俺は、ラフタリアと共に落下したイドルを確認する。
イドルは仰向けで倒れていた。
「ラフタリア、あれは死んだよな?」
「おそらく…」
俺とラフタリアが話していると、尚文がやってきた。
「ラフタリア。お前の剣だ」
尚文はイドルによって部屋の隅に飛んでいったラフタリアの剣を持ってきた。
「ありがとうございます。ナオフミ様。それとホムラさん、剣を貸してくださりありがとうございました」
ラフタリアは俺に頭を下げてから、剣を渡してくれた。
剣にはイドルの血は一滴も付着していなかった。ブラッドクリーンコーティングのおかげだな。
俺は剣を受け取り鞘に入れた。
「さて、今のうちに逃げるぞ」
「待ってくださいナオフミ様。その前に…」
「ああ、わかってるあいつによって今も拷問を受けているかもしれない亜人たちを助けたいんだろ?」
「はい」
尚文はライヒノットにイドルは亜人を拷問する趣味があり、今も昔のラフタリアの様に地下牢で拷問を受けてる亜人がいるかもしれないから、助けるのを手伝ってほしいと伝えた。
それを聞いたライヒノットは、喜んで協力すると言ってくれた。もし、ライヒノット自身に何かがあったとしても、ライヒノットには亜人の協力者が多くいるから彼らが力を貸してくれると思うとも言っていた。
俺たちは、その足で地下室まで移動した。
地下室の扉には鍵が掛かっていたが、フィーロが蹴り壊した。
そして、地下室に入った瞬間に鼻を塞ぎたくなるほどの凄まじい異臭が襲ってきた。
一体どれだけの凄惨な拷問が起こっていたのだろうか。
「なんか嫌な感じー」
フィーロも本能的に嫌がっているが、付いてきている。
メルティは怯えているが覚悟を決めたようで、付いてきた。
「この先です」
ラフタリアは地下室の廊下を進む。
俺たちも続きながら、周りの牢屋の中を見る。
ほとんどの部屋に拷問器具が置いてあるな。中には白骨死体がある部屋まであるな。一体イドルの手によって何人の犠牲者が出たのだろう。
ラフタリアはこんな酷い場所に囚われて、拷問を受けていたんだな。
そう考えると、イドルに対して憎悪と怒りが湧いてくる。
その時、ラフタリアが一つの檻の前で止まり、中を覗いた。
俺も中を覗くと、白骨死体があった。
ラフタリアが剣を抜いて檻の出入り口の鍵を破壊して檻の中に入り、両手を合わせた。
もしかして…この白骨死体が…。
「ラフタリア?」
「なんとなく…既に亡くなっているのではないかと思っていました。でも、もしかしたら生きているかもしれないって考え続けてもいました。ですが」
ラフタリアはそう言いながら顔を伏せて泣き始めた。
俺もなんとなく手遅れなんじゃないかって思っていた。こんな衛生環境が悪い場所に加えて、体調も崩して、励ましあっている友人と離ればなれになりずっと会えなくなる。そんな状態が数ヶ月も続けば、誰だって心が折れて命を諦めるだろう。それにリファナは骨の大きさを見るにまだ子供だ。
子供にそんな地獄を生き抜けると考える方が不自然だ。
「ラフタリア。せめて遺骨だけでも持っていくか?」
「はい…こんなところにいるのはあまりにもかわいそうです」
「そうだな」
尚文は袋を取り出して、骨を袋に入れた。
「生存者がいました!」
廊下にライヒノットの声が響いた。俺はライヒノットの元へ走り、到着すると、彼は檻を奥を指差した。
確かに亜人の子供がいるな。
檻の出入り口には鍵が掛かっている。鍵開けはできないから破壊するしかないな。
「ライヒノットさん。この檻の扉を破壊するから離れていて」
「わかりました」
ライヒノットは檻から離れた。これで思いっきり壊せる。
俺は攻撃力が高いホムラ形態に変身して、力を込めて強化攻撃を放った。
「はぁ!」
俺が強化攻撃を放つと檻の扉の一部と鍵が壊れた。
これで中に入れる。
俺が檻の扉を開けるとライヒノットが亜人の子供の元に行った。
「もう大丈夫ですよ」
ライヒノットは亜人の子供に微笑んだ。
俺は亜人の子供の怪我の状態を確認する。
あちこちに鞭打ちの後や打撲による青あざがある。かなり酷いな。早く治さないと。
「力の根源たる天の聖杯が命ずる。理を今一度読み解き彼の者を癒やせ!」
「ファスト・ヒール」
俺が回復魔法を掛けると、鞭打ちの後や青あざが少し消えた。
「このまま続けて回復魔法を掛けてください」
「わかりました」
俺はライヒノットの指示に従って何度も回復魔法を掛ける。それと併用して、アイテム自動作成機能で作っておいた回復薬(粗悪品)も使用した。
何度も回復魔法を使用していると、ある程度の傷は癒えたが重症になっている部分は治らなかった。ライヒノット曰く「初級のファストと粗悪品の回復薬ではこの辺りが限界」だそうだ。
「こっちにも誰かいるよ」
フィーロの声が廊下に響いた。
俺とライヒノットが顔を合わせ、フィーロの元に向かう。
フィーロの声が聞こえた場所に着くと、ラフタリアとフィーロと尚文とメルティと知らない亜人の子供が檻の外にいた。フィーロはフィロリアル・クイーンになり背中に亜人の子供を乗せている。亜人の子供にはメルティがファスト・アクアヒール掛けており、尚文は回復薬を使用していた。
俺も参加して、回復魔法を発動させる。
俺と尚文とメルティの3人で回復させたので亜人の子供の怪我はさっきよりも早く終わった。
「残りがいないか確認するぞ」
「「「はい」」」
「「うん」」
俺たちは残り少ない檻の中を確認して行く。
その道中で、ラフタリアが足を止めて檻の中にいる亜人の子供を発見して声を上げた。
「キールくん?」
「お姉ちゃんたち誰?」
「その声!やっぱりキール君だ!」
この感じもしかして?
