仲間たちと別れ、クノエシティの美しい街並みへと続く木組みのゲートがすぐ目の前に見えてきた、その時だった。
「……ぬお?」
湿地帯の出口、ちょうど道幅が狭くなっている水溜まりの真ん中に、それはどっしりと座り込んでいた。
ぬめり気のある薄い水色の身体、小さな点のような目、そして何を考えているのか全く分からない、のほほんとした締まりのない口元。
野生のヌオーだった。
ゲートを完全に塞ぐ形で、ぽへーっと空を見上げている。
「あの……ちょっと通っていいかしら?」
ミソラが声をかけてみるが、ヌオーは耳があるのかないのか、「ぬぱぁ」とあくびを噛み殺すような顔をするだけで、一歩も動く気配がない。
どうしたものかとミソラが首を傾げていると、腰のボールが自らポーンと開き、大家族の仲間が飛び出した。
「マリルリ〜♪」
丸い身体を弾ませて現れたのは、マリルリだった。水玉模様の尾っぽをフリフリと揺らし、いつものんびりとした笑顔を浮かべている。
マリルリはヌオーの姿を見つけると、嬉しそうにトコトコと水溜まりへ歩み寄っていった。どかすどころか、完全に遊んでもらえる相手を見つけた子供のような無邪気さだ。
「ぬお?」
ヌオーがゆっくりと視線を下ろすと、マリルリは「り、るりっ♪」と嬉しそうに声をあげ、ヌオーのお腹の柔らかいところに、ぽむっと自分の丸い身体を預けてしまった。
「ぬお〜」
ヌオーも嫌がる風でもなく、おもむろに短い手を伸ばすと、マリルリの丸い頭を「ぺちっ……ぺちっ……」と、気の抜けたリズムで優しく叩き始める。
マリルリはそのリズムが心地よいのか、目を細めて「るりぃ〜……」と完全にリラックスモードに入ってしまった。
水溜まりの真ん中で、ぽへーっと佇むヌオーと、そのお腹に寄り添ってぽわぽわと揺れるマリルリ。そこだけ時間の流れが完全に止まったかのような、圧倒的な脱力空間がそこに出来上がっていた。
「ふふ、あははは! なんだか、すっかり意気投合しちゃってるじゃない」
その様子を見ていたミソラは、思わずお腹を抱えて笑ってしまった。
張り詰めていたカルム戦の緊張も、怖い家での不気味な寒気も、この二匹が作り出す「のんびり空間」の前に、すべてがフニャフニャと溶けて消えていく。
ミソラは歩み寄り、二匹の前にしゃがみ込んだ。
「ねえ、ヌオー。もし行き先が決まっていないなら、私たちの『大家族』に来ない? マリルリとも気が合うみたいだし、毎日楽しくのんびり過ごせるわよ」
ミソラが優しく微笑みながらモンスターボールを差し出す。
ヌオーはしばらくボールとミソラの顔を交互に見つめていたが、やがて満足したように「ぬおー」と短く鳴くと、自ら手で差し出されたボールのスイッチを押した。
カチリ、と小さく電子音が響き、ボールが静かに収まる。
「……ふふ、ようこそ、私たちの大家族へ」
ミソラがボールを拾い上げると、マリルリは自分の遊び相手が消えちゃった、と言わんばかりに「るり?」と不思議そうに首を傾げた。
「大丈夫よ、マリルリ。これからはずーっと一緒よ」
ミソラがマリルリの丸い身体を抱き上げると、マリルリは嬉しそうに「りるりっ♪」とミソラの頬にすり寄った。
これで大家族のメンバーは22匹目。水・地面という優秀なタイプ特性もさることながら、この底知れないマイペースさは、これからの激戦が予想される旅路において、きっと大家族の最高の「心のオアシス」になってくれるはずだ。
「さあ、みんなで一緒に行きましょう。クノエシティへ!」
新入りを迎え、さらにぽわぽわとした温かさを増した大家族を背負い、ミソラは優しく微笑みながら、色鮮やかな歴史の街へと一歩を踏み出した。