転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします 作:メスシリンダーガキ
いや、楽しみにしてた映画を何度も観に行く予定とかではないそす。
んなぁ……
「——すげぇ、本当にあったよ」
「だから言ったろ。俺を信じろってな」
「いつものホラ吹きかと思ったぜ」
男3人組が、草木をかき分け辿り着いた場所。
それは立派な屋敷だった。
1番近い街からでも、馬で半日以上もかかる距離。
周囲は自然だらけで、それらがまるで屋敷を隠しているようだった。
「よく見つけたなお前」
「へへっ、マークしてた行商人の行先を追ってたら見つけたってわけよ」
「貴族の屋敷ってとこか?」
男3人組は、有り体に言うと泥棒だった。
普段は衛兵にマークされない程度に、ちまちました盗みを繰り返すチンピラ。
それに飽きてきた3人は、何かデカい盗みをしたいと考えるようになった。
そして、その獲物として狙うことにしたのが、今目の前にある人里離れた屋敷だった。
3人組は屋敷から少し離れた場所で待機をして、夜を待った——
「——開いたぜ」
月と星が輝く夜空の下、施錠された鍵を開錠する男。
もちろん正面の扉ではなく、屋敷の裏口の方だ。
そしてゆっくりと扉を開けて、中の様子を窺いながら3人組の男たちは屋敷の中へと入り込んだ。
「……誰も居ないのか?」
「門や庭にも誰も居なかったな——廃墟なんじゃないか?」
「んなわけあるか。行商人たちが確かにここで荷卸しをしてたんだ。それに廃墟だったらここまで綺麗な状態なわけないだろ」
小声で話す男たち。
屋敷は人の気配はせず、壁掛けの魔光石だけが屋敷内を照らしていた。
調度品や飾られた絵画——その通路は、埃すら全くない綺麗な状態だった。
明らかに人の手によって管理されていながら、人の気配が全くしない不気味さが、微かに男たちの背中を震わせた。
「——まぁ、普段は使ってない別荘とかだろう」
「そ、そうだな……」
「なら、管理人とか警備のやつが数人いるかもだな。念のため静かに作業するぞ」
3人組は事前の打ち合わせ通り、屋敷の一階から手分けして各部屋を物色することに……
「——おぉ……」
鍵開けをした男が、一つ目の部屋に侵入した。
そして思わず感嘆の声を出してしまう。
部屋の中は、剣や盾、鎧などといった武具の数々が展示されるように保管されていた。
元冒険者クズれの男からみれば、まさに宝の山だった。
残念なのは、武具の類は重過ぎるので気軽に盗めないという点だろうか。
「『形見の弟の片手剣』——『形見の弟の盾』……何だこりゃ」
男が展示品の側にあるネームプレートの内容を読み上げる。
どう見ても安物の剣と盾だった。
どうやら値打ち物ばかりというわけではないようだ。
このコレクションの持ち主は蒐集癖でもあるのだろう。
「……お、この短剣くらいなら——」
そんな中、透明なガラスの展示箱に入った、宝飾された短剣が目に入った——何故かすぐ横に眼鏡もあるが。
ネームプレートには、『DXカラル国の執政くん成り切りセット』と書かれていた。
全くもって意味がわからなかった。
しかし短剣は値打ち物だ。
男は慣れた手つきで展示箱の鍵を開錠させる。
——鍵が開いた。
ガラスの蓋を開いて、無防備になった短剣に手を伸ばした……
「あ」
「——やっぱり居ないぞあいつ」
「逃げたか?」
「いや、あいつの性格からしてそれは無いな。多分先に二階に行って、抜け駆けしてるぜ」
一階の物色を終えた2人が合流する。
しかしもう1人が何処にも居なかった。
1人で先走って先行していると判断し、2人は二階へと続く階段を登った。
——二階は一階と比べて、小部屋が多い印象だった。
来客や屋敷の住人の寝室などだろうか。
「おい、あそこに誰かいないか……?」
廊下の先に、人影がいた。
2人は急いで調度品の影に身を隠す。
人影は先行したであろう仲間の1人か?
それとも屋敷の住人だろうか?
