「出久ー、水筒持った?」
「うん、大丈夫」
「メェちゃんと、暗くならないうちに帰ってくるのよ」
個性が無いと知ってから数日が経った。
大泣きしたごしゅは、治りかけの目元の腫れも気にせず、今日も公園へ行く。
何度も何度も泣いて、それでもヒーローを諦められなかったごしゅは、今も将来の夢はヒーローだ。
ボクは、ごしゅが夢をあきらめないでくれて、ボクの気持ちが伝わって嬉しい。
いつも通りの日常が、戻ってきてた。
ちょっと変わったのは、ごしゅの周り。
ごしゅ以外のみんなは、とっくに“個性”を使い始めている。
翼が生えたり、指が伸びたり。
そして、個性の強さによる「格付け」みたいなのが、起き始めてた。
別に、特性が強くても、ちゃんと鍛えないと意味無いのに。ボクはどうしてそんな偉がるのかわかんなかったけど、その中で肩身狭そうにしてるごしゅは嫌だった。
ごしゅはヒーローになるんだ。そのためには、怖くても立ち向かわないといけない事がきっとたくさんある。
ポケモンバトルでは、時には不利なタイプ相手でも突っ込んでいかないといけない。
雨を降らされたり、素早さが逆転しても、動かないといけない。そうリザードンおじちゃんが言ってた。
ギャッキョーに負けるな! って、口癖みたいに。
でも、ごしゅはまだ自分だけで不利なタイプの相手と戦えない。なら、ボクが背中を押してやればいい。
ごしゅが背を曲げてても、ボクは胸を張っててやる! ……張る胸、どこだろう?
ごしゅといつもの公園に来る。
そこにはもう既に他の子どもも遊んでいて、ボクはその中の一人にうげっと嫌な顔をした。
「よぉデク」
「……かっちゃん」
目つきが悪くて、攻撃が一段階下がりそうな顔をしたとげとげは、偉そうにこっちを見てニヤニヤしてる。
とげとげは、もう知ってるんだ。ごしゅに個性が無いことを。
ママは、とげとげのママとも知り合いで、話をしてるのをよく聞くから。
ママととげとげのママは仲が良さそうだけど、こっちは正反対。
ごしゅは、若干肩を震わせていた。
「よく公園に来れたな。“無個性”なんて、俺だったら外にも出れないね」
「……」
「クソデク、お前にもうヒーローになる資格なんてねぇよ」
とげとげはそう言って、わざとらしく手元を爆発させた。
とげとげは、手から爆発を出せる個性らしい。飛び散る火花は、ボクも苦手だ。ほのおタイプはばつぐんなんだもの。
でも、ごしゅはヒーローの資格を失ってない。そもそも、ヒーローに資格っているの?
ジムバッヂが、この世界にもあるのかな。
「クソ毛玉と一緒に家に帰れよ」
「メッ……メェちゃんの事をクソって言うな!」
優しいごしゅは、ボクが悪く言われた事を怒ってくれる。でもボクは気にしないから、良いんだ。ボクはごしゅを悪く言われる方が嫌だもの。
ごしゅにいきなり逆らわれたとげとげは、明らかに怒ったみたい。
目が吊り上がって、青筋が浮かぶからわかりやすい。
「それなら──ヒーローごっこの的にでもなってろよ!!」
とげとげがごしゅに殴りかかった。
なんてことを!
爆発しながらの拳は、威力は低いけどほのおのパンチみたいで、ボクは怯んでしまった。
ごしゅはなんとか抵抗しようとしてるけど、個性を使われてうまく動けてない。
とげとげの取り巻きも参戦して、一方的な暴力は酷くなっていく。
目と目があったらポケモン勝負! は、お互いがトレーナーで、相手が危険な状態にいない時じゃないとやらないらしい。
危険な状態ってのは、あくまでもトレーナー本人がだけど。
でも、この世界は代わりに戦ってくれるポケモンはいないし、ごしゅ達もまだ年齢が一桁だ。
こんなの、勝負でも遊びでもない。
「メェちゃんに……あやまれ……」
「ウルセェ! クソデクが俺に指図してんじゃねぇ!!」
こんな時でも、ごしゅはボクを背に隠して守ってくれる。ボクに謝れって言ってくれる。
ボクは許せなかった。
守られてばっかりの、舞い散る火花に怯えてしまった自分が。
ギャッキョーを恐れるなって、リザードンおじちゃんも言ってたのに。
ボク自身が、それをできてなかった。
なんて情けないんだろう。
未来のヒーローのポケモンが、こんなんじゃいけない。ボクは、戦わないといけない。
ごしゅを、守るんだ!!
