インシデント事後調査報告書: 事案██-M-G
調査機関: 財団北米支部 特異事象調査班、及び物理学研究部門
対象地域: アメリカ合衆国 ██州 █████市(通称:メトロ・シティ)
ステータス:異常性無し / 非アノマリー現象として認定
【概要】
1989年██月██日、北米の巨大地方都市█████市にて、都市全域を実効支配していた大規模犯罪組織が、僅か3名の一般市民(以下、対象群と呼称)によってたった一日の間に完全壊滅させられる事案が発生しました。
対象群の内訳は以下の通りです。
アルファ: 同市の現職市長。元プロの格闘技者。身長200cm超、筋骨隆々の壮年男性。
ベータ:市井の青年。ストリートファイトの経験が豊富。アルファの娘の交際相手。
ガンマ: 日本人の青年。東洋の伝統的な武術の継承者を自称。
対象群は、組織によって誘拐された市長の娘を奪還するため、スラム街、地下鉄網、工業地帯、ならび、最終的には組織の拠点である高層ビル群を単独、あるいは複数名で踏破しました。その際、数百名に及ぶ武装した組織構成員を徒手空拳および現地の廃材のみで無力化しています。
この信じ難い制圧力と、市内で観測された多数の物理法則を無視していると疑われる現象の報告を受け、財団は直ちに機動部隊および事後調査班をメトロ・シティに派遣。当該地域の封鎖と証拠の押収、ならびに関係者の記憶処理を前提としたアノマリーの特定に着手しました。
しかし、1ヶ月にわたる綿密な科学的検証、現地理論物理学者との共同研究、および押収品の分析の結果、本件において発生した全ての現象は異常性を伴わない、純粋な物理法則と既知の科学技術の範疇で説明可能な事象であるという結論に達しました。
以下は、財団の調査によって「異常ではない」と結論付けられた主な現象のリストとその科学的説明です。
【特異事象の検証と結論】
事象A: 破壊された密閉容器からの「新鮮な食物」の出現および即時的な治癒効果
報告された現象:
対象群は、市街地の路上や工場地帯に無造作に放置されていた木箱、あるいはドラム缶を破壊し、その中から出現した「焼成済みの肉塊(ローストチキン等)」「ホールピザ」「ハンバーガー」などの食料を即座に摂取していました。
特筆すべきは、これらの容器に密閉されていたにも関わらず食物が腐敗しておらず、更にこれを摂取した対象群が、重度の刃物による刺傷や銃撃、打撲などの物理的損傷から数十秒以内で完全に回復しているように見受けられた点です。
財団は当初、これらを「物質変換の異常」または「再生能力を付与する特異オブジェクト」であると推測しました。
科学的検証結果: 異常性なし
回収されたドラム缶および木箱の残骸を分析した結果、内部には真空パックおよび軍用の瞬間加熱ユニットが内蔵されていたことが判明しました。これらは犯罪組織がゲリラ戦や市街地での長期抗争を見越し、市内の至る所に隠匿していた「特殊携帯レーション」でした。
また、食料そのものの治癒効果については、組織お抱えの闇医者が調合した極めて高濃度の局所麻酔薬、急速凝血剤、およびアドレナリン物質がソースや肉に大量に混入されていたことが明らかになりました。
対象群はこれを経口摂取することで、持ち前の極めて特異な基礎代謝機能と反応し、痛覚の遮断と急激な止血が行われていたに過ぎません。外傷が消えたように見えたのは、付着した泥や血が極度の発汗によって洗い流された視覚的な錯覚。もしくはアドレナリンの過剰分泌による一時的な超回復であり、後日の健康診断のデータを参照した時において、対象群の体内には無数の骨折痕や筋断裂の治癒痕が確認されています。
事象B: 自己の生命力を代償とした全方位攻撃
報告された現象:
多数の武装構成員に完全に包囲され、回避不能な状況に陥った際、対象群が特定の体勢から不可視の衝撃波、あるいは猛烈な竜巻のような力場を発生させ、周囲360度にいる敵全員を同時に吹き飛ばしたという現象です。
この現象の発動後、対象群自身も明確に疲労し、バイタルサインが明確に低下していることが監視カメラの映像から確認されました。財団は「現実改変を伴う空間異常」または「未知の運動エネルギー放出オブジェクト」を疑いました。
科学的検証結果: 異常性なし
生体力学および流体力学を用いたシミュレーションの結果、この現象は純粋な物理的アプローチによって証明されました。
対象群は極度の危機的状況下において、人体のリミッターを意図的に解除し、全身の筋繊維を限界を超えて瞬間的に収縮・爆発させています。この異常な速度の旋回運動や打撃(アルファの場合は両腕を広げた猛烈な回転、ガンマの場合は空気を切り裂く全方位への回し蹴り)によって、局所的な急激な気圧低下が発生しました。
結果として生じたソニックブームによる凄まじい風圧が、周囲の構成員を物理的に弾き飛ばしていたのです。対象群が体力を消耗していたのは、この運動によって自身の筋繊維の一部を自ら引きちぎり、筋肉や関節に致命的な負荷をかけて筋断裂を起こしたためであり、超常的なエネルギーの対価などではありません。
