転生したらTSして悪魔になったので、ロールプレイします   作:メスシリンダーガキ

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誤字脱字報告ありがとうございます。
とても助かります。


六話

 

 

 

 

 これはよくある話だ。

 領主の1人が、金や権力、利益に執着して暴走してしまうなんてのは。

 暴走した領主が何をしでかすか?

 それもよくある話だ。

 大体が、領地の民が搾取される。

 厳しい課税、徴兵、徴収。

 民はそうして飢えていく。

 運良く――いや、運悪く生き残って領主に反抗しても、自分たちのように罪をでっち上げられ、監獄に入れられ奴隷のような扱いを受ける。

 

 この、大陸から離れた領主の所有する鉱山がある牢獄()

 自分たちは強制労働を強いられ、その劣悪な環境と性根が腐り切っている看守たちに()()()()日々を送っていた。

 

「――隣の牢獄の爺さん、亡くなったそうだ」

 

「またか、今月で3人目だぞ」

 

「何でも鞭打ちされそうになった子どもを庇ったとかで――」

 

 月夜の光が天井の鉄格子の隙間から僅かに照らす、薄暗い牢獄の中。

 年齢、性別、身分関係なく老若男女が15人ほど押し込められていた。

 その1人である、青年のジャンは今日も嘆く。

 嘆くことしかできなかった。

 

「くそっ、あいつら……何だって俺たちがこんな目に――」

 

 ジャンのその嘆きは、牢獄の全員に聞こえていた。

 そして皆同じ気持ちだった。

 だが、それだけだ。

 劣悪な環境で強制労働をさせられた彼等は、既に抗う気力も力も削がれていたのだ。

 だから嘆くことしかできない。

 今日の終わりに、明日この悪夢が終わりますようにと祈りながら――

 その祈りは非情にも、女神に届くことはなかった。

 

 

 

「――ねぇー、数日観察してたけど酷いよねぇ。かわいそー」

 

 ――だが、今夜は違った。

 祈りは届いた。

 しかし女神ではなく、届いてはいけない存在に届いてしまった。

 牢獄に女の声が響いた、牢獄の中の誰のものでもない知らない声。

 それは牢獄の上の方からした。

 

「こんばんはぁ、お元気ですか? 私は元気です。でもキリンさんの方がもっと好きです」

 

 その言葉は本当に言葉なのだろうか、内容も意図も理解できないが、その声は気味の悪いほど牢獄内の全員の臓腑にまで響いた。

 全員が上を見上げる。

 天井の鉄格子の向こう側に誰かいた。

 しかし月の月光で顔がよく見えない。

 だが、誰かが気付いた。

 誰かが悲鳴を上げた。

 月光が牢獄の地面に影絵を作る。

 それは、人の顔に大きな角を生やしたような異形の影だった。

 魔物だ、悪魔だなどの阿鼻叫喚が牢獄内に広がる。

 

「しー……くわいえっとぷりーず。怖がらないで恐れないで、私は通りすがりの仮面――救い主になるかもしれない謎の存在だぁよ」

 

 ついに気が触れてしまったのか、ジャンもその声と影を見た。

 だが集団で同じモノを見ている、感じている。

 これは、アレは果たして現実なのだろうか?

 

「――おい、うるさいぞ!」

 

 近くで見張りをしていた牢獄の看守がやって来て、大声で怒鳴る。

 習慣というとは恐ろしいもので、看守の号令(怒号)でパニックになりかけていた牢獄内はひとまずの静寂を取り戻した。

 ――ジャンは看守が去った後、再び上を見上げた。

 天井の鉄格子の向こう側には誰も居ないし、影もなくなっていた。

 やはり、幻覚や幻聴の類だったのだろうか?

 

 

 

「ほら、先生(看守)に怒られちゃった。私は静かにしましょうって注意しましたー」

 

 ――今度は牢獄の中、天井の鉄格子の真下。

 月夜の光を浴びながら、ソレは確かにそこに居た。

 山羊の角を生やした少女(異形)だった。

 

「ッ――――! !?」

 

 ジャンは――他の者も――声を出しそうになり、その声が出ないことに驚愕した。

 声を出している感覚も、言葉を発している感覚もあるのに、それが耳まで聞こえてこなかった。

 音だけが消失したような奇妙な感覚だった。

 

「ごめんねぇ、ちょっと静かにしよっかぁ。話が進まないからね、是非もないネ!」

 

 そんな中、少女(異形)の声だけがハッキリと聞こえる。

 牢獄内の全員が見窄らしいボロ布を着て、ボロボロの体をしている中、少女(異形)はお伽話の世界からそのまま飛び出したような容姿と整った身なりが、余計にその存在の異物感を主張させていた。

 だからこそ、牢獄内の全員は少女(異形)を避けるように牢獄の石の壁に身を寄せ、母親は子どもを抱き寄せ、父親はそれを覆うように庇った。

 

「んー、誰か代表して……そこの君、ちょっと私とお話しようよ」

 

 少女(異形)の金と赤の瞳でジャンを見つめる。

 

「っ……かはぁ――」

 

 すると漏れ出たようにジャンの声が響いた。

 

「はぁ、はぁ……お、お前は何者だ?」

 

「はぁい、お約束のセリフありがとぉ。さっきも言ったけど救い主――あぁもういっかぁ、私は悪魔ちゃんでーす。今日は希望の配達に来ましたぁ。印鑑かサインお願いしまーす」

 

「あ、悪魔……?」

 

 何故そんな存在がここに?

