転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします   作:メスシリンダーガキ

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十一話

 

 

 

 

 雲が一つもなく、月と星の光が地面を照らす夜の時間。

 川の水が流れる水音を耳にしながら、若い男女が草花をベッド代わりにして、お互いの肌を重ねていた。

 生まれ育った退屈な村、育った家。

 そういった日常の中よりも、野外という非日常にロマンやムードを求めるのは、若い男女ならではの感性だった。

 ――しかし、今夜ばかりはやめておけばよかったのだ。

 何故なら、近くの木々の隙間から若い男女を見つめる視線があったから。

 その視線は興味関心、好奇心の類ではなかった。

 もっと原始的な、獲物を見定めるような獣の視線。

 やがてそれは、狙いを定めた。

 木々の隙間から勢いよく飛び出して、毛皮に包まれた脚を走らせる。

 人間よりも『走る』という動作に優れた獣の脚は、とんでもない速度で迫り来る。

 ――若い男女は何も分からぬまま、獣に狩られたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 村娘のアリシアは放牧されている家畜たちを眺めながら、ため息をついた。

 理由は退屈だから。

 毎日同じ事の繰り返し、それは安定という名の幸福でもあるが、年頃のアリシアにはまだ噛み締められないものだった。

 

「へーい、ため息なんてついてどうしたんだめぇー?」

 

「いや、退屈だなって」

 

「そっかぁ、じゃあガールズトークでもしないかめぇー?」

 

「暇だから良い……よ? うん?」

 

 アリシアは首を回して背後を見た。

 今自分とさりげなく会話をしていた正体を知るために。

 

「…………あの、どちら様です?」

 

 振り返ったら、ピンク髪の女の子がいた。

 同い年くらいだろうか?

 というか、頭に山羊の角が付いてる。

 

「よく聞いてくれたねぇ、私は何か色々あって人の姿を得た雌山羊さんだめぇー。よろしくめぇー」

 

「え!? そんなことあるの!?」

 

「まぁ嘘だけどぉ」

 

「嘘なんだ!?」

 

 女の子が楽しそうに笑う。

 多分揶揄った相手()が想像通りの反応をしてくれたからだろう。

 

「ごめんねぇ、ため息ついてたから気になって話しかけただけだよぉ」

 

「そ、それは気を遣ってくれてありがとう……?」

 

「どういたしましてぇ」

 

 そう言って微笑む女の子を少し観察してみる。

 瞳は金と赤、瞳の色が左右で違う人はいると聞いたことはあったけど、こうして実物を見るのは初めてだ。

 耳には高価そうな銀の耳飾り。

 自分のように動き易さ重視ではなく、見た目にも拘った可愛らしいフワフワした服。

 靴なんて、もしや噂に聞いていたヒールというやつだろうか?

 わぁ、よくあんな爪先立ち強制されるような靴で歩けるなあ。

 そんな感想を抱きつつ、ちょっとだけ敗北感に似た何かを感じた。

 自分のような田舎娘ではない。

 まさに常日頃からイメージしてた、憧れの都会の女の子って感じの人が目の前に居たからだ。

 しかし頭の山羊の角は何なのだろう?

 都会で流行ってる頭飾り的なやつなのだろうか?

 

「それでえっと――」

 

「私は悪魔ちゃんだよぉ」

 

「え? ……どうせそれも嘘なんでしょ?」

 

「ほんとだよぉ」

 

 ニコニコと笑っているが、また揶揄っているに違いない。

 まぁ良いか、渾名だと思ってそう呼んであげるとしよう。

 

「じゃあ……悪魔ちゃん? 私はアリシアだよ」

 

「よろしくぅ、アリシアちゃん」

 

 そうして自己紹介をして、握手をした。

 自分のマメだらけの手とは違って、細くて綺麗な手だった。

 

「――悪魔ちゃんはなんでこんなところに? 見ての通りなーんにも無いよ」

 

「何も無くはないよぉ。今日はねー、牛さんとかの家畜を何匹か購入できないかなって、さっき牧場主さんに挨拶に行ってきたところなのぉ」

 

