俺たちはフィーロの引く馬車に乗りながらドラゴンの死骸のある場所に向かっている。
その道中、ラフタリアが「フィーロが駄々を捏ねなければもっと軽装で行けたのですが」と言っている。俺も同感だ。
「いや、案外フィーロの駄々に付き合ってよかったかも知れない」
「え?」
ラフタリアが尚文の言っていることがわからず疑問の声を上げる。
「あれを見ろ」
尚文がそう言って前方に視線を送った。俺とラフタリアも前方を見ると、大量の魔物が待ち構えている。
「いちいち相手をしていられないな。フィーロ!全速力で突っ走れ!」
「はーい!」
「マスター。俺が援護魔法をフィーロにかけるよ」
「頼む」
尚文の許可が出たので、俺はヒカリに変身し、魔法の詠唱に入る。
「力の根源たる天の聖杯が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を守れ!」
「ファスト・ガード!」
俺はフィーロに防御力上昇の魔法をかけた。
俺がホムラかヒカリに変身した状態で魔法を詠唱すると、「力の根源たる我が」の部分が、「力の根源たる天の聖杯が」に変化ということが判明した。
詠唱の一部が変化しても魔法の効果が変化するということはない。
尚文のファスト・ガードとヒカリのファスト・ガードの防御力上昇量は同じだ。稀に上昇量が変化することがあるが、誤差の範囲だ。
ガードの魔法をかけられたフィーロは尚文の指示で魔物を弾き飛ばしながら先に進んだ。
「ここだろうな」
やがて、俺たちはドラゴンの死骸がある場所に到着した。
場所は治療師から聞いた。それに加えて、このあたりにはすごい腐敗臭がする。
「よし、ひとまず様子を見に行くぞ」
尚文と俺とラフタリアは警戒しながら先に進むと、すぐにドラゴンの死骸を確認した。
「あれだな」
「そうだね。それにしても酷い状態だな」
そう、ドラゴンの死骸にはなんかよくわからない虫型の魔物が大量にこびりついている。それに加えて、爪や鱗、翼などの主要な部分がない。
ドラゴンというよりも、ドラゴンに似ているデカいトカゲと言われてた方が納得できるほどだ。
「馬車に戻って道具を持ってくるぞ」
「はい」
「了解」
俺たちは馬車から解体用の道具を持ってきて、ドラゴンの死骸の前に立つ。
「食欲をなくす光景だな。こんなことなら先に昼食を済ませてこれば良かった」
「そうですね」
「まったくだ」
俺たちがそんな雑談をしていると、馬車から音がした。
尚文、ラフタリア、俺の3人が馬車を見ると、フィーロがバイオプラントの実を貪っていた。
「フィーロ。お前なんでバイオプラントの実を食ってんだ?」
俺はフィーロに問いかけた。
「あのドラゴンを見てたらお腹空いてきたんだー」
「あれを見て食欲が湧くってお前どうなってんの?」
俺がフィーロにツッコミを入れると、フィーロがゲップをした。
ラフタリアが「食べ過ぎよ」と言ってる。
「はあ」
尚文は呆れたという感じでため息を吐いた。
「ともかく、この大きさだとバラすだけでも一苦労だな」
「そうですね」
「そうだな。ホムラに変身しても死骸がこの大きさじゃホムラの炎でも燃やし尽くすのにも一体どのぐらい時間がかかることやら」
俺たちはそんな会話をしながらドラゴンに近づく。
ドラゴンの死骸に近づくと、ゴソ…、と音がした。
「…マスター、ラフタリア。あの死骸。今、動かなかった?」
「い、いや体の中に溜まっているガスが漏れて動いたように見えただけだろ…」
「えっと…」
