メルティを馬車に乗せ、フィーロが馬車を引くこと数時間。
俺たちは、シルトヴェルトに向かっている。シルトヴェルトは北東の方角にある国なので今は北東方面を進んでいる。
その道中にある村に近づくと、俺たちはすぐに異変に気づいた。
「マスター。なんか不自然なほど門番が多いね」
「そうだな」
そう。この村は、何故か門番の数が多い。
門番の数が多いとわかったタイミングで俺たちは嫌な予感がしたので、村の正面を外れ、草むらに身を隠した。位置的には、門番から見えないぐらいの場所だ。
村の入り口付近には立札があり、立札には4枚の人相書が貼られている。
無論、人相書の内容は俺たちだ。似顔絵と特徴が書かれている。
ただ、俺の特徴が人間形態のものしか書かれていない。特徴の欄には、変身の魔法を使うとだけ書かれている。
おそらく、国の連中はホムラ・ヒカリ形態をそこまで把握していないのだろう。俺がホムラ・ヒカリ形態になるのは、戦闘の時だけだからな。
村の中が少し見えるので、村の中を確認すると人だかりができている。
「マスター。ちょっと村の中を見てきてもいいか?あの立札には俺が変身した姿のことが何一つ書かれてないから、変身すれば村の中に入れるかもしれない」
「………そうだな。今は情報が不足しているから少しでも情報がいる。村に入って情報を調べてきてくれ。頼めるか?」
「勿論」
俺が了承すると、尚文は変装用の服を持ってきてくれた。
変装用の服と言っても隣国の人たちが着ていた服なんだけどな。
俺はヒカリ形態に変身し、隣国の人たちの服装に着替えて村に向かう。
村の前に着くと、門番が俺(ヒカリ)の顔を見たが「違うな」と呟いて、村の中に入れてくれた。
人だかりに近づくと、人だかりの視線は壇上にいる騎士に集まっている。
何かを発表するんだろうな。発表する内容は大体予想できるけど、どんなことを発表するのか聞いてみよう。
そう思っていると、騎士が大声で話し始めた。
「盾の悪魔であるナオフミ・イワタニが近衛騎士たちを虐殺し、このメルロマルクの第二王女であらせられるメルティ=メルロマルク様を誘拐して逃走中である。生死は問わない。賞金はーーー」
騎士が賞金について話し終えると、尚文の賞金を示す立札が新しく設置された。
まだ、事件発生から数時間しか経過していないのに、随分と用意がいいな。
そういえば、騎士共がメルティを亡き者にしようとした時に『盾は悪。最初からそう決まっているのだ』とか言ってたから、既に用意していたんだろうな。
となると、俺たちとメルティを襲った騎士共は、捨て駒か尖兵ってところか。
俺が考察をしていると、魔法使いが壇上に登ってきた。
「近衛騎士が今際の際に記憶した水晶映像がこれだ!この水晶玉を城に持ち込んだ所で持ってきた近衛騎士は殉職した」
騎士が魔法使いを見ると、魔法使いは水晶玉を取り出した。
魔法使いが水晶玉に触れると、ホログラムのような映像が流れ始めた。
映像の内容は、俺たちと騎士が戦っている場面の別視点って感じだ。
ただ、俺と尚文とラフタリアの顔が凶悪な笑みをうかべており、尚文はメルティの首に手を回し、俺とラフタリアは凶悪な笑みで騎士たちを攻撃している。フィーロは、目が猛禽類を彷彿とさせるほど鋭くなっている。
しかも、俺とラフタリアとフィーロが騎士たちを攻撃すると騎士たちの身体から血が吹き出すようになっている。
どうやらある程度は捏造(編集)できるようだ。
ただ、限界はあるようだ。よく見ると、メルティの顔が恐怖よりも驚愕の表情になっている。
そういえば、騎士たちと戦っている時に後方で水晶玉を掲げている騎士が居たが、この場面を録画していたのか。というか、この世界にビデオカメラのようなものがあったんだな。
俺はそっちの方が驚きだよ。
「盾の悪魔は、見慣れない鳥の姿をした魔物に馬車を引かせている。見た者はすぐに国に報告するように」
騎士は最後にそう締め括った。
しばらくは、指名手配生活は確定だな。
…保存食でも買っていくか。
俺は、村の中で食品を売ってる店を探し、保存食を1日分ほど購入した。
そもそも五人で旅をするので、1日だけでも五人分の食料がいる。
村人に怪しまれない範囲としては、このぐらいが妥当だろう。
食料を購入した俺は村を出て尚文たちと合流し、村で騎士が発表したことと食料を買ってきたことを伝えた。
伝え終わると、尚文は考える始めた。
やがて、答えを出したようでフィーロに話しかけた。
「なあ、フィーロ。お前フィロリアル・クイーンと人型以外の姿になれるか?」
「なれるよー」
「なれないよなー……なれるのか!?」
尚文が驚いている間にフィーロが淡く輝き始めた。
首が長くなり、足が伸びた。
「グエエエエ!」
フィーロが鳴き声を上げると、輝きが収まった。
見るとフィーロの姿は、一般的なフィロリアルになっていた。
でも、フィーロってフィロリアルの中ではかなり大きいから、普通のフィロリアルの姿でもかなりデカいな。
「その姿にもなれるのかよ」
尚文が聞くと、フィーロは鳴き声で返事をした。
なんで鳴き声で返事をするんだ?
