転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします 作:メスシリンダーガキ
陽光が隠れ、夜の帳が下りる。
薄暗く、溶けるような闇の中。
ある人は闇を恐れ、ある人はあえて闇へと飛び込む。
そして闇へと飛び込んだ人間は、隠していた本性を露わにする——
まぁ何が言いたいかというと、夜になるとどんな場所でも治安が少し悪くなるってハナシだ。
ほら、ちょうどその路地裏で、若い女性を連れ込んで乱暴しようとしている男2人組が……
「——いい加減にしてよっ。人を呼ぶわよ」
「へへ、いいぜ。そしたら
「大人しく俺たちと付き合えって。悪いようにはしないからよ」
なんとまぁ、ベタでお約束な展開だろうか。
しかし、だからこそ、この後の展開もまたお約束というものになる——
「——その辺にしておきな。女に強要していいのは、優しい抱擁だけだぜ」
路地裏に、別の男の声。
耳にして落ち着くような、低重音の声。
渋い声とも言える。
それが、男2人組と若い女の視線を集めた。
洒落たコートに、洒落たハットを被った男——いや、
文字通り、顔がオオカミなのだ。
「な、なんだテメェ……?」
「……もしかして獣人か? にしては流暢に言葉を喋るな——頑張ってお勉強でもしたのか犬畜生?」
ナイフを持った男がオオカミ男を煽る。
「——当ててみな。地獄の酒場にご招待してやるぜ」
"デュラハンが酒を出してくれるんだ"
オオカミ男はそう付け足して、男2人組と対峙した。
「ぬぼー…………」
天秤の悪魔が、FXで有り金を全部溶かしたような顔で呆けていた。
カウンターに置かれたグラスも手付かずだった。
「…………」
「ちくわ大明神」
マスターが何か言ったのか、そう返答する天秤の悪魔。
「お姉さん大丈夫……?」
「クックックッ……黒マテリア」
レイラが声を掛けても、謎の返答をしてきた。
まぁいつもの事といえばそうだが、会話にならないレベルになるのは珍しい事だった。
「体調でも悪いのかな……どうしよう」
「…………」
「え、マスターさん?」
するとマスターが、カウンターの奥に引っ込んだかと思えば、すぐに出てきた。
その手には酒瓶が丸々1本握られていた。
「それ度数の高いやつ……えっ」
「もごっ」
そして、栓を外してそのまま天秤の悪魔の口に注ぎ口を突っ込んだ。
グラスに注ぐどころか、割りもせずに、度数の高い酒を。
「——っ……!? ごほっ、うぇ、ちょ、何ごと!?」
反射的に口に入り込んだ液体を飲み込んだ天秤の悪魔。
当然むせるが、その顔には生気が戻っていた。
あ、良い子は真似しないでね!
「は、『こういう時はこの手に限る』? いや、ボーッとしてた私も悪いけど、それはなくない?」
マスターがハンドサイン を出すが、天秤の悪魔は不服そうだった。
「なるほど……」
「それはメモしなくていいんだよレイラちゃん」
口元を拭ってから、改めてカウンターに置かれたグラスを手にした天秤の悪魔。
しかし、何処か上の空といった様子だった。
「やっぱり体調悪いの?」
「ん、心配しなくても大丈夫だよぉ。ちょーっと、考え事というか、集中してただけというか——」
——酒場の扉が静かに開いた。
来客を告げるベルが鳴り、3人の視線が自然と集まった。
「——あぁ、久しぶりだが相変わらず良い場所だ」
コートに、帽子を被ったオオカミ男が酒場に入ってきた。
「あ、いらっしゃい——お姉さん?」
レイラが給仕として、初めて会う客に挨拶の為に駆け寄ろうとした。
それを、天秤の悪魔の細い腕が遮った。
「レイラちゃん。あの悪魔は
「え……?」
真面目な雰囲気で、真剣な声色でレイラに注意を促す天秤の悪魔。
普段の様子と違う天秤の悪魔、そしてその警戒心を隠そうともせずにしている事が、レイラが驚くには充分だった。
「おいおい、久しぶりだっていうのに酷い態度じゃないか。そっちは……新しい従業員か? 挨拶くらいはさせてくれ。頼むよ、礼儀を欠かすと明日の俺に顔向けできなくなる」
オオカミ男が帽子を外して、毛皮と爪で覆われた左手で帽子を投げた。
帽子は見事な軌道を描いて、少し離れたカウンターの席へと着地した。
「お姉さん? 何か良い人——悪魔さん? に見えるけど……」
「レイラちゃん、騙されちゃダメだよ。この悪魔は——」
天秤の悪魔が右手を上げて、人差し指をオオカミ男に向けた。
そして、少し大きな声でハッキリと言った……
「女だったら誰でも口説くクソ野郎だよ!」
「急に褒めるなよ。美人からの褒め言葉は何度聞いても緊張しちまう」
オオカミ男——改めて狼の悪魔。
彼がゆっくりとレイラへと近付く。
「すてい! はうす! お手! おかわり!」
天秤の悪魔がレイラを抱き寄せ——身長はそんなに変わらない為、抱きついているだけのように見えるが——狼の悪魔を牽制する。
「おっと、嫌われちまったものだ。逆にお嬢さんは随分と好かれているな。羨ましいよ」
「えーっと……ありがとうございます? あ、私はレイラです」
「狼顔の単なる悪魔だ。好きに呼んでくれ」
狼の悪魔がそれだけ言うと、先ほど投げた自分の帽子がある席へと座った。
天秤の悪魔の席から、二つほど椅子を跨いだ席だった。
「マスター、いつもの——おっと、久しぶりだから忘れちまったかな?」
「…………」
マスターが"問題ない"とジェスチャーし、手際良く準備を始める。
「……何しに来たのぉ?」
「見ての通り飲みに来た。なに、口にしたらふと寄りたくなってな。悪漢に襲われてたお姫様を家に送って、少しばかり対価をベッドの上で貰ってから——」
「それ以上言うなー! この小説はR18じゃなーい!」
——本気で嫌っているわけではない。
しかし何か思うところがあるのか、天秤の悪魔は狼の悪魔に当たりが強かった。
「……それでぇ? 本音は?」
「——やっぱりあんたに隠し事は出来ないな。単刀直入に言うと、今厄介な仕事を抱えていてな」
狼の悪魔の前にグラスが置かれた。
そして一口飲んでから、改めて口を開いた。
「恥を承知で、あんたに手伝いを頼みに来た」
「ふーん……」
天秤の悪魔がレイラから離れて、自身もグラスを手に取った。
「……いいよぉ」
「流石だな、話が早くて助かるぜ。代価は——」
「そっちの仕事が済んだら、私の仕事も手伝ってもらう。ちょっと色々と手が足りなくてねぇ」
「オーケー、交渉成立だな」
そうして、天秤の悪魔と狼の悪魔がお互いにグラスを掲げた。
「わー……」
「どしたのレイラちゃん?」
「お仕事の話してる時のお姉さん、いつもよりカッコいいね!」
「いつもより……?」
後半へ続きます