転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします   作:メスシリンダーガキ

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十八話

 

 

 

 

 カード遊びで変な紙切れを手に入れた。

 悪魔を呼ぶ手順らしい。

 胡散臭かったが、酒の勢いで試してみた。

 それは、本物だった。

 そしてたったの3日、されど3日。

 最初の一回はお試し、次からは代価を取る。

 だから試しで拳闘試合の結果を聞いてみた。

 そしてその通りに賭けたら、一気に財布から金貨が溢れてしまった。

 

 ――やめておけばよかったんだ――

 

 その時の快感が忘れられなくて、取引(契約)をしたんだ。

 代価はどうするかと聞かれて、後でまとめて払うと答えた。

 そしたら、"もし払えなかったら?"と聞いてきたから、そんな事にはならないさと答えた。

 

『じゃあその時は大事なものを貰うねぇ』

 

 勝手にしろ、悪魔め。

 他の連中はそうやって巧みに騙したりしたんだろうが、俺は違う。

 ちゃんと用意しておくさ。

 

『――ふざけるな! とんでもない大金だぞ!?』

 

『でもそれぇ、私の力で稼いだやつでしょ? それなら君を仲介する必要ないじゃーん。代価に使うならせめてその15.2倍持ってこい♡』

 

 ――それなのに、あの悪魔は俺の用意した大金を代価として認めなかった。

 金だぞ、世の中金なんだ。

 何で受け取らないんだ。

 

『……他に出す代価はないのぉ? 賭けに強くなりたい、あの女を抱きたい、馬鹿にしてきた連中を痛い目に、全部のツケを無かったことに酒を浴びるほど飲めるように若い頃のような体力を昔出来なかったアレをコレを――』

 

 ――やめておけばよかったんだ!――

 

『すごい欲張りさんだなぁ、でもなんか自信満々だしきっとあっと驚く様な代価をくれるんだなぁ……って思ってたんだけど――』

 

 

 

 『とんだ期待外れだったな』

 

 

 

 逃げた、逃げてしまった。

 逃げた以上は逃げ続けるしかない。

 あぁ、くそ、くそ。

 今更になって気が付いた。

 悪魔とはいえあんな上物の女を目にして、自分の欲望が何故あの女悪魔に向かなかったのか。

 あれは、あれは自分とは違うじゃないか。

 見た目だけだ、外見だけだ、ガワだけだ。

 人間を油断させるための擬似餌だ!

 

 自分の愚かさを報いながら、ひたすら逃げる。

 逃げてる途中も、少し休んでる間も。

 ずっとずっと、あの赤と金の瞳が見ていた。

 それでも逃げて、逃げて――

 ようやく、聖都ロンディアに辿り着いた。

 ここなら、助けてくれる。

 アンデッドや悪魔といった存在と対立する、聖火隊の総本山なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………なぁ」

 

 聖火隊の本拠地である大聖堂――ではなく、分散させた拠点の一つである小さな聖堂。

 小さいといえど、立派な聖堂だ。

 そしてその聖堂の入り口に、2人の門番。

 どちらも聖火隊の火をその身に受け入れた者だった。

 

「なんだよ?」

 

「昨日保護した男、何か喋ったのか?」

 

「いや、相当疲労が溜まってたらしく、まだベッドの上だよ」

 

「なら駆け込んできた時に叫んでたやつの真偽は? 『悪魔が来る』って言ってたやつ」

 

「まだなんともなぁ。聖女様がすぐに来てくれたが、特に呪われてるわけではないそうだ。だからとりあえずの保護だな」

 

 2人は主に暇を潰すために会話をする。

 もちろん夜遅いので小声でだ。

 

「――お疲れ」

 

「お、やっと来たか」

 

「早く着替えてこいよ」

 

「じゃあのんびりしてから来るか」

 

 そうこうしていると、門番の交代要員が2人来たので、聖堂の中に通した。

 もうすぐで仕事も終わりだ。

 門番の2人が欠伸をかみ殺していると、人影が1人近付いてきた。

 

「お疲れ様ぁ」

 

「おう、お疲れさん」

 

 挨拶をして人影が聖堂の中に入ろうとする。

 それを挨拶を返して、見送る門番たち――

 

