出久が無個性なんてありえねー…!   作:がんばリーリエ

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金色の夜明け

 

 翌日。

 午前中の座学という退屈な必修科目を終え、午後のヒーロー基礎学の時間がやってきた。

 教室で次の授業の準備をしていると、突如として廊下からドタドタと巨大な足音が響いてきた。

 

「私が!! 普通にドアから来た!!」

 

 けたたましい声と共に、赤青黄の派手なコスチュームに身を包んだNo.1ヒーロー、オールマイトが教室に滑り込んできた。

 

「うおおお! 本当にオールマイトだ!」

 

「すげえ、画風が違って見える……!」

 

 クラスの連中が歓声を上げる中、オレは静かにその筋骨隆々な姿を見つめていた。圧倒的な存在感とプレッシャー。これが、平和の象徴。出久がずっと憧れ続け、背中を追い続けてきた男。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくるため、様々な訓練を行う科目だ! さっそく本日はコレ! 『戦闘訓練』!!」

 

 オールマイトがビシッと指を突き出すと同時に、教室の壁から番号の振られたアタッシュケースがせり出してきた。

 入学前に提出した個性届と要望を基に作られた、オレたち専用の戦闘服──ヒーローコスチュームだ。

 

「着替えたら、グラウンドβに集まるように!」

 

 更衣室で袖を通したオレのコスチュームは、オレの要望を形にした、優雅な衣装。

 そのデザインは、かつて孤児院で読んだ古いファンタジー小説に登場する最強の魔法騎士団、『金色の夜明け』の制服をイメージしたものだ。

 白を基調としたジャケットには鮮やかな赤いパネルが組み込まれ、精緻な金色の刺繍とファー付きの高い襟が特徴的だ。肩から金のケープと紺のマントを羽織り、その正面には金色の紋章が誇り高く輝いていた。

 腰には金色の鳥を象ったバックルのベルトを巻き、黒い膝上ブーツで足元を引き締めている。

 マントは飛行時の空力制御とアンテナの役割を完璧に果たしているが、ベルト周りだけは、まだ理想の装備が定まらず空っぽのままになっていた。

 

「おお、ユノ! そのコスチューム、ファンタジーの騎士みたいでめっちゃかっこいいな!」

 

 切島がオレの姿を見て声をかけてきた。切島やその他の人間にも、グリンベリオールは長いからユノでいいと伝えてある。

 

「当然よ! ユノは元が良いんだから、何を着たって一番似合うの!」

 

 マントの肩口に座ったベルが、我が事のように胸を張っている。

 

「ユ、ユノ君……! すごい、似合ってるね」

 

 もじもじしながら現れたのは、出久だった。

 緑色のジャージに、ウサギの耳のような飾りがついたマスク。正直、洗練されているとは言い難いデザインだったが、オレはそのコスチュームが何をモチーフにしているのか、すぐに気付いた。

 

「出久。……そのデザイン、オールマイトか」

 

「えっ!? あ、あはは……バレちゃったかな」

 

 照れくさそうに頭を掻く出久を見て、オレは小さく鼻で笑う。

 あいつらしい、真っ直ぐすぎるコスチュームだ。

 

「悪くない」

 

 オレが短くそう告げると、出久はパッと顔を輝かせた。

 

 全員が集まったところで、オールマイトが戦闘訓練のルールを説明を始めた。

 どうやら、ルールはこうらしい。

 生徒は2人1組で「ヒーローチーム」と「ヴィランチーム」に分かれ、屋内で2対2の戦闘を行う。

 ヴィラン陣営は屋内に隠された「核兵器」を守り抜き、ヒーロー陣営はそれを制限時間内に回収、もしくはヴィランを制圧すれば勝利となる。

 

「先生! ペアや対戦相手はどのように決めるのですか!?」

 

 飯田が、全身を装甲で覆ったような重厚なコスチューム姿で挙手をする。

 

「くじ引きだ少年!!」

 

「適当なんですね!?」

 

「プロも他事務所のヒーローと急造チームを組むことが多いからな! それでは早速、チームを発表するぞ!」

 

 オールマイトが箱からボールを引き、次々とペアを読み上げていく。

 オレは、八百万と同じ『チームC』になった。

 

「ユノさん、ベルさん。よろしくお願いいたしますわね」

 

 凛とした声に振り返ると、露出の多い赤いコスチュームに身を包んだ八百万百が立っていた。

 彼女の『創造』の個性は、自身の脂質からあらゆる無機物を創り出せるという。そのために肌の露出面積が広いのだろうが、目のやり場に少し困るデザインだ。

 

