転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします 作:メスシリンダーガキ
ゴウゴウと炉の火が激しく燃えている。
その炉の前に、ドワーフの男がいた。
ドワーフの男は鍛冶屋だった。
そして今日の仕事はもう終わり、火は消さなくてならない。
けれど勿体無いのでその火でソーセージを焼くことにした。
「わぁ、一本ちょーだーい」
焼き上がったソーセージを串ごと手に取ると、それを横取りされた。
その声は忘れようもなかった。
「――出たな悪魔め」
「はぁい、悪魔でーす。久しぶりテペアさぁん」
声の持ち主は、悪魔だった。
かつて自分はこの悪魔と取引をした。
それ以来何故かちょくちょく顔を出しに来る厄介な存在だ。
こちらの事情や時間などお構いなし。
今回は仕事中に来なかっただけまだマシだろう。
「はい、じゃあこれ。ソーセージの代価でーす」
悪魔はそう言って、石屑を手渡してきた。
それを受け取って、鑑定を始める。
「――ナナイロカネの原石か、上物だな」
「でしょう? この前取引した人から代価でもらったのぉ」
つまるところ在庫処分というわけだ。
この悪魔は取引の代価で得た物に執着はしない。
だから商人まがいの取引をこうして持ち掛けにやってくる。
「……ソーセージ一本では足りないな、少し待ってろ。酒を持ってきてやる」
「えー、いいのぉ? 太っ腹!」
悪魔がそう言うが、間違いなく自分の貯蔵している酒が目当てだろう。
毎回上物の原石や鉱石やらを持ってきては、遠回しに代価として酒をタカリに来る。
――酒なんぞあの悪魔にとっては手に入れるのに造作もない。
それなのにわざわざ自分のところに来るのは何故だろうか。
この悪魔はアフターケアだとか称して、取引した相手の前に時折顔を出すらしい。
自分もその一人なのだろう。
だが酒を目当てに来るのは、きっと別の理由。
十中八九、自分をおちょくりに来ている。
「――ぷはぁ、さすがドワーフのお酒。おいしーい、やみー」
持ってきた酒をグラスなどには注がず、瓶から直接飲む悪魔。
本当に酔っているのか、演技なのか。
そのやや白い肌に朱色が浮かんできていた。
「あれぇ、テペアさんは飲まないのぉ?」
そして無神経にそう聞いてきた。
この悪魔は毎回同じことを聞いてくる。
そして自分の答えも毎回同じだった。
「……酒の味も酔うことも出来ないからな」
「あ……そうだったごめーん。私がもらった代価だったね!」
――かつて自分は挫折を経験した。
若い頃から腕利きの鍛冶屋として名を馳せていた。
だが事故で両腕をやってしまい、命は助かったものの二度と鍛治仕事はできないと言われた。
絶望と失意の中、この悪魔は自分の目の前に現れた。
そして自分は取引を成立させた。
『愛する妻と子どもとの離別』、そしてドワーフの生き甲斐ともいえる『酒の味を一生楽しめない』という代価を払い、自分はこうして再び鍛冶屋として名を馳せている。
「あ、そうだぁ。奥さんとお子さんは相変わらず元気だよぉ。お子さんはお父さんと同じ鍛冶屋になるんだってぇ、健気だよねぇ、かわいいよねぇ」
「……そうか」
代価で離別した妻と子どもは命を取られたわけではない。
自分の近くに居なければいいので、離れた街で暮らしてもらっている。
とはいえ手紙のやり取りも取引で禁止になっているので、こうして妻と子どもの近況を知るにはこの悪魔の口から出るのを待つしかない。
「ひっく……あぁそうだ、奥さんとお子さんにどうしても会いたいなら、また取引しない?」
「しない」
「えぇ即答……ちぇー」
この悪魔との取引はすればするほどこちらの損が多くなる。
直感だがそんな予感がする。
だからこの先何があっても二度とこの悪魔と取引はしないと心に決めた。
「……まぁいっか、それなら奥さんかお子さんの方に取引しに――」
「やめろ!」
悪魔がその先の言葉を言う前に、自分の口から怒号が飛び出た。
自分でも驚いたが、後悔はしなかった。
愛する家族にこの悪魔は近付かせたくない。
「…………ごめんなさい、失言だったよね」
「は?」
意外にも悪魔は本当に反省したような様子で謝罪してきた。
時折見せるこの悪魔の人間らしさは何なのだろうか。
こちらを動揺させる演技なの……か?
「ご馳走様、もう行くよ。また来るから」
「いや、出来ればもう来ないでほしいのだが」
「えぇ、つれないこと言わないでよぉ、またねぇ」
最後にはいつもの調子に豹変したように戻り、鍛冶場から出ていく悪魔。
炉の火はようやく消えかけていた。
ちぇ、また失敗だ。
しかもちょっと怒らせてしまった。
ドワーフの酒は本当に上物なので、定期的に飲みたいのだ。
しかしドワーフたちは基本的に作った酒を多種族には分け与えない。
だから何とかして酒を手に入れられるが、飲む必要がないドワーフのテペアさんに取引を持ちかけるが、何故か警戒されてて中々応じてくれない。
うーん、理想は『1週間に一本の酒を献上する』みたいな代価がもらえればいいのだが。
しかし大事な家族を引き合いに出しても応じてくれないなら、諦めるしかないのだろうか。
いや、ドワーフは長命種だ。
テペアさんはもう中年だが時間はまだある。
また鉱石や鉱物を手に入れたら訪ねるとしよう。