ポケットモンスター カロス大家族記   作:空念

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第90話: 極寒の格闘地獄! 決死のビバークと凍える波導

 

「この先にある『フロストケイブ』の様子が、どうもおかしいの。奥から不気味な気配がするし、野生のポケモンたちも怯えているみたいで……」

フウジョタウンの住人からそう聞いたミソラは、調査のために街の北に位置する氷の洞窟へと足を踏み入れた。

一歩中へ入ると、そこは外界とは完全に遮断された、ツララと氷壁が織りなす白銀の世界。しかし、凍てつく静寂が広がっているかと思いきや、洞窟の奥から響いてきたのは、激しい気合の咆哮と肉体がぶつかり合う鈍い音だった。

「せいやぁッ! 氷を砕いて己を鍛えよ!」

「この寒さこそ、格闘タイプの魂を滾らせる最高のスパイスだ!」

 

「……えぇ!? なにこれ!?」

ミソラは思わず声を上げた。なんとフロストケイブは、その過酷な極寒の環境を利用して肉体を極限まで追い込もうとする、血気盛んな格闘トレーナーたちの隠れた聖地(修行場)と化していたのだ。

氷の世界に潜む脅威を警戒し、悪タイプの手持ちを引っ込めてルカリオやマリルリを先頭に立てていたミソラだったが、これが完全に裏目に出る。通路を進むたびに、上半身裸の空手王やバトルガールたちが、湯気を立てながら次々と勝負を仕掛けてきた。

「問答無用! 鍛え抜いた我が拳を受けてみよ!」

サワムラー、エビワラー、ハリテヤマ……。繰り出されるのは、一撃が重い重量級の格闘ポケモンばかり。

バトル自体は、ミソラの的確な指示とみんなの実力で勝利を重ねていく。しかし、足場がツルツルと滑る氷の上という悪条件に加え、息も凍る寒さの中での「連戦に次ぐ連戦」は、確実にミソラの手持ちたちの体力を限界まで削り取っていった。

「ハァ……ハァ……」

前回のふれあいコーナーでミソラに褒められ、気合十分で先頭を走っていたルカリオだったが、度重なる激突でその身体には無数の打撲痕が刻まれていく。

そしてついに、洞窟の最深部へと続く一本道で、一際体格のいい空手王が立ちふさがった。

彼が自信満々に繰り出したのは、頑強な肉体を持つ、柔道着を着たポケモン――ナゲキだった。

 

「ルカリオ、ここが正念場よ! 私たちの絆を見せて! メガシンカ!!」

ミソラは一気に勝負を決めるべく、メガリングを輝かせた。まばゆい光と共にメガルカリオへと進化し、跳ね上がった波導の力でナゲキへと襲いかかる。

「『はどうだん』!」

至近距離から放たれる青き波導の弾。しかし、ナゲキはその圧倒的なタフさで衝撃に耐え抜き、強引にメガルカリオの懐へと踏み込んできた。

「耐えきった!? ルカリオ、離れて――」

「逃がさん!『ともえなげ』だッ!」

ナゲキの太い腕がメガルカリオの胴体をがっちりと捕らえた。氷の床に背中を叩きつけられ、その凄まじい衝撃と格闘タイプの相性エネルギーが、これまで連戦を耐え抜いてきたルカリオの残り少ない体力を完全に空っぽにする。

光が解け、元の姿に戻ったルカリオが、冷たい氷の上に倒れ伏した。

「ルカリオ――!!」

これまで完璧な進撃を続けてきたルカリオの、まさかの戦闘不能。手持ちの他のポケモンたちも、これまでの連戦で全員が満身創痍。映し身の洞窟以来の、壊滅寸前の大ピンチだった。

 

「ルカリオ、よく頑張ったわ……戻って! ――マリルリ、お願い!」

ミソラが悲痛な叫びと共に最後のボールを投げ放つ。現れたのは、大家族の頼れるパワーファイター、マリルリだった。

「マリルッ……!!」

いつもは愛らしいマリルリだが、ボロボロになった弟(ルカリオ)の姿を見て、その丸い瞳に激しい怒りの炎を宿していた。

「マリルリ、あなたの底力を見せて!『じゃれつく』!!」

「マァァッ!! リルッ!!」

怒涛の勢いでナゲキに突撃したマリルリは、フェアリータイプの魔力を全身に纏い、相手に激しく飛びかかった。文字通り容赦のない「じゃれつき」の乱打がナゲキを圧倒し、格闘タイプに対して効果抜群の一撃となって、ついに巨体を氷の床へと沈めたのだった。

 

「勝った……。でも……」

空手王は無言で引き下がったが、ミソラはその場にヘタり込んでしまった。マリルリも息を荒くし、他の5匹のボールも冷え切っている。吹雪の混じる洞窟の寒さが、容赦なくミソラの体温を奪っていった。このままでは全滅してしまう――。

「――もし、そこのトレーナーさん。大丈夫?」

意識が朦朧とする中、頭上からランタンの温かい光が差し込んだ。

振り返ると、そこには厚手の防寒具に身を包み、大きなバックパックを背負った親切な大人の女性トレーナーが心配そうに佇んでいた。

「ボロボロね……。私のテントがすぐそこに張ってあるわ。一息つきましょう。この寒さでの強行軍は命取りよ」

「あ、ありがとう……ございます……」

彼女の手を借り、ミソラは崩れ落ちそうな身体を支えて簡易テント――『ビバーク』の地へと滑り込んだ。

 

携帯用ストーブのパチパチという音と、温かいスープの湯気。そして、過酷な戦いを終えた手持ちたちを優しく包む毛布。

凍てつく氷の迷宮フロストケイブの片隅で、ミソラと壊滅寸前だった大家族の戦士たちは、見知らぬ旅人の優しさに救われ、ようやく静かに、深く息を吐き出すのだった。

 

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