重厚な社長室の扉が開き、ミソラとカルムが部屋へと踏み込んだ。
そこで二人が目にしたのは、デスクの奥で怯えきった様子で頭を抱えるボール工場の社長と、それを冷酷な目で見下ろす二人の女だった。
彼女たちは、これまでのしたっぱ団員とは明らかに雰囲気が違っていた。一人は紫、もう一人は緑の奇抜な髪型に、計算高く冷徹な知性を感じさせるバイザーを着用している。フレア団の幹部たる科学者、コレアとバラだった。
「これ以上、我々の要求を拒むというなら、この工場のラインをすべて破壊してもいいのよ?」
「製造データをすべて引き渡せば、命だけは助けてあげるわ」
「そこまでよ、フレア団!」
ミソラが凛とした声で部屋に割って入ると、科学者の二人は一斉に不快そうに振り返った。
「チッ、またあの子供たちね……。しっぶとい連中だわ」
「ここでまとめて排除しておきましょう。バラ、いくわよ」
二人の科学者が同時にボールを掲げる。現れたのは、鋭い牙を剥くグラエナと、しなやかな体躯から不穏なオーラを放つレパルダスだった。
「カルム、ダブルバトルね。息を合わせるわよ!」
「ああ、遅れをとるなよ。――いけ、ニャオニクス!」
ミソラの傍らには、先ほどから闘志を漲らせているルカリオ。そしてカルムはニャオニクスを繰り出し、2対2の緊迫した戦いが幕を開けた。
「グラエナ、噛み砕きなさい!」
「レパルダス、不意打ちよ!」
「ルカリオ、今こそあんたの本気を見せてあげて……! 私たちの絆に応えて! メガシンカ!!」
ミソラが胸元のメガリングに触れた瞬間、まばゆい進化の光がルカリオを包み込んだ。波導の力が極限まで跳ね上がり、ルカリオの体躯がよりシャープに、より強靭へと変貌を遂げる。光の繭を破って現れたメガルカリオの圧倒的なプレッシャーに、部屋の空気がピリリと震えた。
「はどうだん!!」
「ルカァッ!!」
メガルカリオの両手から放たれた特大の波導弾が、迫り来るグラエナを正面から迎撃した。メガシンカによって爆発的に高まった威力は凄まじく、グラエナを盛大に吹き飛ばし、一撃で戦闘不能へと追い込む。
しかし、もう一角の戦況は一筋縄ではいかなかった。
カルムのニャオニクスがレパルダスに向かって仕掛けようとしたその瞬間、レパルダスの狡猾で俊敏な動きが勝った。
「レパルダス、『つじぎり』!」
「ニャオ!?」
同じ猫型ポケモン同士の意地がぶつかり合うような「猫対決」だったが、悪タイプのレパルダスによる容赦のない一閃が、エスパータイプのニャオニクスの弱点を完璧に撃ち抜いたのだ。ニャオニクスは健闘虚しく、その場に倒れ伏してしまう。
「チッ……! 戻れ、ニャオニクス」
カルムは悔しげに歯噛みしながらも、即座に次のボールを掴んで投げ放った。
「頼むぞ、ゲッコウガ! リベンジだ!」
光の中から現れたのは、忍びの如き佇まいのゲッコウガ。相棒の仇を討つべく、その鋭い眼光がレパルダスを捉える。
「レパルダス、もう一度――」
「させない! ゲッコウガ、『みずしゅりけん』!!」
バラの指示よりも早く、ゲッコウガの電光石火の動きが勝った。素早く練り上げられた水の刃が目にも留まらぬ速さで連射され、レパルダスを正確に蜂の巣にする。ニャオニクスの仇を見事に討ち果たす鮮やかなリベンジに、レパルダスはその場に崩れ落ちた。
「な、何て強さなの……!」
「今回はここまでよ。データを持ち出せなかったのは痛いけれど、ボールは全て回収したし、引き揚げるわよ!」
二人の科学者は形勢不利と見るや、悔しげに吐き捨てて煙幕を焚き、残ったしたっぱたちと共に窓から鮮やかに逃亡していった。
静寂が戻った社長室で、メガルカリオが静かに元の姿へと戻る。やり遂げたルカリオは、ミソラに向かって誇らしげに小さく拳を突き出した。ミソラも「最高の戦いだったわ、ありがとう」と優しく微笑み、その拳に自分の拳を合わせた。
「あ、ああ……助かった! 本当にありがとう、若いトレーナー諸君!」
デスクの陰から恐る恐る姿を現した工場の社長は、ミソラとカルムの手を握り締め、何度も涙ながらに感謝の言葉を述べた。
「フレア団にデータを奪われたら、このカロス全体の物流が崩壊するところだった。これは私からの、せめてものお礼だ。受け取ってくれ!」
そう言って社長が二人に手渡したのは、密かに隠し持っていた、どんなポケモンでも確実に捕まえることができるという、最高峰の技術の結晶――『マスターボール』。
そして、ずっしりと重い、見たこともないほど巨大な『でかいきんのたま』だった。
「えっ、こんな貴重なものを……?」
ミソラが驚いて目を見開くと、社長は「命の恩人なんだ、遠慮しないでくれ!」と笑顔で胸を張った。
マスターボールの重みを感じながら、ミソラはこれをいつか、22匹の大家族に新しく迎える大切な誰かのために使おうと心に決めるのだった。