顔を覗かせて、人影の正体を確かめようとする……
「——————」
人影は、少女のものだった。
少し距離があるため、顔はよく見えなかったが、長いピンクの髪に黒いワンピース服を着ていた。
少女は何かするわけでもなく、ただそこに立っていた。
——心なしか、自分たちの方に視線を向けている気がした。
「……気付かれたか?」
「静かにしてろバカ」
そうすること1分ほど。
少女は廊下の奥へと消えてしまった。
男2人は肺に溜めてた空気を静かに吐き出して、調度品の物陰から出てきた。
「——なぁ、今の女の子なんか変じゃなかったか……?」
「何がだよ?」
「いや……足音一つも立てずに奥へ行った気がして——こう、滑るように」
「…………じゃあゴーストの類だってか?」
「かもしれねぇ。一旦退こうぜ」
呪われでもしたら面倒だ。
どの道、戦利品はもう既にいくつか懐に入っている。
男2人は来た道を引き返して、一階へと戻った——
「うぉ……!?」
そして、1人が階段を降り切った瞬間派手に転んでしまった。
「このドジ、何してんだよ」
「いや、何かに足を引っ張られた気がしてぇぇぇぇぇ!?」
奇妙なことに、転んだ男が二階の階段を登っていく。
仰向けのまま、脚を天井に伸ばしたまま——
まるで、見えない何かに脚を掴まれて、二階に向かって引き摺られているようだった。
「なっ……くそっ!」
もう1人の男が、上へと引っ張られる男の手を掴んだ。
突然自身も引っ張られる。
だから残る手で手すりを掴んで、踏み止まった。
「なに、なにが、何が起きてる!? た、助けてくれぇぇぇ!」
「騒ぐな暴れるなバカ! ちゃんと掴んで——」
脚を掴まれていると喚く男が、混乱のあまりその身体を暴れさせる。
そのせいか、強く握ったはずの互いの手が解ける。
「うわぁぁぁぁぁ!?」
当然、階段のヘリに腹部を打ちつけられながら、男は二階へと引き摺られてしまった。
その姿が見えなくなっても、しばらくその悲鳴が耳に入ってしまったが、やがてそれも聞こえなくなった。
「…………」
残された男。
こんな状況になったからには、どんな間抜けでも理解できる。
先行したと思っていた男も既にやられていること、そして今すぐ逃げなくてはならないということに。
「悪く思うなよお前ら」
仲間の2人の救出は諦め、自らの身の安全を優先することにした男。
一直線に階段近くの正面玄関に駆け寄り、ロックされていた扉の鍵を解除した。
「——あ、開かない?」
しかし扉は引いとも押しても開かない。
鍵は確実に開けた。念のため目視で確認するが、しっかり開いている。
魔法の鍵? 外から何かで抑えられている? それとも——
「——————♫」
——歌声が聞こえた。いや、正確には口ずさむような鼻歌。
慌てて振り向くが、誰もいない。
周囲を見回しても、誰もいない。
でも確かにそれは聞こえてくる。耳に——いや、頭に直接。
「ひっ——」
突然、屋敷内の魔光石が全て消えた。
真っ暗な闇の中、不気味な歌声と自分の速くなる心臓の鼓動だけが耳に入ってくる。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
その不安をかき消すためか、男は叫びながら走る。
正面玄関の扉がダメなら、侵入に使った裏口はどうか——ダメだった。こちらも鍵は開いているのに開かなかった。
なら窓を壊して脱出しよう——ダメだった。血が出るまで拳で殴っても、そこにあった椅子で叩きつけても、窓は何故か破れなかった。
「——————♫」
歌声が、どんどん近付いてきている。
でも誰も居ない。ここには今自分しかいない。
けれど、歌声は徐々に大きくなっていた。
「はっ……はっ……!」
恐怖が男を萎縮させ、判断力を奪っていく。
最終的に男が取った行動は、隠れることだった。
一階にある一室の、服が何着か入っていたタンスに身を隠した。
そして呼吸を整えながら、タンスの扉の隙間から部屋の出入口を見張る。
もしそこから何か入ってきたら、その正体を確認できるように……
「——————♫」
部屋の扉が、ゆっくりと開いた。
歌声が部屋中に反響してきた。
開いた扉から、何かがその顔を覗かせてきた。
「っ……」
消えていた部屋の中の魔光石が、チカチカと点灯し始めた。
しかし石の中の魔力が無くなりかけているのか、ついたり消えたりを繰り返していた。
——それによって、部屋の中を覗き込むソレが僅かに鮮明になった。
ピンクの長い髪に、異形の角。
赤と金の瞳の少女だった。
まるで人形がそのまま動き出したような、不気味な少女。
——落ち着いていきた筈の心臓の鼓動が、またうるさく動き出す。
それを落ち着かせようと、タンスの扉の隙間から覗くのをやめて、両手で口元を抑えて呼吸音を漏らさないようにする。
瞼を強く閉じて、その場でじっと静止する。
嵐が通り過ぎるのを黙って祈りながら、家で縮こまる子どものように……
「…………」
数分だろうか、それとも何時間だろうか。
気が付けば歌声は聞こえなくなっていて、点滅していた魔光石も完全に消えて、暗闇と静寂が戻っていた。
——助かった?
男は恐る恐る、タンスの扉の隙間から再び覗いた——
タンスの扉の隙間から見えたのは、金色だった。
山羊の瞳孔のようなそれは、男をしっかりと見つめていた。
「あいおーるうぇいずかむばっく!」
タンスの扉が勢いよく開かれる。
——男が意識を失う前に見たのは、迫り来る異形の少女の顔だった。
「……よーし、できたぁ」
天秤の悪魔が、針を針山に戻した。
「みてみてぇ読者さん達。可愛くできたよぉ」
天秤の悪魔がこちらに何かを見せつける。
それは小さな人形だった。
男の人を小さくデフォルメにしたような、愛嬌のある人形。
それが3体——
「10年くらいこのままにしとくつもりだけどぉ。何処に飾ろうかなぁ——あ、欲しい人いたりするぅ?」
天秤の悪魔が上機嫌そうに、3体の人形を弄ぶ——
天秤ちゃんのジャンプスケアを味わいたい人は、是非勝手にいらしてください。
命と魂の保証はできませんが。