「……ん? いや少し待て。あまりにも自然だったから通しそうになったが――ここは聖堂だ。礼拝ならもう少し待ってから……」

 

 ミサの時間にはまだ早い。

 信仰心があるのは良いことだが、こんな夜遅くに出歩くのは少し感心しない。

 門番たちは人影を改めて視認する。

 

「「…………」」

 

「? ――あ、そっかぁ。こほん……助けてくださーい。悪魔に襲われてまーす!」

 

 ピンク髪の少女。

 しかし頭には異形の角が。

 そして赤と金の瞳。

 その特徴は、聖火隊では入隊してから学ぶ学問で知ることになるものと一致していた。

 それは、悪魔という存在を知るうえで重要な存在。

 それは、悪魔の中でも最も有名で、危険な存在――

 

「――天秤の悪魔だ!」

 

「おいおいおい、冗談だろ!?」

 

 門番2人がメイスを構える。

 

「あれぇ、保護してくれないのぉ?」

 

 ピンク髪の少女――天秤の悪魔が首を傾ける。

 

「あ、分かった。ちゃんと襲われてる現場みないとだよね。ちょっと待ってね、今暇してそうな近くの奴に声を…………」

 

 天秤の悪魔がその場で瞳を閉じて動かなくなる。

 ……チャンスか?

 いや、罠か?

 迂闊に動けなかった。

 

「……おい、今のうちに応援を呼びに行ってくれ」

 

「――お前1人でカッコつける気か?」

 

「あぁそうだよ、はやくしろ」

 

 門番の1人が頷いて、聖堂の中に入っていった。

 さて、1人でどこまでできるか……

 残った門番は腰に携帯してある瓶――聖水に手を掛けた。

 

「――は? 演技でも襲いたくない? 勘弁してください? チキンかお前――ごめんチキン()だったかお前――頼むよぉ、今近くで暇してそうなのお前しか……あ、逃げたか。今度あったらフライドチキンにしてやろ。ポテトLサイズ付きでね」

 

 そして天秤の悪魔は意味の分からない独り言を言う。

 

「……断られちゃった、しょぼん」

 

「…………ここに何の用だ、悪魔」

 

 今門番にできることは、時間稼ぎだけ。

 幸いにも言葉は通じる――通じるのかこれに?――相手だ。

 

「えー、わざわざ言わなきゃだめぇ? ――昨日ここに逃げ込んできた男がいるでしょう? 代価まだ貰ってないから取り立てに来ましたぁ」

 

「悪魔め、そうしてあの男から全てを奪うつもりか?」

 

「だって代価だもん。何かしてあげる代わりに、何かを貰う。人間のその当たり前の営みを、私たち(悪魔)は尊いと思うから、面白いから、楽しいから、触れたいから――生き甲斐にしてるんだよ」

 

 天秤の悪魔の眼差しが門番を深く見つめる。

 門番はゴクリと喉を鳴らした。

 乾いた喉を少しでも潤したかったから。

 

「――まぁでもお仕事だもんねぇ。わかるよぉ、断り難い案件も上から言われたらやらなきゃって思うもんねぇ。逃げたいけど逃げれないもんねぇ――お互いやる事しようかぁ」

 

 ――門番は震える膝を叩いて、メイスを握る手に力を込めた。

 そして弱々しくも駆け出す。

 ……残念ながら門番の意識はそこで途切れた。

 次に目を覚ましたら、聖堂内の医務室だった。

 怪我などはなく、むしろ目覚めもよく体調はすこぶる良かった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 やぁ、天秤の悪魔ちゃんだよ。

 そういえば最近まだ私のこと天さん言う輩がいるなぁ。

 あの騎士の男と一緒にサイアクな目に遭いたいのかな?

