転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします 作:メスシリンダーガキ
「ねぇ、お姉さん。明後日の日なんだけど……お休み貰えたりしないかな?」
レイラのその言葉から始まった。
「え、珍しいね。別に良いけどぉ……何か用事?」
「その……ハンスさんと遊びに行こうって話になって——」
マスターはそのやり取りをカウンター越しに黙って聞く。
「あー、あの熱血騎士くんねぇ。文通続いてたんだねぇ」
「うん、それで何度か誘われてて、そろそろ行ってあげた方が良いかなって」
「そっかぁ。まぁ楽しんできなよぉ」
「やった! ありがとうお姉さん!」
——そうして今日の営業が終わり、レイラは帰宅した。
酒場に残っているのは、締め作業をしている自分と残った酒をゆっくり味わっている主人だけ。
「…………」
珍しいな、すんなりと許可を出すなんて。
てっきり渋るかと思ったのだが。
「ふ、そこまで子どもじゃないさ私も——恋愛は若いうちに経験しとけってね」
そうか。
で、本音は?
「——————」
主人がカウンターの椅子から力無く落ちた。
「——そんなの嫌だ! レイラちゃんに男ができるなんて……! 一生私だけを想っててほしい! 一生は無理だとしても、せめてしばらく——100年以上は引きずっててほしい!」
墓に入るまで独り身でいろと?
流石は悪魔を名乗るだけあるな。
「うっ……分かってるけど——でもまだ早い気が……」
もうすぐで17歳だぞ。
将来を考え始めるなら丁度良い年頃だ。
「うぅ……ぐぅ……」
主人が床を転げ回って葛藤する。
「……なら、せめて
……本当にあの娘を気に入っているらしい。
まぁ分からないでもない。
あの娘がいるこの酒場は、自分も気に入っている。
「——何してるんだよ、ユーシス」
休憩時間、騎士団の本部の庭を歩いていると、ベンチに座っている親友が目に入った。
「……あぁ、例の妹さんからの手紙か?」
「あぁ、朝は読む暇がなかったからな。今読んでいた」
隣に座って手紙を覗き見る。
「…………へぇ、話には聞いていたが、まじであのドルダックの坊ちゃんが惚れ込んでるんだな」
内容を要約すると、ハンス・ドルダックという王国騎士に遊びに誘われた云々だった。
その名前は知っていた。
名家の出自で、少々暑苦しい性格だが人格者で腕も立つ騎士だ。
「どうすんだよお兄ちゃんよ。大事な妹を取られちまうぜ?」
「……妹の人生だ。本人に不満が無ければ僕から口を出す事はしないさ。それに彼は妹との再会のキッカケになってくれた。文句なんてないさ」
「ふーん——で、本音は?」
ユーシスが力無くベンチから滑り落ちた。
「——そんなの嫌だ! レイラに男ができるなんて……! 出来れば僕だけを想っててほしい! せめてしばらく——20年以上は引きずっててほしい!」
「大事な妹を行き遅れにするつもりか? それでもお兄ちゃんかよ、情けねぇ」
「ぐっ……分かってはいる。だが……」
頭を抱えて葛藤する親友。
……例の妹と再会できてから、随分と明るい性格にはなった。
それは喜ばしいのだが、ここまでシスコン拗らせているとは思わなかった。
まぁ詳しい事情は教えてくれないが、何年も会えてなかったのなら仕方のないことか?
