ハクダンの森を抜けたミソラたちは、最初のジムがある「ハクダンシティ」へと到着していた。噴水から澄んだ水が湧き出る美しい町並み。だが、ミソラはすぐにジムの門を叩くことはしなかった。
「ぶっつけ本番で戦わせるなんて、私にはできないわ。みんなが怪我をしたら大変だもの。まずはしっかり、お互いの呼吸を合わせましょう」
ジム戦への不安を解消し、何より可愛い我が子たちの安全を守るため、ミソラは町の東へと続く「22番道路」へ寄り道をすることに決めた。ここはなだらかな坂道と草むらが広がり、バトルの練習をするにはうってつけの場所だった。
「さあ、みんな。おいで!」
ミソラが声をかけると、フォッコ、ヤヤコマ、ピカチュウ、そして新入りのルリリが勢揃いした。
「最初のジムは虫タイプを使うって聞いたわ。私たちの強みを活かして、怪我をしないように立ち回りましょう。まずはヤヤコマ、貴方のスピードを見せて」
肩から飛び立ったヤヤコマが、青空を鋭く切り裂くように滑空する。
「いいわ、素晴らしいキレよ! ジムの虫ポケモンたちにも、その速さなら負けないわ」
続いて、ミソラは足元のフォッコとピカチュウに向き合う。
「フォッコ、貴方の『火の粉』で相手を牽制して、ピカチュウがそこへ『電気ショック』を合わせるの。一対一が基本だけど、もしもの時はお互いの得意なことでカバーし合えるようにね」
フォッコが小さな口からパチパチと火花を散らすと、ピカチュウも負けじとハートの尻尾を揺らしながら、赤いほっぺから青白い電気を放つ。二匹の息はぴったりだった。
そんなお姉さんたちの頼もしい姿を、丸い大きな耳を震わせながら見つめている影があった。
新入りの女の子、ルリリだ。自分もみんなの役に立ちたいと言わんばかりに、大きな黒い尻尾をポンポンと地面に叩きつけて、ミソラを見上げている。
「ふふ、ルリリもやる気満々なのね。ありがとう。でも、貴方はまだ小さなベビィポケモン。無理をして前に出ることはないのよ」
ミソラはルリリの前にしゃがみ込み、その青くて丸い体を優しく撫でた。
「貴方がそこにいて、みんなを応援してくれるだけで、私たちは何倍も強くなれるんだから。バトルの勝敗よりも、貴方が笑顔でいてくれることの方が、私にとっては大切な『筋』なの」
「きゅうう……!」
ルリリは嬉しそうに目を細め、ミソラの手のひらに小さな頭をすり寄せた。
その様子を見ていたフォッコたちが、優しく、そしてどこか誇らしげに鳴き声を上げる。効率や勝利だけを求めるトレーナーなら、「足手まといを連れて歩くな」と言うかもしれない。けれど、ミソラのパーティーには、ルリリの存在そのものが温かいエネルギーとなって循環していた。
「よし、みんな素晴らしいわ。これなら安心してジムに挑めるわね」
立ち上がったミソラの胸から、先ほどまでの不安は綺麗に消え去っていた。
タイプの偏りも、手持ちの枠も、この子たちのひたむきな瞳の前には些細な問題だ。お互いを思いやり、信じ合う絆こそが、ミソラたちの最大の武器だった。
夕暮れの光が22番道路をオレンジ色に染めていく。
四つの個性が集まった、まだ小さな、けれど世界で一番愛おしい大家族。ミソラは我が子たちを一人ずつ抱きしめ、ハクダンジムが待つ町へと、確かな足取りで引き返していった。