転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします 作:メスシリンダーガキ
「何で台詞数も登場シーンも少ない羊の悪魔がこんなにも人気なんだ……?」
(アンケート投票ありがとうございました!)
「このバカ息子っ……!」
男が自分の息子の胸ぐらを強く掴み、怒りに任せて壁に息子を叩きつけた。
「いって……! 放せよクソ親父!」
息子は父親のその怒りに対して、真正面から反抗する。
「何だその態度は……お前、自分が何をやらかしたのか理解してないのか!?」
「大袈裟に言うなよ。少し酔って酒場でケンカしただけだって——」
「そのケンカが原因で乱闘騒ぎにまでしたのは誰だ!? 何人ケガをさせて、どれだけの人に迷惑をかけた!?」
父親の怒りは徐々に強くなっていく。
対して息子はそれを煩わしいかのように、ヘラヘラと笑ってこの場から逃げようとするだけ。
「このっ……!」
「あなた! 少し落ち着いて!」
ついに拳を振り上げた父親のその手を、様子を見ていた母親が掴んで止めた。
「つっ……! もういい!」
父親が母親に諭され、行き先を失った怒りを抱えたまま、工房へ続く扉を乱暴に開けてから、勢いよく閉めてしまった。
「ちっ……何なんだよ親父のやつ——」
「あんたもよ。もう子供じゃないんだから、お父さんを困らせるのはやめなさい」
母親の説教に、息子は耳を塞いだ。
「あー分かった分かった」
「ちょっと、何処に行く気よ?」
「そのへん」
そして息子は母親の言葉すら無視して、家を出た。
——まぁ、要するに彼は少し遅めの反抗期というやつだった。
陶器職人の父親に仕事を継げと強要されるのも、いい加減身の振り方を決めろと説教する母親も。
退屈な村で過ごす自分も。
父親の仕事を継ぐのも何となく億劫。
かと言ってやりたい事も見つからず、とりあえず何かしなくてはという焦りから、博打や酒に入り浸る自分も。
全てに嫌気がさしていたのだ。
「…………」
「どうだった?」
数日後、帰宅した父親に母親は訊ねた。
尤も、父親の険しい表情から良い話は聞けないと察していたが、それでも訊ねた。
「謝り倒して、乱闘については許してはもらえた——だが、慰謝料や酒場への弁償代が今の手持ちでは少し厳しい」
父親は、ここ数日家出してしまった息子の尻拭いをしていた。
小さな村ゆえに、人間関係の悪化は居場所を失うのと同義だった。
特に夫婦は村の出身ではなく、外からやってきて住み着いた人間だ。
だから息子のやらかしを放置するわけにはいかなかった。
「少し支払いを待ってもらえるなら、私も街へ出て働いて——」
「いや、そこまでする必要はない」
父親は母親の提案を断って、暖炉の上に飾っていた剣と盾を手にした。
「これを売る」
「あなた、それは……」
「あぁ、大事な弟の形見だ。だが、アイツなら笑って許してくれるさ」
父親とその弟は、かつて冒険者だった。
そして結果的に父親は引退して家庭を持ち、弟は冒険者を続けた。
——そして3年前、弟のパーティーメンバーがこの剣と盾と、弟の遺灰を持ってきたのだった。
「本当にいいの……?」
「あぁ、だが武具の買取は街まで足を運ばないとだな」
村にも何人か見知った行商人が来るが、武具の買取をする者は確か居なかった筈だ。
「——待って、あなた」
そうして準備を終えて、家を出ようとする父親を、母親が何かを思い出したように呼び止めた。
「噂で聞いたのだけど、村の近くに空き地があるじゃない?」
「……あぁ、あの大きな木がある?」
「えぇ、何でも最近そこに見慣れない行商人が来てるらしいんだけど——何でも買い取ってくれるらしいから、街に行く前に寄ってみたらどう?」
「ふむ……」
確かにその行商人が武具を買い取ってくれるなら、だいぶ手間は省ける。
尤も、買い叩かれなければの話もあるが。
「分かった。どうせ通り道だ、少し寄ってみるよ」
そうして父親は家を出た。
「——いらっしゃい」
空き地まで足を運ぶと、その噂の行商人が本当にいた。
全身をローブで覆い、顔もフードのせいでよく見えない。
声からして女というのが分かるくらいだった。
正直いうと、怪しさと胡散臭い印象を感じた。
「何かお探しぃ? 大抵のものは用意できるよぉ」
行商人が木組の露店を指差す。
雑貨品、薬草、食品——確かに種類問わずに様々な商品が取り揃えてあるようだ。
「あ、いや……すまないが買取の方をお願いしたいのだが——」
「はーい、もしかしてその手にしてる剣と盾かなぁ? じゃあこの天秤の前にかざしてみてぇ」
行商人が何処からか、金と銀の天秤を取り出した。
言われた通り剣と盾をかざしてみると、不思議なことに天秤が勝手に銀の方へと大きく傾いた。
噂に聞く魔道具というやつだろうか?