 

「――くるなぁ! くるなぁ!」

 

「くるよぉ、くるよぉ」

 

 何か逃げ出したから、興が乗って鬼ごっこを始めたのだが、まさか聖都まで逃げるとは。

 とりあえず聖堂内の人は全員おねんねしてもらい、契約した男を叩き起こしたらまた逃げ出した。

 流石に鬼ごっこも飽きてきたので、ここで終わらせるのだが。

 

「ぁ、あぁ……!」

 

「つかまえた♡」

 

 聖堂のエントランスホールまで逃げた男の首根っこを掴んで、引き倒す。

 そして仰向けに倒れた男の上に馬乗りになる。

 

「さぁ、何くれる? 欲望にくらむその目かなぁ? 欲望に手が出るその両手かなぁ? 欲望に走るその両脚? それとも内臓(中身)とかにしちゃう? 選んでもいいよぉ、めいくゆあちょいすだね!」

 

 天秤を掲げる。

 金の方に天秤が傾く。

 

「――――」

 

「あれぇ、気絶しちゃった……もしかして今のめちゃくちゃ悪魔的ムーブだったのでは?(今更)」

 

 どうよみんな。

 私が本気出せばこの通りよ。

 今更見直しても遅いけど、見直してくれてもいいよぉ。

 そしたら採れたて新鮮のブドウをあーんで食べさせてあげるぅ。

 2つしかないから先着順だね!

 

 ――代価を得るために、男の白目を剥いた眼球に指を伸ばした。

 すると、ホールの扉が開いた。

 

「――あれぇ、外に連絡漏れてたか。別にいいけど」

 

 視線を向けた。

 扉からホールへと入ってきたのは、3つの人影。

 白いドレスのような衣服に、金の装飾が目立つ銀髪の女性が2人。

 うーん、見分けがつかない。

 双子かな、そしてエッチだ。

 多分私より大きいぞあれ。

 読者さん達は惑わされないでね!

 

 そして双子らしき女性に挟まれたように、車椅子の老人が。

 何だあれ、老人だけどハーレムてきな?

 毎晩「俺の槍を磨け」みたいなプレイしてもらってるのかな?

 もしくは双子両方倒してからじゃないと、本体の老人にダメージ入らない系のボスかな?

 

「…………外で待っていてくれ」

 

 老人が双子にそう言うと、双子はホールから出て扉を閉めてしまった。

 そして老人はその枯れ木のような腕で、車椅子の車輪を動かしてこちらに近付いてくる。

 

「大丈夫ぅ? 車椅子押してあげようかぁ?」

 

「お気持ちだけ頂きましょう」

 

 そうしてお互い、五歩ほど離れた距離に。

 ……何かシリアス君が出てきそうだから、立ち上がって気絶した男を一旦ホールの隅へと転がした。

 ちょっと加減ミスって壁にぶつかったけど、許してね。

 

「――今は聖火隊の教区長をしております。老体ゆえ座ったままで申し訳ない」

 

「別にいいよぉ。それより1人で大丈夫なのぉ?」

 

「えぇ、大丈夫です」

 

 老人には気を付けろ。

 なんてお約束もあるが、正直目の前のこの老人からは達人のような感じはしてこない。

 貫禄はあるが……

 それともこの後ゆっくりと立ち上がって、車椅子に取り付けられてる杖が、仕込み杖的なやつで襲いかかってくるとか?

 

「――お久しぶりです」

 

「え、あぁ、お久しぶりです……?」

 

 そんな事考えてたら、何か久しぶりだとか言われた。

 どうしよう全く覚えがない。

 特に遊んだこともないけど、お互い名前だけは知ってるみたいな同級生に街中で声を掛けられたような気分だぜ。

 

「あなたの貴重な時間を無駄にしたくはないので、事を済ませてしまいましょうか」

 

 老人はそう言って、懐から何かを取り出した。

 

「これを代価に、あちらの男性の代価を肩代わりさせてください」

 

「? 肩代わりって……一体何を――」

 

 老人にこちらから近付いて、その手の上のものを確かめた。

 

「――あれぇ」

 

 そして思わず声が出た。

 老人の手に乗せられていたのは、山羊の角の先端部のカケラ。

 そう、それは――()()()()()()()()

 

「…………もしかして、あの時の()()?」

 

 それをここ100年ほどの間で、自ら与えたのは一回だけ。

 記憶を掘り起こすのは簡単だった。

 

「――えぇ、思い出して頂き嬉しいです」

 

 老人が感情を噛み締めるように言う。

 

「……全然使う気配ないから、必要ないから捨てたかなと思ってたのに――あれからずっと使わずに持ってたわけ?」

 

「はい、正直なところ何度か使いたくなりましたが――結局使えませんでした」

 