 

「そう、悪魔だよぉ。話進めるねぇ、もう1857文字使ってるから――みんなはぁ、ここから出たいでしょ?(^∇^)」

 

 悪魔と名乗る存在は笑顔を浮かべる。

 こんな場所と状況でなければ、その笑顔に見惚れる者もいたかもしれない。

 だが今はひたすら気味が悪かった。

 

「そ、れは……その通りだ、こんな場所に居たいと思う人間はいないだろうさ」

 

「だよねぇ! じゃあさ、私が出してあげるよぉ」

 

「は……?」

 

 いきなり何を、どうやって、なんで。

 そんな疑問がジャンの頭を駆け回る。

 

「もちろん代価はもらうよぉ? それじゃあ――はい、二つの選択肢を用意してあげたから、好きなの選んでねぇ」

 

 悪魔と名乗る存在が、2枚のカードをジャンに渡した。

 ジャンは読み書きが出来るので、内容はすぐに理解できた。

『看守たちを全員眠らせる』、『暴動を引き起こす』。

 この二つだった。

 

「な……これ、は……」

 

「どっちを選んでも、最後には停泊してる船を使えば脱出できるよねぇ? どっちが良い? オススメは暴動かなぁ、みんな鬱憤を晴らしてから脱出したいよねぇ? 復讐したいよねぇ? そっちを選んだら今ならサービスで、看守の人たちみーんな抵抗できなくしてあげるよぉ?」

 

 そんな事不可能だと言いたくなった。

 だが悪魔を名乗る存在のその誘惑(言葉)には、不思議と説得力があった。

 

「……みんなと相談してから決めたい」

 

「いいよぉ」

 

 悪魔を名乗る存在のその一言で、ジャン以外の人々も声を取り戻した。

 中にはまだ錯乱している者もいたが、冷静さを取り戻していた周りがそれを宥め、ジャンを中心にして話し合いが始まった。

 ――その間、悪魔はずっと笑顔で待っていた。

 にこにこ、にこにこと。

 

 

 

「――決めた、こっちを頼む」

 

 やがて、結論を出た。

 代表してジャンが悪魔を名乗る存在にカードを一枚手渡した。

 

「はーい、お預かりしまーす――あれぇ、本当にこっちで良いの?」

 

「あぁ、奴らと同じにはなりたくないからな」

 

 手渡したカードは、『看守たちを全員眠らせる』と書かれた方だった。

 

「……おかしいな、暴動の方選ぶ確率の方が高かったのに――今の所読者さん達には甘っちょろいザコザコ悪魔だと思われてるだろうから、ここらで一つ残虐性をみせておこうと思ったんだけど」

 

 悪魔を名乗る存在がぶつぶつと独り言を呟く。

 

「やっぱり90%の数字は当てにならないね、何で外すんだよアレで――んん、えー、じゃあこっちで取引ねぇ」

 

 悪魔を名乗る存在が咳払いをして、指を鳴らした。

 宙に浮かぶように金と銀の天秤が現れ、それと同時に暴動の内容が書かれていたカードがジャンの手元から消失した。

 そして細く白い手が、残ったカードを金の皿の上に浮かべると、天秤が金の方へ傾いた。

 

「はーい、代価を乗せて天秤を釣り合わせてねぇ。代価は物品でも概念的なのでも良いよぉ。特別にここにいるみんなの代価合わせてもオッケー」

 

 代価、それは脱出のための代償。

 だから各々、隠し持っていた思い出の品、家宝、わずかばかりの銅貨を天秤に乗せるが、それでも釣り合うにはまだまだ足りなかった。

 

「んー、まぁ物品だと限界があるよねぇ。寿命とか魂も乗せられるよぉ? 特に子どものは価値が高いよぉ」

 

 悪魔を名乗る存在の金と赤の瞳が、牢獄内の2人の子どもに向いた。

 それは双子の姉妹だった。

 

「ふざけるな、犠牲を出してまでここを出たいとは思わない」

 

 ジャンが代表して声をあげた。

 

「じゃあ取引やめとくぅ? 私はいいよぉ、クーリングオフよりキャンセルの方が損が少ないからねぇ」

 

「ぐっ……」

 

 このままでは代価が足りない。

 こうなったら、自分の全てを捧げて他のみんなを脱出させるか?