「おぉ? ふむふむ……」
行商人が興味深いといった様子で、傾いた天秤から自分が手にしている剣と盾に視線を移した。
そして暫く観察してから、徐に小袋を取り出した。
同時に天秤が動いて、金と銀が綺麗に釣り合った。
「——じゃあこのくらいになるかなぁ」
小袋の紐を解いて、その中身を見せてきた。
——中身は銅貨、銀貨、金貨も何枚か。
この量なら、慰謝料や弁償代も問題なく払えるだろう。
「……俺が言うのも何だが、この剣と盾はそんなに凄い逸品というわけではないぞ?」
提示された金額に驚いて、つい口にしてしまった。
実際弟の形見といえ、剣と盾そのものは普通に店で購入した物の筈だ。
間違ってもダンジョンや遺跡で見つかるような逸品ではない。
「そうだねぇ、剣と盾そのものにはそんなに価値はないよぉ。でも——」
「でも?」
「これさぁ、お客さんにとって大事なものでしょ?」
——見透かされたようだった。
行商人はハッキリと自信を持ってそう言った。
「——分かるのか?」
「まぁねー。誰か……親しい人の形見ってところかなぁ」
「あぁ、亡くなった弟のだ」
この行商人の観察眼か、もしくはさっきの魔道具らしき天秤の力か。
どちらにせよ、全て見抜かれているようだ。
おそらく妻にはああ言ったが、未だに葛藤している自分の心情も——
「へー……それでぇ? どうするのぉ? 詳しい事情は知らないけど、それを持ち出すってことは……大金が必要なんだよねぇ?」
行商人が囁く。
「後押しが欲しいかなぁ? じゃあお話してくれたお礼でオマケも♡」
行商人が小袋に追加で金貨を数枚入れた。
「さぁ、めいくゆあちょいすっ!」
「——はぁ!? 何だよそれ……勝手なことしなくていいんだよ!」
ほとぼりが冷めるまで、家出をして近くの街で過ごしていた息子。
帰ってくるなり、父親と再び言い合いになってしまった。
いや、今回は言い合いではなく、一方的なものだった。
『尻拭いはしてやった。次はないぞ』
父親の淡々としたその言葉。
そして父親がこの数日でしてきた行い。
それを母親から聞かされた時、息子は様々な感情に押し潰された。
そんな事頼んでない。俺のことは放っておけばいい。何で大事な形見を売ってまで——
それは父親なりの息子への愛情。
しかしそれがまだ理解できない息子は、それを自身の否定だと感じる。
だから感情のまま、父親の背中に怒鳴り声を浴びせる。
対して父親は、何も言い返さず黙って仕事をする。
これ以上話すことはないと、その背中が伝えてきた。
「っ……!」
それで嫌でも息子は知る。
大人な父親と、いつまでも子どもの自分を。
だからまた、衝動的に家を出てしまった。
家から少し離れた場所まで走って、徐々にスピードを落とす。
そして村の周りを歩きながら、考え始めた。
この後自分が何をすべきかを——
「……そうだ。売った形見、俺が取り返せば——」
そうすれば、少しは……
やぁ、かわいい天秤ちゃんだよぉ(╹◡╹)
最近は行商人ロールプレイで日々を過ごしているよ。
もちろん
数日前も大金をチラつかせて、大事そうな形見を見事に買い取ったよぉ。
いやぁ、形見を手放した時のあの何とも言えない葛藤を抱えた表情……うーん、ゾクゾクするねぇ。
さてさて、それはさておき困ったことが起きちゃったよぉ。いや、そんなに困ってはないけどね?