ラフタリアが言い終わった瞬間。ドラゴンの死骸にひっついている虫型の魔物たちが死骸から離れて飛んでいった。
ドラゴンの死骸についていた魔物が離れた瞬間。
ドラゴンの死骸の身体が再生し、動き出した。爪や翼、角、鱗は再生してないのが救いか。
「ドラゴンゾンビ…だと!」
尚文がそう呟くと、
「ギャオオオオオオオオオオオ」
ドラゴンゾンビが咆哮を上げた。咆哮による凄まじい衝撃波が辺りに駆け抜ける。
咆哮が収まると、ドラゴンの身体がさらに再生した。
翼や爪までも再生し、完璧なドラゴンになっている。
ただ、目に生物としての知性の光がない。
本能かなにかで動いているといったところか。
「マ、マスター。これは!」
「ああ!俺たちには無理だ!逃げるぞ!」
尚文はそう言って俺たちに馬車に戻るように指示を出す。
尚文の言う通り、今の俺たちにはこのドラゴンゾンビを討伐するのは難しい。俺たちがこの場所に来たのはドラゴンの死骸を除去するためにきたんだ。ドラゴンゾンビとの戦闘なんて想定していない。
それに加えて俺たちは、ドラゴンゾンビについてほぼ何も知らない。
どんな行動をするとか、どんなものが弱点なのか等だ。
効果がありそうな属性で攻撃するのは有効かもしれないが、実際は効果が薄い可能性だってある。
情報が全くない状態で格上の敵と戦うなんて危険すぎる。
俺はそう考えながら馬車に向かって走っていると、フィーロが飛び出してきた。
「ドラゴン、きらーい!」
フィーロはそう言いながら、ドラゴンゾンビ向かってに跳躍し、頭部を蹴った。
「無茶をするな下がれ!」
「やー!」
尚文がフィーロに下がるように言うが、フィーロは尚文の指示を聞かない。
「仕方ない。フィーロを止めるぞ!」
「はい!」
「わかった!」
俺はヒカリに変身した。ヒカリの機動力ならフィーロに追いつける。
ドラゴンゾンビを倒すのならホムラの方がいいかもしれないが、今は撤退するのが先だ。
フィーロの元に行こうとした瞬間、ドラゴンの腹が膨らんでいるのが見えた。
おそらく、ブレス攻撃だ。
「尚文!」
「ああ、みんな俺の後に!」
尚文が指示を出すとフィーロも俺たちの元へやってきた。
俺たちは指示通りに尚文の後ろに集まる。
集まった瞬間、予想通りドラゴンゾンビはブレスを放ってきた。
「うっ…なんだこれ」
「「ゲホ、ゲッホ」」
ドラゴンゾンビが放ったのは、毒ガスを圧縮したものだった。
毒ガスはガスであるから、尚文の盾に当たると周囲に拡散してしまった。
尚文は盾をキメラヴァイパーシールドに変えていたので、専用効果の毒耐性(中)で毒ガスを軽減できたようで少し苦しそうになっているだけだ。
俺とラフタリアは毒ガスのブレスだとは予想できずに、ガスを吸ってしまい、咳が止まらず、呼吸をするのがやっとだ。
フィーロは息を止めていたのか、毒ガスの効果が出ていない。
「2人とも大丈夫か」
「だ、大丈夫だ」
俺は少しすると、咳が治まり喋ることができるまで回復した。
「ゲホ」
ラフタリアは手で大丈夫だと伝えている。だが、ラフタリアの咳は治まるまで時間がかかりそうだ。
まずいな。尚文はキメラヴァイパーシールドの毒耐性で、フィーロは野生の直感で、俺は健康体なのでそこまで大きな問題ないが、ラフタリアはかなり苦しそうだ。ただでさえ敵は格上なのに貴重な味方の1人がダウンしていたら、この先どうなるかわからない。
「もう怒った!」
そんなことを考えていると、フィーロがドラゴンゾンビに攻撃を再開した。
「とにかく、一度撤退するぞ」
