転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします   作:メスシリンダーガキ

10 / 10
ランキング1位だ……
皆様の応援のお陰です、本当にありがとうございます。


十話

 

 

 

 

 戦士、魔法使い、斥候、僧侶。

 非常にバランスの取れたとある冒険者一行。

 彼らはとあるダンジョンを訪れていた。

 目的は魔石と呼ばれる、文字通り魔力が固まってできた石だ。

 自然界に生成されることもあれば、魔獣や魔物といった存在の体内にも生成される。

 稀に魔力が多い人間の体内にも生成される――みたいな噂を聞いたこともあるが、今はどうでもいい情報だろう。

 とにかく、ダンジョンと呼ばれる古代に作られたであろう構造物に、棲み付いたりした魔獣、魔物を狩ることで魔石を集めるのだ。

 集めた魔石は資金繰りのために売却したり、魔法を扱う者ならばそれを研究や実験に使用したりするのだ。

 

「――あ、やば、毒消しのポーション買い忘れたかも」

 

 今回の目的地――おそらく古代の霊廟ではないかと言われている――のダンジョンを目前にして、魔法使いの女が歩きながら自分の鞄に手を突っ込みながら言った。

 

「は? 俺余分なの持ってきてないぞ」

 

「わ、私もです……」

 

「僕もだ」

 

 戦士の男、僧侶の女、斥候の男の順に言う。

 

「すみません、私は解毒魔法はまだ使えないので……戻りますか?」

 

「今から街に引き返したら夕暮れからのスタートになるぞ。あの霊廟は出来れば日中に探索したい」

 

 戦士の男が言う。

 夜になれば、月と星が出る。

 それらが発しているとされている独特の魔力が、ゴーストやアンデットの魔物を活性化させてしまう。

 だから目的地である霊廟は日中に入る事を推奨されているのだ。

 もちろん、腕利きの冒険者なら夜中に入ったりもしているらしいが……

 残念ながら彼らにそこまでの腕前はまだ無かった。

 

「……とりあえずダンジョンまで行ってみよう。運が良ければ商人がいるかもしれない」

 

 斥候の男がそう提案する。

 そう、ダンジョンの入り口には探索に来る冒険者向けに商売をする商人が店を開いていることもある。

 絶対に居るというわけではないので、賭けにはなるが一行は斥候の男の提案に賛成した。

 もしいなかったら、またその時相談すればいい。

 そうして一行は足を動かし続けた。

 

 

 

「――あ、あれ商人じゃない!? やったー!」

 

 そしてダンジョンの入り口が見えてきた。

 すると魔法使いの女が何かに気が付いて、走り出した。

 ――確かにダンジョンの入り口に、小さな露店のようなものが見える。

 他の3人は慌てず、ゆっくりと魔法使いの女の後を追った。

 

「――ねぇねぇ、毒消しのポーションある?」

 

 追いつくと、既に魔法使いの女が食い入るように商人にそう訊ねていた。

 商人は全身をそのまますっぽり覆ってしまうほどのローブを羽織っており、顔すらもよく見えない。

 正直いってめちゃくちゃに怪しい。

 

「――あるよぉ」

 

 魔法使いの女の問いに答えたその商人の声は、砂糖のように甘い少女の声だった。

 女性の商人、それ自体は別に珍しいことじゃない。

 だが入り口とはいえダンジョンの前、そして街からも離れた場所で商売をする商人は、大体が自衛の出来る元冒険者だとか、そうでなくとも護衛を雇ったりしているものだ。

 だから、たった1人で、しかも声からしてだいぶ若そうな女が露店を開いているのに、一行は少しばかり驚いたのだ。

 

「そうだなぁ……一個銅貨6枚かなぁ」

 

「うっ……」

 

 相場より少し高い値段だった。

 まぁ当然といえば当然、安全な街の中でもない、客が来るかも分からない。

 そんな場所で商売をするなら、客の足元を見るのは当然だろう。

 

「……その前に鑑定魔法掛けてもいいかしら? 偽物だったら困るから」

 

 そして、買い手も商品の品質、真偽には気を付けなければならない。

 騙そうとしてくる商人はやはりいるのだから。

 

