲笑。だが、ミソラとルカリオの目はまだ死んでいなかった。
ルカリオの内に秘められた特性――『ふくつのこころ』。どれだけ理不尽な相性に阻まれ、身体を痺れに蝕まれようとも、その闘志が折れることは決してない。
(ここで引けば、後衛がさらに麻痺のノイズに巻き込まれる。ルカリオのあの不屈の目が、まだ行けるって言っているわ。なら、この圧倒的な素早さを、上から無理やり叩き潰す……!)
「ルカリオ、私たちの絆で盤面を塗り替えるわ。――メガシンカ!」
ミソラのメガリングと、ルカリオの胸のメガストーンが共鳴し、眩い光の奔流が立ち昇る。
光を突き破って現れたのは、全身の波導を高め、より強靭な体躯へと変貌を遂げたメガルカリオだった。不屈の心で耐え抜いた精神がメガシンカの光と混ざり合い、その戦闘センスを爆発的に跳ね上げる。
「メガシンカか! だが麻痺していることに変わりはない! エモンガ、もう一撃『つばめがえし』!」
上空から再び超高速で肉薄するエモンガ。
しかし、五感を極限まで研ぎ澄ましたルカリオは、痺れる身体を不屈の気合でねじ伏せ、その波導の目でエモンガの飛行軌道を完全に捉えていた。
ミソラはノートを閉じ、鋭い声で命じる。
「ボーンラッシュが効かないなら、対空迎撃よ! ルカリオ――『がんせきふうじ』!」
「ルカァッ!!」
ルカリオが吼え、強烈な波導の力で床の基板を破砕。巨大な岩石の群れを上空へと隆起させた。
空中を縦横無尽に飛び回っていたエモンガの退路が、次々と生み出される岩の壁によって完全に塞がれていく。
「なっ……地面技だけではないのか!?」
「捕まえた。叩き落としなさい!」
逃げ場を失ったエモンガの細い身体に、ルカリオが放った巨大な岩石がクリーンヒットする。
「エモッ……!?」
岩の重圧を受け、エモンガの素早さが劇的に低下。そのままホバリングを維持できず、悲鳴を上げながら地面へと叩き落とされる。
「今よ、動きの止まった相手を仕留める!『グロウパンチ』!」
「ルカァァァーーーッ!!」
麻痺の痺れを完全に凌駕する、メガルカリオの渾身の拳技。不屈の闘志が乗った一撃が、地面に組み伏せられたエモンガへと正確に叩き込まれた。
「エモンガ、戦闘不能!」
レフェリーの声が響き渡る。
エモンガが目を回して倒れると同時に、ルカリオのメガシンカが解け、激しい疲労と麻痺の残滓でその場にガクリと膝をついた。
「ハァ……ハァ……。やった、ね……。ありがとう、ルカリオ」
ミソラは額の汗を拭い、ルカリオの元へ駆け寄ってその肩をそっと抱いた。
完璧にメタられた初手を、ルカリオの『ふくつのこころ』、そしてメガシンカの圧倒的な力と、飛行タイプへの的確な有効打(がんせきふうじ)というミソラの臨機応変な機転で見事に覆してみせたのだ。
「……見事だ。まさか初手の天敵を、力技と戦術の融合で突破してくるとはね」
エリートトレーナーは驚きに目を見開きながらも、次なるボールへと手を伸ばす。
冷や汗をかきながらも、なんとか前座の初手をブチ抜いたミソラ。しかし、ミアレジムの回路は、ここからさらに激しさを増して挑戦者を迎え撃つ。