転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします   作:メスシリンダーガキ

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十九話

 

 

 

 

 気配を殺して、茂みに紛れるように潜伏する。

 数秒、数分、数十分。

 やがて、目前の獣道を一匹の鹿が通り掛かる。

 手にした弓を静かに構えて、手元に用意していた矢をつがえた。

 弓の弦を引き絞り、狙いを定める。

 ――そして矢を放った。

 ……矢は鹿ではなく、あらぬ方向へ飛んでいった。

 そして鹿はそれに驚いて勢いよく逃げ出した。

 

「――また外した……」

 

 茂みから弓矢を持った女エルフが出てきた。

 大きなため息を吐きながら。

 

「うぅ……お肉が恋しい――」

 

 女エルフは狩人として森の中で生活をしていた。

 だが、弓の腕前に少し自信がなく――というより壊滅的に才能がなく、狩りはあまり上手くいってなかった。

 何なら川で魚を手掴みで捕まえる方が上手い。

 もう漁師にでもなろうかと女エルフは考え始めていた。

 

「はぁ……外した矢どこいったかな」

 

 そして貧乏性、外れて飛んでいった矢を回収するためにエルフは矢が飛んでいった方向へ向かった。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 矢はすぐに見つかった。

 木々の向こう、少し開けた場所。

 山羊の角を頭に生やした、ピンク髪の人間。

 その左膝に刺さっていた。

 ピンク髪の人間は、目と口を開いてポカンとした表情で現れた自分を見つめる。

 そして膝の矢を見る、また自分を見る。

 

「――あいゆーすとぅびーあんあどべんちゃらーらいくゆー。ぜんあいとぅっくあんあろーいんざにー……」

 

 そして意味不明な言語を呟いて、その場に仰向けで倒れてしまった。

 

「あ、うぇ! もしかしなくても私の矢が当たっちゃった感じですよねー! 大丈夫ですかー!?」

 

 慌てて駆け寄った。

 そしてこういうときは、先ずは呼吸を確保するといいって先生が言ってたので、ピンク髪の人間の背中に手を差し入れて、上体を軽く起こした。

 

「あの、大丈夫ではないとは思うのですが大丈夫ですか!? 死にそうな感じですか!?」

 

「――当ててやろうか?誰かにスイートロールを盗まれたかな?」

 

「盗まれてないです! それより大丈夫ですか!?」

 

「面倒は避けろよ、エルフ」

 

「はい! でも矢は避けてくれませんでした!」

 

「何も問題ないか?」

 

「問題ありまくりです!」

 

 会話になっているようでなってない。

 しばらくそんなやり取りが続いた。

 

 

 

「いやぁ、危うく衛兵になるしかないところだったよぉ。はい、返すね矢」

 

「あ、すみません……」

 

 急に立ち上がったかと思いきや、何でもないかのように膝から矢を抜いて自分に渡してきた。

 

「えと、お怪我の具合は……?」

 

「大丈夫だよぉ」

 

 ピンク髪の人間の膝を見る。

 ……確かに傷も無いし、血も流れていなかった。

 おかしいな、確かに刺さってた気がするのだが。

 

「それにしてもやり手さんだねエルフさん。この私が矢を受けたなんて久しぶりだよぉ」

 

「いや、その……鹿を狙ったのですが外れてしまって――」

 

「あー……まぁかわいい山羊さんには当たったね。良かったじゃん!」

 

 良くはないのでは……?

