転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします 作:メスシリンダーガキ
魔術師のオーバルは禁術に手を染めた。
それは悪魔召喚。
悪魔を呼び出し、契約することでとある願いを叶えるのだ。
「――さぁ出でよ悪魔!」
手応えはあった。
召喚陣から門が開き、異形の存在が姿を現す。
「――汝が我を呼び出した者か?」
それは巨躯の石像のような存在。
ガーゴイルと呼ばれる魔物によく似た姿をしていた。
「なれば願いを言え、契約を結べ。さすれば汝は――うがっ!?」
「あーごめんごめん、ちょっとそれ一旦待ってね」
ガーゴイルのような悪魔が、膝カックンをされた。
いつの間にか悪魔の後ろにいたピンク髪の少女によって。
その少女の頭には、山羊のような角が生えていた。
「ぇ、は、ちょ――あなた様は……!? な、何故ここに……」
「いやね、近くで召喚される気配があったから割り込んでみた。ごめんね、というわけでこの獲物譲ってくれない?」
「い、いや……ですが召喚で呼ばれたのは我の方でして――」
「譲って♡」
「で、ですから――」
「譲れ」
「…………はい」
ガーゴイルのような悪魔は威厳を失ったように、少女の背後で正座で待機し始めた。
よくわからないが、この少女も悪魔?
そして自分が召喚した悪魔よりも上位の悪魔なのだろうか。
――それは好都合だ、より強い悪魔なら自分の願いはより叶う確率が増す。
「こほん……お待たせぇ、かわいいかわいい悪魔さんだよぉ。さぁ取引をしよう、何を望んで何を差し出してくれるのかなぁ?」
願いは決まっていた。
だから高らかに宣言する。
「――とある女性がいる」
「うんうん、それで?」
「その女性と……」
「女性と……?」
「……結婚させてくれ!」
「そっかぁ、結婚……うん?」
少女の悪魔が首を傾げた。
「どうした? もしかして無理なのか!?」
「いや無理じゃないけど……えぇー」
「……そんな理由で悪魔を召喚したのか、汝は?」
ガーゴイルの悪魔が何故か困惑している少女の悪魔の代弁をする。
「そんな理由……だど? ふざけるな、これは僕にとって重要だ。人生を決める決断だ!」
「いやだって……」
「……はっ、そうか分かったぞぉ。相手は貴族とかお姫様とかだ! 身分違いの叶わぬ恋を叶えてくれってことかぁ!」
「……なるほど、それならまぁ過去にも前例が――」
少女の悪魔が勝手にそう決めつけ、納得しそうな様子を見せるガーゴイルの悪魔。
「いや? 相手は幼馴染だ、故郷の村で僕の帰りを待っている」
「「えぇ……」」
何故か微妙な反応をされた。
「……実は仲が悪いとか?」
「いや、仲は良好だ。普通に文通もしている。そして脈アリだ」
「……告白する勇気がないとかぁ?」
「いや、勇気はある。来週帰ったら告白するつもりだ」
自分の言葉に、悪魔2人――2匹? は顔を互いに見合わせた。
「――ねぇ、これつまりどういうことぉ?」
「あなた様に理解できないのなら、我にも理解できませぬぞ」
そして内緒話のようにヒソヒソと話し始める。
「……その、
「何を言う、必要だ。つまりだな、帰ったらもう結婚してた事実にして欲しい」
「なんでぇ? どういうことぉ?」
やはり人間が悪魔を理解するのが難しいように、悪魔が人間を理解するのは難しい……ということだろう。
仕方がないので細かく説明することにした。
「いいか? おそらく、僕が告白したら間違いなく彼女は承諾する。親同士も仲が良いし、トントン拍子で事は進むだろう」
「すごい自信……それでぇ?」
