転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします   作:メスシリンダーガキ

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劇場版の進歩は0.5%です。まぁ秋までに出せれば良いかなと


二十一話

 

 

 

 

 幼少期から馬たちと共にいた、成長した。

 だから馬のことなら大体わかると自負している。

 体調や気分も見るだけで何となくわかる。

 馬は人間とはまた違った、賢い生き物だ。

 彼等なりに何かを訴えたりしてくれる。

 自分はそれを読み取っているに過ぎない。

 だから、偶に自分のことを『馬と会話できる』だなんて言う者もいるが……

 残念ながら見当違いだ。

 むしろ、会話が出来たのならどれだけ良かっただろうか。

 

 

 

「——よし、それじゃあ行ってくるな」

 

 自宅に増設した厩舎で、幼少期の頃からずっと一緒だった馬——もう老馬だが——の朝の世話を終えて、その首を撫でながらそう告げた。

 

「何かあったら寝坊助の弟を呼べよ」

 

 老馬が顔を擦り付けてくる。

 右側の頬だから、了承したという意だ。

 ——ふと思う。こうした日常をあとどれだけ一緒に送れるのかを。

 お互いに齢は30を過ぎた。

 人間の自分はまだ余裕のある年齢だが、馬はそうはいかない。

 むしろこの老馬は平均寿命よりも長く生きてくれてる。

 それが、あとどれくらい続くのか——

 

「——おっと、悪い。遅刻するといけないよな」

 

 そんな思考に耽っていると、老馬が小さく嘶いた。

 もう一度老馬の首を撫でてから、今度こそ自分は出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やぁ、かわいい私だよぉ。

 今ね、適当に散歩してたら馬のレース会場が目に入ってついつい引き寄せられちゃったんだ。

 その辺の人に話を聞くと、とある貴族が主催しているレースらしくて、賭け事だけじゃなくて、上場馬——要するに馬のオークションだね。

 そんな事業をしてる貴族みたいで、ちょうどレースが始まるところみたい。

 ——つまり、賭けろってことだな?

 何か良い感じの獲物も見つからないし、暇つぶしに飛び入り参加しようかな!

 え? お前ズル(未来視)できるだろって?

 ははは、そんな無粋というかつまらないことするわけがない。

 それにそんなのに頼らなくとも、この悪魔アイ(熱光線)を持ってすればレースの結果など見て分かるとも。

 

「ほう、あれが今回のお馬さんたちね——どれどれ」

 

 既にスタート地点付近で準備を始めているであろう、馬や騎手たちを観察し始める。

 栗毛、芦毛、白毛の三匹か……

 

「……どの馬も同じくらい良さそうだなぁ」

 

「分かるかねレディ」

 

「誰だお前は!? 地獄からの使者か!? それはそれとして、美少女に急に話し掛けると事案になるよおじさん」

 

 なんか隣にふくよかなおじさんが来て、話しかけてきた。

 

「おや、驚かせてしまってすまない。私はこのレースの主催者だよ」

 

「これはこれは、お日柄もたいへんよくレース日和ですわねおほほほ」

 

 おじさんではなく貴族のおじさんだったぜ。

 

「ときに、一つお聞きしても?」

 

「なんでございましょう? スリーサイズでしたら上から——」

 

「いや、すまないが妻一筋なものでね。それを聞く必要はないですな」

 

 愛妻家の貴族おじさんだったぜ。

 

「勘違いだったら申し訳ないのですが、以前マーティム卿の社交界におられませんでしたかな?」

 

「えぇ、招待状を運良く手に入れられたので、参加させていただきましたわ——もしや貴卿も?」

 

「はい、会話をする機会はお互い残念ながらありませんでしたが、遠目からでも貴女はとてもよく目立っておられましたよ。あぁ、それと最後の決闘。素晴らしいものを見せて頂きありがとうございました。あのような腕の立つ騎士がおられて羨ましい限りですな」

 

「えぇ、自慢の騎士ですから」

 

