ミアレシティを後にし、メルヘンな雰囲気が漂う14番道路――通称「クノエの湿地帯」へと足を踏み入れたミソラ。怪しげな霧が立ち込める道中、大家族の頼もしいエースであるマフォクシーが、長い毛並みを揺らしながらミソラの隣を歩んでいた。
「ここを抜ければクノエシティね。さあ、みんなでサクッとバッジを貰いに行こう……」
ミソラがこれからの道程を思案していた、その時だった。
「――随分と大人びた顔をするようになったな、ミソラ」
霧の奥から、聞き馴染んだ、しかし以前よりも遥かに低く、芯の通った声が響く。
ハッと顔を上げると、そこには青いジャケットの襟を立て、鋭い眼光をこちらに向ける少年の姿があった。
「カルム……!」
カロス地方を旅立つあの日、共に最初の三匹を選んだ幼馴染。しばらく見ない間に、彼の背中からは圧倒的な強者の覇気が漂っていた。多くの修羅場をくぐり抜けてきた男の顔だ。
カルムはミソラの腰に輝く5つのジムバッジを一瞥し、不敵に口元を釣り上げた。
「発電所の一件は聞いたよ。大家族の頭領(ボス)として、見事な采配だったらしいじゃないか。だけど、お前がどれだけ強くなったか、俺の身体が直接確かめたがってる」
カルムがポケットからモンスターボールを抜き取る。その動きには一切の無駄がない。
ミソラはふっと微笑み、髪をかき上げた。
「望むところよ、カルム。あの日、旅に出た時の私とは覚悟が違うわ。私たちの絆、全身で受け止めなさい!」
「なら、来い! 行け、ゲッコウガ!」
光の中から現れたのは、首に長い舌のマフラーを巻き付けた、カロスの忍――ゲッコウガだった。マフォクシーにとってはタイプ相性において不利な天敵だが、ミソラとマフォクシーの絆に揺らぎはない。
「初手から容赦ないわね。だけど、相性だけで私たちのバトルは決まらないわ!」
ミソラの青い瞳に、指揮官としての熱い闘志が灯る。
「ゲッコウガ、『みずしゅりけん』!」
カルムの鋭い命令。ゲッコウガが超高速で水の手裏剣を連続で投げ放つ。
「マフォクシー、避けないで!『サイコキネシス』で空間を捉えて!」
マフォクシーが木の枝を掲げ、瞳を青く輝かせる。迫り来る水の手裏剣が、マフォクシーの手前で見えない力に捕らえられ、空中でピタリと静止した。
「そのままゲッコウガへ撃ち返して!」
マフォクシーが枝を振り下ろすと、静止していた水の手裏剣が、逆にゲッコウガへと猛スピードで突き刺さった。自分の技を喰らい、ゲッコウガがわずかに体勢を崩す。
「面白い。だが、俺たちの速度はそんなものじゃない! ゲッコウガ、影に潜り込め!『つじぎり』!」
ゲッコウガの姿が霧の中に掻き消える。次の瞬間、マフォクシーの背後の影から、漆黒の刃を構えたゲッコウガが飛び出してきた。
「後ろよ!『マジカルフレイム』!」
マフォクシーが振り返りざまに、魔術的な劫火を至近距離から放射する。ゲッコウガの『つじぎり』の刃がマフォクシーの身を浅く切り裂くと同時に、ゲッコウガの身体もまた、強烈な炎に包まれた。
「グッ……!」
「コウガァッ!」
互いに一歩も引かない激しい火花。ゲッコウガはマジカルフレイムの追加効果によって特殊攻撃力を削がれたが、物理技である『つじぎり』の威力は健在だ。カルムとゲッコウガの実戦値の高さが、確実にマフォクシーを追い詰めていく。
カルムの目がギラリと光る。
「さすがだな、ミソラ。一瞬の隙に的確な有効打を挟んでくる。……だが、これで終わりだ。ゲッコウガ、最大出力の『ハイドロポンプ』!!」
「マフォクシー、サイコキネシスの障壁を……くっ、間に合わない!?」
ゲッコウガの口から放たれた圧倒的な激流が、霧を吹き飛ばしながらマフォクシーへと直撃した。
ドガァァァン!! という凄まじい衝撃音と共に、マフォクシーの身体が湿地帯の地面へと吹き飛ばされる。
「マフォクシー!」
ミソラが叫ぶ。煙の向こうで、マフォクシーは木の枝を杖代わりにし、ボロボロになりながらもなんとか立ち上がろうとしていた。だが、そのダメージは深く、これ以上の無理はさせられない。
「そこまでよ、戻ってマフォクシー!」
ミソラは即座にボールへとマフォクシーを回収した。最初の相棒を傷つけられた悔しさと、カルムの圧倒的な強さに、ミソラはゴクリと息をのむ。
「どうしたミソラ、まだまだこれからだろ?」
カルムはゲッコウガの肩を叩きながら、挑戦的に微笑む。
ミソラは深く息を吐き、次なるボールへと手を伸ばした。
(カルムの強さは、本当にポケモンと積み上げてきた純粋な戦闘経験の塊……。なら、ここからはこちらも、大家族の意地を見せる番よ)
残る手持ちは5体。天敵であるゲッコウガを前に、ミソラが次に選択する一手とは。
クノエへの湿地帯を舞台に、幼馴染二人のプライドを懸けた激闘は、ここからさらに加速していく。