尚文はそう言いながらラフタリアの肩を持ちながら馬車の方を見ている。
俺はラフタリアの片側に立ってラフタリアの肩を持つ。
すると、ラフタリアはドラゴンゾンビの方を指差した。
俺と尚文はドラゴンゾンビに目を向けた。
その瞬間、フィーロがドラゴンゾンビに喰われた。
そして、ドラゴンゾンビの口から赤い液体が溢れ出した。
「フィーロオオオオオ!」
俺か尚文かラフタリアか。誰かわからないが誰かが叫んだ。
叫んび声が聞こえなくなると、ドラゴンゾンビがまた毒ガスを放ってきた。
尚文が前に出て毒ガスを受け止める。
俺は咄嗟に呼吸を止めた。
俺は毒ガス攻撃を喰らっている最中にフィーロとの思い出を思い出していた。
一緒に街や村を探検したことや馬車で話したこと、くだらないボケとツッコミをいれた記憶が駆け巡った。
毒ガスが止むとラフタリアは、ドラゴンゾンビに「よくもフィーロを!」と言いながら剣を向けている。
俺は、
「ああああああああああ」
叫びながらドラゴンゾンビに駆け出した。
ドラゴンゾンビは走ってくる俺に向けて前足を振りかぶった。
俺はヒカリの機動力で前足の攻撃を回避し、ドラゴンゾンビに右側に移動した。
俺は右側に到着したタイミングで攻撃力の高いホムラ形態に切り替え、スキルを発動した。
「プロミネンスリボルトォ!」
プロミネンスリボルトの効果でドラゴンゾンビの身体を切り裂き、急降下してドラゴンゾンビに剣を突き刺した。剣を突き刺した瞬間、プロミネンスリボルトの効果で炎が炸裂した。
ドラゴンゾンビは身体を左右に激しく振り、俺を身体から引き離した。
ドラゴンゾンビから吹き飛ばされた俺は、ヒカリ形態に切り替えて遠距離攻撃のスキルを発動させた。
「レインボーダスト!」
ヒカリの剣から複数の光属性の弾が飛んでいく。
ドラゴンゾンビはレインボーダストが命中しても一切怯まず、俺に攻撃を仕掛けてきた。
俺はドラゴンゾンビの攻撃を回避して、次のスキルを発動させるために少し距離を取った。
距離が取れたら再びホムラ形態に切り替えた。
「ブレイズエンド!」
ホムラの剣がドラゴンゾンビに飛んでいき攻撃を始める。
俺は剣が攻撃を始めたことを確認すると、魔法の詠唱を開始した。
「力の根源たる天の聖杯が命ず」
詠唱をしていると、ドラゴンゾンビは突然別の方向を向いた。
俺もドラゴンゾンビと同じ方向を見ると、尚文がドラゴンゾンビに向かって歩いてきている。しかも、盾を構えていない。
「尚文!」
俺は尚文の名前を叫ぶが尚文は反応しない。ドラゴンゾンビは前足を振り上げて尚文に叩きつけようとしている。
俺はヒカリに切り替えることも忘れて尚文に向かって走った。
だが、
ゴォン!
という音がした後、巨大な射撃波と土煙が発生した。
土煙が晴れると、尚文がいた場所にはドラゴンゾンビの前足があった。
「そんな。尚文まで」
俺がそう言うとドラゴンゾンビの前足の裏側が赤く光り始めた。その直後。
「うおおおおおおおおおおおお!」
ドラゴンゾンビの前足の裏から叫び声が聞こえた。
叫び声が聞こえた瞬間、ドラゴンゾンビの前足が燃えた。
ドラゴンゾンビは前足が燃え始めたからか、燃え始めた前足を退けた。
前足が離れると、前足の下から尚文が現れた。
良かった潰されてはいないようだ。
俺がそう思っていると、尚文の様子がおかしくなっていた。
盾はなんだか禍々しい黒色になっていて、盾から炎が出ている。
それに尚文の目が真っ赤に染まっている。
あれは明らかにおかしい!異常事態だ!