「いいよぉ」

 

 ローブの商人はコルクで栓がされた小瓶――中に液体が入ってる――を魔法使いの女に渡した。

 魔法使いの女はすかさず、小瓶に対して鑑定魔法を使う。

 材料、成分、効能などの読み取れる情報から、これが毒消しのポーションであると見極めなければならない。

 その為には薬学に関する膨大な知識が必要だが、魔法使いの女は秀才だった。

 

「――ん、確かに毒消しのポーションね…………ねぇ、ちょっと安くならない?」

 

 そしてすぐに値切りを始めた。

 これも商人と冒険者の間ではよくある光景だ。

 

「ならないよぉ、嫌なら買わなくてもいいよぉ」

 

「むぅ……」

 

 ローブの商人は即答した。

 値引きはしないという意思表明だった。

 

「おい、はやく買っちまえよ。そもそも用意を忘れたお前が悪いんだからな」

 

 戦士の男が急かす様に言う。

 

「わ、わかったわよ……銅貨6枚でしょ?」

 

「まいどぉ、この天秤の銀の皿に乗せてねぇ」

 

 ローブの商人が金と銀の天秤を台の上に置いた。

 すると何も乗せてないのに、天秤が金の方へと傾いた。

 魔道具の一種だろうか?

 

「いち、にい、さん――」

 

 魔法使いの女が律儀に数えながら銅貨を銀の皿へ乗せていく。

 そして6枚目を乗せると、天秤がきれいに釣り合った。

 

「はぁい、ありがとうねぇ」

 

 商人が銅貨を回収しながら言う。

 

「他にも何か買ってくぅ?」

 

「あたしはもう大丈夫かな、みんなは?」

 

 魔法使いの女が他の3人に聞く。

 全員首を横に振った。

 特にこれ以上買う物はないという表明だ。

 だが――

 

「ほんとに大丈夫なのぉ? 剣を研ぐ携帯砥石は? 霊廟ならアンデット対策の聖水沢山あってもいいんじゃない? まだ機能してる罠を解除するための使い捨てツールは?」

 

 "本当にこのまま行っていいのぉ?"

 

 ローブの商人のその言葉が魔法使いの女以外の3人の決意を揺さぶる。

 ある者は砥石の擦り減り具合を確かめ始める。

 ある者は聖水の残量を確かめる。

 ある者はツールの本数を確認する。

 

「……悪い、ちょっと時間くれ」

 

「わ、私も……」

 

「…………」

 

 3人が財布を取り出し始めた様子を、魔法使いの女は目を細めて眺める。

 人のこと言えないじゃん。

 そんな気持ちが込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして一行が霊廟のダンジョンに潜って1時間ほど。

 魔石集めは順調――というほどではないが、確実に集まってきていた。

 

「時間は?」

 

「まだ平気」

 

 時計を魔法使いの女が確認する。

 日が暮れる夕方になる前には、この霊廟からは脱出しておきたいのだ。

 

「どうする? さらに下に向かってみるか?」

 

 戦士の男が提案する。

 

「下はこの時間帯ならスケルトンが動き回る頃だと思います」

 

「それくらいなら僕たちでも何とかなるだろう」

 

 僧侶の女が情報を提示し、斥候の男が自信を込めて言い切った。

 

「――あ、でも……」

 

 すると僧侶の女が何かを思い出した様子を見せた。

 

「……さっき、あの商人さんが言ってた『落とし物』はどうしますか? この階層で落としたって言ってたし、探してあげた方が――」

 

 一行が買い物を終えて、霊廟に入ろうとする前。

 ローブの商人が言ったのだ。

 

『――そうだぁ、もし見かけたらで良いんだけど、地表の階層で小さい革袋見つけたら、回収しといてくれなぁい? 私のなんだぁ』

 

『え、なぜダンジョンの中に……?』

 

『実は昨日1人で探索してたんだけどぉ、その時落としちゃって。でももう疲れて探しにいけなくってぇ』

 

『商人の癖に1人で入ったの? よく無事だったわね』

 

『まぁね、回収して持ってきてくれたらお礼はするよぉ――それじゃあよろしくねぇ、いってらっしゃーい』

 

