「みんな、足元が滑るから気を付けてね。アマルス、先導をお願い!」
「アマルゥッ!」
ミソラの呼びかけに、首を長く伸ばしたアマルスが頼もしく応える。カロス地方の豪雪地帯として知られる17番道路の雪原は、一歩進むだけでも足を取られる過酷な環境だが、冷涼な気候を好むアマルスは、驚くほど軽快な足取りで綺麗な雪煙を散らしながら安全なルートを切り開いていく。
(ちなみにラプラスは、ふかふかの背中で荷物や他の仲間たちをのんびり乗せながら、一歩後ろをマイペースについてきている)
手持ちの布陣は、アブソル、ブラッキー、ルカリオ、マリルリ、アマルス、ラプラスという、極寒の雪道とこれからの戦いに備えた最高の精鋭たち。万全の警戒を敷きながら白銀の道を進んでいたその時、ふと視界の端を通り過ぎる素早い影があった。
「……ん? 今、白い雪原の向こうを何か小さな影が走らなかったかしら?」
ミソラが立ち止まり、目を凝らすと、雪に覆われた岩陰からじっとこちらを窺う二つの瞳が見えた。その額には真っ赤な羽のような飾りがあり、手には凍てつくような鋭い爪が光っている。
素早い動きと鋭い眼光、それはカロス地方の雪山に生息する鋭敏なハンター、あく・こおりタイプのポケモン――ニューラだった。
「ブラァ……」
「ルカッ……」
ミソラの左右を固めるブラッキーとルカリオが一瞬だけ警戒するように身構えるが、ミソラはそのニューラの様子をじっと観察し、すぐにただの野生の警戒心ではないことに気づいた。
ニューラの毛並みは少し凍えていて、あちこちに小さな擦り傷がある。この激しい吹雪の中で一人ぼっちではぐれてしまったのか、どこか心細そうな気配を漂わせていたのだ。
「大丈夫よ。私たちを襲う気なんてないみたい」
ミソラがゆっくりと、刺激しないように一歩一歩近づいていく。
ニューラは「シャキッ!」と鋭い爪を威嚇するように突き立てたが、ミソラが纏う優しさと、大家族を束ねる温かな波導を感じ取ったのか、その身構える姿勢が少しずつ緩んでいった。
「おいで。この雪の中じゃ、お腹も空いているでしょう?」
ミソラが手持ちのバッグから、みんなのために用意していた特製の栄養フードを取り出し、そっと雪の上に置いた。
ニューラは警戒しながらも、その美味しそうな匂いに負けたのか、恐る恐る近づいてペロリとフードを口にする。食べた瞬間、その美味しさに驚いたのか、ピンと尖った耳が嬉しそうにピクっと動いた。
「どう? 美味しいでしょ。私たちの仲間にならない? ここなら、もう寒い思いはさせないし、賑やかな家族がたくさん待っているわよ」
ミソラが優しく微笑みながら、そっと一つのモンスターボールを差し出す。
ニューラはしばらくミソラの顔を見つめ、それから後ろに控えるブラッキーやアマルスたちの頼もしい背中を確認すると、自らの意志でそっとそのモンスターボールに手を軽く押し付けた。
カチッ……と心地よい音が響き、赤い光がニューラを包み込んでボールへと収まる。数秒の静寂の後、ボールは揺れることなく、しっかりとランプを点灯させた。
「やったわ! 新しい家族の誕生ね!」
ミソラがボールを掲げて喜んだが、現在のチームはすでに6匹の手持ち(アブソル、ブラッキー、ルカリオ、マリルリ、アマルス、ラプラス)で埋まっている。ニューラはそのままボックスへと転送され、仲間たちの待つ温かい場所へと送られた。
――そして数時間後。
激しい吹雪を耐え抜き、ミソラたちはようやく目的地の『ヒャッコクシティ』に到着した。
神秘的な日時計がそびえ立つ美しい街のポケモンセンターに滑り込み、温かい室内にホッと一息ついたミソラは、ふれあいコーナーでさっそくニューラを手持ちへと迎える。
ボールからポンッと飛び出してきたニューラだったが、そこにあったのは荒野のハンターとしての威厳も何もない、大家族による圧倒的な「愛情の集中砲火」だった。
「わぁ、新入りちゃんだ! すっごく可愛いお顔してる!」
ミソラは両手でニューラを抱き上げると、その頬に自分の頬をグリグリと容赦なく擦り付ける。『ちょ、まっ……!?』と、ジタバタするニューラだが、大家族の頭領(ボス)による容赦ない猫可愛がりの波は止まらない。
「お疲れ様ニューラ、まずはあったかいモフモフの毛布に包まるのよ!」
ボックスから一緒に出てきたオタチやエネコロロたちが、新入りを歓迎しようと一斉にニューラをモフモフのなかに引きずり込み、みんなで一斉に『よしよし』『いい子いい子』と頭や背中を撫で回し始める。
さらに、同じあくタイプとして親近感を抱いたのだろう。ブラッキーがどっしりと近づいてきて、自分の温かい身体でニューラをすっぽりと包み込むようにピタリと寄り添った。
(なんなんだこの群れは……! 俺は野生のハンターだぞ……っ!?)
ニューラは心のなかで絶叫しながらも、受けている温もりと優しさが心地よすぎるのか、最初は強張っていた身体の力がスッと抜けていく。気づけば、みんなの愛に包まれて、拒絶するどころか、すっかり満足そうな顔でピクピクと耳を動かしているのだった。
「ふふ、すっかり馴染んでいるじゃない。これからはもう寒くないからね、ニューラ!」
マフォクシーやリザードンたちの温もりを胸に抱きつつ、ヒャッコクシティのポケセンで新しく加わったツンデレな可愛い相棒をこれでもかと可愛がり倒したミソラ。大家族の絆をさらに広げながら、いよいよ次なるヒャッコクジムへの挑戦に向けて準備を整えていくのだった。