「……いや、それならせめて見定めよう。もし相応しくないと判断したときは——」
「おいおい、おっかねぇな。程々にしてけよ?」
「すみません、待ちましたか?」
「いや! 自分も今来たところです!」
そうして、その日がやって来た。
場所は王国の首都。
流石のレイラも馬車でやって来た。
そして馬車の停留所で、ハンスは彼女を出迎えた。
互いに挨拶を交わし、やがて首都の中心へと2人で歩き出した。
——それを追いかける人影が2つあった。
2つの人影は別々に動いていたが、ふとした拍子で身を隠れさせる物陰でバッタリと遭遇。
「…………」
「…………」
人影たちは普段とは違う装いで、互いに変装をしていた。
そして言葉も交わす事なく、互いに見つめるだけ。
だが、それで何が伝わったのか不明だが、互いに言葉を交わすよりも先に握手を交わした。
「不埒なことをしたらぁ?」
「ころす」
女の人影が聞き、男の人影が即答した。
「もし泣かせたりしたら?」
「ころす♡」
今度は男の人影が聞き、女の人影が即答した。
今ここに、ストーカー達が結束した。
……このままだとツッコミが不在で収拾がつかなくなる。
なので僭越ながら、この神の声が地の文として必要な時に参加させていただきます。
「ふむふむ、馬車道の方は自分が歩いて、レイラちゃんは安全な方を歩かせる——ちっ、流石にやるな」
「そも、彼は名家の出自だ。女性経験がなくとも、そういった勉強や予習は幼少の頃から叩き込まれている——む、あの店は……」
ハンスとレイラの2人の後ろを、そこそこの距離で追いかけるストーカーども。
しばらく歩いて、ハンスのエスコートで2人はとある店の中へ入った。
「知っているのかライデン!?」
「ユーシスだ。あの店は何故かカップルがよく利用し、そういうルールなんてないのに、1人での利用がし難い店として有名なカフェだ」
ストーカー達はとりあえず店の近くまで来る。
「くっ、つまり『もう自分たちはカップルです♡』って宣言したいってことかなぁ。どうするお兄ちゃん処す? 処す?」
「……落ち着け、とりあえず僕たちも入るぞ。入口にずっといたら怪しまれる」
ちなみに男のストーカーは少し悩んでから出した結論だった。
「いらっしゃいませ! 2名様ですか?」
ウェイトレスの女性が出迎える。
「はーい♡ラブラブなカップル2人でーす。ね、ダーリン」
「あぁハニー! 席はあの絶妙に目立たない死角の席にしてくれ」
「……かしこ、まりました?」
結局普通にお茶をしながら楽しそうに会話をしていただけだった。
その後も首都のあらゆる店へ。
どうやら買い物デートというやつのようだ。
「——なかなか尻尾を出さないなぁ。めんどうだからもうやっちゃおうよぉ」
「——そうだな、手を繋いだりしたらもうやるか」
もはや当初の目的を忘れて、楽しそうなレイラの姿に喜びつつも嫉妬をする典型的なストーカーに成り果てつつあった。
——それは天罰なのか。
少しだけ先回りしようと、路地裏を通ろうとしたストーカー達に、いかにもガラの悪そうな3人組の男が立ち塞がった。
「ひゃっはー! 俺たちはこの路地裏の番人! 通ろうとする奴から通行料を貰ってお小遣いの足しにしてる輩だぜ!」
奇抜な髪型の男がナイフをチラつかせる。
ちなみに彼は一昨日まではナイフの刃を舌で舐めていたのだが、誤って舌を少し切ってしまったのでそれは止めたようだ。
「ここを通りたければ銀貨か金貨をよこしな。分割払いも今なら特別に——」
しかし、天罰にしても残念ながら彼等では力量不足だ。
このストーカー2人は、片や若くして実力ある騎士として名を馳せた加護持ち。
片や千年以上も己の理不尽なまでの力に修練を費やし、繊細で精密な力の行使を可能にした努力家。
そんなストーカー2人が、今は若干不安定な精神状態にあった。
それは触れただけで爆発しそうな火薬庫に、火のついたマッチ棒を近づけるような行い——
「「どけ!! 俺はお兄ちゃん(お姉ちゃん)だぞ!!」」
当然それは大爆発を起こす。
この日以来、路地裏の番人は解散してしまった。
「——すみません、レイラ殿。自分の後ろに」
「へ?」
たくさんの店を回り、それなりに互いの親睦が深まってきた頃。
ハンスがレイラを庇うように立ち、鞘から剣を抜いた。
すると建物の物陰から、4人組の怪しい連中が2人を取り囲む。
全員武器を持っていた。
「人気の少ない場所と見るや否や、出てくるとはな。さっきから自分たちを付け回していたろう? 何用か?」
ハンスのいつもと違う落ち着きように、レイラが困惑する暇もなく4人組は襲いかかってきた。
1人目は武器を振るう前に、その喉仏に剣の柄を打ち込んだ。
2人目と3人目が同時に踊り掛かってくる。
一歩下がって互いを衝突させてから、足払いで転ばせて急所に蹴りを入れた。
4人目がレイラを狙おうとしたので、剣で武器を弾いてから、鳩尾に渾身の拳をお見舞いした。
あっという間に1人で4人を無力化。
これが加護の類は持ち合わせていない、ドルダック家の長男ハンス・ドルダックの実力だった。
「——もう2人ほど気配があった気がするのだが……いや、聞き出すより先に……」
ハンスがレイラに向き直る。
「申し訳ないレイラ殿。どうやら危険な目に巻き込んでしまったようだ。ひとまず自分の屋敷へ避難させます」
「え、あ、はい……?」
ハンスがレイラの手を引いて、その場を立ち去る。
襲いかかってきた連中の正体や情報を知るよりも先に、レイラの身の安全を。
2人はドルダック家の屋敷へと向かった。
「…………ちっ、そう簡単には殺れねぇか」
2人が去ってから、4人目の刺客がゆっくりと起き上がった。
彼は頭の回る男だった。
今の戦力では勝てないと判断するや否や、気絶したフリを即座に実行。
情報を持ち帰り伝達することを優先しようとしたのだ。
「まぁ良い、屋敷に着く前に他の連中に——連れの女でも人質に取れば楽に……」
しかし、これまたツキに見放された男でもあった。
よりによって今日、この瞬間にハンスの暗殺を狙い、失敗し、そしてそれを口にしてしまった。
「がっ……!?」
背後から首を掴まれ、凄まじい力で持ち上げられた。
足が地面から離れる。
「——お前」
男の声だった。
「——今なんて言ったぁ?」
女の声だった。
「誰が」
「誰を」
「人質に」
「するってぇ?」
男と女の声が交互にした。
そして徐々に首を掴む力が強くなる。
「ッ……! かはっ……!」
何か言わなくては殺される。
だが首を絞められ声が上手く出せない。
頭が、脳が徐々に意識を手放していく。
「吐け」
「ぜんぶ吐け♡」
「何処の誰で」
「何の理由があってぇ」
折れる、首の骨が折れちまう……!
