綿毛のボクとヒーローのデク   作:月日は花客

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▼2:喧嘩はダメ!

 

「出久ー、水筒持った?」

「うん、大丈夫」

「メェちゃんと、暗くならないうちに帰ってくるのよ」

 

 個性が無いと知ってから数日が経った。

 

 大泣きしたごしゅは、治りかけの目元の腫れも気にせず、今日も公園へ行く。

 何度も何度も泣いて、それでもヒーローを諦められなかったごしゅは、今も将来の夢はヒーローだ。

 ボクは、ごしゅが夢をあきらめないでくれて、ボクの気持ちが伝わって嬉しい。

 

 いつも通りの日常が、戻ってきてた。

 ちょっと変わったのは、ごしゅの周り。

 ごしゅ以外のみんなは、とっくに“個性”を使い始めている。

 翼が生えたり、指が伸びたり。

 そして、個性の強さによる「格付け」みたいなのが、起き始めてた。

 

 別に、特性が強くても、ちゃんと鍛えないと意味無いのに。ボクはどうしてそんな偉がるのかわかんなかったけど、その中で肩身狭そうにしてるごしゅは嫌だった。

 ごしゅはヒーローになるんだ。そのためには、怖くても立ち向かわないといけない事がきっとたくさんある。

 

 ポケモンバトルでは、時には不利なタイプ相手でも突っ込んでいかないといけない。

 雨を降らされたり、素早さが逆転しても、動かないといけない。そうリザードンおじちゃんが言ってた。

 ギャッキョーに負けるな! って、口癖みたいに。

 

 でも、ごしゅはまだ自分だけで不利なタイプの相手と戦えない。なら、ボクが背中を押してやればいい。

 ごしゅが背を曲げてても、ボクは胸を張っててやる! ……張る胸、どこだろう?

 

 ごしゅといつもの公園に来る。

 そこにはもう既に他の子どもも遊んでいて、ボクはその中の一人にうげっと嫌な顔をした。

 

「よぉデク」

「……かっちゃん」

 

 目つきが悪くて、攻撃が一段階下がりそうな顔をしたとげとげは、偉そうにこっちを見てニヤニヤしてる。

 とげとげは、もう知ってるんだ。ごしゅに個性が無いことを。

 ママは、とげとげのママとも知り合いで、話をしてるのをよく聞くから。

 ママととげとげのママは仲が良さそうだけど、こっちは正反対。

 ごしゅは、若干肩を震わせていた。

 

「よく公園に来れたな。“無個性”なんて、俺だったら外にも出れないね」

「……」

「クソデク、お前にもうヒーローになる資格なんてねぇよ」

 

 とげとげはそう言って、わざとらしく手元を爆発させた。

 とげとげは、手から爆発を出せる個性らしい。飛び散る火花は、ボクも苦手だ。ほのおタイプはばつぐんなんだもの。

 でも、ごしゅはヒーローの資格を失ってない。そもそも、ヒーローに資格っているの?

 ジムバッヂが、この世界にもあるのかな。

 

「クソ毛玉と一緒に家に帰れよ」

「メッ……メェちゃんの事をクソって言うな!」

 

 優しいごしゅは、ボクが悪く言われた事を怒ってくれる。でもボクは気にしないから、良いんだ。ボクはごしゅを悪く言われる方が嫌だもの。

 ごしゅにいきなり逆らわれたとげとげは、明らかに怒ったみたい。

 目が吊り上がって、青筋が浮かぶからわかりやすい。

 

「それなら──ヒーローごっこの的にでもなってろよ!!」

 

 とげとげがごしゅに殴りかかった。

 なんてことを!

 

 爆発しながらの拳は、威力は低いけどほのおのパンチみたいで、ボクは怯んでしまった。

 ごしゅはなんとか抵抗しようとしてるけど、個性を使われてうまく動けてない。

 とげとげの取り巻きも参戦して、一方的な暴力は酷くなっていく。

 

 目と目があったらポケモン勝負! は、お互いがトレーナーで、相手が危険な状態にいない時じゃないとやらないらしい。

 危険な状態ってのは、あくまでもトレーナー本人がだけど。

 でも、この世界は代わりに戦ってくれるポケモンはいないし、ごしゅ達もまだ年齢が一桁だ。

 こんなの、勝負でも遊びでもない。

 

「メェちゃんに……あやまれ……」

「ウルセェ! クソデクが俺に指図してんじゃねぇ!!」

 

 こんな時でも、ごしゅはボクを背に隠して守ってくれる。ボクに謝れって言ってくれる。

 ボクは許せなかった。

 守られてばっかりの、舞い散る火花に怯えてしまった自分が。

 

 ギャッキョーを恐れるなって、リザードンおじちゃんも言ってたのに。

 ボク自身が、それをできてなかった。

 なんて情けないんだろう。

 未来のヒーローのポケモンが、こんなんじゃいけない。ボクは、戦わないといけない。

 

 ごしゅを、守るんだ!!