「家畜を?」

 

「そぉ、採れたてのミルクとかあれば、お店で使う分を楽に補充できたりしないかなって」

 

「お店って……悪魔ちゃんはお店経営してるの?」

 

「うん、酒場とか色々ねー」

 

 同い年くらいに見えるけど、実際はもっと年上の大人の人なのかもしれない。

 凄いなぁ、お店の経営なんて自分では想像もできない。

 

「それでぇ、アリシアちゃんは何か悩み事ぉ?」

 

「悩み事っていうか……さっきも言った通り退屈で――」

 

「えぇー、本当にそれだけぇ?」

 

 見透かされたようにそう言われた。

 

「……クルトっていう狩人――というか幼馴染がいるんだけど」

 

「うんうん」

 

「最近会えてないなぁって……」

 

「へぇー、もしかしてそのクルトって幼馴染さんが好きを通り越してラブだったりぃ?」

 

「うん、そうだよ」

 

「ぉ……ふ、ふーん。し、正直さんなんだねぇ」

 

 別に自分にも周りにもその気持ちは隠してない。

 だから素直に答えた。

 すると悪魔ちゃ――さんは目を見開いたかと思えば目線が泳ぎ出した。

 

「そ、それでぇ? 会えてないっていうのは?」

 

「狩人だから、村から離れた狩人小屋に住んでて……最近村に顔出さなくて、何回か心配で見に行ったんだけど――ずっと居なくてさ」

 

「ふーん、でも狩人さんならぁ、獲物を何日も追ってるんじゃないのぉ? 私もそういうことよくあるからね!」

 

 何故か胸を大きく張って自信満々に宣言する悪魔さん。

 それにしてもお胸大きいなぁ。

 

「それがさ、狩用の道具全部置きっぱなしだったんだよ。罠とかもあるけど、少なくともクルトは全くの手ぶらで狩りをする狩人ではないよ」

 

「んー……それは確かに変だねぇ」

 

 狩りの道具を全て置いて、何日も失踪している狩人。

 当然村のみんなで森を探したりもしたが、見つからなかった。

 そして残念なことに、村の人間が突然消えるのはよくある話だった。

 野生動物に襲われた、村での生活に嫌気がさして出ていった――特に若い男女が新しい生活と新天地を求めて村から居なくなるなんて話は自分もよく耳にした。

 だから野生動物の危険さを知っているクルトは、野生動物に襲われたりしたのではなく、村を出て行ったのでは――と村のみんなは予想して捜索を辞めた。

 元気で生きていればそれでいい。

 そんな考えと風習が根付いているからだ。

 

「アリシアちゃんは納得してない感じぃ?」

 

「まぁね、真面目な性格だったから、もし出ていくって決めたら、挨拶くらいはするはず……だと思う」

 

 彼の全てを知っているわけではないから、確証は無いが自分はそう思った。

 だから――せめて最後に会いたい。

 それがアリシアのため息の理由(悩み)だった。

 

「――そっかぁ、じゃあ手伝ってあげるよぉ」

 

「え……?」

 

「探し物は得意なんだぁ。本当は代価貰ってからなんだけど……特別にクルトっていう人を見つけたらで良いよぉ」

 

「でも……何で手伝ってくれるの?」

 

 そう聞くと、また胸を張って悪魔さんはハッキリと言った。

 

「いやだなぁ、ガールズトークした仲じゃーん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの流れはあっという間だった。

 悪魔さんは魔法なんかも使えるらしくて、クルトの所有物があれば行き先が大体分かるらしい。

 だからクルトの狩人小屋まで案内して、彼の愛用の弓を使って悪魔さんと私は捜索を始めた。

 ――そして、森の奥深く。

 真っ暗な洞窟の入口に辿り着いた。

 

「こ、こういう場所って熊とかいるって聞いたよ……大丈夫なの?」

 

「大丈夫大丈夫、私最強だからぁ――お?」

 

