文書指定番号: プロトコルオーバードライブ
宛先: O5評議会、サイト-██管理官、機動部隊統括司令部
差出人: 超常生体工学部門 上級研究員 J.OJO
日付: 19██/██/██
件名:提携組織(SPW財団)提供技術波紋の全フィールドエージェント・機動部隊員に対する修得義務化の提言
【概要】
本提案は、当財団と長年にわたり相互技術協力および情報共有の提携を結んでいるスピードワゴン財団(以下、SPWF)より新たに提供された身体強化技術である。
波紋の全面的な導入と、全戦闘員に対する修得義務化を目的とするものです。
波紋とは、特定の特殊な呼吸法を用いることで、血中の酸素濃度を意図的に操作し、細胞レベルで生体エネルギーを増幅させる技術です。
SPWFの提供したデータ、および当財団の超常生体工学部門による徹底的な検証の結果、この技術によって生成されるエネルギー波長は太陽光の電磁波波長と極めて酷似していることが判明しました。
特筆すべき点として、この技術には異常性が一切存在しません。
奇跡論的魔術行使でも、ヒューム値を変動させる現実改変能力でもなく、純粋に人体に生来備わっている生化学的、物理学的なポテンシャルを呼吸によって引き出す科学的に解明可能な生物学的プロセスです。
【優位性の提示】
研究員J.OJO は、本技術の全エージェントへの義務化を強く推奨します。その根拠は以下の通りです。
1. 身体能力の劇的な向上:
波紋呼吸法を維持している間、被験者の筋力、跳躍力、反射神経は通常のの限界値を大幅に凌駕します。
また、細胞の活性化に伴い、骨折や裂傷などの外傷の治癒速度が最大で通常の5倍にまで加速することが確認されています。
2. 対抗ミーム / 対精神干渉への耐性:
一定の周波数で体内エネルギーを循環させることにより、脳内物質の分泌が最適化され、軽度から中程度の認識災害や精神操作系異常に対する自然な抵抗力が付与されます。
3. 特定アノマリーへの絶対的優位性:
太陽光と同等の波長を生み出す性質上、夜行性や紫外線に脆弱な異常実体(SPWFが指定するところの「吸血鬼」「屍生人」「柱の男」などの異常霊長類、および財団が収容する類似の特性を持つSCPオブジェクト)に対して、素手での接触のみで致命的なダメージを与えることが可能です。
4. 環境適応能力の拡張:
波紋エネルギーを足の裏などに集中させることで、水面歩行や垂直な壁面の登攀などが可能になります。これにより、機動部隊の戦術的機動力が飛躍的に向上します。
以上の点から、我々財団職員が未知のアノマリーと対峙するにあたり、これほど安全性と実用性が保証された自己防衛手段は他にありません。
直ちに全エージェントの訓練カリキュラムに本技術の修得プロセスを必須項目として組み込むべきであると断言します。
補遺1: SPWF提供の標準的訓練カリキュラム
(抜粋)
技術提携の一環として、SPWFより数名の波紋使いがインストラクターとして派遣される手はずとなっています。
彼らが提示した標準的な基礎訓練プログラムは以下の通りです。
フェーズ1:
専用の「波紋呼吸矯正マスク」を常時(睡眠時を含む)着用させる。
このマスクは装着者の呼吸が一定のリズムから外れると、物理的な負荷を与えて呼吸困難にさせる構造となっており、肉体に波紋の呼吸を無意識レベルで記憶させる。
フェーズ2:
グラスに注いだ液体(主にワイン)をこぼさないように実戦での訓練。もしくは、有機物(カエルなど)を置いた状態で固形物(岩石など)のみに衝撃を透過させて破壊する訓練。波紋の出力調整と対象への浸透率を学ぶ。
フェーズ3:
常時、油が塗布されたヘルクライムピラーと呼ばれる高さ約24メートルの大理石の柱。その柱を波紋の力のみ(指先や足先から波紋を放ち、油の表面張力を利用して吸着する)で登頂させる。期間は数日から数週間を要し、失敗(落下)は重傷または死を意味する。
補遺2: エージェント・機動部隊代表からの反論文書
本提案が提出された次に、機動部隊統括司令部およびフィールドエージェント代表陣(代表:機動部隊████隊長、他多数の署名あり)より、以下の強い抗議文書が提出されました。
宛先: O5評議会、サイト-██管理官、J.OJO上級研究員
件名: プロトコル対する公式抗議と全面拒否の通達
研究員の提案書を拝見した。まず初めに言わせてもらうが、現場の実態と現代の戦術ドクトリンを完全に無視した机上の空論であると断じざるを得ない。我々現場の人間は、満場一致でこの波紋なる技術の義務化に反対する。
理由は以下の通りだ。
1. 修行期間とリソースの圧倒的な浪費
SPWFの記録によれば、波紋を実戦レベルで使いこなすには、天性の素質を持つ者でさえ数週間、凡人であれば数ヶ月から数年の過酷な修行を要するとある。
現在、財団の機動部隊は常に人員不足と過密なスケジュールに悩まされている。素手で奇跡を起こせるようになるまで、我々の貴重なエージェントたちを山奥の寺院や孤島の修行場に何年も隔離しておく余裕がどこにあるのか?
