「メルティ…」
尚文がメルティがいなくなったのを感じて寂しそうに呟いた。
でも、俺は尚文よりもラフタリアを心配している。
ラフタリアは、メルティがいないのを理解したようでさっきよりも顔がかなり悪くなっている。
やがて心に限界が来たのか、その場にへたり込んでしまった。
「ラフタリア。大丈夫か?」
尚文が心配そうにラフタリアを見つめる。
「はい………大丈夫です」
これは大丈夫じゃないな。
それに、悔しそうだ。
ラフタリアはイドルって貴族となにか因縁があるんだろうな。
何の因縁もなかったらラフタリアがここまで弱るはずがない。
良いことではないが、情報を吐かせてみるか。
俺は、ホムラ形態に変身してラフタリアを抱きしめ、背中を優しく摩る。
「え?」
ラフタリアは何故抱きしめられたのかわからず困惑している。
「ラフタリア。無理に我慢しなくてもいいよ。悔しいよな。何もできなくて」
「でも、私はメルティさんを助けられなかった…!」
「うん。悔しいよな。助けたかったんだよな」
「私がメルティさんと共に行動していれば、メルティさんはついて行かなったかもしれないのに…」
「ラフタリア、そんなに自分を責めないでくれ。君がメルティを助けたいと思っていることは、ちゃんと分かっている。助けられなかったことが悔しいんだよな……。でも、今ここで君まで倒れてしまったら、メルティを助けたいという君の願いまで失われてしまう。だから、今は泣いてもいい。悔しがってもいい。だけど、ひとりで全部を背負わないで」
俺がそう言うと、ラフタリアは俺の胸の中で泣き始めた。
俺は無言で泣き続けるラフタリアの背中を優しく何度も摩る。
しばらくすると、ラフタリアは泣き止んだ。表情も良くなっている。
「どう?少しは落ち着いた?」
「はい。少し落ち着きました」
「それは良かった」
ラフタリアが落ち着いたので、俺は聞きたかったことを聞く。
「ラフタリア。あのイドルとかいう貴族の声を聞いた瞬間、様子がおかしくなったけど、何か因縁があるの?」
「………はい」
ラフタリアは少しの間、沈黙していたが覚悟を決めたようで、因縁があることを肯定した。
そして、改めて自身の過去を話してくれた。
ラフタリアは国の兵士によって捕まった後奴隷として売られていたそうだ。最初に買った人は優しそうな人で仕事も小間使いがメインだったのだが、ラフタリアの夜泣きが激しすぎて数日で奴隷商人に売られたそうだ。
ここで、ラフタリアは購入品からレンタル品という扱いになったらしい。
次にラフタリアをレンタルのが、あのイドルだそうだ。イドルは亜人を拷問・虐待することが趣味の様で、亜人であるラフタリアと友人のリファナを何度も虐待してたとのことだ。しかも、亜人の悲鳴を心地良いとか言ってたらしい。随分と悪趣味な奴だな。
それに加えて、ラフタリアと友人のリファナの部屋は地下牢であり、基本的に丸一日地下牢にいるのが当たり前なんだとか。
そんな、衛生環境が悪い場所ずっといるのに加えて日の光を浴びていない状況なので、ラフタリアの精神と体調をどんどん悪化させていき、風邪をひいてしまったそうだ。
イドルはラフタリアが風邪をひいていても、そんなことは関係ないと言うように、ラフタリアを拷問・虐待し続けていた。
そんな虐待の日々が続き、ラフタリアの肉体も精神も限界一歩手前の所でラフタリアのレンタル期限が終了し、ラフタリアは奴隷商人の元に戻ってきたそうだ。
その後、奴隷商の所にいる時に尚文に購入された。これが、ラフタリアの過去なんだとか。
「そんなことが……あったのか」
「今まで大変だったんだね…」
尚文と俺はラフタリアの過去がかなり重かったので、それしか言えなかった。
ラフタリアは、暗い雰囲気になった俺と尚文を見て、「もう過ぎたことです…」と言った。
「とにかく、そのイドルとやらにメルティを預けておくのは危険すぎる。なんとしてでも取り戻すぞ!」
「はい!」
「ああ!」
イドルは碌なやつではないことが確定した今、メルティの奪還は最優先だ。
「ナオフミ様。これからどうしますか?」
「まず、フィーロに今の状況を伝えよう。その後は、全員で作戦会議をしてからメルティを取り戻す」
「わかりました」
「了解」
俺たちは逃亡の準備をしているらしいフィーロを探す。
メルティがイドルの元に連れて行かれた以上、機動力の高いフィーロがいないとメルティを取り戻したとしても追手に追い付かれる可能性がある。
それに、メルティのいる場所を探すにしてもどこにいるのかもわからないから、闇雲に探しているとその間にメルティが殺されてもおかしくない。
俺たちは、フィーロを探して屋敷のあちこちを見るが、フィーロのやつを見つけることができない。
既に、フィーロを探すためにかなりの時間が経過している。
途中から、全員で別々に探すがそれでも見つからない。
「ナオフミ様こちらにはいないようです」
「こっちも同じだ」
「俺もだ」
合流した俺たちはフィーロを見つけたか聞くが、誰も見つけられない。
「ナオフミ様。まさかフィーロも!」
「そんなはずないだろ」
ラフタリアはイドルに連れて行かれたメルティと共にフィーロも連れて行かれたと考えているのだろう。顔が真っ青だ。
「これはやりたくなかったんだが仕方ない。…フィーロ!今すぐ出てこい!これは命令だ!」
「にゃあああーー!!!」
尚文が大きな声を出すと、上の階からフィーロの声が聞こえた。
俺たちが今いる場所が二階だ。そして、この屋敷は二階建て。フィーロがいる場所は二階よりも上の場所。つまり、屋根裏か!
