転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします 作:メスシリンダーガキ
ハーフリングの自分はドワーフよりも身長が低い。
だから、いつも街を歩けば視線は人間とかエルフとか、背の高い連中の下半身だった。
そして気が付いた。
どいつもこいつも、足元をロクに見ることがないと。
自分に気づかず、蹴飛ばされそうになったことや、実際に蹴飛ばされた回数なんてもう数えきれない。
だが、お陰で良い事を思い付いた。
というより、天職を見つけたというか、閃いたというか——
そんなわけで、靴磨きの仕事を始めた。
背の高い連中は、自分の靴が汚れているのに中々気が付かないくせに、汚れる事をひどく嫌う。
だからそれを解決してやる仕事なら稼げるかと思った。
店の場所はすぐに目星がついた。
元々小さな店の倉庫として使われていた場所。
運良く安値で手に入ったので、扉などの入口の材木を全て取っ払って開放感を出した。
雨風さえ凌げれば充分だ。
むしろ入口があっては、商売中の自分を大通りを歩く連中にアピールできない。
靴磨き屋が、靴磨きをしている最中をアピールしなくてどうする。
「…………お、あの2人よさそうだな」
店の前に置いた椅子に座りながら、キセルを吸う。
そして視線は大通りに。
客は待っているだけでは来ない。
キセルを椅子の上に置いて、狙いを定めた獲物——2人組の身なりの良い人間の男に近付く。
「——へへ、ちょいとそこのお二人さん。少しいいですかい?」
「ん? ……子どもか?」
「いや、ハーフリングだろ。何の用だ?」
少し高圧的な態度。
別に慣れてるし、見慣れた光景だ。
どんな生物だろうと、自分より小さい存在は無意識に威圧してしまうものだ。
——だからといって、小さな存在を侮ってはいけない。
「オレはあそこで靴磨きをしてますんわ。お二人さんの靴、失礼ですが少し汚れているご様子……如何ですか? 昨日は雨でしたので、大通りの水溜りを何度か踏んでしまったのでは?」
「む……確かにな」
「どうする?」
「時間は……少し余裕あるか」
「商談前だし、やって損はないだろう——そうだな、では二人分頼もうか。ただし手間をかけるのはいいが、時間はかけすぎるなよ」
「へい、承知しておりますわ。さぁさぁ、こちらへ」
店の中心に設置した二つの椅子——もちろん座り心地の良い背もたれのついた——に客をそれぞれ座らせる。
一度に二人分の靴磨きをすることなんて造作もない。
「それで今回の商談は——」
「だが相手の方は——」
そして、リラックスして暇を持て余した者は、口が柔らかくなる。
滑りやすくなる、お喋りになるともいう。
自分は客の独り言、会話などを聞きながらひたすらに靴を綺麗にしていくだけ。
無心を装って、流れ作業のように手を動かしながら、耳だけに集中して。
あぁ、客は自分に対して気にも掛けないさ。
もし客に釘を刺されても、作業に夢中で何も聞こえてなかった——みたいな顔しておけば大抵はやり過ごせるものだ。
「——ほらよ」
「へへ、ありがとよ」
——そして、店を閉めた後。
寝る前に、路地裏で街の情報屋に耳にした客との会話、独り言などの内容を売るのだ。
ちょっとした小遣い稼ぎだ。
大体があまり重要でもない情報。
だがたまに大当たりを引く。
そんな日には普段は手が出せない酒を買う。
昼は靴磨きを、夜は情報を売る。
何とも楽で、安定した収入だった。
「……? なんかいつもより多くないか?」
「あぁ、この前教えてもらった情報だが、思いの外高く売れてな。仕入れ先でお得意様にボーナスのお裾分けだよ」
「へ、そういう事なら有り難く——この前っていうと、アレか?」
「アレだよアレ。お陰で買い手がライバルの商会を出し抜けたって大喜びさ」
「それはそれは——じゃあ、あの口の軽い何処ぞの商会の男に感謝しないとだな」
「違いない。まぁ今頃そいつ、クビになってるかもしれないがな」
情報屋と静かに笑い飛ばし合った。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! ご、ご慈悲を……!」
とある商会の拠点になっている大きな街の倉庫。
男が泣き喚くように叫ぶ。
それもそのはず。
彼は商会にとって重要な情報を漏洩してしまい、そのせいでライバルの商会にだし抜かれて、大きな痛手を負ったのだ。