 危うく殺人をしてしまうところだったのだから――

 

「――というか、人間……ですよね?」

 

「違うよぉ、悪魔さんだよぉ」

 

「悪魔……?」

 

 何となく聞き覚えのある名前だ。

 先生の授業で聞いたようなそうでないような……

 

「何だっけ……男の人にいやらしいことする種族だっけ――」

 

「それサキュバスだねぇ」

 

「あ、悪戯好きの――」

 

「それはインプだねぇ」

 

「っ……!」

 

「思い出せないなら無理して何か言おうとしなくていいよぉ」

 

 気を遣われてしまった。

 実に情けない。

 勉強も弓の腕もダメダメな自分に嫌気がさしてしまう。

 

「まぁとりあえず、悪魔は危険でこわーい存在なんだよぉ」

 

「どう危険なのですか?」

 

「どう危険……?」

 

「何故怖いのですか?」

 

「何故……何か似たようなやり取りしたことあるな――うーん、実際見せた方が早いか」

 

 そういうと、ピンク髪の人間――悪魔?

 悪魔は金と銀の――何だろうこれ?

 先生の部屋で見たことあるような気もするけど。

 

「鹿を狩りたいんだよねぇ?」

 

「へ、あ、はい」

 

「その手伝いをしてあげる。例えば――鹿をもう一度目の前に呼ぶとか、鹿に必ず矢が当たるようになる――どっちが良い?」

 

「え、うーん……どっちかなら――鹿を目の前にお願いしたいです!」

 

「あれ、後者じゃないんだ――じゃあその願いねぇ」

 

 ピンク髪の悪魔がそう言うと、金と銀のやつが何か勝手に動いた。

 そして金の皿の方に紙切れが出てきて、なんか浮かんでる。

 

「はい、じゃあ代価ちょうだい」

 

「たいか?」

 

「そう。お願いを叶えてあげるから、その代償――お礼をくださーい」

 

「あ、そういうこと……とーかこーかんってヤツですね! 先生がよく言ってました!」

 

「そー、その先生は錬金術師さん?」

 

「え、何で分かったんですか!?」

 

「いや、お約束のセリフだなって――それで代価を何か出せるぅ?」

 

 そう言われて、ポケットの中を漁る。

 出てきたのは――

 

「――どんぐりしか持ってないです!」

 

「小学生のポケットか……? えっと、それだとちょっと足りないかなぁ」

 

「そんな! 美味しいのに!」

 

「――物品じゃなくても、何かこう――概念的なのでもいいよぉ。例えばアレをするから、コレを誓うから。あと魂や寿命をちょっとあげるとか――」

 

「???」

 

 つまりどういうことなのだろうか。

 思わず首を捻ってしまった。

 

何かエルフにしてはちょっとアホの子だな……あー、大事にしてることとか、大切にしてるものとか――いざという時のとっておきみたいなの……?」

 

 ……あ、そうか分かったぞ!

 

 

 

 「じゃあ私の処⚪︎あげます!」

 

 

 

 「何言いだすのこの娘!? ちょ、傾くな天秤!」

 

 

 

 何か金と銀のやつが、銀の方に思いっきり動いた。

 すごい、どんな仕組みなのだろうか?

 

「っ……! ご、ごめんねぇ。これで本当は良いんだけど、ちょっと今の無しにしようかぁ。というかそういう事あまり簡単に言わない方が良いと思うよぉ……」

 

「そうなんですか? もし食うのにも困ったら、人間の街でそれを言えば、きっとお金とか食べ物くれるってお父さんが――」

 

 

 

 「お父さんが!?」

 

 

 

 

 「はい! 自慢のお父さんです!」

 

 

 

 「それ本当に自慢にしていいお父さんなの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか無駄に疲れた気がする。

 この前レイラちゃんが大市場で買ってきてくれた薬草が、思いのほか料理にぴったりだったので、ちょっと多めに確保しようと思い立ち、こうしてエルフの領土近くの森の中まで来たのだが――

 何か見た目エルフなのに、中身小学生みたいな娘に出会してしまった。

 まぁでも、どうせならと例の薬草について聞いてみたら、寝泊まりしてる小屋に備蓄があるらしく、それを代価として貰うことにした。

 

「――私、勉強も得意じゃなくて、魔法とかもてんでダメで……でもとりあえず成人したから、独り立ちしなきゃって――」

 

「それで狩人にー?」

 

