都会の喧騒を離れ、再び緑豊かな16番道路へ。
先ほどメルヘン少女やオカルト少女たちと激戦を繰り広げたエリアを通り過ぎ、フウジョタウンへと続く正しい本道を進んでいくと、どこからか心地よい川のせせらぎが聞こえてきた。
「あら、綺麗な川……。あそこだけ、なんだか雰囲気がのんびりしているわね」
ミソラが声を弾ませて視線を向けると、そこにはゆったりとした川の流れと、木々の隙間から差し込む木漏れ日に照らされた美しい水辺が広がっていた。実はこの16番道路の奥まったエリアは、カロスのトレーナーたちの間でも知る人ぞ知る、隠れた「釣りの名所」だったのだ。
川沿いには、何人かの釣り人が等間隔で並び、のんびりと浮きを見つめている。
ミソラがその側を静かに通り抜けようとした時、年配の釣り人の一人が「おや?」と声をかけてきた。
「旅のトレーナーさん、いいポケモンを連れているねぇ。だが、君のそのバッグ……もしかして、釣り竿は持っていないのかい?」
「ええ、持っていません。普段は歩いてばかりですから」
ミソラが正直に答えると、釣り人は「それはもったいない!」と大げさに肩をすくめて見せた。
「こんなに綺麗な川があるのに、釣りをしないなんてカロスの旅の魅力を半分損しているよ! よし、これも何かの縁だ。若くて優秀なトレーナーに、これを譲ってあげよう」
そう言って釣り人が手渡してくれたのは、手入れの行き届いた頑丈でしなやかな『いいつりざお』だった。
「えっ、頂いちゃっていいんですか……?」
「気にするな、古い道具だが性能は保証するよ。水辺を見つけたら、ぜひ垂らしてみておくれ。新しい仲間との出会いがあるかもしれないからね」
「――新しい仲間」
その言葉に、ミソラは胸を小さくときめかせた。22匹の大家族を抱える身。いつかまた、この釣り竿が新しい家族を呼び寄せてくれるかもしれない。
「ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
ミソラは丁寧に頭を下げ、ずっしりとした釣り竿をバッグにしっかりと収めた。また一つ、旅の思い出の品が増え、足元ではマリルリが「いつか釣りしようね!」と言いたげに尻尾を振っている。
釣り人たちに別れを告げ、フウジョタウンへ向かう道を一歩一歩踏みしめていく。
山道の傾斜を登りきり、霧が晴れた視界の先――ついに、目的地がその姿を現した。
「……着いたわね」
目の前に広がっていたのは、どこか懐かしく、穏やかな空気が流れる美しい街並み。至る所に設置された大きな木製の風車が、高原の心地よい風を受けて、カタカタと優しく音を立てて回っている。
そこは、カロスの歴史と自然がそのまま息づく、風の街――『フウジョタウン』だった。
「みんな、本当にお疲れ様。やっと着いたわよ」
「ブラァッ」
「ルカ!」
長かった山道、ポケモンレンジャーたちとの連戦、荒れ果てホテルでの奇妙な出会い、そして16番道路の迷路……。幾多の寄り道と試練を乗り越えて辿り着いたフウジョタウンの風は、頑張ったミソラと大家族の身体を、優しく癒すように吹き抜けていくのだった。