「——やっちまったものは仕方ないよなぁ。なぁお前ら?」
土下座する男を見下ろすように、木箱に腰をかけた細身の男。
細身ではあるが、顔の傷跡や、確かにある鍛えられた筋肉。
そして威圧するような声色が、細身の男の強さというものを示していた。
細身の男と、その部下らしき男と女が何人か。
土下座する男を逃さないように取り囲んでいた。
「……そうなるとだな。やらかした分を取り返すか、弁償してもらうかだな——で、どっちが良い?」
「っ……も、もちろん今回の失態は今後の働きで——」
「ははは、あのな……口の軽い奴が何言っても信用ないんだよ!」
細身の男が蹴る。
蹴られた男の口から歯が一本飛び出た。
「今回の損害、全部お前が弁償しろや——金がない? 弁償しろって言ったなら死ぬ気で用意しろや。じゃなきゃ——」
細身の男が、歯抜けの男の襟元を掴み脅すように——実際脅しているのだが——言い放つ。
襟元を掴まれた男が恐怖のあまり、涙と汗しか出せずにいると……
「まぁまぁ、その辺にしときなよぉ。お父さんみたく——お爺ちゃんの方だっけ? いや両方か——とにかく眉間に皺ができちゃうよぉ」
女の声だった。
さっきまで細身の男が腰を掛けていた木箱に、いつの間にか女が腰を掛けていたのだ。
「……か、会長」
それに気が付いた細身の男が、女をそう呼んだ。
「久しぶりだねぇ、副会長くん。元気してた?」
「は、はい。元気にやらしてもらってます……」
細身の男が、襟首から手を離し、会長と呼んだ女の方に向き直って、改めて一礼をする。
それに少し遅れて、細身の男——副会長と呼ばれた男の部下たちも一礼をした。
この場で唯一、歯抜けの男だけが女の姿を見ても頭に疑問を浮かべていた。
というより、商会の会長に初めて会ったからだ。
女ということは何となく噂に聞いていたが、想像していたよりも若く、さらには頭に山羊の角が生えていること。
その事実に男は蹴られた部分の痛みも忘れて驚愕していた。
「君は大丈夫ぅ? 歯が抜けちゃったぁ? いたそぉ」
会長と呼ばれた女が、木箱から飛び降りるように地面に脚をつけた。
そして歯抜けの男の顔辺りを触りながら、優しい声で語りかけた。
「じゃあその痛みで、君の今回の失敗は許してあげるよぉ——あ、挨拶まだだったね。私はこの商会の会長やってるかわいい女の子だよぉ。まぁほぼ副会長くんに丸投げしてる、放任主義の肩書きだけみたいな立ち位置だけどねぇ」
「ぇ……あ、ありがとう、ございます……?」
突然の宣言に呆気に取られた歯抜けの男。
何とか礼を述べたものの、何処か信じられないような声だった。
「か、会長。しかしそれでは示しが——」
「え? なに? ——今私に意見した?」
会長と呼ばれた女が、その声に反応して首だけ回して副会長の方を向いた。
「——いえ、失礼しました」
女のその表情を見て、副会長はすぐに口を閉ざしてしまった。
「うんうん、失敗は誰でもするものだよぉ。だから何回かは許してあげる心を持たなきゃだねぇ」
女がそう言って、歯抜けの男の耳元に顔を近付けた。
そして囁くように言った。
「だから、君はもう少しそのお口を重くしようねぇ——できないなら、その口縫い合わせてからクビにしようか。物理的に……ね」
女の細い指が、歯抜けの男の首を弧を描くようになぞった。
——瞬間、歯抜けの男は自分の首が斬られたような錯覚に襲われた。
もちろん錯覚なのだから、痛みも血も流れてなかった。
しかし、その錯覚が脳裏にこびりつく。
背筋が凍るように冷たく震えた。
そして歯抜けの男は悟った。
自分は許されたのではない。
これは、警告なのだと——
そして歯抜けの男は、幸運なことにそれで解放された。
そしてその日以降、これからの長い人生で男は口の硬い男で有り続けた。
その理由は簡単で、口が滑りそうになると、首の辺りを刃物で斬られたような錯覚を感じるからだった。
「——うーん。とりあえず損失分は私の資金で補填するよぉ」
「会長……俺が不甲斐ないばっかりに——すみません」
倉庫の二階にある事務所的な部屋。
副会長くんと二人きりで、今回の件の反省会的なのを開いてるよ。
え? お前ヤ⚪︎ザだったのかだって?
違うよ、ちゃんとした商会だよ。
さっきみたいに副会長くんがヤキいれたりする事もあるけど、キレイキレイな商会で、私はその名ばかりの会長ってだけ。
だから脳内で私をドンドンってSE流して、赤文字のテロップで紹介シーン流すのやめてね?