「フィーロ。もしかして、その姿になると喋れないのか?」
「グエ」
俺が聞くと、フィーロは鳴き声を上げながら頷いた。
「フィーロちゃんすごーい!」
メルティは、目を輝かせながらフィーロとじゃれあっている。
「フィーロ。これからずっとその姿でいろ。そうすれば静かだ」
尚文がフィーロにそう言うと、フィーロは足を使って尚文の頭を掴んだ。
その瞬間、フィーロに刻まれている魔物紋が作動して、フィーロが転げ回った。
「ちょっと!フィーロちゃんになにするの!」
「魔物紋が刻まれているのに、俺を攻撃する方が悪い」
そういえば、魔物紋や奴隷紋には主人を攻撃してはならないとか嘘をついてはならないとかを決めることができる機能があるんだったな。
ラフタリアとフィーロは尚文に攻撃なんてしないし、嘘もつかないから魔物紋が発動するのを見たのは初めてだな。
「痛がってるじゃない!」
「自業自得だ。そんなことより、変装用の服も全員分はない。シルトヴェルトの国境までは可能な限り人通りの少ない街道を進むぞ」
尚文の指示でシルトヴェルトの国境を目指している時にメルティが、「なんで父上を怒らせたの?」と尚文に聞いた。
尚文は、クズとビッチに嵌められたこととこれまで受けた仕打ちをメルティに話した。
話の内容に、ちょくちょく私怨が入っていたが、尚文はそれだけクズとビッチが嫌いなんだろう。
「父上と姉上ったら酷い!それじゃ、盾の勇者様が酷いことを言っても文句を言えないじゃない!」
「そうだろう、そうだろう」
「母上は盾の勇者様はできる限り大切にしろって言ってたのに!」
「は?」
「ん?」
尚文と俺は同時に疑問の声を出した。
国教の所為とはいえ、なんで悪魔扱いされている尚文を可能な限り大切にするんだ?
俺がそう考えているとメルティが話しかけてきた。
「どうしたの?盾の勇者様とホムラさん」
「いや、お前の母親って俺をどうも思っているんだろうなと」
「俺も似たようなものだな」
「うーん………わからない。でも母上は盾の勇者様も大切にしなさいって父上に手紙を出してた」
盾の勇者を大切にしろと手紙を書いたのに、クズは全く言うことを聞いてないな。こんな指名手配を許しているところを考えると、書いてあることを理解した上で、手紙の内容を無視しているんだろうな。
しばらく進むと、国境の近くまで到着した。
指名手配をされているので、俺たちは隠れながら国境の様子を見る。
その結果。
「うわぁ…」
「ええ…」
「ないわー…」
尚文、ラフタリア、俺の順に国境の状態を見て、声を出した。
俺と尚文の声は、かなり引いてる。
何故引いた声を出したのかというと、国境の近くに信じられないぐらいの数の騎士や兵士がいたからだ。
ざっと一万人はいるんじゃないのか?
こんな数の警備をこの国境に割くなんて馬鹿じゃないのか?