2. 訓練の致死性と非倫理性
補遺1にある概要を読んだ。24メートルの油塗りの柱を登頂し、落ちれば餓死か転落死?。正気か?
財団はDクラス職員の浪費ですら倫理委員会から目を光らせられているというのに、高度な専門訓練を受けた財団の主力エージェントを、わざわざ生存率の不透明な修行で死なせるリスクを負うことなどあり得ない。さらに、睡眠時すら呼吸困難を引き起こすマスクの強制着用は、部隊員の著しいパフォーマンス低下と精神的疲弊を招く。
3. 「呼吸」への完全依存という致命的欠陥
この技術の最大の欠陥は、呼吸が乱れると波紋が練れないという点だ。実戦において、呼吸を乱される状況など枚挙にいとまがない。頸部への物理的打撃、毒ガス兵器、低酸素環境、あるいは水中に引きずり込まれた瞬間どうなるか、SCP-███などの海棲アノマリーを想像してほしい。
そのような場面において、この技術は完全に無力化される。現代の戦術において、これほど容易に封じられる単一のバイタルサインに依存した技術は、メインウェポンとして極めて脆弱である。
4. 現代兵器・財団装備の優位性
波紋が太陽光と同じエネルギーを放つ点は素晴らしいかもしれない。だが、我々は既に「高輝度紫外線照射装置」や「焼夷徹甲弾」など標準装備している。
また、壁を登りたければ携帯型ウインチとフックを使うし、水面を移動したければホバークラフトを出動させる。
現実改変に対抗するには、スクラントン現実錨という極めて信頼性の高いテクノロジーが存在している。
結論を言う。
柔らかいカエルを潰さずに岩のみを粉砕する殴打技術や、素手で吸血鬼の顔面を溶かす技術は確かに興味深いかもしれないが、遠距離から大口径の対物ライフルで対象の頭部を吹き飛ばす方が、我々にとっては遥かに安全で、早く、そして確実だ。
我々は超常の脅威を確保し、収容し、保護するためのプロフェッショナル部隊であり、オカルト的な武闘家集団ではない。我々には、そのような大道芸を多大な犠牲を払ってまで修得する意味が全く無い。
本提案の即時撤回を要求する。
【裁定結果】
エージェント代表陣の指摘する通り、訓練にかかる時間的・人的コストに対し、現代の財団技術水準から見たリターンが見合わないと判断されました。
ただし、波紋技術そのものの非異常的かつ科学的な生体強化機能についての有用性はO5評議会も認めており、本技術はSPWFの協力のもと、以下のような限定的な運用に留められます。
1. 修得は完全に志願制とする。本人の適性検査をクリアした職員のみに限定的なカリキュラムを提供する。
2. 装備の持ち込みが不可能な特殊空間、またはスクラントン現実錨が機能しない特定領域への潜入任務を専門とする「機動部隊████」の新規設立、および同部隊への試験導入。
3. 医療部門における、重傷者の自然治癒力向上を目的とした軽度な波紋マッサージ療法としての臨床研究。
「君の熱意は買うが、エージェントたちに油まみれの柱を登らせる予算の申請は、今後一切受け付けない。」 ----- O5-██
以下はSPWFにおける取り扱いマニュアルです
文書指定番号: SPWF-001P
アイテム名: 弓と矢
保管説明:
弓と矢は、保管庫内の、チタン合金およびタングステンで内張りされた気密性の高い金庫に保管するべきです。
金庫内には常時カメラによる監視体制を敷き、いかなる場合であっても素手での接触は禁止されています。
取り扱いの際は、レベルA・ハザードスーツに準拠した防護服を着用し、自動化されたマニピュレーターを使用してください。
矢の部分は、現在までに解明されていない未知の引力または自律的な推進力によって、ケース内で浮遊する、あるいは特定の人間が存在する方向へ向かって勝手に動く現象が確認されています。
しかしながら、物理的な拘束力やケースの障壁を突破するほどの力は有していないため、マニュアル通りに密閉保管を維持していれば収容違反の危険性は問題ありません。
分析結果:
当該物品は、年代不明の木製の弓と、未知の鉱物(調査データによれば、数万年前に██████に落下した隕石から削り出されたとされる)で形成された矢尻を持つ複数の矢です。
