転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします   作:メスシリンダーガキ

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なんか少し長くなりそうなので、キリ良いところで一回切りますね


十二話

 

 

 

 

 マスターにとって、天秤の悪魔はどんな存在か。

 それは彼の口から語られることはない。

 だが彼の心情をもし、読み取れたとしたら?

 きっとこう思っているだろう。

 

 "単なる主従関係だ"と――

 

 

 机や椅子を端によせ、そこそこの広さを確保した酒場の床を、男と女の靴が忙しくなく踏む。

 それは規則的で、決まった踏み方、ステップで床が軋む音がする。

 今日は休業日、客も従業員の1人のレイラも訪れる事はない酒場。

 首なしのデュラハンと、天秤の悪魔の2人だけが居た。

 

「――5回目」

 

 天秤の悪魔が言う。

 

「――6回目」

 

 そして数秒もしないうちにカウントが進んだ。

 何のカウントか?

 それは、()()()()()した回数だった。

 

「――7回目……ねぇ、私の足をあと何回踏むのかなぁ?」

 

 珍しく、主人が少し苛立ったような声色で言った。

 しかしそうは言っても、休日に部屋まで押しかけてきて、()()()なんていきなりやらせたのはそっちなのだから、大目に見てほしいものだ。

 こっちも踏みたくて踏んでいるわけではないのだから。

 

「それでも私の騎士様なのぉ? ダンスの一つや二つ、あっという間にマスターしてほしいなぁ。酒場のマスターなんだから」

 

 それとこれとは話が別だろう。

 

「言い訳しなーい。ほら、私に恥かかせないでよ騎士様ぁ」

 

 こういう時に限って、主人は自分を騎士として扱う。

 本当に都合の良い事だ。

 そもそも、恥が云々言う前に、いきなりダンスの練習をさせる訳を説明して欲しいものだ。

 

「――そういえば説明してなかった。ごめーん♡」

 

 それが素なのかわざとなのか、未だに判別ができない。

 一度繋いでいた――というより繋がされていた互いの手が解ける。

 そうして主人はどこからか、赤い封蝋がされた手紙を取り出した。

 そして自慢するように自分に向かって突き付けた。

 

「みてぇ、すごいでしょ?」

 

 では先ずそれの何がどう凄いのか説明をしてくれ。

 

「これはねぇ、社交界の招待状なのぉ」

 

 社交界?

 

「そぉ、ノーバル王国ってところのある貴族が一年に一回開く社交界なんだけどぉ、招待客はほぼ縁やコネのある貴族とかなんだけどねぇ――毎回数枚はフリー枠の招待状がばら撒かれてるのぉ」

 

 フリー枠?

 つまり、その招待状を持つ者は身分関係なく()()()()社交界に参加できるということだろうか?

 

「せいかーい、理由は知らないけどねぇ。気紛れとか笑い者にするとか……運が良ければ新しいコネクション相手が来ればいいかなとか……まぁ、不確定な要素を取り入れたいって事だと思うよぉ?」

 

 なるほど、いかにも貴族の考えそうな道楽だ。

 昔と何も変わっていない。

 それでその招待状を何故持っているのか?

 

「へへへぇ、王国の宿場でカード遊びしてたんだよぉ。そしたらある貴族をすっぽんぽんになるまで負かしたら、取り戻そうと必死になったのか、招待状(これ)を賭けに出してきたんだよぉ」

 

 ――なるほど、それでそのムキになった貴族をさらに負かしたのか。

 その貴族は運が本当になかったのだろう。

 よりにもよってこの主人とカード遊びをするなんて、人生で一番の不幸とも言える。「ねぇ今失礼なこと考えてない?」

 この主人はやろうと思えばバレないイカサマする程度造作もない力を持っている。

 だというのに賭け事ではその力を使うことはない。

 相手を舐めているのもあるかもしれないが、おそらく単純に、純粋な勝敗を好むのだこの悪魔は。

 そしてそれでも賭け事にはめっぽう強い。

 駆け引き、勝負所、引き際、戦略、心理戦。

 どれも一級品の腕前、自分もこの主人とのカード遊びで勝てたことは殆どない。

 