「う〜。こじゅじんさまひどい」
「ひどいのはどっちだ。ずっと呼んでたんだぞ」
「そうですよフィーロ。何をしていたんですか!」
「そうだぞフィーロ。てか、なんで屋根裏に居るわけ?」
「えっとねー。屋敷が騒がしくなった時にね。メルちゃんがかんれんぼしよって言って、絶対に見つかるまで出てきたらダメだよって言われて、フィーロずっと隠れてたの!」
メルティに、見つかるまで絶対に隠れていろって言われたねぇ。それってメルティは、イドルが来た段階で俺たちを逃すために囮になる気だったのか。
「あれ?ごしゅじんさまー?メルちゃんはどこー?」
フィーロのやつ、もしかして今の状況を何も知らないのか?
「フィーロ。これから俺が言うことをちゃんと聞けよ」
「うん。なーに?」
「メルティが連れ去られた。俺たちを守るためにな」
「え!?」
フィーロは状況を理解して、フィロリアル・クイーンに姿を変えた。
今から単独でメルティを助けに行くつもりか!?
尚文が、走り出そうとしたフィーロの首を掴んで止める。
「待て!どこに行くつもりだ!」
「メルちゃんを助けに行く!」
尚文は俺とラフタリアの後ろにいるメイドに、メルティがどこに連れ去られたのか聞いた。
メイドは、イドルの屋敷の可能性が高いと言った。なんでも、ここから王都までかなり距離があるので、準備を整えてから行く必要があるからだとメイドは予想した。
「その隣街はどこだ?」
「ここです」
メイドは地図を持ってきて、隣の大きな街を指差した。
ここは、過去に一度来ている。入るときに、かなり因縁をつけられた街だ。
メイドは、街の地図も見せてくれた。…どうやらイドルの屋敷は街の中央にあるようだ。
そういえば、この街って過去の勇者が化け物を封印したって伝説があったな。街の名物っぽくなってた記憶がある。
「屋敷の見取り図とかはないか?」
「私共の中で何度か足を運んだ者がいます。その者の証言を元に見取り図を作ってもらいましょう」
イドルの屋敷に入ったことがある人がいるのか。それなら参考になるだろうな。
その結果、簡略化された地図を入手できた。
屋敷は三階建てで、大きな中庭がある。
それに部屋の数も多く、一つ一つの部屋がこの屋敷よりも大きいそうだ。
ここのライヒノットの屋敷がある街はかなり小さな街なのに対して、イドルの屋敷がある街はかなり大きいから、その分屋敷も大きいのだろう。
それと、ライヒノットの屋敷の者たちの予想では、メルティはニ階にいる可能性が高いそうだ。
「わかった。迷惑を掛けたな。じゃあ行くぞ、ラフタリア、ホムラ、フィーロ」
「はい!」
「了解!」
「うん!」
屋敷を出た俺たちは、裏口からイドルがいる隣街へ向かう。
外に出ると、空は暗くなっていた。
フィーロを探すのと、屋敷の見取り図の作成等をしている間に結構時間が経過してしまったから暗くなっているのも当然か。
俺たちは、隣街を一望できる場所に到着した。
ここからなら、隣街がどの様な形をしているのか一発でわかる。
「あの高台にあるのが、イドルの屋敷だろうな」
「おそらく」
尚文とラフタリアはイドルの屋敷を確認した。
俺とフィーロも屋敷を確認した。
それと、この隣街には少々異変が起こっている。
それは…。
「門を開けろー!」
「領主様を返せー!!」
武器や農具を持った大勢の亜人たちが門の前に押し掛けている。
どうやら、ライヒノットはかなり慕われているようだ。
そして、押し掛けてきた亜人たちを抑えるためにに兵士がバリケードの準備をしているが、兵士がバリケードを完成させるよりも亜人たちが塀を登る方が早いだろうな。
俺が考察をしていると、他の城壁を見張っている兵士がやってきた。兵士のバリケード作成の手伝いをしにきたみたいだ。
でも、増援として兵士が亜人の対処に行ったから見張りの兵士がいない場所ができた。
「フィーロ。あの場所の見張りがいなくなった。あそこから侵入するぞ」
「わかったー」
俺たちはフィーロに乗り、隣街に侵入した。
見張りの兵士がいないから、あっさりと侵入できた。それに、警報の類も一切発生していない。
もしかして、この街って見張りの兵士が多いから警報は不要って考えているのか?