矢尻の表面には、極めて特異な休眠状態の地球外由来ウイルスが付着しています。この矢によって生きた人間の皮膚に擦過傷以上の傷を与えた場合、対象は重篤な高熱と多臓器不全に似た拒絶反応を引き起こします。
このウイルスに対する素質を持たない者が傷を負った場合、致死率はほぼ100%に達します。
しかし、ウイルスへの抵抗力(「精神の強さ」「生き抜く才能」)を持つ者が生存した場合、対象の体内に潜在する精神的・生命エネルギーが物理的な形を伴って外部に投射される能力を獲得します。
この異常能力、および投射されるエネルギー体を「スタンド(幽波紋)」と呼称しています。スタンドは原則としてスタンド使い同士にしか視認・干渉できず、物理法則を完全に無視した多様な現実改変能力や特異な機能を有します。
内部文書による提言
宛先: O5評議会
差出人: 要注意団体(GoI)対策部門 上級職員 ████
日付: ████ /██ /██
件名:SPW財団が保有する弓と矢の全権接収および強制回収の提言
現在、当財団は提携組織であるSPWFの厚意により、研究用として弓と矢を1セットのみ譲渡され、保管しています。しかし、SPWFは依然として複数の矢を自組織の管理下、あるいは個人の管理下に置いています。
私は、この状況がSCP財団の基本理念である「確保・収容・保護」の観点から極めて憂慮すべき事態であると提言します。
SPWFの代表者は、「矢によってスタンド使いに目覚めるには極めて稀有な素質が必要であり、ほとんどの人間は適応できずに死亡する。したがって無差別に能力者が増えるリスクは少ない」と主張しています。
しかし、単純な統計学と確率論の観点から見れば、この主張は甘すぎると言わざるを得ません。
仮に彼らの言う素質を持つ者の割合が1万人に1人だったとしましょう。
現在、地球の総人口は60億人以上です。もし矢が悪意ある第三者の手に渡り、あるいは矢自体が自律的な意志を持って(現に保管中の矢は時折不気味な自律性を見せています)拡散した場合、世界中で「最低でも60万人の未定義の現実改変者(タイプ・グリーンと同等、あるいはそれ以上の脅威)」が誕生する計算になります。
また、SPWFの過去の記録を精査したところ、エジプト、日本の██町、イタリアなどで小規模から中規模の異常能力者によるインシデントを発生させています。
SPWFは友好的であり、我々に技術提供を行う有益なパートナーであることは間違いありません。カオス・インサージェンシーや蛇の手といった要注意団体とは明確に異なります。
しかし、彼らのセキュリティ体制と特定個人のヒーロー性に依存したアノマリーの管理方法は、我々SCP財団の収容プロトコルと比較してあまりにも属人的で脆弱です。
直ちにSPWFに対し、彼らが保有する全ての弓と矢を当財団に引き渡すよう要求するべきです。
O5評議会および上層部による裁定と通達
宛先: GoI対策部門 上級職員 ████・T
差出人: O5評議会
しかし、現段階においてSPW財団から武力、あるいは強硬な外交圧力を用いて「矢」を強制回収する案については保留とする。
理由は以下の通りである。
第一に、SPWFは現在、当財団の超常技術、特に医療分野および対・不死性異常実体のプロトコルにおいて多大な貢献をしている。彼らを下手に刺激し、敵対関係に陥ることは、現時点での財団の利益を損なう。
第二に、SPWFおよび彼らの背後にいる「特定の血統」のスタンド使いの功績である。
我々の機動部隊ですら収容が困難なレベルだと予測される相手を、過去に幾度も無力化してきた実績がある。彼らを敵に回した場合の被害算定を考えると、強硬手段は得策ではない
当面は、SPWFとの情報共有プロセスを強化し、矢の所在を常に当財団の監視ネットワーク内に置くという軟着陸な方針を維持する。回収の検討は継続するが、強硬手段は現状許可されない。
研究員J.OJO による追加提案書
宛先: O5評議会、サイト-██管理官
差出人: 超常生体工学部門 上級研究員 J.OJO
件名: プロトコル提案