「——それにしても、その頭の角は……社交界のときは無かった気がしますが——」

 

 貴族のおじさんのその言葉を、自分の口の前に人差し指を立てて止めた。

 

「おや、いけませんよ。先ほどお聞きするのは一つだと仰ったのですから……二つめをご所望でしたら、代価をいただきましょう」

 

「——これは失礼をした。そも、レディに根掘り葉掘り聞くのはマナー違反。また妻にデリカシーがないと怒られてしまう。先程の質問は忘れてくださると有り難い」

 

 貴族のおじさんが一礼をする。

 

「それでは私はこれで。もしご興味があれば、レースや上場馬の競りに是非ご参加してください」

 

「はーい♡」

 

 貴族のおじさんは去った。

 そしてそこまで言われたからには、是非とも参加しようではないか。

 え? お前金持ってるから仮に負けても痛くも痒くもないだろうって?

 甘いな、サラマンダーよりずっと速い——甘い。

 今日は自分の酒場は休業日、つまりその辺で今日は一杯やろうと考えていた。

 そしてそういう時、一度に使える金額を制限しているのだ。えらいでしょ?(過去に酔っ払ってやらかした経験あり)

 要するにその日のお小遣いだね。

 だから今回はこのお小遣いだけを使ってレースを楽しむよ!

 外せば酒はあまり飲めず、当たればいつもより飲める。

 これでこそギャンブルだ。

 さぁ、闇のゲームの始まりだぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——今日はありがとうな」

 

 レースで自分が騎乗した馬を撫でる。

 

「どうだ? 言った通りやればできただろう? 一位を取れた、お前は優秀な馬だよ」

 

 あとは競りで良い人間と環境に選ばれるのを祈るばかりだ。

 自分の仕事は、こうした自信のつかない馬の力を最大限に引き出し、励まし、馬に自覚させ、人々にその魅力を伝えること。

 だからレースの騎手としてとある貴族に雇ってもらい、実によくしてもらっている。

 まぁそれしか取り柄がないともいえるが。

 

 ——そうして今日の仕事が全て終わる頃には、夕暮れ時だった。

 昼時はあんなに熱狂していたレース会場も、その熱を失って夕焼けに照らされていた。

 

「——しくしく」

 

 ——女の声がした気がする。

 

「どうして……ないよぉ」

 

 気のせいではない。

 確実に聞こえる。

 多分そこの近くの木の幹の裏側から。

 

「……ゴーストの類じゃないよな?」

 

 夕暮れ時にも出るゴーストがいると聞いたことがある。

 もし本当にそうなら危険なのだが——人間の好奇心というのはこういうとき厄介なものだ。

 自分は忍び足で確認に向かった。

 三、二、一……

 木の幹の裏を除いた。

 

 

 

「どぉぉぉしてだよぉぉ……! (今日の酒代)全部ないよぉ……!」

 

 なんか、ピンク髪で頭にヤギの角を生やした少女が嘆いていた。

 とりあえずゴーストではなさそうだが、少し不気味なのには違いない。

 何も見なかったことにして、覗かせていた顔を戻そうとした——

 

「…………」

 

「…………」

 

 自分に気が付いたのか、バッと少女が俯かせいたその顔を上げてこちらを見てきた。

 ちょっと怖い。

 少女はポロポロと大粒の涙をこぼしながら、その赤と金の瞳でこちらを見つめてくる。

 

「お」

 

「お……?」

 

「お兄さん何で一位とっちゃうのぉぉ!? お兄さんの馬に賭ければ良かったぁぁぁ!」

 

「いや、あの……離してくれませんか?」

 

 少女がグールのように自分の足首を掴んできて、大きく嘆く。

 それで理解した。

 というよりレース会場ではよく見る光景ともいえる。

 これは賭けに負けた者特有の行動だ。

 幾度もなく見てきたから間違いない。

 

「どの馬も同じくらいの馬力っぽかったから、馬の気分や調子で予想したのにぃぃ……お兄さんが乗ってたお馬さんはちょっと調子悪そうだったから賭けなかったのにぃぃ……何でレース開始と同時にメンタル全回復してるんだよぉぉ……」

 

「…………君は」

 

 馬の体格などを見て、その力量を測るのは当たり前のことだ。

 しかし馬の調子や気分まで考慮するのは至難の技で、そもそも見てわかるには相当な研鑽や経験を積まねばならない。

 そしてこの少女は、その若さでそこまで到達したというのだろうか?