ドラゴンゾンビは燃えている前足を地面に叩きつけて炎を消した。
ドラゴンゾンビは怒りの咆哮を上げながら、テールアタックを尚文に仕掛けた。
尚文は黒い盾でテールアタックを防いだ。
テールアタックを防いだ直後。尚文の盾から炎が噴出し、ドラゴンゾンビの尻尾に炎が命中し燃え始めた。
「ナオフミ様!」
ラフタリアは尚文の腕に抱きついて尚文を止めている。
俺も直感で、ラフタリアと同じように尚文に抱きついて、尚文を呼ぶ。
だが、尚文は何も答えない。
俺とラフタリアは尚文に抱きついている間、尚文の盾から炎が出て、俺とラフタリアの身体を焼く。
「頼む。尚文戻ってくれ。フィーロに続いてあなたまで死んでしまったら、俺は…ラフタリアは…だから頼む。戻ってくれー!」
俺がそう叫ぶと、ホムラの胸の中心部にある十字架のような物からエメラルドグリーンの輝きが溢れ出した。
光が収まると尚文の目が元に戻っている。
「俺は今まで何を…」
「「良かった戻ってきてくれて…」」
俺とラフタリアが同時に言った。尚文はラフタリアと俺を交互に見た。
すると、俺以上に尚文の炎を喰らっていたラフタリアが限界を迎えたのか崩れ落ちるように倒れてしまった。
「「ラフタリア!」」
俺と尚文が同時ラフタリアに駆け寄った。
見るとラフタリアは重症を負っていた。
「ホムラ。ラフタリアに回復魔法をかけてくれ。俺はお前に回復魔法をかける」
「え?なんで?」
「なんで?って、お前も酷い状態だ!」
尚文に言われてた俺は身体の状態を確認した。
見ると、身体のあちこちが黒くなっていて、火傷もできている。火傷はホムラの衣装の火炎耐性(小)が働いたようで、ラフタリアと比べると火傷の数も少なく、大きさも小さい。
「力の根源たる盾の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を癒やせ!」
「ファスト・ヒール!」
「力の根源たる天の聖杯が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者を癒やせ!」
「ファスト・ヒール!」
尚文は俺に、俺はラフタリアに何度も回復魔法を使う。だが、俺がラフタリアにかける回復魔法の効果は薄い。おそらく、ラフタリアが重症なのに対して、俺がかけられる魔法は初級の回復魔法だ。効果が弱すぎるのだろう。
俺の方は火傷がかなり治った。
「尚文。俺はもう大丈夫だ。ラフタリアに回復魔法を!」
「わかった」
尚文は俺の指示に従ってラフタリアに回復魔法を使用する。
その時、
「ギャオオオオオオオオオ!」
ドラゴンゾンビが一塊りになっている俺たちに向かって攻撃してきた。
「邪魔をするなぁ!」
尚文は怒鳴りながらドラゴンゾンビの攻撃を受け止めた。
尚文が攻撃を受け止めると、黒い盾から炎が吹き出した。
ドラゴンゾンビは黒い盾の炎に怯んでいる。
すると、突然ドラゴンゾンビが苦しみだした。
苦痛の声を上げなら、胸の辺りを掻きむしっている!?
なんで身体を掻きむしっているんだ?中で何かが暴れてるのか?
少しすると、ドラゴンゾンビは倒れた。
倒れるとドラゴンゾンビの翼や爪などのドラゴンとしての主要な部位が消滅し始めた。
やがて、ドラゴンゾンビは動き出す前の死骸に戻った。
尚文はラフタリアを抱えてドラゴンの死骸を、見ている。
すると、死骸の中から何かが飛び出してきた!
「やっと外に出られたー」
飛び出して来たのはフィーロだ。
フィーロは身体中に腐った液体を纏っている。纏っている液体はドラゴンゾンビの体液だろうな。
「フィーロ。無事なのか?」
「うん!」
フィーロは尚文の問いに力強く答えた。
「フィーロ。あなた食べられた時に血が」
「血?フィーロ、ドラゴンにパックンされた時にごはんゲーしちゃったの」
フィーロはラフタリアの疑問になんでもないように答えた。
そういえば、ドラゴンゾンビと戦う前にバイオプラントの実を食っていたな。
つまり、あの時の血はバイオプラントの果汁ってことか。
まぎらわしいわ!