「——だから、あれは親父の弟の大事な形見で」
「うんうん、知ってるよぉ。だからって無償で返すのは無理だからねぇ。どうしてもっていうなら、こっちが出したお金ぜーんぶ返してねぇ」
「もう使っちまって無いんだってよ。だから——」
かれこれこのやり取りを数十分繰り返している。
面倒なクレーマーさんだねぇ。
数日前に、形見の剣と盾を売りにきた男の人の子どもみたいだけど——
「もぉ、しつこい男は嫌われるよぉ? というかさぁ、予想だけど君のお父さんが形見を売りにきたのって、君のせいなんじゃないのぉ?」
「ぐっ……そ、れは……」
あらま、図星さんだったねぇ。
「あー、それで面目丸潰れ。名誉挽回とお父さんの形見を持ち帰ればと——でも金もないから、情に訴えようってことねぇはいはい」
「っ…………」
リンゴのように顔が真っ赤になっていくお子さん。
うーん、唆るじゃねぇか。
「まぁ素直にお金集め直してきなよぉ。ちなみに私は1週間後にはここを去るけどねぇ」
「は……ちょっと待てよ。1週間で集められるわけ——」
「私も暇じゃないのよねぇ。世の中そんなに甘くないのよ坊や♡」
——でも、私ってば悪魔だからね?
「はい、そんな坊やに神託——悪託か? 汝、街で賭け事をするが吉だよぉ」
「は……?」
「勿論、私のお呪い——幸運値をバクアゲ! を受け入れたらの話だけどねぇ」
悪魔の提案に困惑する坊や。
「うふふ……要するに楽して大金が稼げるいっときのお呪いさ——ただし」
坊やに向けて人差し指を向ける。
「その幸運の代価は——代償はちゃんと払ってもらうよぉ。幸運の代償は不運……数日後か、数ヶ月後か、数年後か——いつかその不運はやって来る」
それは幸運の前借りでもある。
「さぁ、めいくゆあちょいす!」
すごい、信じられない。
あの行商人の
賭けをするだけで、ゲームに参加するだけで自分の手元には金が集まった。
親父の形見の剣と盾、それを買い戻しても手元には大金が残る程に。
……いや、もうどうでもいいんじゃないか?
原因、発端は自分だったとしても、金の工面の為に形見を売ったのは親父の意思だ。
それを今更俺が取り戻したところで……
だったら、だったらこの大金は全部自分の——自分のために使うべきではないか?
「はは、ははは……!」
金があれば何でもできる。
食い物も、酒も、女も自由に……
今まで散々退屈な日々に我慢してきたんだ。
だから、このまま自分は村にもあの行商人の所にも戻らなければ……
『本当にいいのかなぁ』
街で豪遊し始めて5日目の夜。
不気味な声が夢の中で何度もそう告げてきた。
…………そして、自分の両親が苦しむ夢も——
『幸運の代償は不運だ』
次の日、自分の足は自然と村へと動いていた。
「——なんだよ、これ……」
村へ戻った自分が目にしたのは、焼け落ちた自分の家だった。
「——帰ってきたか」
村の村長が待ち構えたように現れた。
「昨夜、
なんだそれは、なんだそれは。
そんな事があり得るのか?