 悪魔さんが変な声を上げた。

 何かに気が付いた、そんな声だった。

 ――そして、ほぼ同時に、洞窟の中から『ナニか』が飛び出してきた。

 速すぎて視認すらできなかったから、ナニか。

 そのナニかは悪魔さんに、多分掴みかかったと思う。

 その後悪魔さんをその場で押し倒す。

 そして動きが止まったことで、ようやく視認できた。

 それは、毛むくじゃらの大きな存在。

 犬――いや狼をそのまま巨大にしたような体格。

 荒い息遣いは、まさに獣のようだった。

 

「ぅ、グッ……! ニク、ニクダ……!」

 

 衣服が破れる音がした。

 巨大な獣が悪魔さんの服をその鋭い爪で引き裂いたのだ。

 白い柔肌、肌越しに浮き出てる鎖骨が服の切れ目から露出する。

 そして私が悲鳴を上げるより速く、巨大な獣はその牙を悪魔さんに突き立てる――

 

 

 

「――こら、めっ」

 

 ――だがその牙よりも速く、悪魔さんの声と共にバチンと大きな音が響いた。

 そして巨大な獣が一瞬空を飛び、ボールのように地面を跳ねながら、洞窟の岩肌に衝突した。

 

「お約束は大事だけどさぁ、私のヌードはまだ焦らしておきたいっていうかぁ。ほらぁ、水着回(ポロリもある)とか来た時のためにとっておきたいじゃん?」

 

 そんな、意味の分からない言葉を吐きながら、悪魔さんが土汚れをはたきながら立ち上がった。

 

「デコピン一回で許してあげるよぉ、反省してねぇ」

 

「…………ぁ、あ、悪魔さん、大丈夫ですか!?」

 

 ようやく再起動した脳が言葉を絞り出す。

 

「大丈夫だよぉ、それより――クルトさんってあの人であってる?」

 

「え……?」

 

 悪魔さんが指を刺す。

 その方向には、さっき吹っ飛んでいった巨大な獣が――

 

「……う、そ――く、クルト……?」

 

 ――ではなく、裸のクルトが倒れていた。

 慌てて駆け寄って、安否を確かめる。

 ……良かった、息はしている。

 意識は朦朧としているのか、呻き声が彼の口から漏れ出る。

 

「クルト? クルト!」

 

「うっ……お、れは――ありしあ?」

 

 揺さぶると意識が僅かに覚醒したようで、クルトと目が合った。

 

「――へぇ、まさかとは思ったけど……『人狼病』かぁ、珍しーい。久しぶりに見たよぉ」

 

 悪魔さんも近寄ってきて、そんな事を言う。

 

「人狼……病?」

 

「病気っていうか自然的に起こる呪いだけどねぇ。文字通り人間が狼さんになっちゃうんだよぉ。しかも理性が野生的な本能に塗り潰される厄介なやつねぇ」

 

「く、クルトがその人狼っていうの……!?」

 

「そうみたいだねぇ、まだ人の姿に戻れるってことは発症したのは最近かな?」

 

「まだって……じゃあそのうち――」

 

 嫌な考えが頭をよぎった。

 

「うん、やがて身も心も狼の本能になって人間の自我は消えるよぉ。怖いよねぇ」

 

 悪魔さんは暢気な声でおそろしい事を告げた。

 多分、これは嘘ではないと変な確信があった。

 

「そんな……治療法とかは?」

 

「魔女がたくさんいた時は何かコントロールしてたけど……今全然居ないから望み薄いねぇ」

 

 悪魔さんが何故そんなに詳しいのか、疑問を感じたが今はどうでもよかった。

 それより、クルトを助けなくては――

 

「でも大丈夫! アリシアちゃんはラッキーだね! 私が治療してあげるよぉ!」

 

「え……」

 

「もちろん、見返り――代価を貰うよぉ。さぁ、大好きな幼馴染のために君は何を――」

 

 悪魔さんのその言葉を、別の声が遮った。

 

「――まて、まってくれ――」

 

「あ……クルト!」

 

 クルトの声だった。

 意識が完全に戻ったようだ。

 