「ラフタリア。この子と知り合い?」
「はい。この子キールくんと言って私の故郷の友人です。私だよ!ラフタリ「よるな!」」
「ラフタリアちゃんな訳がない。ラフタリアちゃんもリファナちゃんもみんな死んだんだ。もう…みんな…いないんだ」
キールの目は完全に死んでいる。絶望に押し潰されているといった具合だ。
今、目の前にいるラフタリアも幻覚か何かだと思っているのだろうな。
「じゃあ私が知ってるキールくんの話をするね。あの事件が起こる2ヶ月前にお父さんに誕生日プレゼントをあげるために海に潜って綺麗な貝を探したけど、途中で溺れてサディナ姉さんに助けられたよね。他にもー」
昔の経験した思い出でキールに自分がラフタリアだと教えるつもりか。
これならキールも目の前にいるのがラフタリアだとわかるだろうな。
「え!?本当にラフタリアなの!?」
「そうだよ。後近所の平原で毒キノコを食べてお腹を壊したこともあったよね。その時のキールくんは絶対にみんなには内緒だ!って見つけた私に言ったでしょ。痺れながら」
「あー!?うん!信じるよ!お姉ちゃんがラフタリアちゃんだって」
キールはようやくラフタリアだと認めたみたいだ。
…それにしても、キールとの思い出は恥ずかしい出来事ばっかりだったな。
「ラフタリアちゃん?どうしてそんなに…大きく美人になったの?前はもっと小さかったのに」
もしかして、キールってレベルアップによる急成長を知らないのか?
ラフタリアの話によると、波が発生するまで村は平和だったそうだ。だから、亜人の子供がレベルを上げると急成長することを知らないのも無理はないか。
平和なら魔物を倒してレベル上げをする必要もないしな。
「あのね。キールくん、私は今、盾の勇者のナオフミ様の元で奴隷をしているの」
「え!?」
キールがラフタリアの言葉を聞き、信じられないって顔をしてから尚文を睨みつけた。
ただ、キールの視線があんまり安定していない。尚文の少し右側を睨んでいる。
もしかして、栄養失調で尚文がぶれて見えるのか2人に見えているんだろうな。
尚文は懐から回復薬を取り出してキールに服用させるために近づく。
「ちか…よるな!」
「大丈夫だよ。キールくん、ナオフミ様はキールくんに酷いことなんてしないから。私を信じて」
キールはラフタリアの言葉を聞き、仕方なく回復薬を服用した。
俺と尚文は続けて回復魔法をキールに掛ける。
「メルロマルクでこんな酷いことが行われているなんて…こんなこと許されていいはずがありません…」
「メルティ様。残念ですが、今のメルロマルクではこのような悲劇が国中のあちこちで発生しています」
「そんな…」
「このような悲劇を防ぐ為にセーアエット様が活動していらっしゃったのですが…今となっては…」
「今できるのはここまでだな」
「そうだね」
俺と尚文は傷を癒せることができるだけの回復魔法を掛けた。
「ラフタリア」
「はい」
ラフタリアは返事をすると、剣を抜きキールの手錠を破壊した。
キールは、体力が限界を迎えたの様で気を失った。
ラフタリアはキールをフィーロの背に乗せた。
「他に生存者は?」
「いません。この子たちで全てです」
「そうか。ならここにもう用はない。行くぞ」
ホムラはキールに回復魔法を掛けることに集中しており、メルティとライヒノットの会話を聞いていません。