ポケットモンスター カロス大家族記   作:空念

74 / 80
第74話: のんびり通せんぼ? 湿地帯のヌオーと大家族の新しい風

 

仲間たちと別れ、クノエシティの美しい街並みへと続く木組みのゲートがすぐ目の前に見えてきた、その時だった。

「……ぬお?」

湿地帯の出口、ちょうど道幅が狭くなっている水溜まりの真ん中に、それはどっしりと座り込んでいた。

ぬめり気のある薄い水色の身体、小さな点のような目、そして何を考えているのか全く分からない、のほほんとした締まりのない口元。

野生のヌオーだった。

ゲートを完全に塞ぐ形で、ぽへーっと空を見上げている。

「あの……ちょっと通っていいかしら?」

ミソラが声をかけてみるが、ヌオーは耳があるのかないのか、「ぬぱぁ」とあくびを噛み殺すような顔をするだけで、一歩も動く気配がない。

どうしたものかとミソラが首を傾げていると、腰のボールが自らポーンと開き、大家族の仲間が飛び出した。

「マリルリ〜♪」

丸い身体を弾ませて現れたのは、マリルリだった。水玉模様の尾っぽをフリフリと揺らし、いつものんびりとした笑顔を浮かべている。

マリルリはヌオーの姿を見つけると、嬉しそうにトコトコと水溜まりへ歩み寄っていった。どかすどころか、完全に遊んでもらえる相手を見つけた子供のような無邪気さだ。

「ぬお?」

ヌオーがゆっくりと視線を下ろすと、マリルリは「り、るりっ♪」と嬉しそうに声をあげ、ヌオーのお腹の柔らかいところに、ぽむっと自分の丸い身体を預けてしまった。

「ぬお〜」

ヌオーも嫌がる風でもなく、おもむろに短い手を伸ばすと、マリルリの丸い頭を「ぺちっ……ぺちっ……」と、気の抜けたリズムで優しく叩き始める。

マリルリはそのリズムが心地よいのか、目を細めて「るりぃ〜……」と完全にリラックスモードに入ってしまった。

水溜まりの真ん中で、ぽへーっと佇むヌオーと、そのお腹に寄り添ってぽわぽわと揺れるマリルリ。そこだけ時間の流れが完全に止まったかのような、圧倒的な脱力空間がそこに出来上がっていた。

 

「ふふ、あははは! なんだか、すっかり意気投合しちゃってるじゃない」

その様子を見ていたミソラは、思わずお腹を抱えて笑ってしまった。

張り詰めていたカルム戦の緊張も、怖い家での不気味な寒気も、この二匹が作り出す「のんびり空間」の前に、すべてがフニャフニャと溶けて消えていく。

ミソラは歩み寄り、二匹の前にしゃがみ込んだ。

「ねえ、ヌオー。もし行き先が決まっていないなら、私たちの『大家族』に来ない? マリルリとも気が合うみたいだし、毎日楽しくのんびり過ごせるわよ」

ミソラが優しく微笑みながらモンスターボールを差し出す。

ヌオーはしばらくボールとミソラの顔を交互に見つめていたが、やがて満足したように「ぬおー」と短く鳴くと、自ら手で差し出されたボールのスイッチを押した。

カチリ、と小さく電子音が響き、ボールが静かに収まる。

「……ふふ、ようこそ、私たちの大家族へ」

ミソラがボールを拾い上げると、マリルリは自分の遊び相手が消えちゃった、と言わんばかりに「るり?」と不思議そうに首を傾げた。

「大丈夫よ、マリルリ。これからはずーっと一緒よ」

ミソラがマリルリの丸い身体を抱き上げると、マリルリは嬉しそうに「りるりっ♪」とミソラの頬にすり寄った。

 

これで大家族のメンバーは22匹目。水・地面という優秀なタイプ特性もさることながら、この底知れないマイペースさは、これからの激戦が予想される旅路において、きっと大家族の最高の「心のオアシス」になってくれるはずだ。

「さあ、みんなで一緒に行きましょう。クノエシティへ!」

新入りを迎え、さらにぽわぽわとした温かさを増した大家族を背負い、ミソラは優しく微笑みながら、色鮮やかな歴史の街へと一歩を踏み出した。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。