「はい、昔から隠れたり気配を消すのは得意だから、獲物を待ち伏せるのだけはお父さんにもよく褒められました! まぁ肝心の弓がダメなんですけど」

 

 そんな会話をしてるうちに、エルフちゃんの小屋に到着した。

 

「どうぞ悪魔さん! 遠慮なく土足で踏み込んでください!」

 

「お邪魔しまーす」

 

 小屋の中は質素で、家具も最低限という感じだった。

 まぁ狩りが上手くいかないのなら、金回りもあまりよくないのだろう。

 

「――あれぇ、でもこの熊の毛皮は?」

 

 そんな中、壁にかけられた熊の立派な毛皮が目に入った。

 これがあるということは、少なくとも熊を狩る事ができたのだろうか?

 それとも誰かからの贈り物というオチ?

 

「あ、それは3ヶ月くらい前に、ちょっと失敗して縄張りを荒らしちゃって――刺激されて怒っちゃった熊に襲われちゃったんです」

 

「え、大丈夫だったのそれ……?」

 

「はい、逃げても追っ掛けてくるので仕方なく応戦したんですけど――そのとき狩猟用のナイフしか持ってなくて、ちょっと大変でした。あ、勿論お肉も骨も何もかも余さず頂きました!」

 

 ……ナイフで熊に?

 不死身の杉なんちゃらさんか何かかこのエルフは?

 

「えへへー、こう見えて力持ちなんですよ。でも熊って想像してたよりも重くて、ひっくり返すの苦労しましたよ」

 

 熊をひっくり返す……?

 いや、私もやろうと思えば出来るけどさ……

 え、ぱーどぅん?

 

「あ、胡桃ありますけど食べます? オヤツにちょうど良いですよ!」

 

 エルフの娘が、胡桃の殻を割る。

 ……素手で。

 

「……あのぉ、一つ聞くんだけどさぁ」

 

「はい?」

 

「弓の弦を引っ張るときとか、()()()()()()()()?」

 

「え、めちゃくちゃ()()()()()。そうしないと弦が切れちゃうんですよねー」

 

 あー、なるほど。

 何となくこのエルフちゃんが弓が下手な理由が分かった気がする。

 そりゃ、熊に勝てるレベルの筋力や腕力の持ち主が、意図的に力を弱めたところで精密な動きは難しいだろう。

 つまりこのエルフちゃんは――筋力と隠密に極振りした性能をしているというわけだ。

 

「――提案なんだけどぉ」

 

「? 何ですか?」

 

「いっそのこと弓じゃなくて、ナイフで狩りしてみたら……? どうしても弓を使いたいなら、もっと丈夫な素材で――アラクネの糸とか聖樹の木とかで弓作ってもらえば?」

 

「…………その手がありました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、弓が下手なとあるエルフは、ある日を境に狩りが成功するようになる。

 ハイドからのバックスタブ、獲物は死ぬ。

 そして毛皮や肉を売り、金銭に余裕が出来たエルフは腕利の弓職人に弓をオーダーメイドした。

 ちなみに素材は自力で集めてきた。

 

「おぉ、かっこいい……!」

 

 エルフは早速新しい弓を試した。

 素晴らしい、自分の力でも弦も切れないし弓も壊れない。

 エルフはその弓で矢を放ってみた。

 ――そうして、獲物どころか木々すらも貫通する音速の矢を放つエルフが誕生したのだった。

 

 ちなみに、とある悪魔は彼女についてこう語った。

 

 

 

 

 "多分、暗殺者とかの方が向いてるよあのエルフちゃん"

 

 

 

 




おまけ
ネタが???だった人向けの特別翻訳

「――当ててやろうか?誰かにスイートロールを盗まれたかな?」

「そんな血相抱えた顔してどうしたのぉ?」
 
「面倒は避けろよ、エルフ」

「でも気をつけてねぇエルフさん」

「何も問題ないか?」

「何も問題はないよぉ」

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