「フィーロとにかく無事でよかった」
俺はそう言ってフィーロに近づき、抱きついた。
フィーロにはドラゴンの死骸の体液がついているので臭い。
尚文は何があったのか気になるようでフィーロに質問を始めた。
「フィーロ。ドラゴンゾンビの中で何があった」
「ドラゴンのお腹の中を引き裂いていて進んで行ったら紫色のおっきな水晶があったの」
「それがこいつの正体だったのか。それで、その水晶は?」
「ゲッフー」
フィーロは、ゲップをした。
この反応。そして、フィーロのお腹が光っている。これは、
「お前その水晶を食ったんかい!」
俺がフィーロにツッコミを入れる。
フィーロは、えへへと言ってる。
どうしよう。殴りたい。
…でも、フィーロらしくて安心したよ。
俺とフィーロの問答を聞いていたのか、ラフタリアが笑っている。
しかし、ラフタリアはダメージが大きいからか倒れてしまった。
「「ラフタリア」」
尚文と俺はラフタリアに駆け寄る。
俺がラフタリアに駆け寄ろうとした瞬間。
「え?」
俺は何故か、急に身体に力が入らなくなった。
視界に地面が写り俺は咄嗟に手を前に出した。しかし、腕に上手く力が入らない。ここまでは地面に顔をぶつけることになると思っていると俺の身体は突然、空中で止まった。
「ホムちゃん」
首を動かしていると、フィーロがホムラ形態の胸と足の辺りに翼を入れている。フィーロは俺が地面に衝突する前に翼を入れて受け止めてくれたようだ。
「ありがとう。フィーロ」
俺がフィーロに礼を言うのとほぼ同時に尚文が指示を出した。
「フィーロ。馬車にある薬で2人の手当をして、すぐにラフタリアとホムラを村の治療院まで運ぶぞ」
尚文がフィーロに指示を出すと、ラフタリアが尚文の手を取り、
「ダメです。先にドラゴンの死骸の除去をしないと」
「だが」
「大丈夫です。馬車で薬を飲んで横になっていますので」
尚文はラフタリアの言葉を聞いたが、まだ迷っている。
ここは、俺も言うべきだな。
「そうだよマスター。今のうちに、死骸を片付けないとまたゾンビとなって動き出すかもしれない。それに死骸を放置している間は疫病が発生する原因の毒が風に乗って村に流れ続けるんだ。だから…頼む」
俺もラフタリアに続いて尚文に意見を言った。
「わかった。だが馬車で2人の治療をするのが先だ。いいな」
「わかりました」
「了解」
俺とラフタリアは、尚文の提案を受け入れた。
尚文はラフタリアを、フィーロは俺を馬車まで運んでくれた。
馬車に戻ると尚文は、俺とラフタリアに薬を塗り、治療薬を飲ませてくれた。
尚文の盾の薬効果上昇のおかげで楽になったし、火傷も完璧に消えた。ただ、黒い跡は消えなかった。
それと、フィーロに抱きついた時についたドラゴンの死骸の体液を尚文が拭き取ってくれた。
俺とラフタリアが馬車で休んでいる間に尚文とフィーロはドラゴンの死骸を解体した。
ドラゴン死骸の除去が完了すると、俺たちは村の治療院まで戻った。
馬車に乗って村の治療院を目指して移動している時、俺はホムラ形態に残っている黒い跡が人間形態とヒカリ形態に切り替えたらどうなるのかと考えた。ホムラ形態でいられる時間はストックの時間を含めて、あと50分程度しかない。
俺は尚文に怪我の状態がどう変化するのか確認するために尚文に変身してもいいか聞いた。
尚文も気になっていたようで変身する許可をくれた。
結果は、人間形態、ホムラ形態、ヒカリ形態の同じ場所に、同じような黒い跡ができていた。
「これは呪詛です」
村に戻り、俺とラフタリアは治療師に怪我を見てもらった。
診断の結果、この黒い跡は、呪詛と言われるものだそうだ。
この呪詛というのは、呪いであるとのことだ。しかも、この呪詛はかなり強力というお墨付きだ。そんなお墨付きはいらない。
「なんとかならないのか?金はいくらでも払う」
「聖水ならなんとかなると思いますが、あの呪詛を解くことができるほどの物はこの村では材料も機材もないので、私たちにはどうすることも…」
「そうか…」
「ですが、この村でも簡単な聖水なら作ることができますので、それを使えば気休めにはなるかと」
治療師はそう言いながら透明な水を持ってきて、包帯に水を染み込ませた。水が染み込んだ包帯を治療師は俺とラフタリアの腕に巻いた。
包帯が巻かれると、じゅうう…と音がした。
少し痛いな。だが、ちょっとずつ痛みが引いていくのがわかる。