 実際自分の乗った馬は調子が悪かった。

 だから自分なりに励まし、レースに挑ませた。

 少女の見立ては正しかったが、自分という存在によってその正しさは覆されたのだ。

 

「……その、それは申し訳ない」

 

 別に自分が謝る必要はない。

 レースの予想を外して損をしたのは少女の自己責任だ。

 しかし、自分のように馬の体調などを見てくれたのに、損をさせてしまったことが少し心苦しかった。

 

「……いや、こちらこそごめんねぇ。久しぶりの大負けに思わず——」

 

 少女がようやく自分の足首を解放して、立ち上がった。

 同時に、少女の腹の虫が大きく鳴いた。

 

「…………その、食べる物は?」

 

「えっとぉ……あるにはあるしお金も実はあるけど——今日はこの空腹に耐えて戒めとするよぉ。ぴえん」

 

 若いというのに随分と殊勝な心掛けだ。

 自分の弟も少し見習ってほしいものだ。

 

「——その、それなら……俺は今から夕飯を食べに行くが……一緒にどうかな? 奢るよ」

 

「え♡……でもそれってぇ、憐れみ?」

 

「いや、これは……そう、ナンパだよ」

 

「——そっかぁ、ナンパなら仕方ないなぁ♡ はやくいこっ」

 

 そうして人生初のナンパが成功し、行き付けの店で食事を共にした。

 話してみると少女は知的で、多くのことを知っていた。

 どうやら見た通りの年齢ではないらしい。

 ——そして馬についてお互いに楽しく語っていると、店の扉が勢いよく開け放たれた。

 何事かとそちらの方を向くと、何と自分の弟だった。

 弟は息を切らしながら、辺りを回す。

 そして自分と目が合うと、弟は叫ぶように言った。

 

「——兄貴! メイディが……!」

 

 ——その名前で、弟の様子で全てを察した。

 

「すまん、金は多めに置いてくから好きなだけ食べててくれ!」

 

 向かいの席の少女にそう言って、自分の財布ごと机に置いて弟と店を出た。

 そして自宅まで全速力で走った。

 ひたすらに、ただ"間に合え"と願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

『今夜が峠でしょう……』

 

 別れというのは突然だ。

 両親ともそうだった。

 そして今度は、幼少の頃から一緒だったメイディ()の番。

 弟が先に呼んでくれた獣医のその言葉が、いやでも現実を突きつけてくる。

 寿命による老衰。

 怪我や病気で逝ってしまうよりはマシだと思うべきだろうか。

 

「——お前、朝は取り繕ってただろ?」

 

 楽な姿勢にさせたメイディの腹部に手を置きながらそう語り掛けた。

 ——とても弱々しい呼吸だった。

 

「全く、俺を騙せるのはお前だけだよ……」

 

 自分に今できるのはこれくらいだ。

 せめてその時が来るまでは一緒に——

 あぁ、でも、もし叶うのなら……

 

「お前と一緒にもう一度、走りたかったなあ……」

 

 昔を思い出す。

 朝から晩までメイディの背に乗り、どこまでも駆けた。

 最後に背に乗ったのはいつだろうか。

 気が付けば堪え切れず涙が溢れてきた。

 ダメだ、こんな気持ちで、こんな形でメイディを送りたくはないのに——

 

 

 

「——じゃあ、取引しようかぁ?」

 

「え……」

 

 聞き覚えのある声がした。

 顔を上げると、いつの間にかあの少女がそこに居た。

 