火事場の馬鹿力を戦術レベルで自在に引き出す、極度に洗練されながらも、人体に多大な負荷をかける武術の一形態であると結論付けられました。
事象C: 徒手空拳による大型車両の急速な完全破壊
報告された現象:
市街地から工業地帯への移動中、ガソリンスタンド付近において、対象群が組織の構成員が所有する自動車を「素手および鉄パイプ等の単一の鈍器のみ」を用いて攻撃し、1分未満の極めて短時間で、車両全体を原型をとどめないスクラップ(エンジンブロックの破壊、フレームの崩壊、タイヤの破壊)に変容させました。
単一の人間が発揮できる物理的破壊力の限界を逸脱しているとみなされました。
科学的検証結果: 異常性なし
現場の車両の残骸を応力解析した結果、対象群は車両に対して無作為な暴力を振るっていたわけではないことが判明しました。
彼らは自動車工学における「構造的脆弱性」――即ち、フレームの溶接接合部、サスペンションの基部、エンジンマウントの留め具など――を瞬時に視認し、そこに的確な打撃を連続して与えていました。
打撃の運動量が車両の固有振動数と一致したことで、金属疲労が異常な速度で進行し、ドミノ倒しのように車両全体が自壊を引き起こした物理現象です。素手による打撃でフロントガラスを粉砕した点についても、対象群の拳の表面硬度と骨密度が長期の鍛錬によって極度に上昇していたという医学的な所見で十分に説明可能です。
単に彼らの破壊工作スキルが常軌を逸して高かっただけであり、異常性の介在はありません。
事象D: 同一の身体的・視覚的特徴を有する多数の構成員の存在
報告された現象:
暴動鎮圧後、地元警察および財団によって拘束・回収された数百名以上の組織構成員のうち、大多数の容姿が「完全に一致」していることが確認されました。
身長、体重、骨格、声帯の波形に至るまで全く同一の構成員が数名〜数十名単位で部隊を組んでおり、一部は全く同じジーンズに白いタンクトップ、あるいは黄色い革ジャンを着込んでいました。体格や顔は同一であるにも関わらず、服装の色彩だけが明確に異なる(個体群も存在しました。
財団は直ちにクローン生成装置の存在、または同一の実体を複製する時空間異常を前提としたKeterクラス案件として捜査本部を立ち上げました。
科学的検証結果: 異常性なし
全構成員のDNA鑑定および精密な医療検査の結果、彼らの遺伝子情報は完全に別個のものであり、クローン技術の介入は100%否定されました。
では何故彼らが全く同じ外見を有していたかについては、以下の複合的な理由による組織マネジメントの結果であることが犯罪心理学および証拠品から判明しました。
1. 極端な制服規定と身体改造プログラム:
この犯罪組織は構成員に対し、特定の服装の着用を義務付けていました。さらに、全員に同一の規格化された筋肉増強プログラムを課し、強制的に同じ体格を作り上げていました。
2. 大量の美容整形手術:
民衆に向けた組織の恐怖を煽り、市民に対してどこにでも組織の人間がいるというパラノイアを植え付けるため、あるいは警察の捜査網を攪乱するために、構成員たちは組織の資金で「同一の顔の鋳型」を用いた大量の美容整形手術を受けさせられていました。
3. 色彩による階級の差別化: 服装の色彩が異なっていた理由は、組織内の階級(タフネスや攻撃性のランク)を示すための単なる制服のカラーバリエーションでした。
4. 同族のスカウト:
似たような外見を効率よく揃えるため、特定の家系や双子・三つ子を優先的にリクルートする方針がとられていました(別報告書参照:「アンドレ」と呼称される一族など)。
これらは全て、巨大な犯罪シンジケートが有する潤沢な資金が生み出した反社会的なグループに過ぎず、超常現象ではありませんでした。
【結論】
本件のメトロ・シティにおける一連の騒乱と組織壊滅は、非常に特異かつ極端な事象ではありましたが、その全てが物理学、生体力学、薬理学、および集団心理学の枠内で完全に説明可能な非異常の出来事です。
財団特異事象調査班は、アルファ、ベータ、ガンマの3名がいかに常人を逸脱した身体能力を有していようとも、彼らがSCPオブジェクトとして収容されるべき特異性を持たない一般市民、あるいは優れた格闘家であると結論付けます。
本件は財団の管轄外と判断されたため、 連邦捜査局異常事件課への引き継ぎも行いません。事件は「長年にわたる市民の不満が爆発し、自警団の活躍により犯罪組織が瓦解した一般的な暴動事件」として適切なカバーストーリーを適用し、当該ファイルは通常アーカイブへと移送されます。
追記(物理学研究部門 主任研究員██):
「木箱のローストチキンを食べてナイフの刺し傷を治し、自身の筋肉を引きちぎりながら真空波を放ち、乗用車を素手で1分足らずでスクラップにする男たちが、ただの『鍛え抜かれた人間』であるという事実は、我々財団が収容している下手なオブジェクトよりもよっぽど恐ろしい現実かもしれない。だが、物理法則が彼らを『正常』だと認めている以上、我々が手出しをする理由はない。市長には今後の市政運営を頑張っていただきたいものだ。」
