不良たちの温かい敬意に見送られ、心地よい静寂の残る『荒れ果てホテル』を後にしたミソラは、再びフウジョタウンへと続く山道へと足を進めていた。連戦の疲れがすっかり癒えたブラッキーとルカリオも、足取り軽くミソラの左右を歩いている。
「さあ、今度こそフウジョタウンへ真っ直ぐ向かいましょうね」
そう意気込んで本道を進んでいたミソラだったが、ふと街道の脇にそれる細い「脇道」があることに気がついた。しかし、その分岐の先は、ゴツゴツとした巨大な岩によって完全に塞がれている。明らかに人の背丈を超える大岩が、まるで何かを隠すように行く手を阻んでいた。
「あら……脇道があるけれど、行き止まりかしら? でも、この奥に何があるのか、ちょっと確かめてみたいわね」
好奇心と、大家族を率いる頭領(ボス)としての探究心が少しだけ頭をもたげる。ミソラは腰のモンスターボールを一つ手に取り、笑顔で投げ放った。
「マリルリ、お願い! あの大岩、ちょっと動かせるかしら?」
「マリルッ!」
光の中から現れたのは、水色で丸い体が可愛らしいマリルリ。一見すると愛くるしい姿だが、その中身は大家族きっての「怪力」の持ち主だ。マリルリは短い腕を大岩にどっしりと突き立てると、ふんぬっ! と気合の声を上げた。
ズズズ……、ゴゴゴゴゴ……!
マリルリの驚異的なパワーによって、巨大な岩が豪快に横へと押し退けられていく。現れたのは、鬱蒼とした緑に囲まれた、どこか不思議な雰囲気を纏う新たな道だった。
「さすがマリルリ、頼りになるわね。ありがとう!」
ミソラが褒めると、マリルリは嬉そうに自慢の尻尾をパタパタと振った。
よし、と未開の脇道へと足を踏み入れたミソラ。しかし、そこは一癖も二癖もある風変わりなトレーナーたちが待ち受ける迷宮のような場所だった。
「――おい、そこのトレーナー! 崖の上からの風を感じないか? 俺とスカイバトルで勝負だ!」
まず最初に頭上から声をかけてきたのは、崖の上に佇むスカイトレーナーの男だった。
スカイバトル――それは飛行能力を持つポケモンだけで大空を舞台に戦う特殊ルール。ミソラには、かつてアズール湾で苦杯をなめさせられた苦い記憶が、鮮明に焼き付いていた。
「スカイバトルね……。いいわ、あの時の反省は、今日この時のために活かしてきたんだから!」
ミソラは不敵に微笑むと、大空へ向かってボールを高く投げ放った。
「いけ、リザードン! 最初からフルスロットルでいくわよ!」
「グゥゥオオオッ!!」
雄叫びを上げて飛び出したリザードン。ミソラは躊躇なく、胸元のメガリングに指を添えた。アズール湾での失敗は二度と繰り返さない。最初から全力で叩きつぶすつもりだった。
「私たちの絆の力、見せつけなさい! メガシンカ!!」
眩い光が空中で弾け、爆風と共に姿を現したのは、より鋭利に、より強大へと進化したメガリザードンだった。周囲の気温が一瞬で跳ね上がり、空気が陽炎のように揺らめく。
「相手の動きを見極めて……『かえんほうしゃ』!」
「グオォォォッ!!」
メガシンカによって極限まで高まった炎の劫火が、大空を真っ二つに引き裂くように放たれた。スカイトレーナーが繰り出したピジョットは、その圧倒的な熱量と速度に回避する間すら与えられず、一撃で大気圏外へと弾き飛ばされるかのように撃墜されていく。
「な、なんて圧倒的な空中戦闘力だ……!」
驚愕するスカイトレーナーに、ミソラは静かに勝ち名乗りを上げた。かつての敗戦の悔しさを完璧に晴らす、フルスロットルなリベンジ劇だった。リザードンは満足そうに一度大きく羽ばたき、ミソラに信頼の視線を送ってからボールへと戻った。
しかし、脇道での洗礼は始まったばかりだった。
スカイバトルの熱気が冷めやらぬうちに、今度は鬱蒼とした草むらから次々とトレーナーが姿を現す。この道は、なぜかメルヘン少女やオカルト少女といった、独特な世界観を持つ女の子たちの巣窟となっていたのだ。
「ふふふ……迷い込んだ小鳥ちゃん、見ぃつけた。私のかわいい妖精たちのエサにしてあげる!」
フリルいっぱいの服を着たメルヘン少女が、夢見がちな笑顔でフェアリータイプのポケモンを繰り出してくる。ミソラは苦笑しながらも、大家族の連携でこれを難なく撃破。
しかし一難去ってまた一難、次に木陰から音もなく現れたのは、長い黒髪で顔を半分隠したオカルト少女だった。
「ククク……あなた、後ろにたくさんの『気配』を引き連れているわね……。その魂、私のゴーストたちと交わらせて……」
「怪しい気配なら、お腹いっぱいだから遠慮しておくわ」
ゾクリとするような言葉を投げかけてくるオカルト少女に対し、ミソラは冷静にブラッキーに指示を出し、その呪わしい絡め手を一つずつ、確実に撃破していった。
スカイバトルのリベンジ、メルヘン少女の猛攻、そしてオカルト少女の怪しげな戦術。脇道ならではの個性派トレーナーたちとの連戦をようやく潜り抜け、目の前に立派なゲートが見えてきた。
「ふぅ、やっと抜けたわね。この先に何があるのかしら……?」
ミソラがホッと息をつきながらゲートをくぐり、その先の景色を見上げた瞬間――彼女は思わずその場にフリーズしてしまった。
目に飛び込んできたのは、高くそびえ立つ美しいプリズムタワー。そして、行き交うお洒落な人々や近代的な大通りの街並み。
「……え? ここって、ミアレシティじゃないの!?」
「ブラァ……」
「ルカ……」
相棒たちも、見覚えがありすぎる大都会の光景を前に、呆然と耳を垂らしている。
フウジョタウンへ向かっていたはずが、好奇心で入った脇道の16番道路に翻弄され、巡り巡ってカロス地方の中心地であるミアレシティへと逆戻りしてしまったのだ。
「嘘でしょう……あんなに歩いたのに、戻ってきちゃうなんて」
ミソラはガクッと肩を落とし、都会の喧騒の中で遠い目をする。しかし、転んでもただでは起きないのが大家族の頭領(ボス)。
「……まあ、いいわ。せっかくミアレシティに戻ってきたんだもの。みんなで美味しいミアレガレットでも食べて、作戦を練り直してから出直しましょう!」
スカイバトルの雪辱を果たした充実感を胸に、カロス地方の広大さと迷い道の洗礼を身をもって知ったミソラ。大家族との賑やかな旅路は、思わぬ寄り道を挟みながら、再びフウジョタウンへ向けて動き出そうとしていた。