「な、何でここに……」

 

「忘れ物届けに来たついでぇ」

 

 少女がそう言って、自分が置いていった財布を投げ渡してきた。

 

「ねぇ、お兄さん。取引しようよ、そのお馬さん大切なんでしょ?」

 

「——勿論だ。だけど取引とは……?」

 

 少女が金と銀の天秤を何処からか取り出し、掲げた。

 

「お兄さんが望むなら、そのお馬さん——」

 

 少女が言う。

 しかし途中で言葉が止まってしまった。

 そして少女の視線は、メイディに向いていた。

 そしてメイディも横になったまま、少女の方に顔を向けていた。

 

「——そっか、じゃあこうしよう……お兄さん、今夜だけの『夢』を味わいたくない?」

 

「夢……?」

 

「そう、夢。朝になれば現実に戻る、ほんの一時の夢——代価はもう貰ってるから、お兄さんが良ければ始めるよ」

 

 少女がそう言うと、天秤が金の方に傾いたかと思えば、すぐに銀の方にも傾いて綺麗に釣り合った。

 ……少女の言葉は理解できなかった。

 夢とは何か、そもそも少女は何者なのか。

 

「——メイディ?」

 

 そう思っていると、メイディが上体を起こして、頬を擦り付けてきた。

 右側だった。

 

「……分かったよ、お前がそう言うのなら——正直よく分かってないが、頼めるか?」

 

「お任せぇ。ちょいとお体に触れますよ……」

 

 少女がメイディの身体に優しく触れた。

 メイディも嫌がらずそれを受け入れている。

 ——すると、信じられない光景を目にする。

 メイディが立ち上がり、元気よく嘶いた。

 覚えてる、覚えているとも。

 まだお互い若くて、有り余った体力を持て余すかのように、辺りを走り回った頃のメイディだった。

 

「お前……どこも痛くないんだな?」

 

 メイディが肯定するかのように、厩舎を飛び出した。

 そして柵に囲まれた放牧地を駆け回る。

 ——信じられない光景だった。

 あの頃のメイディだった。

 

「——よし、折角だからレースしようよ。お兄さん」

 

 少女が手を叩いて提案する。

 

「賭けはしないけど、お兄さんのお馬さんと競いたいなぁ」

 

「それは……俺とメイディは構わないが——馬はメイディしかいないぞ?」

 

 今のメイディなら走れる。

 そう確信があった。

 しかしレースをするのなら、もう一頭馬が必要だ。

 

「大丈夫だよぉ、実は私も自慢のお馬さんがいるんだぁ」

 

 少女がそう言って、放牧地に出てから口笛を吹いた。

 ——しかし暫く待っても何も起きない。

 

「あれぇ、おかしいな……あ」

 

 少女が何かに気が付いて、厩舎の上を見上げた。

 自分もそれに釣られて、厩舎を出て同じく厩舎の上を見上げた。

 ——馬がいた、厩舎の上に。

 夜に紛れるような黒鹿毛の馬だ。

 なんで?

 

「あちゃー、呼び出す座標間違えちゃった……もう一回」

 

 少女が口笛を再び吹いた。

 信じられないことに、厩舎の上にいた馬が消えた。

 ——すると今度は、ガタガタと奇妙な音が聞こえ始めた。

 音のする方に視線を向けると、同じ馬がいた。

 柵の上に、何か小刻みに震えながら。

 というより、蹄は柵の上に乗ってない? 何か浮いてないか? 何で小刻みに震えているのか?