 

「メェーッ!!」

「ぐえっ!?」

 

 ボクは、近くにいた取り巻きの一人にたいあたりをした。わざでもない、ただぶつかっただけだけど。

 相手は個性を持ってても、ニンゲンの子どもだから、手加減はしてる。ボクもまだレベルが低いけど、ニンゲンとポケモンの身体能力は訳が違うらしい。

 大怪我は負わせないくらいに、でも怒りを込めて立ち向かう。

 

「クソ毛玉が!」

「うわぁ!?」

 

 もう一人の取り巻きにも、たいあたり。

 小さい身体はゴロンと向こうへ転がっていった。

 ごしゅは、驚いて固まってるみたい。

 とげとげの怒りは、更に増したみたいだけど、ボクはとげとげ相手にも引く気は無かった。

 

「俺に逆らうんじゃ、ねぇ!!」

「メッ!」

 

 綿毛を掴まれて爆発した。火がチリチリと焼けて痛い。綿毛がちぎれる。

 でも、ボクはポケモンだから、ごしゅよりもきっと痛くない。ごしゅはもっと痛かったはずだもの。

 爆破されても、ボクはとげとげにたいあたりしたり、「すいとる」で力を奪ったりした。ちょっとしか吸えないけど、爆破の傷を少しは回復できる。

 

「メェちゃん、やめて……! かっちゃん、メェちゃんを殴らないでよ!!」

「うるせぇうるせぇ!! 毛玉のくせに、クソ毛玉のくせに!!」

「メーッ!!」

 

 ボクは何度も何度もとげとげに攻撃した。

 負けじととげとげがボクに爆発を浴びせる。

 綿毛や葉っぱには焦げ跡ができていたし、正直すっごく痛いけど。

 ボクのごしゅは強くて優しいヒーローになるんだ!

 世界一のヒーローになるんだ!

 それを、馬鹿にするな!!

 

「メ、メー!!」

「メェちゃんも、もうやめよう! 体、ボロボロだよ……」

「メェ! メェ!」

「クソ! クソ! 俺に……歯向かってんじゃ、ねぇー!!」

 

 一際大きい爆発が、ボクを襲った。

 ボクはもう、気力だけで戦っていたから、それがトドメになって、倒れてしまった。

 ボクには大量の傷が付いていたけど、とげとげにも、沢山傷がついていたし、いつもより体力が無くなったみたいだった。

 ボクが地面に転がって、気が済んだのかとげとげは肩で息をしながら帰っていった。

 

 公園には、いつのまにかボクとごしゅだけが残されている。

 

「メェちゃん……」

「……メ」

「ごめん……ごめんね……!」

「メェ……」

 

 どうしてごしゅが謝るの。

 ごしゅはボクを守ってくれたよ。

 だから、ボクもごしゅを守ったんだよ。戦ったんだよ。

 ごしゅ、もっと笑ってよ。ごしゅの憧れのヒーローは、動画でもポスターでも笑ってたよ。

 

「ごめん……」

 

 ごしゅは、帰り道もボクを抱き抱えながら、ずっと謝ってた。

 ボクはボロボロで、とげとげにも負けちゃったけど、ごしゅのためになったかな。

 ごしゅは優しいから、負けてもボクを見捨てないんだ。

 

 ママにもびっくりされた。

 とげとげと大喧嘩したってごしゅが伝えて、ママもなんとなく理由がわかったのか、また泣いちゃった。

 消毒液はとっても沁みたし、ほとんど動けないほど疲れてて、早めに寝た。

 この世界には、すぐに体力が回復するポケモンセンターは無いみたい。

 なくした綿毛はきっとすぐに生えてくるけど、身体についた火傷跡は、しばらく痛むだろうな。

 

 でも、おひさまを浴びたら、きっとすぐ元気になるよ。

 だから、ごしゅもママもそんな悲しい顔しなくていいんだ。

 ボクは、ギャッキョーに負けないように頑張ったんだ。

 だから、いっぱい褒めてね。

 

 *

 

 次の日、ボクが日の当たる窓辺で寝ていたら、外に行ってたごしゅが、傷だらけになって帰ってきた。

 

「おそろいだね」

 

 とげとげに、ひとりで立ち向かって、大喧嘩したんだって。

 絆創膏を指差して笑うごしゅは、やっぱりヒーローになれると思った。

 

 







▼ごしゅ
「ごしゅじんさま」が長くて言えない。鳴き声として言いやすい形。

▼ママ
とっても大好き。綿毛を散らすと怒られちゃうから、気をつけよう。

▼とげとげ
髪型から。ほのおタイプだと思われている。

▼リザードンおじちゃん
ボックスにたまにいる物知りなおじちゃん。
トレーナーのダブル用晴れパ要員。古い世代から毎世代経由している古豪であり、トレーナーの推し。
モンメンに良い話も余計な話もしている。
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