「いやぁ、面白かったよぉ。仕舞いにはイカサマだって連呼してくるから、私は口頭だけで指示を出して、その貴族の付き人に代わりに私のカードを動かしてもらったんだけど……最後の顔は絵画にしたいほどだったよぉ」

 

 上機嫌で笑う主人、まるで悪魔の笑い声だった。「まるでじゃなくて悪魔だよぉ」

 しかしその招待状というのは、そこまでの魅力があるものなのだろうか?

 

「王国の平凡な貴族たちからしたら、コネを作るチャンスだからねぇ。社交界を開く貴族は王国の三大貴族の一家だしねぇ」

 

 そして封蝋の付いた手紙に嬉しそうに口付けする主人。

 

「前々から私もその社交界には興味あったんだぁ。けど中々入手が困難でねー」

 

 これまた不思議なことだ。

 その力を使えば招待状を手に入れるのも造作もないだろう。

 何なら社交界にしれっと参加することもできるだろうに。

 何故こんなにも正攻法で人間社会に関わろうとするのか、未だに理解できない。

 まぁおそらく、信念というやつだろうが。

 ――それにしても、何故社交界に興味を?

 

「私も色々とコネ作りしたいんだよぉ。貴族なんて誰しも抱えてるモノがあるでしょ? そんな人間がたくさん一ヶ所に集まるんだよぉ? これはもうまたとない取引チャンス(めいくゆあちょいす)だよ!」

 

 "あとタダ飯とタダ酒!"

 と主人は付け足して満足そうにその場でくるくる回る。

 なるほど、そこまでは理解した。

 だが結局最初の疑問に戻る。

 何故自分にダンスの練習を?

 

「えー、察しの悪い男は嫌われちゃうよ? だからさぁ、一緒に行こうよ、社交界」

 

 …………誰が誰と?

 

「私と君が」

 

 何故?

 

「偶には外に出たいかなって思って、あと暇そうだし」

 

 誰かさんのお陰で暇には困ってないが。

 

「もぉ、本当に察しわるーい……要するに、ボディガードをして欲しいんだよ、私の騎士様」

 

 ボディガード?

 主人にとってこの世で一番必要のない存在では?

 

「それ本気で言ってるぅ? 私はか弱い可憐な乙女だよぉ?」

 

 か弱い……?

 可憐……?

 それはレイラのこととかではなくて?

 

「今皮肉とかじゃなくて本心で思ったよね!? ……あのねぇ、私も話す相手とかは選びたいわけ。でも社交界みたいな場ではどうでもいい相手が擦り寄ってくるものだから、普通は露払いのボディガードを連れ歩くものなの。特に女性はね」

 

 主人は続けて言う。

 

「ほらぁ、私が茂みに連れ去られて襲われてもいいのぉ? 引き裂かれたボロボロの服で呆けたように帰って来て、心に傷を負った私をマスターは慰められるのぉ!?」

 

 そうか。

 ではこの前そんな状態で帰って来たと思ったら、また出て行って、再び帰って来たら全裸で意気揚々と入って来たのはそういうことだったのか?

 しかもほぼシラフで。

 

「あ、れは……違くて――えーい、拒否権はない! 一緒に来いと言ったら来る! 社交界に出席するならダンスは踊れるようになれ!」

 

 誤魔化すように捲し立てる主人。

 自分の手を無理やり握る。

 

「いい? 基本は男がリードして、女がそれをフォローする。身長差はヒールで多少カバーしてあげるから、足の運び方から覚えて――」

 

 そして、何度も何度も練習をさせられた。

 アンデッドゆえに筋肉痛にはならないのが幸いだった。

 

 

 

 




すみません、十二話以降は更新ペース少し落とします。
流石に飛ばしすぎました…でもこの1週間とても充実してました。
改めてありがとうございます、今後ともよろしくお願いします。
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