「結婚はほぼ確定だ、ならば告白とか準備とか手間なだけだろう? だから既に結婚してたことにして欲しい。それが難しければ、帰った日がもう結婚の前夜とか――」
「いや過程大事!」
少女の悪魔が叫んだ。
「結婚は、ある意味スタートだけどゴールでしょ! 告白して甘酸っぱい青春送って時には喧嘩してそれでも仲直りして絆がより強くなって到達するんでしょ! その過程を飛ばそうとするなこの効率厨! 童貞! 前髪スカスカ!」
少女の悪魔が息継ぎもなしに早口で捲し立てるように喋る。
高速詠唱は得意なのでちゃんと聞き取れた。
ちなみに童貞は既に卒業してるし、前髪はフサフサだ。
何なら独自に開発した魔法で好きなだけ生やせる。
「はぁ、はぁ……分かった、こいつバカだ。才能ある天才バカだ」
「あの……あなた様って時折すごく人間臭いですよね」
「誰が加齢臭するって!?」
「いやそんなこと言って――ぐぁ!」
少女の悪魔がガーゴイルの悪魔の顎に華麗にアッパーを決めた。
「……なるほど、謝罪しよう悪魔たち。君たちと話をして僕の愚かさに気付いたよ。確かに過程は大事だ」
「え……そ、そうだよ。何で
「では告白して了承を得たということにしてくれ!」
「…………ぁ、はい。じゃあ――取引、しようか」
(あ、これ諦めたやつだな)
ガーゴイルの悪魔は密かに思った。
「め、めいくゆあちょいす。選ぶも何もないけど……」
少女の悪魔が指を鳴らす。
するとテーブルと、金と銀の天秤が現れた。
「む……もしや君があの天秤の悪魔だったのか?」
「そうでーす、では代価を銀の皿に乗せてくださーい」
悪魔の少女――天秤の悪魔が感情を失ったように淡々と言う。
そして一枚のカードを金の皿の上に浮かばせると、天秤が金の方に傾いた。
「――ではこれを代価にしよう、レッドドラゴンの魂を封じた魂石だ」
用意していた代価を銀の皿に乗せた。
「ぁ……」
すると勢いよく天秤が金から銀へ傾いたと同時に、天秤の悪魔が消え入りそうなか細い声を出した。
「ふむ……釣り合ってはないが、僕の出した代価の方が大きいということか。この場合はどうすれば? 釣り合うように代価を減らすべきか?」
「ぁ……その、本人が了承するなら代価の方が重くても取引は成立する、よ」
「ではこれで頼む!」
「あ、はい……じゃあ取引成立――」
「取引成立だな!」
ここに天秤の悪魔の取引が成立した。
「いや良かった、念の為あと五匹ほどの魂石を用意していたが、一つで済んだ。残りは研究用にまわすとしよう」
魔術師オーバルのご機嫌の笑い声が、薄暗い研究室に響いた。
「……なぁ」
「……はい、何ですか?」
天秤の悪魔がガーゴイルの悪魔に声を掛ける。
「――仕事終わったら飲みに行かないか?」
「奢りなら良いですよ」
今回はとてつもなくやるせなかった。
一応、成立した取引を実行する前に、例の幼馴染とやらの因果を少し覗いてみた。
「くそぉ……覗かなければよかった。余計にやるせない気分になったぁ」
「まぁまぁ、その……損得で言えば大黒字ですよ。あの程度でレッドドラゴンの魂石が手に入ったのだから」
バーのカウンターに顔を突っ伏した天秤の悪魔を、ガーゴイルの悪魔が慰める。
そして気を利かせた、首のないデュラハンのマスターが酒のグラスをそっと置いた。
「……これあげるぅ」
天秤の悪魔がレッドドラゴンの魂石をガーゴイルの悪魔に投げ渡した。
「え、しかし……よろしいのですか?」
「召喚に割り込んでごめんねぇ、その
そしてグラスの中身を勢いよく飲み干した。
あぁ、今日は酒が美味しくない。