「妹を襲った……!?」
「襲ったのかなぁ? かなぁ?」
——まだ俺は生きてるのか?
でも変だな、こんなに痛かったら気絶する筈なのに、いつまで経っても意識が途切れない。途切れてくれない。
「人間には215本も骨があんのよ、5本ぐらいなによ」
痛い、多分指の骨を折られた。
しかも一度に5本の指の骨を。
触れられてもいないのにどうやって?
「歯は残しておけよ」
「えぇ、親知らずなら抜いてもいいよねぇ?」
だれか、たすけて……
ぜんぶ、ぜんぶはなすからたすけて——
結果から話すと、首謀者はドルダック家に恨みを持つとある貴族の独断の凶行だった。
レイラと共に屋敷に辿り着いた後、ハンスはすぐに行動に移った。
自身の屋敷の辺りを偵察していた刺客を捕らえて、時間こそ掛かったものの情報を引き出すことに成功。
先ずは首謀者の貴族を取り押さえるべく、屋敷とレイラの守りをする者だけ残して、残りのドルダック家直属の騎士と、自らの王国騎士団の部隊の騎士に召集をかけた。
そして貴族の隠れ場所へ突撃をしかけたのだった。
——しかし、ハンスは驚くべき光景を目の当たりにした。
隠れ場所は既に制圧され、首謀者の貴族も取り押さえられていた。
「君は……ユーシス君——」
「ハンス卿、お久しぶりです」
ユーシス・ストライジ。
彼と彼の部隊が全てを終わらせていた。
「何故君が——」
「それよりお聞きしたい。妹は?」
その言葉を聞いてハンスもようやく事態を飲み込み始めた。
「——安心してくれ、自分の屋敷で保護している。それと……君の妹君を危険な目に遭わせてしまい申し訳ない」
戦闘により荒れたホールで、ハンスはユーシスに頭を下げた。
それに対して、周りの騎士達に少なからず動揺が走る。
ドルダック家の長男が、貴族から平民になった単なる騎士に頭を下げたのだから。
「——いえ、その謝罪は必要ありません。少なくともハンス卿の行動は間違ってはいませんでした。手を引いたのも屋敷に連れ込んだのも……えぇ、大目に見ましょう」
若干不機嫌そうな声色だったが、敵意は含まれていなかった。
ハンスは頭を上げた。
「……いや、待ってくれ。まだ終わりではない。貴族が雇った刺客たちの本部がまだどこかに——」
「あぁ、そちらもご心配なく。既に壊滅している頃でしょう」
「それはどういう……?」
翌日になってハンスはその言葉の意味を知る。
首都の郊外にある首謀者の貴族が雇った刺客たちの本部は既に壊滅していた。
全員命はあったが、精神的な負傷を負った者が多く、まだ詳しい事情は聞き出せていないが——全員うわ言のように呟く言葉があるという。
——"悪魔がきた"と、ひたすらに繰り返すばかりだという。
「お姉さんごめんね、連絡もなしに丸一日休んじゃって……」
「だいじょーぶだよぉ。デートは楽しかった? まさかいきなりお泊まりしてくるとは……きゃ、レイラちゃんったら」
「もぉー、そういうのじゃなくて……後で話すけど大変だったんだから——それよりそれ私の給仕服?」
「えー? レイラちゃんの代わりを私が今日してたから借りちゃった。ごめんね? でも今日は私に給仕してもらって嬉しかったよね?
「「「…………」」」
「嬉しかったよな?」
「「「嬉しかったです!」」」
ちょっと1週間ほど更新お休みします!
早めの夏休みってやつだね!