前回の波紋技術の件の却下については承服いたしました。しかし、現在当サイトで保管中の特異物品について、私は財団の戦力増強のための新たな活用法を提案します。
SPWFは「素質が必要」と語っていますが、我々財団の機動部隊員は、過酷な訓練と幾多の精神汚染・ミーム災害を耐え抜いてきた、文字通り強靭な精神力と生存本能の塊です。
彼らであれば、矢のに打ち勝ち、スタンド能力を発現させる確率は一般人の比ではないはずです。
そこで、優れた成績を残している志願制のエージェント数名に対し、厳重な医療監視の下で意図的に矢を使用し、財団専属のスタンド使い機動部隊を創設することを提案します。
スタンド能力は不可視性、物理法則の無視、そして圧倒的な破壊力や補助能力を併せ持ちます。
これを財団の標準戦力として組み込めば、収容違反時の鎮圧率の向上、およびKeterクラスオブジェクトの確保において計り知れない恩恵をもたらすと確信しています。
上層部からの通知
宛先: J.OJO 上級研究員
差出人: サイト-81██管理官 / 倫理委員会共同署名
前回の「エージェントに呼吸法を強制し、油まみれの柱を登らせる」提案から何も学んでいないようだな。君の提案は財団の理念から決定的に逸脱している。理由は以下の三点だ。
1. 許容不可能な死亡リスク:
どんなに優れたエージェントであろうと、未知の地球外ウイルスによる致死性を精神力という不確かな指標だけで乗り越えられると考えるのは科学者として怠慢である。
財団の精鋭を、ロシアンルーレットのような方法で使い捨てることは倫理委員会が絶対に許可しない。
2. 能力のランダム性と制御不能性:
SPWFの資料を読んだのなら分かるはずだ。スタンド能力は術者の深層心理を反映し、完全にランダムに発現する。
時間を止めるような戦術的に極めて有用な能力が出る保証はどこにもない。もし発現した能力が、「背中を見せたらスタンドが自動的に宿主を殺して相手に乗り移り、無差別に殺害を繰り返す」、「スタンド使い自身を鉄塔の中に永遠に閉じ込める」のような、完全に制御不能であった場合、どう責任を取るつもりだ?
我々はエージェントを収容室に閉じ込めたいわけではない。
3. 財団の基本ドクトリンへの反逆:
我々は異常を科学と理性の枠組みに押し込め、人類を保護する組織だ。自らの手で新たな異常存在を意図的に創り出し、それに依存して戦う行為は、GOCやカオス・インサージェンシーのやり方となんら変わりない。
保管中の弓と矢はあくまで研究・解析対象であり、兵器ではない。
これ以上、特異物品を財団職員の肉体改造に転用する提案を行った場合、君のセキュリティクリアランスの降格、および精神鑑定の実施を検討することになる。
自重せよ。
事象クラス: CK-クラス / ZK-クラス(進行中)
発信元: サイト-██超常生体工学部門 上級研究員 J.OJO
宛先: ディープ・ストレージ・アーカイブ、SCP-████中枢データバンク、および『次』の現実を生きるすべての財団職員へ
これを読んでいる者が誰であれ、あるいは「次」の時代の存在であれ、このログが閲覧可能であることをただ祈る。
現在、我々の地球、いや、全宇宙規模で致命的な現実改変・時間異常が進行している。窓の外を見る余裕すらないが、サイトのガラス越しに見える太陽は、まるで狂ったストロボライトのように空を駆け抜けている。
昼と夜が数秒単位で入れ替わり、空調のファンは悲鳴のような高周波を立てて焼き切れた。私のデスクに置かれたコーヒーは一瞬で蒸発し、マグカップの底にはカビが密生し、それすらもすでに干からびて塵になろうとしている。
だが、奇妙に私自身の肉体、私の思考、そして私の呼吸の速度は通常通りだ。生物の時間はそのままに、無機物と天体の時間だけが異常な速度で加速している。
つい先ほど、提携組織であるスSPWFの超常現象観測チームから、緊急のホットラインが入った。
通信ケーブルの劣化が異常な速度で進んでいるため、音声は途切れ途切れだったが、彼らの本部のパニック状態は痛いほど伝わってきた。普段はどんなアノマリーを前にしても冷静沈着な彼らの研究員たちが、怒号を上げ、計器の数値を読み上げながら絶望的な声を出していた。