「そこの……ご婦人。あなたが並々ならぬ存在なのは理解している。だから、それは俺から頼みたい……」

 

「おぉ、手加減はしたけどタフだねぇ。別にいいよぉ、アリシアちゃんからでも、本人からでも代価が貰えれば治療は――」

 

「いや……すまないが()()()()()()()()

 

 クルトのその言葉で、悪魔さんが眉をひそめた。

 

「クルト……?」

 

 それは私も同じだった。

 彼が何を言っているのか理解できなかったから。

 

「俺は……俺はもう人間には戻れない。獣の姿になると異様に飢えを感じる。飢えを満たそうと動物の肉を喰らった――だが、もう手遅れだ。俺は……」

 

 "人間も喰らってしまった"

 

 クルトのその言葉は悲痛さに満ちていた。

 

「だから――俺を()()()()()ないか? 舌を噛み切っても、首を吊ってもダメだったんだ……」

 

「……人狼の生命力は凄いからね。でも、それならサービスで人狼に関する事、人狼だった時の記憶も消してあげるよ?」

 

 それで罪悪感は無くなる。

 悪魔さんはそう言った。

 

「それでも罪は消えない、だから俺はもう……楽になりたい」

 

 それはクルトという男の本音でもあり、弱音でもあった。

 

 

 

  「ダメに決まってるでしょ!?」

 

 

 

 

 だから、だからこそ、私は声を張り上げた。

 彼の気持ちも、意志も理解した。

 だけどそれでも、私はそれを否定したかったから。

 

「あ、アリシア……?」

 

「勝手に死のうとしないでよ。あんたには私がいる、私にはあんたが必要なの!」

 

 ――決意をした。

 その決意を瞳に宿して、アリシアは悪魔の方を見た。

 

「――悪魔さん、お願いがあるの」

 

「……なに?」

 

「私も彼と同じ……()()()()()

 

 今度はクルトが驚く番だった。

 

「アリシア……!? 君は何を――」

 

「うるさい、唐変木。あんたが私を置いていくつもりなら、何処までも追っかけるから」

 

「アリシア……」

 

 クルトはそれ以上何も言わなかった。

 私が頑固だって昔から知っているから。

 ――獣になった彼を追い掛けるには、同じ獣になれば良い。

 アリシアはそう考えた。

 そして、悪魔を名乗った女の子にその力があると確証はないが、確信はしていた。

 

「――本当にそれを望むならいいよ。でも代価は?」

 

 悪魔が金と銀の天秤を何も無いところから出現させ、宙に浮かせた。

 金の方に既に天秤は傾いていた。

 

「――私の家の物好きに持っていて」

 

 それは、願いで人狼になったとしたら彼女には必要のないものだ。

 そして人間の家の物なんて悪魔にとっては大した価値もない。

 だから天秤が動いたとしても、ほんの少しだろう――

 

「…………」

 

 ――なのだが、天秤は予想以上に大きく動いた。

 まだ釣り合ってはいないが、その振れ幅は普通だったら有り得ないものだった。

 ……その理由を悪魔は知っていた、そうなることも予期していた。

 だから何も言わない。

 

「――俺の小屋の物も好きに持って行ってくれ」

 

 クルトが言った。

 すると、天秤が完全に釣り合った。

 釣り合ってしまった。

 

「…………ふふふ、これだから――」

 

 悪魔が静かに笑う。

 ここに天秤の悪魔の取引が成立した。

 

「じゃあ、もう始めるよ」

 

 悪魔が2人に向けて手を差し出す。

 

「――ありがとう、悪魔さん」

 

「ありがとう」

 

 男女が悪魔に感謝を告げた。

 ――この夜、近くの村まで響く狼たちの共鳴するような遠吠えがした。

 その夜から、森の奥には恐ろしい怪物が居るから決して近寄らぬように。

 そんな噂が何処からともなくと流れ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 酒場の扉が静かに開いた。

 

「あ、お姉さん。今日は遅かった――え、どうしたのお姉さん!? 服が何かボロボロだよ!」

 