【内部通信プロトコル: レベル3機密指定】
宛先: サイト-██ 管理官 ████・████(北米第8管区・█████市周辺地域担当)
差出人: 財団北米管区司令部 内部査察局 /要注意団体監視部門合同評議会
件名: 事案██-M-Gに関する事後報告の受領、および当管轄サイトへの厳重注意通達
日付: 1989年██月██日
████管理官、
貴職より提出された「 事案██-M-G」に関するインシデント事後調査報告書を受理し、評価委員会による精査が完了したことを通知する。報告書にある通り、本件において当該市街を巻き込んだ大規模な暴力事象、およびそれに伴う諸現象が「異常性を持たない、極度に洗練された物理的暴力と異常な組織マネジメントの結果」であるという科学的結論については、我々も全面的に同意する。
対象-アルファをはじめとする3名の一般市民が、徒手空拳とナイフや鉄パイプで制圧力を純粋な物理法則の範疇で発揮した事実は驚嘆に値する。
本件にアノマリーが介在しておらず、超常的な収容対象が存在しないという結論は、財団にとって一つの朗報と言えるだろう。
しかしながら、本件における貴サイトの事前の怠慢については、極めて遺憾であり、看過できるものではない。
我々が問題視しているのは、単一の地方都市とはいえ、数年間にわたり警察機構を完全に腐敗させ、実効支配を成し遂げていた巨大犯罪組織の存在を、貴職らが非異常の範疇である、我々の管轄ではないとして、事実上放置し続けていたという事態そのものである。
財団の主目的が異常存在の収容と正常性の維持であることは間違いない。だが、それは「明白な異常性が観測されるまで何もしなくてよい」という免罪符ではない。
巨大な資金力、圧倒的な暴力、そして治外法権的な領域を有する巨大な犯罪シンジケートが、我々にとってどれほどの潜在的脅威となり得るか、貴職は失念しているのではないか。
過去の記録を紐解くまでもなく、裏社会で強大な力を持つ組織は、必然的に「通常ではない力」を求めるようになる。彼らが支配する密輸ルートやブラックマーケットは、極めて容易に異常存在の売買ネットワークと直結するのだ。
もし 事案██-M-Gがその膨大な資金を以て、マーシャル・カーター&ダーク株式会社の顧客名簿に名を連ねていたらどうなっていたか。カオス・インサージェンシーから異常性を付与されたパラテック兵器を購入し、構成員に装備させていたら?
あるいはプロメテウス・ラボの残党と接触し、前述の同一の身体的特徴を持つ構成員を、単なる整形手術ではなく真の生体異常クローンとして量産し始めていたら?
そうなれば、彼らは単なるストリートの犯罪組織ではなく、財団ですら容易には対処し難い新たな「要注意団体」へと変貌を遂げていたはずだ。
今回の事案は、たまたま市長とその個人的な協力者たちという「規格外の身体能力を持つが、あくまで非異常の市民」が、たった一夜の苛烈な暴力によって事態を終息させてくれたから事なきを得たに過ぎない。
だが、一つ歯車が狂っていればどうなっていたか。市長らが道半ばで倒れていた場合、あるいは組織の幹部たちが彼らの進撃に恐怖し、市長らを排除するために「切り札」として闇市場から異常なオブジェクトや現実改変の手段を調達していた場合、あの都市は財団の理念を根底から破壊するグランド・ゼロとなっていた可能性が極めて高い。
貴職らは、対象-アルファ達の暴れ回った結果を事後的に計測し、「物理法則で説明がつく」と安堵の息を漏らしているが、我々から見れば、あれは財団の介入なしに、奇跡的な確率で最悪のGoI誕生シナリオが回避されたという薄氷を踏むような結末に過ぎないのだ。
本通達を以て、サイト-██に対し以下の通り厳重な警告を行う。
今後、異常現象や異常存在そのものへの対処だけでなく、それらを誘発、隠匿、あるいは悪用し得る土壌――すなわち、著しく腐敗した社会情勢、無政府状態の領域、そして野放図に拡大する非異常の巨大組織の動向にも、十分な監視リソースを割く事。
我々は「結果としての異常」を収容するだけではなく、「異常を呼び込む原因」を未然に察知し、必要であれば他機関――UIUやGOC――などとも連携してこれをコントロールする義務がある。
木箱の中に不自然に保存された肉塊が存在したことよりも、都市の至る所に武装兵を隠匿できるほどの治外法権を許していたことの危険性を理解せよ。
本件に関する貴職への処分は現在保留としているが、今後同様の「近視眼的な怠慢」によって財団の正常性維持任務に重大なリスクをもたらした場合、即座の更迭、ならびに記憶処理を伴う再配置が実行されることを留意されたい。
異常の影は、時に最もありふれた人間の欲望と暴力の陰に潜んでいる。視野を広く持て。
以上。
財団北米 内部査察局長 █████・███
ファイナルファイト単品であり、ストリートファイタシリーズとは繋がってない世界線