俺がそんなことを考えている間にもフィーロはイドルの屋敷に向かっている。
人がいる場所に降りて走れば街の住民に通報されるので、フィーロは民家や何かの施設の屋根の上を走って移動する。
イドルの屋敷の近くに着くと、正門から大勢の兵士が出て行った。
鑑定技能でレベルを見ると、大体20〜30レベルのようだな。
俺は尚文に兵士たちの大体のレベルを伝えた。
「なんでしょうか?あの兵士たちは?」
「おそらくだけど、門の前に押し掛けてきた亜人たちに対処している兵士の援軍だろうね」
「ちょうどいい。兵士共から出て行ってくれたんだ。今のうちに正面突破して、メルティを取り戻すぞ!」
「おー!」
「待ってくださいナオフミ様。慎重に行かないのですか?」
「そうだよマスター。正面突破したら敵に気付かれるよ?」
「何言ってるだ、2人とも。優男の話によると三勇者は別の場所にいるんだ。勇者を警戒する必要はない。それに、俺たちはメルティを取り戻したらすぐに、国を脱出するんだから多少騒ぎを起こしたって問題ない」
確かに三勇者は、別の場所を捜索中で俺たちの現在位置を知られてない。
それに、ここで騒ぎを起こしても三勇者に伝わるには時間がかかる。その間に隣国を目指して山を越えて行けば、三勇者に遭遇せずに行けるか。
「それに、早くしないとメルティの身が危ない」
尚文はイドルが行った所業を思い出しているようで、顔に急がないとって書いてある。
「なるほど。…わかりました」
ラフタリアは納得したようだ。
「わかったよマスター。必ずメルティを取り戻そう」
俺がそう言うと、尚文は少しだけ嬉しそうな顔になった。
「まずフィーロ。お前は屋敷の中で思いっきり暴れろ。お前が暴れていれば兵士どもはお前の相手をしなければいけなくなる。壁や扉もドンドン破壊しろ!その間に、俺とラフタリアとホムラでメルティを探す。行ってこい!」
「わかったー!」
フィーロは尚文の指示を受けて屋敷に突撃して行った。
少しすると、屋敷から「侵入者だー!」って声と兵士の悲鳴が聞こえてきた。
「俺たちも行くぞ」
尚文はそう言ってから、屋敷に侵入する。
俺とラフタリアも続く。
「ナオフミ様!ホムラさん!こっちです!」
ラフタリアは下に続く階段を発見した。
この先ってもしかして。
「地下室の入り口?」
俺がラフタリアに聞くと、ラフタリアは肯定した。
「そこにメルティがいると思うか?」
「…いえ、ですがおそらくあの貴族の趣味で苦しんでいる子がいると思います」
「ラフタリア。助けたい気持ちはわかる。だが、今はメルティが先だ」
「…はい」
俺もラフタリアがイドルに苦しめられている人たちを助けたい気持ちはわかる。でも、メルティ奪還作戦の途中で苦しんでいる人を助けても足手まといを増やすようなものだ。
俺がそう考えていると、ドオォォォンと大きな音がした。その直後。
「メルちゃゃああああん!!!」
フィーロの声が聞こえた。
断続的に屋敷の中から何かが破壊されていく音が聞こえる。
フィーロのやつ、めっちゃ暴れてるな。これだけ暴れてるってことは兵士共はフィーロを止めることができていないようだな。
「いたぞ!侵入者だ!」
警備兵7人が俺たちを指差して叫び、警戒態勢に入った。
「あ、あいつ盾の悪魔だ!」
「なんだって!」
「急いで領主様に報告しないと!」
警備兵の1人が報告するために、隊列から抜け出そうとしている。
逃げられたら面倒だな。
俺はヒカリ形態に変身してスキルを発動させる。
「フォトンエッジ!」
フォトンエッジの効果で、俺は警備兵達に連続攻撃を浴びせる。
「「「「「うわあああぁぁぁ」」」」」
5人の警備兵は俺の攻撃を喰らって気を失った。
「おのれよくも!」
警備兵の1人が俺に向かって剣を振りかぶってきた。
剣が当たる瞬間、尚文が割り込んで警備兵の剣を受け止めた。
「何!?」
警備兵が攻撃を防がれて驚いていると、尚文のキメラヴァイパーシールドの蛇の装飾が動き、警備兵に噛み付いた。
「ぐあっ!?な、なんで装飾が動くんだ!?」
警備兵は尚文の盾に噛み付かれたことに驚いている。
「その毒は強力だ。早く解毒薬を飲まないと死ぬぞ」
「くそっ!盾の悪魔め!」
尚文は懐から解毒薬を取り出して、警備兵に見せる。
「さあ、メルティ第二王女のいる場所を教えろ。間違っても隣街の貴族なんてくだらないことを言ったらこの解毒薬をここで破壊するぞ。そうなれば、お前は毒で死ぬことになるな。もう一度だけ言う。メルティ第二王女はどこだ!」
これ、完全に脅しだな。
警備兵は尚文の脅しに屈し、メルティのいる場所に心当たりがあるようで移動を始めた。
ちなみに、もう1人の警備兵はラフタリアが即座に気絶させていた。