 レイラが心配そうに天秤の悪魔に駆け寄った。

 

「――心配しないで、ちょっと破れただけだよ」

 

「へ……そ、そうなの?」

 

 何か変な違和感を感じた。

 レイラは思わず破けていた服に向けていた視線を、上にあげた。

 

「ぁ…………」

 

 当然、そこには天秤の悪魔の顔が。

 金と赤の瞳で、レイラがプレゼントしたイヤリングをしていた。

 それはいつも通りだった。

 しかし、その表情は違った。

 いつもは何処か、()()()()()()笑顔ばかり浮かべているその表情。

 今はそうではなく、とても()()()微笑みだった。

 その微笑みにレイラは何故か顔を赤くしてしまい、言葉が詰まってしまった。

 

「いつものお願い」

 

 そんなレイラを放置して、ボロボロの服を着替えたり直したりもせずにいつものカウンター席へ。

 そしていつもの注文をマスターに通した。

 ――当然マスターもその異変に気が付いていた。

 思わずグラスを落としそうになるが、何とか耐えてグラスに酒を注ぐが、気になって気になって何故か手が震える。

 だが酒場のマスターの矜持として、一滴も溢さずに酒を出すことに成功した。

 

「…………」

 

 そして天秤の悪魔が静かに飲み出す。

 マスターと何とか再起動したレイラはお互いの視線――マスターは頭がないが――を合わせる。

 

 "やっぱりなんか変だ"

 

 そして2人の心情がシンクロした。

 いつもなら、妙な言動をマスターにぶつけたり、今日の出来事を楽しげに、愉快に話し始めるのだが……

 いつまで待っても、無口のままだった。

 何かあったのは、間違いない。

 だが天秤の悪魔という人柄を知っている2人だからこそ、この悪魔にとっての『何か』がどんなものなのか想像もできなかった。

 故に迂闊に聞けないのだ。

 

「――ごめん、すぐに戻るからグラスそのままにしていて」

 

 どうしようかと頭を悩ませる2人。

 すると酒を一口だけ飲んだ天秤の悪魔が、席を立って去ってしまった。

 2人はそれを黙って見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人里離れた森林地帯の中。

 主に湧水からできた小さな湖。

 水面には月が映っていて、鏡のように透き通った湖だった。

 そこに天秤の悪魔は突然現れた。

 彼女()はボロボロになった服を脱ぎ捨て、靴も下着も何もかも脱ぎ捨てた。

 そして湖に近寄り、その場で軽く跳躍した。

 まるで月に向かって飛び跳ねる兎。

 水面の月に向かって、頭から飛び込んだ。

 それはとても静かで優雅なものだったが、僅かな水面の揺れと音で、湖へ水を飲みに来ていた動物たちは逃げてしまった。

 

 月光で照らされた薄暗い水中、彼女()は何もせず水の流れに身を委ねていた。

 彼女()は今、()()()()()()()

 内側()から生じるこの慟哭にも似た衝動、熱、感情を噛み締めようと、抑えようと、静かで冷えた水中で静かに瞑想をする。

 

 ――あぁ、これだ、これが人の感情、熱意、衝動、意志、信念――

 あの男女から感じた、凄まじいまでの情念()

 あれこそが人の(さが)だ。

 ()にはもう無いものだ。

 

 彼女()は今この瞬間だけ、人間になっていた(もどれた)

 ――やがて水面に彼女()が浮かんできた。

 

「――ふ、ふふふ。あはっ――」

 

 彼女()が笑う。

 それはいつもの作り物ではなく、人らしい、人の笑い声だった。

 そして彼女()の頬を水滴が何度か流れていき、それは湖の水と溶け合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――たっだいまぁ、可愛い可愛い悪魔ちゃんが帰ってきたよぉ」

 

「あ、おかえり――何で裸なの!?」

 

「いやぁ、ボロボロだったからその辺で脱いできちゃった」

 

「不法投棄!?」

 

 

 

 




先生、コメディとギャグ君が来てませーん
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