「……ああ」

 

「ちょっと! なによそのダイナマイトボディ! ユノに近づきすぎないでよね!」

 

 オレの肩に座ったベルが、八百万の豊かな胸元を見てキーキーと威嚇し始めた。

 

「ダ、ダイナマイト……!? わ、私はただ個性の行使のためにこの面積が必要なだけで、決して不純な意図は……!」

 

「ベル、騒ぐな。最初の対戦カードだ」

 

 そして、運命の悪戯か。

 最初の対戦カードとして発表されたのは──。

 

「ヴィランチーム、爆豪少年・飯田少年! 対するヒーローチーム、緑谷少年・麗日少女!」

 

 その名前が呼ばれた瞬間、出久の肩がビクッと跳ね、爆豪の顔に凄惨な笑みが浮かんだのが見えた。

 

 ✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦

 

 オレたち残りの生徒はモニタールームへと移動し、最初の試合を観戦した。

 試合開始直後、爆豪がいきなり出久たちを奇襲する。土煙が晴れた先、爆豪の右フックが出久に迫った。これまでなら目を瞑って殴られるままだったはずの出久が、その腕を掴み、見事な背負い投げで爆豪を床に叩きつけた。

 

「すごい! あの爆豪を投げ飛ばしたぞ!?」

 

「個性を……今の、力増強の個性を使ってないのに!」

 

 クラスの連中がどよめく。当然だ。出久はずっと、誰よりも爆豪を、そしてヒーローを観察し、分析し続けてきたのだから。

 

(……そうだ、出久。お前はただの石ころなんかじゃない)

 

 オレの口角が自然と上がる。だが、プライドを傷つけられた爆豪は、完全に常軌を逸したヴィランへと変貌した。

 右腕に装備された巨大な手榴弾型のガントレット。そのピンが引き抜かれた瞬間、モニタールームの画面が白く染まり、ビル全体を揺るがす規格外の爆発音が轟いた。

 

「あいつ、頭おかしいんじゃないの!? 訓練で普通あんな威力出す!?」

 

「……ああ。完全に我を忘れてるな。だが、あの威力と戦闘センスは本物だ」

 

 肩で震えるベルの言葉に同意しつつも、オレは爆豪の純粋な『力』に戦慄すら覚えていた。怒りに身を任せているように見えて、出久を追い詰める動きには全く隙がない。

 やがて、ボロボロになった出久と爆豪が通路で真っ向から激突する。

 二人の攻撃が交差する刹那、オレは出久が攻撃軌道をズラし、上空──つまり、上の階に向けて強大な個性を放つのを見た。

 

「スマッシュゥゥゥッ!!」

 

 凄まじい衝撃波がビルの天井を何層にもわたってぶち抜き、その余波で崩壊した最上階の隙を突き、麗日が核兵器の回収に成功した。

 

『ヒ、ヒーローチーム……ウィィィン!!』

 

 モニターに映し出された決着の光景。

 勝者である出久は個性の反動で右腕を赤黒く腫れ上がらせて倒れ、敗者である爆豪はほぼ無傷のまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 

「……勝負には負けたが、戦闘では完全に圧倒していた。……いや、違うな」

 

「ええ。緑谷さんは最初から、麗日さんが核を回収するための『活路を開く』ことだけを目的としていましたわ。訓練のルールとしては緑谷さんの完勝です」

 

 オレの呟きに、隣で見ていた八百万が静かに頷く。

 自分の全力を出しても、無個性だったはずの出久の手のひらの上で踊らされていた。その事実が、あの爆豪のプライドをどれほどへし折ったか、想像に難くない。

 全員がモニタールームに戻った後、オールマイトはこの試合のMVPを、最も冷静に状況に適応していたヴィラン役の飯田だと発表した。八百万が完璧な解説でそれを後押しする。

 

「ふふん、ユノ! 私たちのチームメイト、なかなか優秀じゃない!」

 

「そうだな。これなら、オレも気兼ねなく暴れられそうだ」

 

 出久は、あんなボロボロになってまで己の力を証明してみせた。

 爆豪は、狂気とも言える執念で圧倒的な戦闘力を見せつけた。

 

 ならオレは──圧倒的に勝利し、力の差を見せつける。

 

 

 ✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦

 

 

 やがてオールマイトが、オレたちのチーム番号を読み上げる。

 