「そうなのか。…それで、2人の呪いを解くにはどのくらい時間がかかる?」
「正直に言いますと、かなり強力な呪いですので解けるかどうかは…それに、使用する聖水によって呪いを解く時間が変わります。大きな町の教会に行けば、お2人に掛かっている呪いを解くことができるかもしれません」
その後も、尚文と治療師の会話は続いた。
しばらくすると、疫病の患者用の薬ができたので尚文が薬を飲ませるために部屋を出て行った。
尚文と治療師が部屋を出て行くと、治療院のスタッフがやって来た。
「ラフタリアさん。あちらで包帯を巻くので来てください」
「わかりました」
ラフタリアは返事をして、スタッフに着いて行った。
身体を確認して、呪詛のある部分に包帯を巻くんだろうな。
俺も腹のあたりに呪詛があるし。
そんなことを考えているとスタッフが話かけてきた。
用件は治療師が来るまで、ここて待っててくれというものだった。
俺は指示通りに治療師が来るまで待った。
男性の患者は治療師がやるようだ。
しばらくすると、治療師がやってきた。
「おまたせしました。ホムラさんこちらに」
「はい」
俺はスタッフに案内され、部屋に入った。
「それでは、包帯を巻くので服を脱いでください」
「わかりました」
俺は指示通りに服を脱いで包帯を巻いてもらった。
包帯を巻いてもらい、治療師が部屋を出ると、俺は服を着た。服を着て少しすると、尚文とラフタリアとフィーロが入ってきた。
「怪我は、平気か?」
尚文が申し訳なそうに聞いてきた。
「呪いのところが少々痛いけど、割と大丈夫」
俺がそういうと尚文は心配そうな目で見てきた。
動けないほどの重症じゃないから大丈夫なんだけどなぁ。
「ラフタリア、ホムラ。本当にすまなかった」
尚文はラフタリアと俺に頭を下げてきた。
「大丈夫ですよ。あの力はナオフミ様をどこか遠くに連れていってしまうような気がしたので」
「そうそう。あの時のマスターは明らかにおかしかったんだから。そんなおかしかったマスターが、元にもどってくれたならこの程度の怪我は安いものだよ。な、ラフタリア」
「ええ。ホムラさんの言う通りです」
俺とラフタリアは自信を持って尚文に言う。
その時、フィーロは尚文が何処かに行ってしまうと思ったのか、尚文に「どこかに行っちゃうの?」と不安そうな声で尚文に聞いている。
「どこにも行かない」
尚文はフィーロにそう言いながら、フィーロの頭を撫でた。
「あ!これごしゅじんさまにお土産!」
フィーロはそう言いながら、紫色の水晶を尚文に渡した。
「なあ、フィーロ。この水晶ってもしかして…」
「うん!ドラゴンの中にあった水晶!」
俺がフィーロに聞くと、フィーロは笑顔でそう言った。
「フィーロ吐き出したの?」
ラフタリアがフィーロに聞いた瞬間、尚文はドン引きした。
俺もちょっと引いた。
フィーロは、俺と尚文が引いたのを感じ取ったのか「違うの!ちゃんとお土産に取っておいたの!」と必死に反論した。
尚文は、紫色の水晶を器用に2つに割って片方を盾に吸われた。
「みんな、すまなかった。俺がみんなを守らないといけないのに…。勇気と無謀は違うように慎重と臆病も違う。臆病でいたら守れるものも守れないんだ。あの時だって俺がもっと前に出ていれば…」
「いいえ、私はナオフミ様の一時撤退の指示は間違ってなかったと思います」
「俺もラフタリアの意見に賛成だ。あの時の俺たちはドラゴンの死骸がドラゴンゾンビになるなんて想定していなかった。それに、ドラゴンゾンビとの戦いは逃げることができる状況だった。だから尚文の指示は間違ってないよ」
「フィーロも悪かったの。ドラゴン嫌いで突っ込んじゃったから」
俺たちはそれぞれ反省の弁を述べる。
「今回のように、前に出過ぎれば今回のように誰かを失うかもしれない。下がりすぎれば守れない…難しいですね」
「ああ、だが難しいことではあるができないことじゃない。盾の勇者である俺が最前線に出て、3人は自身を守りつつ、余裕があれば他者を守ればいい。そうだろ」
尚文はそういいながら俺たちを見る。
「そうだな」
「ですね」
「うん」
俺たちは尚文の言葉に同意する。
そして、尚文は俺たちの手を握った。
「今の俺たちは昨日より強くなっている。明日はもっと強くなる。そして、次に活かしていこう」
「はい、共に」
「そうだな」
「うん」
その後、俺たちは治療院の一室で眠った。
フィーロは馬車を見張るために外で寝た。