「メェーッ!!」
「ぐえっ!?」
ボクは、近くにいた取り巻きの一人にたいあたりをした。わざでもない、ただぶつかっただけだけど。
相手は個性を持ってても、ニンゲンの子どもだから、手加減はしてる。ボクもまだレベルが低いけど、ニンゲンとポケモンの身体能力は訳が違うらしい。
大怪我は負わせないくらいに、でも怒りを込めて立ち向かう。
「クソ毛玉が!」
「うわぁ!?」
もう一人の取り巻きにも、たいあたり。
小さい身体はゴロンと向こうへ転がっていった。
ごしゅは、驚いて固まってるみたい。
とげとげの怒りは、更に増したみたいだけど、ボクはとげとげ相手にも引く気は無かった。
「俺に逆らうんじゃ、ねぇ!!」
「メッ!」
綿毛を掴まれて爆発した。火がチリチリと焼けて痛い。綿毛がちぎれる。
でも、ボクはポケモンだから、ごしゅよりもきっと痛くない。ごしゅはもっと痛かったはずだもの。
爆破されても、ボクはとげとげにたいあたりしたり、「すいとる」で力を奪ったりした。ちょっとしか吸えないけど、爆破の傷を少しは回復できる。
「メェちゃん、やめて……! かっちゃん、メェちゃんを殴らないでよ!!」
「うるせぇうるせぇ!! 毛玉のくせに、クソ毛玉のくせに!!」
「メーッ!!」
ボクは何度も何度もとげとげに攻撃した。
負けじととげとげがボクに爆発を浴びせる。
綿毛や葉っぱには焦げ跡ができていたし、正直すっごく痛いけど。
ボクのごしゅは強くて優しいヒーローになるんだ!
世界一のヒーローになるんだ!
それを、馬鹿にするな!!
「メ、メー!!」
「メェちゃんも、もうやめよう! 体、ボロボロだよ……」
「メェ! メェ!」
「クソ! クソ! 俺に……歯向かってんじゃ、ねぇー!!」
一際大きい爆発が、ボクを襲った。
ボクはもう、気力だけで戦っていたから、それがトドメになって、倒れてしまった。
ボクには大量の傷が付いていたけど、とげとげにも、沢山傷がついていたし、いつもより体力が無くなったみたいだった。
ボクが地面に転がって、気が済んだのかとげとげは肩で息をしながら帰っていった。
公園には、いつのまにかボクとごしゅだけが残されている。
「メェちゃん……」
「……メ」
「ごめん……ごめんね……!」
「メェ……」
どうしてごしゅが謝るの。
ごしゅはボクを守ってくれたよ。
だから、ボクもごしゅを守ったんだよ。戦ったんだよ。
ごしゅ、もっと笑ってよ。ごしゅの憧れのヒーローは、動画でもポスターでも笑ってたよ。
「ごめん……」
ごしゅは、帰り道もボクを抱き抱えながら、ずっと謝ってた。
ボクはボロボロで、とげとげにも負けちゃったけど、ごしゅのためになったかな。
ごしゅは優しいから、負けてもボクを見捨てないんだ。
ママにもびっくりされた。
とげとげと大喧嘩したってごしゅが伝えて、ママもなんとなく理由がわかったのか、また泣いちゃった。
消毒液はとっても沁みたし、ほとんど動けないほど疲れてて、早めに寝た。
この世界には、すぐに体力が回復するポケモンセンターは無いみたい。
なくした綿毛はきっとすぐに生えてくるけど、身体についた火傷跡は、しばらく痛むだろうな。
でも、おひさまを浴びたら、きっとすぐ元気になるよ。
だから、ごしゅもママもそんな悲しい顔しなくていいんだ。
ボクは、ギャッキョーに負けないように頑張ったんだ。
だから、いっぱい褒めてね。
*
次の日、ボクが日の当たる窓辺で寝ていたら、外に行ってたごしゅが、傷だらけになって帰ってきた。
「おそろいだね」
とげとげに、ひとりで立ち向かって、大喧嘩したんだって。
絆創膏を指差して笑うごしゅは、やっぱりヒーローになれると思った。
▼ごしゅ
「ごしゅじんさま」が長くて言えない。鳴き声として言いやすい形。
▼ママ
とっても大好き。綿毛を散らすと怒られちゃうから、気をつけよう。
▼とげとげ
髪型から。ほのおタイプだと思われている。
▼リザードンおじちゃん
ボックスにたまにいる物知りなおじちゃん。
トレーナーのダブル用晴れパ要員。古い世代から毎世代経由している古豪であり、トレーナーの推し。
モンメンに良い話も余計な話もしている。