SPWFの報告と、我々SCP財団の軌道上監視衛星(すでに燃え尽きようとしている)のデータを統合した結果、ひとつの恐るべき結論が導き出された。
震源地はアメリカ、フロリダ州ケープカナベラル。
SPWFがマークしていた要注意人物、エンリコ・プッチ神父が操る未知のスタンド能力(SPWFはこれを『メイド・イン・ヘブン』と呼称した)が引き起こした現象だ。
通信したSPWFの天文学的・形而上学的な予測によれば、この時間加速は止まらない。加速は無限に続き、宇宙は膨張の限界——特異点に到達する。
そして、彼らはこう言った。宇宙は一巡すると。
この宇宙の全質量と全事象が特異点に吸い込まれ、ビッグバンを経て、再び全く同じ宇宙が、全く同じ歴史を辿って形成される。
更に予測によれば、全ての生命体はこれから起こる運命を魂のレベルで記憶した状態で新しい世界に放り込まれるという。要注意人物のプッチ神父はそれを天国と呼称して、どうでもいいそんな言葉遊びをしてる場合じゃ。
ふざけた話だ。我々SCP財団は、人類が暗闇の恐怖に怯えずに済むよう、無数の異常を確保し、収容し、保護してきた。それなのに、たった一人の狂信者のスタンド能力によって、この宇宙そのものが「確保」され、彼の望む形に「再構築」されようとしている。
私はかつて、SPWFから提供された波紋技術をエージェントに義務付けようとしたり、危険な弓と矢を使って財団専属のスタンド使い部隊を作ろうとしたりして、上層部から幾度となく呆れられ、却下されてきた。
武力や特異能力でアノマリーをねじ伏せることこそが至高だと、どこかで思い上がっていたのかもしれない。
だが今、無機物の時間が超加速し、キーボードのプラスチックが私の指の摩擦で熱を持ち、ひび割れ始めているこの状況下で、私にできることは何もない。
それでも、私はタイピングをやめない。SCP財団深層地下サーバーに、この記録をアップロードし続ける。
通信が途絶える直前、SPWFの通信員は、ある言葉を口にした。
彼らの財団の創設者、ロバート・E・O・スピードワゴンの記録に残されている言葉だ。
「人間賛歌は、勇気の賛歌だ」
どれほど巨大な運命や、圧倒的な力を持つアノマリーが立ちはだかろうとも、恐れずに立ち向かい、知恵と精神力で抗うこと。それこそが人間の素晴らしさであり、SPWFが今日まで貫いてきた。
それが絶対の理念だ。彼らは今この瞬間も、フロリダで戦っているとある一族を信じ、データを取り続けている。
我々SCP財団の理念もまた、本質的には彼らと同じなのだ。
「確保、収容、保護」
我々は暗闇の中で戦い、死に、犠牲を払いながらも、人類の正常な日常を守り抜くために存在してきた。
世界がどれほど不条理であっても、世の平和を保つ行動がどれほど冷徹であっても、
理性を手放さず、知識を集め、記録を残し、明日へと繋ぐ。これもまた、一つの巨大な勇気の賛歌ではないか。と私は思う
外の景色が、いよいよ光の帯になってきた。建物のコンクリートが風化し、崩落する音が聞こえる。 もうすぐだ。もうすぐ特異点を越える。
この宇宙が終わるかもしれない。私という存在が、プッチ神父の望む「覚悟を強いられる新しい宇宙」に持ち越されるのか、それともこのまま消滅するのかは分からない。
だが、このデータベースはSCP-████のシールドによって保護されている。この報告書のデータだけは、宇宙の法則がねじ曲がっても、インクが乾き切る以上の物理的制約を超えて、次の世界に持ち越されると私は信じている。
次の宇宙の私へ、あるいは、この記録を見つけた次代の財団職員へ。
宇宙が一巡し、運命が決定づけられた狂った世界になったとしても。 異常アノマリーに屈するな。 人間を諦めるな。 我々の理念を、永遠に失わないでくれ。
確保せよ。 収容せよ。 保護せよ。
通信回線が切れる。サーバーが限界だ。 送信する。
[システムメッセージ: データのアップロード完了]
[警告: 致命的な現実不全エラー。空間座標消失。時間を計測できません。]
[ログ終了]
SCP財団とSPW財団が割と本気になってたけど、神父の運命力の方が強かったという事で…