 そんなやり取りがあった。

 

「見かけたらで良いって言ってたじゃない、落とした奴の自業自得よ」

 

 魔法使いの女が棘のある言い方をする。

 値切れなかったのを根に持っているのだろうか。

 

「……まぁ、魔物を狩るついでだ。すぐに下には降りず、この階層の奥まで行ってみよう」

 

 戦士の男が言う。

 この霊廟も探索はかなり進んでいて、マップもかなり精巧だ。

 奥までは迷わずに行けるし、時間のロスは少ないだろう。

 その提案に他の3人――魔法使いの女は若干渋ったが――は同意した。

 そして魔石を集めながらさらに進む一行。

 奥へ奥へ――やがてその階層の行き止まりの部屋まで辿り着いた。

 いくつかの石棺が並べられた部屋だ。

 かつては石棺の中にドラウグルと呼ばれるアンデットが眠っていたのだろうが、過去に冒険者によって倒されたのか石棺は空だった。

 

「――もしかしてこれか?」

 

 先行していた斥候が、部屋の石棺の隅に隠れる様に落ちていたそれを見つけた。

 黒く小さな革袋だった。

 

「何でこんな奥で落とすのよあの商人……中身は?」

 

 魔法使いの女が聞く。

 

「おいおい、勝手に中身を見るのはダメだろ」

 

 戦士の男が諭す。

 

「もし中身が危険物だったらどうするのよ? どんな物なのか確認するだけよ」

 

「むぅ……」

 

 逆に諭されて、戦士の男は黙ってしまった。

 そして魔法使いの女が斥候の男に革袋の中身を確認する様にお願いする。

 斥候男が言われた通り、口の紐を緩めて中身をあらわにした。

 

「「「「…………」」」」

 

 中身はまさかの貴重品、つまり光り物だった。

 金貨、宝石などの価値のあるものばかり。

 ということはこの革袋は、あの商人の財布といったところだろう。

 ――そして一行の脳裏には悪魔の囁きが。

 彼らは善人ではあるが、欲望を隠し持つ普通の人間でもある。

 魔が刺すというのは有り得るのだ。

 そう、この革袋の中身をもし、少しばかり()()()()()何が起きるか、または何ができるかを考えてしまう。

 

「――なるほど、これは回収を頼むわけだな」

 

 一番はやく理性を取り戻した斥候の男が、素早く口の紐を締めた。

 それで他の3人も魔法が解けたみたいに理性を取り戻した。

 

「――とりあえずそのままお前が持っててくれ。よし、商人には悪いがこのまま下の階層まで進もう」

 

 本当なら引き返して今すぐにでもあの商人に渡した方が良いのだろう。

 だが一行にも自分たちのやる事がある。

 目標分の魔石の回収が済んでないのに、一旦引き返すのは時間のロスだ。

 だから一行は下の階層へと続く階段へ向かい、そして降りていった。

 

 

 

「やぁ、また会ったねぇ」

 

 ちょうど階段を降りきった通路、あのローブの商人がいた。

 

「は、ちょ、何でいるのよ!」

 

 魔法使いの女が聞く。

 当然の疑問だろう。

 

「いやぁ、やっぱり他人に探させるのはどうかなって思って、私も落とし物探してたのぉ」

 

 理由は納得できる。

 一行より先に下の階層にいたのも変ではない。

 おそらく一行が奥へと進んでいる間に別の道からここまで来たのだろう。

 

「――落とし物はこれか?」

 

 斥候の男がすかさず、例の物を取り出して商人に差し出した。

 

「わぁ、見つけてくれたのぉ? ありがとー」

 

 何処かわざとらしい言葉だったが、商人は歓喜の声をあげて斥候の男から黒い革袋を受け取った。

 そして紐を緩めて、中身を確認し始める。

 

「……うん、中身はそのままだねぇ」

 

 中身を把握していたのか――まぁ財布なら当然だろう――満足そうに頷く商人。

 

「なに? 私たちがくすねたりすると思ってたわけ?」

 

「ごめんねぇ、でも魔が刺すってのは人間なら有り得るでしょ?」

 

「…………まぁ、そうね。でも私たちは違うから」

 