 正義感の強いジャンは自己犠牲の道を検討し始めた。

 そんな時、母親の手を振り切って双子の姉妹が怯えながら悪魔を名乗る存在に近付いた。

 誰もがその状況に危機を感じた。

 

「「あ、あの……」」

 

「んー? どうしたのかなぁ? かわい子ちゃんたち。どっちがお姉ちゃんかなぁ?」

 

「ま、まて――」

 

「うるさい」

 

 悪魔を名乗る存在の一言で、双子の姉妹以外の全員の声がまた封じられた。

 それだけでなく、今度は指一本も動かせないくらい体が石のように動かなかった。

 

「わ、わたしがお姉ちゃん……」

 

「そっかぁ、お利口さんだねぇ。それで私に何か用かなぁ?」

 

 悪魔を名乗る存在がしゃがんで、目線を姉妹に合わせた。

 だがその瞳は、獣を狩ろうとする狩人のように鋭かった。

 

「わ、わたし、お花でかんむり作れるの」

 

「わたしも、腕わとか指わとか作れるよ」

 

「うんうん、そうなんだぁ。それでぇ? もしかして作って私にくれるのかなぁ? ここにはお花なんて咲いてないけどぉ」

 

 悪魔を名乗る存在が優しく語り掛ける。

 

「いまは、むりだけど――」

 

「お外にまたでれたら、ぜったいにあげる」

 

「「いっしょうけんめい作って、おねえちゃんにあげるから」」

 

 双子の姉妹がか細く弱々しい声で、強くその意志を通した。

 すると、驚くべき事が起きた。

 何も乗せてないのに、天秤が少しだけ銀の方に傾いたのだ。

 少なくともジャンはそれを見逃さなかった。

 

「あー、後払いの代価ねぇ……あんまり気分乗らないんだけどなぁ」

 

 悪魔を名乗る存在がそう呟いて、その目を細めた。

 ――そうか、後払いの代価。

 必ず行う、払うという契約のもと取引を成立させるもの。

 その手があった、というより今の自分たちにはそれしかない。

 気が付けば、声も体の自由も利くようになっていた。

 

「――俺は裁縫師だった」

 

「うん?」

 

「脱出出来たら、人生で最高の逸品――服を君に送ろう」

 

 ジャンが宣言した。

 天秤が銀の方へ傾いた。

 

「……あー、これちょっとマズい流れ――」

 

 悪魔を名乗る存在が頬を指で掻きながら言う。

 そしてその予感は的中する。

 

「俺は牧場を経営してた! 最高の家畜を捧げると約束しよう!」

 

「私は――」

 

「僕は――」

 

 皆んながそれぞれにできる事、得意だった事、生業としていた事を天秤に乗せていく。

 銀の方へ天秤が少しずつ傾き、傾いて、傾いて――

 その天秤はついに平行に釣り合った。

 

「……えぇ、うっそだぁ」

 

 代価の価値は悪魔のその時の認識によってほぼ決まる。

 だが、例外もある。

 代価を出す者の強い意志や決意が、その重さを増加させる事もあるのだ。

 天秤は誰に対しても公平なのだから。

 

「――これで、取引は成立するか?」

 

「……はぁい、成立しまぁす。あぁ取り立てめんど……」

 

 ここに、天秤の悪魔の取引が成立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁい、人間の絆とか意志とかの強さに敗北したザコザコ悪魔ちゃんでぇす、いぇーい。(ダブルピース)

 この小説の話今の所私負けてばっかじゃない?

 やる気あるの?

 

「あ、そぉだ、ジャンくんだっけ? これ預けとくねぇ」

 

 代表者のジャンという青年に、山羊を模した木彫りを手渡した。

 

「……これは?」

 

「借用書……証文みたいな? 毎日1回は必ずこの木彫りに、私への感謝と必ず代価を払うことを誓ってね。一日でも欠かしたら――」

 

 青年ジャンの左胸辺りに人差し指を押し当て、グリグリとねじる。

 

「――全員の心臓抉り出すからねぇ。代価を取りに来た時に一つでも漏れがあっても同じだからぁ」

 

 青年ジャンの顔色が青くなっていく。

 

「……肝に銘じておこう。ちなみに代価はいつ取りに来られる?」

 

「さぁ? 私の気分次第かなぁ。でも君たちが脱出した後どうするか知らないけど、最低でも2年は待ってあげるし、寿命や病気で死んでたら困るから――まぁそうなる前には代価取りにくるよぉ」

 

「わ、分かった。皆にも伝えておこう」

 

 そうそう、その顔。

 いつ来るか分からない取り立てに怯えながら、精々準備を欠かさないようにね。

 

「――それじゃあ、始めようか」

 

 指を鳴らす。

 そしてこの日、停泊していた大型の船と一緒に、総勢50人程の労働者が鉱山から姿を消した。

 

 

 

 




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