ポケットモンスター カロス大家族記   作:空念

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第9話:広がる世界と、小さな迷子

 

ハクダンジムの重い扉を押し開けると、外の爽やかな風が、バトルの熱気が残るミソラの頬を心地よく撫でた。胸元で誇らしげに輝くバグバッジを愛おしそうに見つめていると、不意に小気味よい足音が近づいてきた。

「あら、その胸の輝き――ビオラに勝ったのね! おめでとう!」

声をかけてきたのは、大きなカメラを肩にかけ、知的な雰囲気を纏った大人の女性だった。どこかジムリーダーのビオラに面影が似ている。

「あ、ありがとうございます。私はミソラと言います」

「私はパンジー。ジャーナリストをしていてね、実はあそこにいるビオラの姉なの。妹を破るなんて、君と、後ろにいる可愛い子たちは相当な絆で結ばれているみたいね」

パンジーはミソラの足元にいるフォッコや、ハートの尻尾を揺らすピカチュウたちを見渡し、カメラ越しではない本物の優しい眼差しを向けた。

「君たちなら、この先の広いカロス地方でもたくさんの素敵な出会いがあるはずよ。これ、私からの応援の気持ち。役立ててね」

そう言ってパンジーから手渡されたのは、旅をより快適にするための『がくしゅうそうち』だった。

「これがあれば、バトルに出ていない子も一緒に成長できるわ。みんなで強くなりたい君にぴったりでしょう?」

「ありがとうございます、パンジーさん! 大切に使わせていただきます」

パンジーの温かいエールと、家族の成長を支える道具を胸に、ミソラたちは次なる目的地、ミアレシティへと続く4番道路へと向かうことにした。

 

――だが、4番道路へ繋がるハクダンシティの北外れ、並木道の木陰に差し掛かった時のことだった。

「みゃう……っ、みゃう……」

生け垣の奥から、細く、今にも消え入りそうな泣き声が聞こえてきた。

「何の音かしら……?」

ミソラがそっと草むらを掻き分けると、そこに一匹の小さな、ピンク色のポケモンが丸まっていた。

細長い耳に、先端がふさふさとした不思議な尻尾。エネコだ。女の子のその体は、少し泥で汚れており、こちらを見上げる瞳は不安と恐怖に怯えていた。

「エネコ……? どうしたの、こんなところで一匹で……」

ミソラが優しく手を伸ばしかけると、エネコはビクッと体をすくませ、さらに生け垣の奥へと逃げようとした。どうやら、人間や外の世界に酷く怯えているようだった。

世間の多くのトレーナーは、エネコを「バトルでは能力が低くて使い物にならない、観賞用のポケモン」と評価するかもしれない。けれど、ミソラの目に映ったのは、そんな冷たい数字ではなかった。

ただただ、目の前で震えているこの小さな命を、今すぐ抱きしめてあげたい。その一心だった。

「怖がらせてごめんなさいね。私はミソラ。敵じゃないわ」

ミソラはその場にしゃがみ込み、エネコが落ち着くまでじっと待った。

後ろから、フォッコが優しく喉を鳴らし、ピカチュウがほっぺの電気を優しく灯して足元を温める。ヤヤコマは静かに羽を休め、ルリリは丸い尻尾をポンポンと優しく振って「ここは安全だよ」と伝えていた。

家族みんなの温かい空気が、エネコの固く閉ざされた心を少しずつ溶かしていく。

エネコは恐る恐る顔を上げ、ミソラの穏やかな瞳を見つめた。そして、小さな足で一歩、また一歩と近づいてくると、ミソラの指先に冷たい鼻先をそっと寄せたのだ。

「……みゃう」

小さな、けれど信頼の証。

なついてくるなら、全力で応えるのが私の『筋』。

 

「よく頑張ったわね。もう寂しくないわ。私の『家族』になって、みんなと一緒に暮らしましょう?」

ミソラが優しく微笑むと、エネコは安心したように目を細め、ミソラの手元にあるボールへ、自分からおでこをコツンと預けた。

カチリ。

静かな電子音が響き、エネコはミソラの5匹目の家族となった。

すぐにボールから出してあげると、エネコはまだ少し恥ずかしそうにしながらも、ルリリの隣にぴったりと寄り添い、嬉しそうに自分の尻尾を追いかけてくるくると回り始めた。

「ふふ、可愛い。よろしくね、エネコ」

能力が低くたって関係ない。私がこの子に価値を感じた、それだけで家族になる理由は十分だ。

パンジーから託された想いと、新しく増えた愛おしい家族を連れて、ミソラの大家族の旅は、さらに優しく、賑やかに歩みを進めていく。

 

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