誓ってヤ⚪︎ザはやってません。
略してチカヤ⚪︎。
「気にしないでぇ。闘技場とか賭博場も今の所景気良いからさぁ。むしろお小遣いあげようかぁ? よーしよし、いい子だね副会長くんは」
「あの……もう子どもではないので頭を撫でるのは——」
あら、気難しいお年頃かしら。
レイラちゃんなら未だに喜んでくれるのだが。
「そうそう、それより——漏洩した情報の流れは何処まで把握できてる?」
「——ある情報屋から流れたところまでは。しかしさっきの男と例の情報屋が直接接触した可能性は低いです」
「ふーん……じゃあ別の情報源——仕入れ先があるねぇ」
そうなると、とりあえず先ずはその情報屋に会って直接聞くのが早いだろう。
「俺がやりますよ」
「いや、副会長くん手も足も出るの早いじゃん。今回別に暴力じゃなくて情報戦で出し抜かれたんでしょ? なら暴力でやり返すのはノンエレガントだよ」
「それ、は……」
しょんぼりしちゃってかわいいねぇ。
でもそんな副会長くんが好きだよぉ。
君のお爺ちゃんにそっくりだねぇ。
「もぉー、たまには私に頼りなさいな。むしろこういう時こそワタ94の活躍のチャソス!」
びっぐになるチャソス!
ところで今更だけどみんなは大きい派?
それとも小さい派?
もしくはレイラちゃんくらいの丁度いい派?
答えは聞いてないけどね!
今日も今日とて靴磨きに精を出す。
最初は単なる金稼ぎの手段にしか感じてなかったが、こうして続けていると何だか楽しくなってくるものだ。
「はぁい、靴を磨いてくださるぅ?」
そして、こちらが声をかける前に、山羊の角を頭に生やした女が店に来た。
亜人種と人間のハーフ——にしてはやけに身なりの良い格好をしていた。
まぁ、金払いが良いのなら誰だろうと歓迎だ。
客の女を店の椅子に座らせて、道具の準備を始めた。
……ヒールの付いた靴か。
最近ではお洒落のために履くのが流行っているようだ。
この靴もその為に製作されたような、とても——
「良い靴でしょ? 最近見つけたお気に入りの職人さんに作ってもらったんだぁ」
それはまるで、こちらの思考を読んだようなタイミングだった。
「——それはそれは、羨ましいですな」
「興味あるなら紹介してあげようかぁ?」
「はは、オレは見ての通り単なる靴磨きしてるだけですわ。日銭を稼ぐのがやっとで——」
「えー? 一昨日ボーナスもらったんでしょ? お得意先の情報屋からさぁ」
——思わず手が止まってしまった。
「あれぇ、手が止まってるよぉ。だいじょーぶ?」
女の声は、微塵もこちらを心配しているものではなかった。
「……何の話でしょうか? あいにくと個人でやってる店なので、ボーナスとかそういうのは——」
「金貨6枚、場所は娼館の近くの路地裏。会話の内容も今口に出してみようかぁ?」
「…………」
あ、これはもう無理だ。
完全に自分が売った情報が原因だろう。
というかあの情報屋、自分を売ったのか。
情があるわけではないが、そのせいで痛い目に遭ってたら暫く寝つきが悪くなりそうだ。
「ん? そこは安心していいよぉ。別に拷問とか脅迫とか今回はしてないよぉ。お互いビジネスで取引しただけだからさ。あ、あと伝言預かってるよ——『すまん(笑)先に街を出ておさらばしてるぜ。お前も達者でな』だって」
「結局オレを売ってるじゃねぇかあの野郎……!」
とにかく、自分もはやく街を出なくては。
いつか自分が売った情報のせいで、報復とかされるかもとは予測していた。
街の郊外に予め隠れ家を用意している。
これは誰にも話してないから、自分を売った情報屋も知らない筈だ。
道具を放り捨てて、一気に街の外へと駆け出そうと脚に力を込めた——
「待てや、お前会長の靴を磨いてる途中だろうが」
それを、何か柄の悪そうな連中に店の前で止められた。
文字通りの人の壁。
脚の速さには自信があるが、そもそも走れないのでは意味をなさない。
「そうだよぉ。逃げるにしても仕事をこなしてからにしなよぉ」
「…………」
あ、死んだなこれ。
多分、この街を拠点にしてる商会の連中だろう。
人生諦めも肝心だ。
終わるにしても、最後に何かしら残したいとう生物の欲求からか、最後の靴磨きだけは本気でやって終わらせる事にした。
道具を再び手にして、女の靴磨きを再開した。
「——いいねぇ。最高の仕上がりだねぇ。うん、君お気に入り登録確定! ねぇ、興味あるならちょっと転職してみなーい?」
「……転職?」
「そぉ、別の街になるけど、靴に関係したお仕事だよぉ。あ、別に断ってもいいよぉ? その場合そこにいる副会長くんに君のこと任せることになるけど」
「(指をポキポキと鳴らしている)」
「ぜひ転職させてください!」
おまけ
副会長くんのお爺ちゃんとの馴れ初め
・酒場で出会って意気投合。ノリで商会を立ち上げた。ちなみに会長はじゃんけんで決めた