「第2試合! ヒーローチーム、障子少年・轟少年! 対するヴィランチーム……グリンベリオール少年・八百万少女!」

 

「参りましょうか、ユノさん」

 

「ああ。行くぞ、ベル」

 

 オレは八百万と共に、核兵器が設置された演習ビルへと足を踏み入れた。

 ヴィランチームであるオレと八百万は、最上階の部屋で開始の合図を待っていた。

 

「轟さんは私と同じ推薦入学者。個性は『半冷半燃』……おそらく、凄まじい規模の氷結による制圧を仕掛けてきますわ。凍結対策として、私が断熱シートやヒーターを『創造』して──」

 

「いや、その必要はない」

 

 次々と的確な防衛策を口にする八百万を制し、オレは肩でふんぞり返っているベルを指差した。

 

「氷結が来るなら、その冷気が届く前に、全て風で吹き飛ばして砕く。ベル、索敵を頼む」

 

「まかせて! どんなに冷たい氷だって、私の風の前じゃただのかき氷よ!」

 

 八百万が「……その自信、信じさせていただきますわ」と頷いた直後、モニタールームからオールマイトの開始の合図が響き渡った。

 

『屋内対人戦闘訓練、第2試合……START!!』

 

 アナウンスと同時。ビル全体の空気が、一瞬にして凍りついた。

 バキバキバキッ!! という激しい音と共に、下の階から凄まじい勢いで氷壁が迫り上がってくる。個性把握テストで見せた、建物を丸ごと凍結させる轟の大技だ。

 

「来ましたわ!」

 

「ああ」

 

 部屋の入り口から巨大な氷の波が雪崩れ込んでくる。オレは一歩も動かず、右手を前に突き出した。

 

「風魔法──『暴嵐の牙』」

 

 オレの掌から解き放たれた圧縮された竜巻が、入り口で氷の波と真正面から激突する。

 ドガァァァンッ!! という轟音と共に、ビルを飲み込もうとしていた強固な氷結が、圧倒的な風のミキサーによって粉々に粉砕され、キラキラとした氷の結晶となって宙に舞い散った。

 

「なっ……氷を、全て砕かれましたの!?」

 

 驚愕する八百万を背に、オレは足元に風を纏い、宙に浮き上がった。

 

「八百万、核の護衛を頼む。オレは打って出る」

 

 粉砕した氷のトンネルを抜け、オレは吹き抜けの階段を滑空するように降下していく。

 1階のエントランス。そこには、建物全体を凍らせたつもりで歩みを進めようとしていた轟と、その背後にいる障子の姿があった。

 

「……何?」

 

 自身の氷が最上階の手前で完全に打ち砕かれたことを察知したのか、轟が僅かに目を見開く。その視線の先に、風を纏って静かに降り立つオレの姿があった。

 

「氷結の規模と速度は申し分ない。だが──オレの風を凍らせるには、まだ練度が足りないな」

 

「……風野郎が」

 

 轟が右足を踏み込み、再び巨大な氷の波をオレに向けて放つ。だが、軌道が直線的すぎる。

 オレは空中で軽やかに身を躱すと同時に、腕を鋭く振り抜いた。

 

「風魔法──『カマイタチの三日月』」

 

 不可視の風の刃が、轟の放った氷壁を縦に両断する。

「なっ……!」と轟が息を呑んだ隙を逃さず、オレは一気に距離を詰めた。

 圧倒的な風のプレッシャーで轟の動きを封じ、すれ違いざまに、八百万から予め受け取っていた捕縛テープをその腕に巻きつける。

 その瞬間、オレは轟の右半身が微かに震え、霜が降りているのを見逃さなかった。

 

(……自身の氷結で凍傷になりかけている? ……だが、左半身の炎を使うことで、そのデメリットを消せるのか)

 

 オレは轟の耳元で、わざと冷酷に囁いた。

 

「左半身の力を使わないのは、どういう縛りだ?」

 

「……ッ!!」

 

 轟の瞳が、驚愕と、それに続く強烈な怒りに見開かれる。

 

「つまらない意地で半分の力しか出さないなら、お前は一生オレには勝てないぞ」

 

「てめぇ……! 俺の事情も知らねぇくせに……俺は、親父の力なんかなくたって……!」

 

「事情なんて関係ない。オレは、最高のヒーローになる。あいつとそう誓った。中途半端な覚悟なら、そこで凍ってろ」

 

 言葉と共に風の圧力を強め、轟を完全に床へと縫い留める。

 

「……黙れッ」

 