今他国が攻めてきたらコイツらは、どうするんだ。
「盾の悪魔は確実にシルトヴェルトに逃亡を図るはずだ!貴様等、絶対に逃すんじゃないぞ!」
「は!」
これは正面突破は難しいな。
それにしても、これだけの警備をつけてまで尚文にシルトヴェルトに行って欲しくないんだな。
その理由も、きっと盾の勇者を信仰している国だからだろうな。
「これだけ警備が多いと正面突破は無理だな。となると、山を越えるしかないな」
「そうですね」
尚文の意見にラフタリアが賛成する。
「皆は何か意見とかはあるか?」
尚文が皆に聞くと、誰も何も言わない。
「ないようだな。では、山を越えてシルトヴェルトに向かうぞ。この辺りは警備が厳重だから北の方の山を越える」
「わかりました」
「了解」
「グエ」
「わかったわ」
尚文の指示で俺たちは、北に向かう。
道中にある村は遠回りをして近づかないようにする。
そのまま進み続けると、尚文が道の途中で馬車を止めた。
「ここから山に入るぞ」
「ナオフミ様、馬車はどうしますか?」
「馬車を引いたまま山を越えることはできないからな。この辺りに隠して置いていくぞ」
「グエ!?」
フィロリアル形態のフィーロが鳴き声を上げながらブンブンと首を振っている。
おおかた、この馬車を置いていくなんてやー!なんて言ってるんだろうな。
「しょうがないだろ!フィーロお前は見つかって捕まりたいのか?そうなると第二王女は確実に殺されるぞ」
「グ…」
フィーロは、馬車を置いていかなければメルティが殺されると尚文に言われ、渋々馬車を置いていくことに賛成した。
「偉いぞ、フィーロ。お前の選択は人としてとても正しいことをした」
尚文はそう言いながら、フィーロを優しく撫でた。
「この一件が片付いたら必ず取りに戻ろうな」
「グエ!」
絶対だよって言ってるな。
フィーロも納得したので、俺たちは馬車を山の中に隠した。
隠す時は、フィーロが馬車を引き、尚文が後ろから親父からの餞別のグローブをつけて押していた。
俺とラフタリアは、馬車を隠すための木材を集めていた。
メルティは、周囲に兵士が居ないか確認していた。
馬車を隠した後は、最低限の荷物を持って山を登る。
ただ、時刻は夜なのに加えて、メルティは山を越えるのが始めてなのか、何度かバテたので、その都度休憩を入れた。
ちなみに、フィーロは山を登っている途中で人型になった。シンプルにデカいのに加えて体色が白いから目立ってしまうからだ。
そのまま、山の中を進み続ける。
既に夜なので、今日は近くにある洞窟で一晩を明かした。
翌朝。
俺たちは、シルトヴェルトを目指して山の中を進む。
やはり、人の手があまり入っていなからか、そこそこの頻度で魔物が襲ってくる。
ドラゴンゾンビ級の魔物と遭遇していないのは、かなり運がいいのだろうな。
そうそう、魔物と戦っていて判明したのだが、メルティは戦うことができるようだ。
戦闘スタイルは、魔法職で後衛だ。魔法は、水属性と土属性の魔法を使用できるみたいだ。その中でも、水系統の魔法をメインで覚えており、全て中級のツヴァイトを使用していた。それに加えて、俺たちの中では誰にもできない、魔法の複数あるいは範囲版のアルを使用していた。
アルを使用する場合、攻撃魔法なら魔法が複数の敵を攻撃するようになる。
例えば、単発の水の斬撃を飛ばすアクアスラッシュを複数の敵に飛ばすなら、「アル・ツヴァイト・アクアスラッシュ」と唱えると、水の斬撃が複数の敵に飛んでいくといった具合だ。
支援魔法なら、自分と範囲内の味方にバフをかけるといった形になる。
それと、魔物を倒した時にホムラ形態のレベルが上がった。
レベルが30になったことで新しいスキルが解放された。
名前は「炎の流星剣」だ。
このスキルは、剣の勇者が使用していた流星剣の火属性版だ。
性能としては、剣を振っている間は斬撃の威力が大幅に上昇し、剣を振り終えると飛ぶ斬撃が発生し、飛んでいった斬撃の後ろに流星のようなエネルギー弾が斬撃の後を追いかけて追加ダメージを与えるスキルだ。
これは近距離・中距離・遠距離、全てをカバーできる非常に優秀なスキルだ。ホムラ形態だと、近・中・遠距離に対応できるスキルは無かった。
