工場の重い扉を開けてミソラとカルムが外へ出ると、そこにはちょうどクノエシティ側から走ってくるサナ、トロバ、ティエルノの姿があった。
「ミソラちゃん! カルム! 無事だった!?」
サナが息を切らせながら駆け寄り、二人の姿を見てホッと胸をなでおろす。ティエルノが機転を利かせてサナたちを安全な場所まで誘導し、したっぱたちの追跡を完全に巻いてくれたようだった。
「ええ、私たちは平気よ。工場の社長さんも従業員の人たちも、みんな無事だから安心して」
ミソラが穏やかに微笑むと、トロバは驚愕したように目を見開いた。
「あのたくさんのフレア団を、たった二人で追い払ってしまったんですか……!? さすがです、ミソラさん。やっぱり、トレーナーとしての実力は本物ですね」
「本当に凄いよぅ! まるで映画のヒーローみたい!」
サナとトロバからの純粋な称賛の眼差しが二人に注がれる。ミソラは少し照れくさそうに「ルカリオとゲッコウガが頑張ってくれたからよ」と足元のルカリオの頭を優しく撫でた。先ほどのバトルで素晴らしい活躍を見せたルカリオは、どこか誇らしげに目を細めている。
しかし、その隣に立つカルムの表情は、どこまでも険しかった。
彼はサナたちの称賛の言葉にも生返事を返すだけで、じっと自分の手のひらに握られたニャオニクスのモンスターボールを見つめていた。
「……カルム?」
ミソラが静かに声をかけると、カルムはハッとしたように顔を上げ、少しだけ自嘲気味に口元を歪めた。
「……情けないな。ミソラのルカリオが完璧にグラエナを仕留めてくれたっていうのに、俺はニャオニクスを、相手のレパルダスに一撃で抜かれた。ゲッコウガがリベンジしてくれたから良かったものの……自分の甘さを思い知らされたよ」
「カルム、あれは相手の戦術が一歩早かっただけで――」
「慰めはいらないさ」
カルムは首を振ってミソラの言葉を遮ると、いつもの冷静な、けれど今まで以上に熱い闘志を宿した瞳でミソラを真っ直ぐに見つめた。
「お前はいつだって、大家族全員を守るために、一戦一戦を必死に、そして完璧に戦い抜いている。隣で戦って、俺とお前の差がよく分かったよ。……俺は、もっと強くならなきゃいけない。自分の修行を一から見直してくる」
「カルム……」
「じゃあな。次はもっと強くなった俺とお前のポケモンで、最高のバトルをしよう」
それだけを言い残すと、カルムは振り返ることもなく、一人で力強い足取りで歩き去っていった。その背中には、敗北を糧にしてさらに高みを目指そうとする、一人の気高きトレーナーの誇りが満ち満ちていた。
「カルム……行っちゃったね。でも、なんだかすごく格好良かったかも!」
サナがその背中を見送りながらぽつりと言い、ティエルノとトロバも深く頷いている。
ミソラもまた、ライバルの去りゆく背中をじっと見つめていた。
(カルム……。私も、あんたの後ろ姿に恥じない頭領(ボス)でいなきゃね)
懐のバッグには、先ほど社長から受け取ったマスターボールと、ずっしりと重い大きな金の玉。そして何より、命がけで工場を、そして仲間を守り抜いたという確かな経験。相性の不利を覆したクノエジム、そしてこのボール工場での激戦を経て、ミソラの胸にある「みんなを守りたい」という願いは、より強固な『誓い』へと変わっていた。
「サナ、トロバ、ティエルノ。私はそろそろ次の街へ向かうわね」
「うん! 私たちもゆっくり追いつくからね。ミソラちゃん、気をつけて!」
旅の仲間たちと手を振り合い、別れを告げたミソラは、再びブラッキーとルカリオを隣に伴って歩き出す。
クノエシティの北東に広がる並木道。木々の間から差し込む木漏れ日は優しく、大家族を優しく包み込んでいるようだった。
目指すは、風車が回る静かな歴史の街――『フウジョタウン』。
大切な22匹の家族と共に、一歩一歩、確かな絆を刻みながら、ミソラは新たなる旅路へと真っ直ぐに足を重ねていくのだった。