「そこを動くな! 大自然のルールを乱す不届き者め、勝負だ!」
クノエシティを離れ、フウジョタウンへと続く山道に入った途端、ミソラの前に立ちはだかったのは、制服に身を包んだ一人のポケモンレンジャーだった。
「え……? 私、ただ道を歩いているだけなんだけど……」
ミソラが困惑して言葉を返す間もなく、レンジャーは問答無用でモンスターボールを投げつけてくる。彼らはカロスの大自然を守るという強い使命感を持つあまり、通りかかるトレーナーを「環境を荒らす侵入者」と過剰に警戒し、次々とバトルを仕掛けてくるのだった。
「全く、話を聞いてくれないのね……。マリルリ、お願い!」
「マリルッ!」
大家族の頼れるお姉さんであるマリルリが前に出ると、圧倒的なパワーでレンジャーのポケモンをあっさりと退けた。
しかし、災難はこれで終わりではなかった。
山道を一歩進むごとに、茂みや岩陰から「自然の厳しさを教えてやる!」「森の生態系を守るためだ!」と、別のポケモンレンジャーたちが次から次へと飛び出してくるのだ。
バトル自体は、ミソラの的確な指示とみんなの確かな実力のおかげで、すべて危なげなく勝利を収めていく。
だが、どれだけ一戦一戦を難なくこなそうとも、終わりの見えない執拗な連戦は、確実にミソラの手持ちたちの体力をじわじわと削っていった。
「マリルリ、よく頑張ってくれたわ。一回戻って休んでね」
気がつけば、マリルリだけでなく、一緒に出撃したマフォクシーやヒノヤコマたちも、度重なるバトルの連続で息を荒くしている。連戦による疲労の色は隠せず、このままフウジョタウンまで強行軍を続けるのは、大家族を預かる頭領(ボス)として絶対に避けるべき事態だった。
「みんな、ごめんね……。どこかで一度、しっかり休ませてあげないと……」
ミソラが周囲を見渡すと、いつの間にか山道にはどんよりとした霧が立ち込め、周囲の気温がひんやりと下がっていることに気がついた。悪天候まで重なり、これ以上の進軍は危険だと直感が告げている。
その時、霧の向こうに、大きな影がぼんやりと浮かび上がった。
「……建物? 民家かしら」
ブラッキーとルカリオを左右に従え、警戒しながら近づいていくと、それは民家などではなく、かつては豪華だったであろう巨大な近代建築の変わり果てた姿だった。
壁は崩れかけ、窓ガラスの多くは割れ、蔦が複雑に絡みついている。入り口の看板には、辛うじて『〇〇ホテル』という文字が読み取れた。かつてカロス地方のゴールドラッシュに沸いた時代、多くの観光客で賑わったというリゾートホテルの、哀れな廃墟だった。
「ひどい荒れ方ね……。でも、この霧と雨をしのぐには背に腹は代えられないわ」
「ブラッ……」
「ルカ……」
二匹の相棒も、周囲に漂う独特の寂れた気配に耳を澄ませながらも、ミソラの判断を信じて静かに頷いた。
レンジャーたちとの理不尽な連戦を乗り越え、ボロボロになったみんなを癒すため。ミソラは薄暗いホテルのエントランスへと一歩を足を踏み入れる。しかし、ただの廃墟に見えるこの『荒れ果てホテル』の奥には、風変わりな住人たちと、大家族をさらに驚かせる出会いが待ち受けているのだった。