 

「ありゃ、オブジェクトに引っかかって荒ぶっちゃった——今度こそ」

 

 少女が少し場所を移動してから、3回目の口笛を吹いた。

 するとまた馬が消えた。

 そして今度は、少女と自分の近くに突然現れた。

 

「…………」

 

「お兄さんこれは夢だから気にしなーい」

 

「あ、はい」

 

 少女の馬はどこか不機嫌そうに少女に近付いた。

 

「え? 急に呼び出すな? どうせ暇してるでしょ——それよりレースだよ。お相手はあちらの別嬪さん」

 

 少女の言葉で黒鹿毛の馬がメイディの方を向いた。

 ——少しだけ鼻息が荒くなった。

 

「よしよし、やる気でたかな? それじゃあお兄さんも準備しといてねぇ」

 

「あ、あぁ……」

 

 少女が何処からともなくと、馬具をいくつか取り出し始め、黒鹿毛の馬に装着し始める。

 ——そうだ、レースならメイディにも鞍などが必要だ。

 もう使うことはないと思っていたが、何故か手入れは毎日欠かさなかった。

 

 そうして準備を終え、メイディの背に久方振りに乗った。

 ここから広がる景色が実に懐かしかった。

 

「……あぁ、行こう」

 

 メイディが小さく嘶いた。

 手綱を握る手に力が入る。

 

「——よーい…………スタート!」

 

 少女が開始の合図をする。

 同時に二頭の馬が道を駆け出す。

 このまま自宅の周りを先に3周した方が勝ちだ。

 

「——は、はは! ハハハハハハッ!」

 

 思わず高笑いをしてしまう。

 それくらいで今更舌なんて噛まないさ。

 だから遠慮なく笑う。

 この速度、顔が感じる風、疾走感——何もかもあの時のままだった。

 

「メイディ! メイディ! お前はやっぱり最高だ! ()()()()()()()()()

 

 もうこの時にはレースのことは頭から抜けていた。

 ただひたすらに走る、駆ける。

 この夢が終わらなければ良いと思う気持ちもあるが、それ以上に、この夢をみられたことが嬉しくて。

 ただひたすらに前を向いて、共に駆け抜けていった——

 

 

 

「——はっや。全盛期くらいまでに戻してみたけど、あれ程とはねぇ」

 

 その駆け抜けていく背中を、少女と黒鹿毛の馬が追い掛ける。

 

「——疑問なんだが」

 

 すると、少女の声ではない声がした。

 低重音の男の声だった。

 

「何故あの馬の寿命を伸ばすだとかの取引にしなかった? お前ならそっちを選択させると思ったのだが」

 

「……私も最初はそう思ってたんだけど——あんな顔されちゃあねぇ」

 

 少女が脳裏に浮かべたのは、前方に勢いよく駆け抜ける馬のこと。

 あの馬は、男と共に要られただけで満足だった。

 男の人生がまだ続く以上、自分は思い出のままで良いと。

 そんな表情をしていただけなのだ。

 少女はそれを汲み取っただけだ。

 

「それよりさぁ、もっとスピード出しなよぉ。負けちゃうよぉ? お尻叩いてあげようかぁ?」

 

「結構だ、お前を振り落とす気持ちで本気を出すさ」

 

 そうして、少女と黒鹿毛の馬もスピードを上げた。

 

 

 

 このレースの勝敗は、本人達とその馬達しか知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「——何だよ、心配して損したぜ」

 

 朝になり、男の弟が厩舎に足を運んだ。

 兄とその馬の最後の時間を邪魔したくないと、自宅に1人で籠っていた。

 そしてどう兄を慰めるか寝ずに考えていたのだが——

 兄とその馬は厩舎ではなく、放牧地のど真ん中に居た。

 

「? メイディに馬具付けたのか——まぁ死装束ってところか」

 

 横になった馬の腹部を枕にして、兄は予想に反して幸せそうに眠っていた。

 昔から兄と馬が一緒に寝る時の体勢だった。

 馬の方は——息を引き取っていた。

 けれど何故だが、馬も安らかな顔をしているように見えた。

 

「しかしよく厩舎から出せたな——まさか歩いたのか?」

 

 衰弱で立ち上がることすら難しかった筈なのだが——

 最後の力を振り絞ってくれたのだろうか。

 ——結局、幸せそうに眠る兄を弟は起こせなかった。

 自分で起きるまで、せめてそのままにしておきたくて。

 

 

 

 

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