「落ち着け、奇跡的に2人とも生きてはいる。だが怪我や火傷が酷くてな……村の祈祷師に診てもらってるが——」
走った、自分でも驚くくらい速く。
「息子さん、残念ですがこのままでは持ってあと数日——」
祈祷師のその言葉と、微かに息をしているだけの両親。
酷く打ちのめされた気分だった。
「た、頼むよ……金なら、金ならいくらでもある——」
「お辛いでしょうが、こればかりは金銭の力では——」
それなら名医を、薬を——
「とても間に合うとは思えません……それより、最期までご両親のそばに——」
祈祷師の小屋から飛び出した。
向かう先は、村の近くの空き地だった。
「——おやおや、お帰りお客さん。そろそろ店仕舞いだけど、ギリギリ間に合ったねぇ。それで、お金は用意できたかなぁ?」
「…………お、お前のせいだ!」
気が付けば、行商人に怒鳴っていた。
「んー? なにがぁ?」
「お前の呪いのせいで、親父と母さんが……!」
「えー、責任転嫁じゃーん。ちゃんと忠告したよぉ? 幸運の代償は不運だって」
「そ、それなら何で俺じゃないんだ! 俺に、不運が来るって話だろ——」
行商人が嘲笑う。
「やだなぁ、ちゃんと
「は……?」
「大事なだーいじな家族。このままだと失っちゃうねぇ。可哀想にねぇ」
——あぁ、それでようやく頭が理解してくれた。
コイツはこうなる事を知ってて——
「この……
「——あはははは! ご明察ぅ!」
行商人がローブを脱ぎ捨てて、その正体を露わにした。
ピンクの長い髪に、異形の角。
金と赤の瞳。
お伽話からそのまま出てきたような、人形のような女だった。
「はいっ、というわけでスーパーウルトラかわいい悪魔ちゃんでーす。いえーい、はくしゅ〜」
「…………」
「あれ? すべったか? もうちょっとシリアス風味あった方がよかったかな……おっといけない。もう5160文字使ってるよ」
行商人——女悪魔が意味不明な言葉を言いながら、金と銀の天秤を何処からか取り出し、自分の目の前に掲げた。するとその近くにカードが2枚現れ、宙に浮かんだ。
「ご両親の大怪我……何とかしたいですよねぇ? 今なら超お得、何と君の全財産で叶えて差し上げよう! あ、それともぉ、当初の予定通り形見の剣と盾にしとくぅ?」
「……揶揄ってるのか?」
「うん! あと流石にその2つだと悩む余地ないよねぇ。だからもう一つの選択肢をあげるよぉ」
3枚目のカードが現れた。
「——新しい自分になりたい?」
「…………どういう意味だ」
「そのままの通りだよぉ。君が望む通りの人間にしてあげる……貴族でも王様でも——ほら、退屈な自分とおさらばしようよぉ。あ、ご両親のことが気掛かりなら、その記憶も消してあげるよぉ」
これで罪悪感を感じることもないねぇ。
悪魔はそう囁いてきた。
——実際、魅力的に感じた。
憂いも感じないのなら、今の自分と決別してもいいのではないかと……
「さぁ、めいくゆあちょいす! この台詞今回だけで3回目だね!」
俺は……
「…………悪い、親父、母さん——」
こんな、出来の悪い息子で。
「世話になった」
「ありがとうございました」
夫婦が祈祷師の小屋から出る。
「でも変ね」
「何がだ?」
「あなたは兎も角、私まで過労だなんて……」
「……確かに。家事でも頑張りすぎたか? まぁ2人とも大したことがなくて良かったじゃないか」
「それは……そうね」
そうして夫婦は家に帰宅した。
「——あいつ、また勝手に……」
そして、夫の方が真っ先にそれに気が付いた。
作業の音がする工房の方へと、不機嫌な足取りで向かい、工房の扉を乱暴に開け放った。
そして工房にいた、作業中の若い男を怒鳴りつけた。
「——おい!
「っ……! おや——師匠。でも何かしなくちゃ上達も何も——」
「大人しく留守番してるだけでいいって言ったぞ俺は! いいか、陶器はデリケートだ。未熟者のお前が勝手に作業して変なクセ付けたら、俺の顔に泥を塗ることになるからな!」
「……始めてまだ十数年の一代目なのにか?」
「聞こえてるぞバカ弟子!」
「あなた、あまりお弟子さんに怒らないの。それよりご飯の用意するから待っててね、2人とも」
夫婦の住む家には、陶器職人の夫に弟子入りした若い男も住んでいた。
夫婦には子どもは
いえーい、天秤ちゃん大勝利!
今回は私の一人勝ちだったねぇ。
ちょっと飲み歩き用のお小遣いが心許なかったから、臨時収入が欲しかったのよねぇ。
結果として、幸運値爆上げさせた男に賭けで儲けさせ、それを全て私が総取り……あとついでに
大して価値がなくとも、使い道がなかろうと、ユニークアイテム系は入手して保管しておきたいんだよねぇ。
「ご機嫌だねお姉さん。何か良いことあった?」
「えーわかるぅ? 実は悪魔ポイントが一億点くらい加算されるんじゃないかっていうくらい、大活躍だったのぉ」
「そうなんだ、じゃあ今日はらぁめん作ってあげるね」
「えぇ!? 今日はラーメン食べていいのか!?」
「うん、遠慮せず食べてね」