 ドヤ顔で言う魔法使いの女。

 あえて誰も突っ込まなかった。

 

「ふふふ、本当にありがとねぇ。じゃあ約束通り――」

 

 商人が顔を覆っていた部分のフード()に手を掛けた。

 そしてそれを取り払って、その素顔を見せた。

 

「――お礼しなきゃだねぇ」

 

 その素顔は、一行が予想していたのとはかけ離れていた。

 ピンクの髪、そして異形の角。

 金と赤の瞳、可愛らしさも可憐さも備えた様な整った顔立ち。

 満足気に微笑む商人の表情は、この場にいる異性も同性も思わず見惚れてしまうものだった。

 

「――はっ、何か変な扉開きそうだったわ……というかその角、亜人種のもの? 随分と人間っぽい見た目だけどハーフか何か?」

 

「おい、いきなり失礼だぞ――すみません、仲間が無神経で……」

 

「ちょ、痛いってバカ!」

 

 戦士の男が魔法使いの頭を無理やり下げさせながら言う。

 

「別にいいよぉ、それよりお礼するよぉ――うーん、たまにはシンプルなのでいこうかぁ」

 

 商人が指を鳴らした。

 ……特に何も起きない。

 

「あ、あの……?」

 

 僧侶の女が代表して声を出した。

 

「短い時間だけどぉ、みんなのラック値()にブーストかけてあげたよぉ。それじゃあ頑張ってねぇ――あ、もし棘付きの車輪と合体してるスケルトンとかいたら逃げなよぉ。あれハメられるとやばいからぁ」

 

「いや、そんなスケルトン居るとは聞いたことないんだが……」

 

 商人はそう言ってその場を立ち去る――

 

「――あ、ごめんもう一つ……欲張りさんは痛い目にみるからねぇ。ほどほどにしときなよぉ」

 

 それだけ言って今度こそ立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一行は強運に味方される。

 普段群れる厄介な魔獣が個々で行動してたり、不意打ちを狙える形で遭遇したり、トラップの解除がやけにスムーズだったり、純度の高い魔石を想定よりも入手できたり――

 そして、それは訪れた。

 通称、魔石甲羅カニ

 カニによく似た、比較的脅威の低い魔獣の一種なのだが、魔石を主食としているため、その甲羅は高純度の魔石とも言われている。

 一匹捕まえれば、10年は遊んで暮らせると言われるほどだ。

 だが他の魔獣や魔物に捕食される事が多く、個体数も少ない。

 だから希少性の塊ともいえるそのカニが、何と一行の前に姿を現したのだ。

 ――そして彼らはそれを捕まえようと躍起になってしまった。

 自分たちが設定したタイムリミットすらも忘れて――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらぁ、大丈夫ぅ?」

 

 夜になってそろそろ店仕舞いにしようとしたら、霊廟から満身創痍の冒険者4人が這い上がる様に出てきた。

 間違いなく、夜になって活発になったゴーストやアンデットに追いかけ回されたのだろう。

 そしてその最中に成果である魔石は置いていくか、落としてきたと見える。

 

「あーあ、だから言ったのにぃ」

 

「「「「…………」」」」

 

 返事がない、まるで屍のようだ。

 いや死んではないけど、もう残り体力2って状態なのだろう。

 いやぁ、しかし滑稽だなぁ。

 他人の金品はちゃんと返すのに、野生の珍しい魔獣となると躊躇なく追っかけるなんて。

 え、そもそもお前が原因?

 そうだよぉ、落とし物もわざとだよぉ。

 え、じゃあ金品をちょろまかした方が正解ルートかって?

 そのルートだと、「愚かな」と言って格好よくローブを脱ぎ捨てた私とボス戦(広い異空間で、壮大なオーケストラ風BGM付き)が始まるよ。

 ちなみに負けイベントだよ。

 古来から商人を殴ったり、商人の物を盗むと痛い目に遭わされるものだからね!

 

「ねぇ、ちゃんと帰れそぉ? 体力回復のポーションあるけど買う? 一個銀貨4枚だよぉ」

 

 本日最後の商売チャンスだ。

 搾り取ってあげよぉ。

 

 

 

 

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