「いや、正気? それ使えば一回だけ()()で私の力を使えるって証だよ? それを自分の為じゃなくて、見知らぬ男の為に使うの?」

 

「えぇ、私ももうこの歳です。このまま墓まで持って行っては、あなたのあの時の好意を無下にしてしまうでしょう?」

 

「そういうことじゃ……え、本当にここでそんなことに使うの?」

 

 びっくりして思わず再確認してしまう。

 

「はい、お願い致します」

 

「――度し難いほどお人好しさんに育ったのかぁ。まぁ君が良いなら、そうしよう」

 

 代価を受け取る――いや、返してもらった。

 天秤が銀の方へ勢いよく傾いた。

 そして角のカケラを手の平で燃やし尽くして灰に、その灰すらも残さず消す。

 

「……はーい、じゃああの男にもう用はないでーす。帰りまーす、それとも一応バトルしとくぅ? 聖火隊の教区長さんなんでしょ?」

 

「いえ、このまま正直に皆に伝えますよ。天秤の悪魔は去ったと」

 

「なんかそれ私が負けてなーい? ……まぁいっか、じゃあねー少年」

 

 思わぬ再会だったが、ここにこれ以上いる意味はない。

 帰りにフライドチキンを用意して、酒場に赴くとしよう。

 

「――ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めて会ったのは、事故で崖下に馬車ごと落下して死に掛けていたときだった。

 両親と自分は奇跡的に生きていたが、みんな大怪我を負っていた。

 街から街へ移動するその馬車の、他の乗客や御者は多分息はなかったと思う。

 ――そんな時、天秤の悪魔は現れた。

 そして代価さえあれば助けてあげると言ったあと、両親はすぐに子どもだった自分を助けてくれと願った。

 それが両親との永遠の別れだと、子どもながらに察した。

 泣きたかったし、止めたかったけど、大怪我で言葉を発することすら出来なかった。

 ――そうして両親は己の全てを差し出し、自分だけ助かった。

 その後、天秤の悪魔は自分を近くの街の孤児院まで連れて行ってくれた。

 

『――貰った代価のお釣りみたいなものだよ。困ったことがあればこれを握って私を呼ぶといい。一回だけ助けてあげる』

 

 去り際の、彼女のその微笑む顔が忘れられなかった。

 多分、初恋というやつだったのかもしれない。

 彼女のことが知りたくて、悪魔について調べたり勉強したりした。

 気が付けばその知識やらを買われて、聖火隊に入ることになり、さらに気が付けば教区長までになっていた。

 聖火隊に入ればまた会えるだろうか、それとも会う為だけにこのカケラを使うか。

 そんなことはもう幾度も考えたが、結局使わなかった。

 理由は自分でもよく分からなかった。

 ただ、あの日の想い出を、忘れたくない大事なもののままにしたかったのかもしれない。

 

 ――あぁ、でも。

 墓に入る前にまた会えた。

 覚えててくれた、言葉を交わした。

 それだけで充分だろう。

 

「――じゃあねー少年」

 

「――ありがとうございました」

 

 あの時伝えそびれたその言葉を、伝えられた。

 それだけでいいじゃないか――

 

 

 

 

 

 

 

 

「号外だよ、新聞買って」

 

 新聞売りで稼ぐ少年が、ベンチでパンを齧っていた少女にそう言った。

 身なりが良さそうだったから、金を持っているだろうと予想して。

 

「――いいよぉ、一部ちょーだい」

 

「まいど!」

 

 少女が代金の銅貨を数枚渡して、新聞を受け取った。

 見出しのタイトルは、聖火隊のとある教区長の逝去を知らせるものだった。

 

「……ねぇぼく」

 

 新しい獲物を探しに行こうとした新聞売りの少年を、少女が引き留めた。

 

「この街のおすすめの花屋はどこかなぁ?」

 

「んー、どこだっけかなぁ」

 

 少女が再び、数枚の銅貨を少年に渡した。

 

「――広場の近くの、ゴスラムさんって人のところがおすすめだよ!」

 

「ありがとぉ」

 

 少年はそれだけ告げて、今度こそその場を去った。

 少女は新聞の内容を読んでから、ベンチから立ち上がって広場へと向かい始めたのだった。

 

 

 

 

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