基本的に近距離攻撃がメインで、中距離はブレイズエンド、遠距離攻撃は魔法攻撃しか無いからな。
ちなみに、倒した魔物はすぐに解体して食べられない部分は俺の剣に吸わせる。強化攻撃の材料になるからな。食べれる部分は、フィーロが全て食べた。知らない魔物を倒したら尚文の盾に吸わせた。
そんなこんなで、山を進む。後ろを振り向くと街道は一切見えず山しかなかった。
空はオレンジ色になっている。
そんな時、休めそうな洞窟を俺たちは発見した。洞窟の中に入ると、魔物の気配などは感じなかった。
野生の勘が鋭いフィーロも魔物がいる気配は感じないそうだ。
「今日はここで休むぞ」
俺たちは洞窟で一晩を明かすことにした。
洞窟に入ってしばらく休んでいると、いつの間にか空が暗くなっていた。
そんな時、尚文がメルティに話しかけた。
「なあ第二王女。一つ聞きたいんだが、お前の母親って一体何者なんだ?」
尚文が思い出したようにメルティに聞く。
そういえば、メルティの母親がどんな人なのか聞いてなかったな。
話によると、尚文を大切にするようにと言ってるようだし。
「母上は、この国の女王よ」
「女王?」
「ええ、このメルロマルクは女系王族の国だから、母上の方が父上よりも偉くて権力も上なの」
「てことは、あのクズは婿養子か!これは傑作だ!」
尚文はクズが婿養子なのがわかり、爆笑している。
「な、なにがおかしいの?」
メルティは、訳がわからず混乱している。
「婿養子の分際で、あんなに偉そうにしているからおかしくてな」
「婿養子でもいいじゃない!」
尚文とメルティがそんな会話をしていと、外から僅かに物音がした。
「お前たちはここで待っていろ、すぐに戻る」
尚文はそう言って洞窟を出て行った。
少しすると、尚文が戻ってきた。
「近くに複数の火の光を確認した。間違いなく追手だ」
追手!?この山の中を国の連中が追いかけてきたのか!?
俺たちの居場所を把握してるか、それともシルトヴェルトに近い山には大量の兵士が巡回してるとかか?
「ホムラ。考えるのは一旦辞めて逃げるぞ」
俺が考えていると、尚文に呼ばれた。
「わかった」
俺は荷物を背負って尚文の後に続いた。
俺たちは、兵士たちに見つからないように、色んな道を進んだり戻ったりしながら先に進む。
そんな時、俺たちが崖の裏の小さな道を進んでいると、先頭の尚文が止まった。
見ると、すぐ上に火の光が見える。兵士がいるな。
今は運が良いのか悪いのかわからないが、月の光が雲で隠れていてこの辺り一帯がかなり暗い。
おかげで兵士には俺たちが見えないが、俺たちは地面が暗くてよく見えない。
「ここもダメか。少し戻るぞ」
尚文がそう言うと、最後尾のラフタリアが戻り始める。
俺、フィーロ、メルティ、尚文の順で進んでいると。
「きゃあ!」
メルティの足元が崩れた!
メルティが落ち始めた瞬間、尚文がメルティの手を掴んだ。
危なかった。後1秒でも尚文の反応が遅かったらメルティは崖に落ちていただろう。
そう思っていると。
「居たぞ!あそこだ!」
兵士が俺たちを指差して声を上げた。
まずい見つかった!
おそらく、メルティの足元が崩れた時の音を聞こえたんだろうな。
「見つかったか。メルティ走れるか?」
「ええ、問題ないわ」
「なら、あそこの岩の先まで走るぞ」
尚文は大きな岩がある場所に視線を向け、走り出した。
俺たちも尚文に続いて走る。
走っている途中に一瞬だけ後ろを振り向くと、兵士たちが左側の下り坂から俺たちに向けて走ってきている。
岩の後ろに着くと、尚文が立ち止まった。
なんで止まったんだ?と思い、尚文が止まった場所を見て俺は一瞬で理解した。
それは、尚文が止まった場所から先には道がなかったのだ。
これでは逃げられないと考えていると、どこからか聞いたことがある声が聞こえてきた。
「もう逃げられませんよ」
その声が辺りに響いた瞬間、まるでタイミングを見計らってきたかのように雲に隠れていた月が現れ月明かりが周囲を照らした。
声の聞こえた方向を見ると、大勢の兵士と剣・弓・槍の三勇者と三勇者のパーティメンバーがいた。