 轟がギリッと奥歯を噛み締め、屈辱に顔を歪めながら絞り出したその一言を最後に、抗う力は完全に封じ込められた。

 

 同時に、背後で気配を消していた障子に対しても、ベルが「そこよ!」と指差した方向へ風の帯を放ち、壁に縫い付けるように拘束した。

 

「捕縛完了だ」

 

 オレが静かに告げると、スピーカーからオールマイトの震える声が響いた。

 

『ヒ、ヒーローチーム捕縛……!! ヴィランチーム、ウィィィン!!』

 

 

 ✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦

 

 

 モニタールームに戻ると、室内は異様なほどの静寂に包まれていた。

 最初に沈黙を破ったのは、電気の個性を持つ上鳴だった。

 

「……うそだろ、あの轟の氷を真正面から粉砕して、無傷で制圧したぞ!?」

 

 その言葉に対して、常闇が続ける。

 

「ああ。しかも、一瞬で距離を詰める圧倒的な機動力……。第1試合の緑谷や爆豪とは対極の、あまりにも完璧すぎる制圧だ」

 

 クラスの連中が「轟が手も足も出ないなんて」「あれが、入試トップの実力……!」とどよめいている。

 

「ベストMVPは、グリンベリオール少年だ! 轟少年の規格外の氷結に対し、自身の個性を完全にコントロールして防ぎきり、迅速な反撃で敵を無力化してのけた!」

 

 オールマイトの称賛を受け、オレは無表情のまま頷いた。

 

「お疲れ様ですわ、ユノさん。私、結局は核の傍にいただけですけれど……あなたの実力、本当に恐れ入りましたわ」

 

「いや。八百万が核を守ってくれているという安心感があったからこそ、オレは攻めに集中できた。助かった」

 

「……ふふっ。ありがとうございます」

 

 オレの言葉に、八百万が嬉しそうに微笑む。

「おいコラ! 私の索敵と風のおかげでもあるんだからね!」とベルが耳元で騒いでいたため、オレはこっそりとキャンディを取り出し、ベルの口に放り込んで黙らせた。

 

 クラスの連中から向けられる羨望と驚愕の視線。オレは、一人だけギリッと奥歯を噛み締めている爆豪と、オレの言葉に激しい葛藤と対抗心を燃やし、静かにこちらを睨みつけている轟の姿を視界の端に捉えた。

 

 オレは、保健室にいるたった一人のライバルに向けて、心の中で言う。

 

(……出久。オレはもっと先にいるぞ。お前も、早く来い)

 

 最高のヒーローになるための第一歩として、オレはA組の連中に己の存在を完全に刻み込んだのだった。

 

 

✦ ━━━━━━━━━━━━━━ ✦

 

 

 そして、その少し後。雄英高校の保健室。

 リカバリーガールの治療を受け、ベッドの上で目を覚ました出久は、自身の包帯だらけの右腕を見つめていた。

 

「無茶しすぎさね、まったく……。体の方がまだ個性に追いついてないんだよ」

 

 呆れたように言うリカバリーガールの言葉に、出久は「すみません……」と苦笑する。

 そこへ、訓練を終えたオールマイトが、本来の痩せ細った姿で労いにやってきた。

 

「よくやった、緑谷少年!……と、言ってあげたいところだが、無理しすぎだよ君は!」

 

「う……返す言葉もありません」

 

「まあ、今日は君が幼馴染に勝ちたかったという気持ちを汲んであげるが……今日のような無茶はしないように。いいね?」

 

「はい……」

 

「それと……君のもう一人の幼馴染もとんでもなかったよ。まさか、無傷であの轟少年に勝利してしまうとは。あの場にいた全員が度肝を抜かれていた」

 

 オールマイトの言葉を聞いて、出久は驚くどころか、どこか誇らしげに、そして嬉しそうにフッと笑みをこぼした。

 

「……当然です。ユノ君は、誰よりも凄いんですから」

 

 出久はギュッと、動く方の左手でシーツを握りしめる。

 自分はボロボロになって、やっとの思いで勝った。でもユノは、あの轟相手に無傷で圧倒したのだ。その距離の果てしなさに絶望しそうになるが、不思議と心は燃えていた。

 

「僕も……早く追いつかないと」

 

 窓の外の夕焼けを見つめながら、出久もまた、ユノと交わした誓いを胸に、静かに闘志を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 






 とりあえず、書けてるところまで一気に投稿しました。
改善点や修正案、設定の矛盾点などあれば教えてください。
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