高原の心地よい風が吹き抜け、大きな木製の風車がカタカタと優しく回るフウジョタウン。長旅と16番道路での大立ち回りを終えたミソラは、街のポケモンセンターに併設された広大な「ふれあいコーナー」へとやってきた。高原の澄んだ空気に満ちたその広場に足を踏み入れた瞬間、ミソラは深く息を吐き出し、柔らかい笑顔を浮かべた。
ボール工場での激戦を制したルカリオや、16番道路のスカイバトルで素晴らしいリベンジを果たしたリザードン、手持ちを支え抜いたブラッキー、マフォクシー、アブソル、マリルリの精鋭たち。さらに、ボックスの中で旅の無事を祈ってくれていた16匹の仲間たち。
「みんな、本当にお待たせ! 今日は高原の風がとっても気持ちいいから、みんなでのんびり過ごしましょうね!」
ミソラがすべてのボールを解き放つと、広場は一瞬にして賑やかな大家族の楽園へと変貌した。22匹の仲間たちが芝生の上に広がり、思い思いに羽を伸ばし始める。
「ルカリオ、本当にかっこよかったわよ! あなたの波導とメガシンカ、とっても心強かったわ」
ミソラが両腕を広げて呼びかけると、これまでの出番を埋めるかのように大活躍したルカリオが、少し照れくさそうに、しかし誇らしげに胸を張って近づいてきた。ミソラはその引き締まった頭を優しく撫で回し、ルカリオも嬉そうに目を細める。
その横では、16番道路でフルスロットルな圧倒劇を見せたリザードンと、見事な怪力で道を切り開いたマリルリがミソラに寄り添う。大きな翼で包み込んでくれるリザードンと、マフォクシーのふさふさした体毛に顔を埋め、肩に乗ったヒノヤコマの頬を指でそっと撫でるミソラの顔は、慈愛に満ちた母親そのものだった。もちろん、いつも変わらぬ安定感で支えてくれるブラッキーの耳の付け根もしっかりと揉みほぐし、相棒を極上の表情にさせていた。
そんな中、アブソルの周囲は今回も最も賑やか、かつ「過酷な(?)」状況になっていた。
久しぶりに手持ちに帰ってきたアブソルお兄ちゃんに甘えたくて仕方がなかったのだろう。プラスルとマイナンの兄妹、メスのピカチュウ、エモンガ、デデンネといった電気袋組が、「アブソル、お疲れ様!」「また一緒にいられて嬉しい!」とばかりに一斉に飛びついた。
「あ、アブ……っ!?」
アブソルが短い悲鳴をあげる暇もなく、小さな妖精たちはアブソルの美しい白い毛並みに容赦なく「ほっぺすりすり」を開始した。
(またか! フウジョタウンに着いてもやっぱりこれなのかよ……っ!!)
アブソルは心の中で絶叫する。可愛い妹弟たちの熱烈な歓迎を断るわけにもいかず、じっと耐えるアブソルだったが、今回は長旅の再会もあってか、みんなのテンションがいつも以上に高かった。
パチパチパチパチッ! と、嬉しさのあまり電気袋から一斉に可愛い火花が炸裂する。
(シビれるる……っ! 高原の風が涼しいのに、身体が熱くて言うことを聞かない……っ!!)
限界突破した愛の電撃に、アブソルは完全に白目を剥きそうになりながら、くすぐったさと微弱な電気ショックでガタガタと小刻みに震え、助けを求めるようにミソラへと視線を向けた。だが、小さな子供たちを振り払うような真似は絶対にしないのが、この普段はクールツンデレながら優しいお兄ちゃんの悲しい性(さが)である。
「あぁ……もう、今回のアブソルも可愛すぎて息が止まりそう……!」
ミソラはその光景を両手で頬を押さえながら悶絶していた。シビれてプルプルしているアブソルを助けるどころか、あまりの尊さに耐えかねて、デデンネを抱き上げ、ピカチュウを頭に乗せ、震えるアブソルの首回りに自分もまとめてぎゅーっと抱きついた。アブソルは心の中で(ミソラまでそっち側かよ……!)と、心地よい諦めの境地に達していた。
そんなアブソル以外は、フウジョタウンに到着した大家族ならではの、新しいリラックス風景に包まれていた。
ミソラがベンチに置き忘れたバッグの隙間から、先ほど貰ったばかりの『いいつりざお』がのぞいている。それに最初に興味を示したのは、好奇心旺盛なニャスパーの兄妹とオタチだった。
「にゃー?」「たちっ?」と、つりざおの先端についたピカピカのリールを小さな前足でツンツンと突いては、クルクル回る仕組みに目を丸くしている。その様子を、ラプラスが水辺から長い首を伸ばし、まるでお母さんのような優しい眼差しで微笑ましそうに見守っていた。
一方、ふれあいコーナーの片隅にある大きな木陰では、ガルーラが自慢のポケットに子供を戻し、高原の涼しい風に吹かれながら贅沢な昼寝を決め込んでいる。そのガルーラのふかふかしたお腹をベッド代わりにするように、エネコロロが丸くなって寄り添い、気持ちよさそうにスースーと寝息を立てていた。クチートも、いつもならミソラにツンツンと甘えにいくところだが、今日はガルーラの圧倒的な安心感に包まれて、少し照れくさそうにしながらも一緒に目を閉じている。
高原の冷たい水が流れ込むプールエリアでは、ヌオーが文字通り「水を得た魚」のようにぷかぷかと仰向けに浮かび、その横をマリルリが楽しそうに泳いで水しぶきをあげていた。アマルスも冷涼な空気が肌に合うのか、嬉しそうに首を長く伸ばし、隣でリーシャンが涼やかな音を「チリン、チリン」と高原の風に乗せて響かせる。その綺麗な音色に合わせて、プラスルとマイナンがアブソルから離れて今度は楽しそうにダンスを踊り始めていた。
「みんな、本当にお疲れ様。……私には、この大家族がいれば、どんな困難も乗り越えられるわ」
22匹の個性豊かな仲間たち。激しい戦いや迷い道の連続だったけれど、こうして互いの新しい一面や温もりを確かめ合い、等しく愛を注ぎ合うこの時間こそが、ミソラにとって旅の本当の宝物だった。
賑やかな笑い声と、リーシャンの奏でるチリンチリンという音、そしてようやく電撃から解放されてホッと深くため息をつくアブソルの姿。フウジョタウンの穏やかな午後、大家族の絆をさらに深めたミソラたちは、これからのカロス旅に向けて、最高の形で英気を養っていくのだった。