ハクダンジムの重厚な扉を開けると、そこは巨大なクモの巣のような白いネットが張り巡らされた、幻想的で奇妙な空間だった。カメラのフラッシュが静かに焚かれ、奥のバトルフィールドで一人の女性がカメラを構えて待っている。
「ようこそ、ハクダンジムへ。私はジムリーダーのビオラ。君とポケモンのファインダー越しに見せる輝き、切り取らせてもらうわよ!」
「よろしくお願いいたします。私はミソラ。この子たち全員で、勝たせていただきます」
ミソラはスカートの裾を軽く引き、凛とした佇まいで一礼した。後ろではヤヤコマとルリリが、ミソラの足元で緊迫した戦場をじっと見守っている。
「私の最初の相棒は、この子よ! いけっ、アメタマ!」
ビオラが放ったのは、水面を滑るように動く虫・水タイプのポケモン、アメタマだった。
「最初のリードは貴方に任せたわ。お願い、ピカチュウ!」
ミソラの声に応じ、ハートの尻尾を揺らすピカチュウがフロントラインへ躍り出る。22番道路での特訓で、呼吸は完全に仕上がっていた。
「アメタマ、『あわ』で足止めよ!」
アメタマが口から無数の泡を放ち、ピカチュウの視界と足場を奪おうとする。
「避けて、ピカチュウ! そのまま回り込んで『電気ショック』!」
ピカチュウは鋭いステップで泡の隙間をすり抜けると、アメタマの死角へと回り込んだ。赤いほっぺから解き放たれた鮮烈な稲妻が、水気を帯びたアメタマを直撃する。効果は抜群だ。
「アメタマ、戦闘不能! ピカチュウの勝ち!」
審判の声が響く。完璧な先制勝利に、後方のルリリが嬉しそうに尻尾をポンポンと跳ねさせた。
「やるわね。でも、ここからが本番よ。私のベストショットを見せてあげる! 羽ばたけ、ビビヨン!」
ビオラが満を持して繰り出したのは、美しい翅を持つビビヨンだった。フィールドに現れた瞬間、ビビヨンは激しく翅を羽ばたかせ、鋭い突風――『かぜおこし』を巻き起こした。
凄まじい風圧に、ピカチュウが顔をしかめて押し戻されそうになる。
「ピカチュウ、よく頑張ってくれたわ。一歩引いて、体力を休めてね」
ミソラは無理をさせず、ピカチュウを優しく手元へと呼び戻した。そして、この瞬間のために寄り道を重ね、共に牙を研いできた最初の家族のボールを握りしめる。
「貴方の出番よ、フォッコ。私たちの絆を、ここで見せましょう!」
炎の温もりを纏い、フォッコが毅然とした姿でフィールドへ降り立つ。
「ビビヨン、『まとわりつく』! 逃げ道を塞ぎなさい!」
ビビヨンが粘り気のある光の糸を放ち、フォッコの周囲を取り囲むように動きを制限してきた。じわじわと体力を削られる、ビオラの得意なハメ技だ。
しかし、ミソラの瞳に焦りはなかった。
「そんな糸、私たちの情熱で焼き払えるわ。フォッコ、怯まずに『火の粉』!」
フォッコが小さな口を大きく開け、特訓で磨き上げた真っ赤な炎の粒を勢いよく吹き付けた。放たれた『火の粉』は、迫り来る虫の糸を瞬時に燃やし尽くし、そのままビビヨンの美しい翅へと燃え移る。
「なっ……!? 技の威力が上がっている……!?」
ビオラが目を見張る。
それは、ただのタイプ相性だけではない。後ろで控えるヤヤコマ、ピカチュウ、ルリリ――家族全員からの、無言の信頼と声援がフォッコの背中を押し、その炎を何倍も熱く激しく燃え上がらせていたのだ。
「これで決めるわよ。フォッコ、最大火力の『火の粉』!」
「フォッコォオオ!」
フォッコの紅蓮の瞳が激しく輝き、フィールド全体を包み込むほどの熱風がビビヨンを襲った。効果は抜群。炎の渦に呑み込まれたビビヨンは、たまらずその場に崩れ落ち、戦闘不能となった。
「ビビヨン戦闘不能! よって、勝者、挑戦者のミソラ!」
審判の宣言が響き渡った瞬間、ミソラはホッと胸をなでおろし、すぐに駆け出してフォッコを強く抱きしめた。
「ありがとう、フォッコ……! 貴方は最高の家族よ!」
ピカチュウも、ヤヤコマも、ルリリも、みんながフォッコの周りに集まり、その栄誉を称え合うように鳴き声を重ねる。
ビオラは苦笑しながらビビヨンをボールへ戻し、ミソラのもとへと歩み寄ってきた。その手には、勝利の証である『バグバッジ』が握られている。
「完敗よ、ミソラ。君たちのバトルは、効率や計算を超えた、温かい『愛』に満ちあふれていたわ。最高の写真を撮らせてもらったお礼に、このバッジを受け取って」
「ありがとうございます」
手渡された銀色のバッジを胸に掲げ、ミソラは我が子たちを見渡した。
誰が欠けても、この勝利はなかった。大家族全員で掴み取った最初のバッジ。その輝きは、ミソラたちが選んだ「愛と筋を通す旅」が間違っていなかったことを、何よりも雄弁に物語っていた。